五分間、練の状態で芸をする。
五分間、絶の状態で休憩する。
これを一クールで、合計五クール。
終わったら郊外に移動してババアと組手。
堅で吹っ飛ばされる。
凝で吹っ飛ばされる。
硬ならセーフなんだけど、組手では硬が間に合わなくて結局吹っ飛ばされる。
流(って言ってた。オーラを違う箇所へと移動させる技術)のスピードを上げるための訓練らしい。
ババアは別に本気のスピードで組手をしているわけじゃない。
本気だったら俺は吹っ飛ばされるくらいじゃ済まないと思う。
レッスンが終わったらホテルに移動して夕食そして就寝。
練をしながら寝る訓練をさせられた。
絶の方はしなくてもいいのかと聞いたら、オーラが切れたら自動的に絶のまま寝ることになるから特に意識的にしなくてもいいらしい。にゃるほど。
ババアと会った翌々日。
カリヌシが誰かと電話をしていた。
内容は知らない。それどころじゃなかったから。
毎日必死でババアとの組手に集中。
ババアのデコピン(デコとは限らない)で吹っ飛ばされる日々。
そもそも俺のデコには角があるからデコピンは無理だな。
それでも全く怪我しないところをみるとババアはうまく手加減をしてくれているんだろう。
格が違う。
「タイガちゃんも素質は悪くないからねえ、もう一~二週間もすればこの程度じゃ吹っ飛ばされないようになると思うわよ」
つまりあと一~二週間は吹っ飛ばされるのが確定しているというわけですね畜生。
ところがどっこい。
「ババア、タイガ、予定変更だ。今からパタ市に移動する。ミエラ山の麓にある古城が目的地だ」
国名を言わないから国内なんだろうと思うけど、どした急に。
さっきの電話で何か聞いたのかな? 相手は誰なんだろう。
パタ市ってどこ? 俺この辺りの地理には疎いんだけど。
このあたりに限らずこの世界のすべての地理に疎いけどな!
「パタ市はここから川沿いに北に行ったところにある都市だ。さらにその北にミエラ山がある。ちなみにミエラ山で獲れる山菜焼きそばがパタの名物だ。余裕があれば食っとくかな」
お、山菜そば、いいね。おそばじゃなくて焼きそばなのね。
一旦ゆっくり移動して美味しいもの食べて、英気を養ってから修行の続きを……
「修行は移動中でも引き続き行うわよタイガちゃん」
デスヨネー。
俺たちのいたドーリ市から北上しNGLとの国境検問所があるクウェン市を通り越した先にパタ市があった。
距離的には直線で百キロくらい? そんなに遠くはない。レンタカーで移動したからな。
道中、ババアがスピード狂だということが判明した。
ヒャハハハハとか笑いながらフルアクセルで高速を駆け抜ける。
ハンターライセンスがあったらスピード違反くらいどうにでもなるとかならないとか。
法律の及ばぬ道を行くハンター、怖いなあ。
常識知らずがハンターになったらどうする気だ、ババアみてーな。
ていうかカリヌシ免許くらい持っとけよ。このババアよりゃマシだろ。
俺? 俺は仕方ないんだよ虎だからな。
移動中の修行は猛スピードの車の上に乗って吹っ飛ばされないこと。
四つ足の先にオーラを集中して踏ん張り、角にオーラを集めて風の抵抗を抑え、ついでにシッポでバランスをとる。
何回かもう駄目だと思ったけど、意外に何とかなった。俺スゲー。
てか恐怖が先に立ってそれ以外の記憶がほとんどない。ババアコエー。
「相変わらずとんでもねえ運転技術だなババア。おかげでそば食うだけの時間の余裕ができたよ。よしタイガ、食いに行くぞ。お前さんの金でだ」
ちょっと待ってよなんで俺の金使うのさ。
レンタカーを郊外にある一日いくらの駐車場に停めて、市街地までバスで移動する。
ペットはちょっとと言って断られてたけど、問答無用とハンターライセンスでぶん殴ってた。
何でも使えるんだなライセンス、俺もハンターになるべきか?
……まあ、どうせ虎だとなれないんだろうけどさ。
市街地に向かう道中、周辺は広い広い小麦畑だった。
小麦が特産なのかな? だから焼きそばなのか。
どうせならそばを生産すりゃ山菜そば食えるのにな。
そばって栽培すんの難しいのかな。
「お、この店だ」
バスから降りるとすぐに目の前がお目当ての店だった。
すぐに三人で店に入る。
「山菜焼きそば三人前頼むわ」
街中華のようなこじんまりした店のおばちゃんに注文するカリヌシ。
こいつよく食うよなあ。大食いキャラなんかな?
俺の分はね……と伝える間もなく既に注文済みだったよ畜生。
俺金ないって言ってるのにいいい! どうしよういくらくらいするんだろう。
「あたしは山菜焼きそば一人前とイカのお好み焼き、あとビールね」
は?
「さっきの三人前焼きそばは大盛りで頼むな、あとおれもビール」
は? はああ!? もしかして俺の分含めてじゃなくてそれ全部カリヌシが食うの!?
「タイガの分は……焼きそば一人前でいいだろ。それは紙皿で提供頼む」
「あいよ」
店員のおばちゃんが厨房に注文を伝えにいく。
俺の金で支払えるのかなこれ……。足りない気がするんだけど……。
「ババア車なのに酒飲んでいいのかよ」
「何言ってんだい、レンタカー一週間で借りてるじゃないか、どうせ数日はこっちに滞在するんだろ。市内の移動くらいはバスか徒歩で充分さね」
そこにさっきの店員のおばちゃんが再びやってきた。
「はい、お先にお好み焼きとビール二杯ね」
二人はジョッキで乾杯し、俺はイカのお好み焼きをちょっぴり分けてもらった。
……ウメーなこれ。ソースの香ばしさとイカの食感が絶妙にマッチしてる。
「で、なんでこの街に来たんだい?」
「ああ、ちょっとタイガに会わせなきゃならない奴がいてな」
え、俺になの? 心当たりは……キルアとか?
キルアとカリヌシ電話番号交換してたし連絡が来て会いに行くのかもしれない。
「その会わせたい奴ってのは誰さね。あたしも知ってる奴かい?」
「まあ、そいつは会ってからのお楽しみってやつだ」
ああ、会わせたいってだけなら俺が知らない奴だっていう可能性もあるのか。
ババアの時だって俺は知らなかったけど会わせてくれたしな。
「タイガちゃん、お好み焼きは美味しいかい?」
え? ああうん、ウマイよ!
お好み焼きはやっぱり関西風が好きだな俺は!
この世界では関西風とか言わないんだろうけど。
焼きそばが来る前にビールを飲み干してしまった二人は、追加のビールを注文していた。
あんまり飲み過ぎるのは良くないよう、まだ昼過ぎだってのに。
「まあまあ、こういう時は飲むのが一番さね」
なんてババアが言いながら、ジョッキをぐいっと傾けた。カリヌシもそれに続き、すでに三杯目に突入している。
俺はというと、三杯目のビールとともにやってきた目の前の焼きそばをひたすらすすっていた。
山菜焼きそばは思ったよりもあっさりしていて、ソースじゃなくて醤油ベースの香ばしい味わいが広がる。
シャキシャキとした山菜の食感がいいアクセントになっていて、これはなかなかイケるぞ。
でも、問題はやっぱり会計なんだよな……。
俺の財布の中身、果たしてこれだけの食事代を賄えるのか?
「ぐるぅ……」
俺は心配そうにカリヌシを見る。
その視線に気づいたのかカリヌシはガハハと笑って俺の頭をなでた。
「心配すんな、お前さんの金で払うとは言ったが別に全部とは言っちゃいないだろう。お前さんが出すのはお前さんが食った分だけだよ」
だったら最初からそう言えよ!
とはいえ、俺が食ったのは焼きそば一人前とお好み焼きのほんの一切れだけだ。それくらいなら、今の俺の財布の中身でもなんとかなるはず……たぶん。
そんなことを考えているうちに、カリヌシとババアはまたビールをおかわりする。
そしてまるで何事もなかったかのように談笑していた。
昼間っからこんなに飲んで大丈夫なのか?
いや、もうこいつらに常識を求めるのが間違いなのかもしれない。
「ところで、タイガ」
「にゃ?」
食べ終わった後の焼きそばの皿やジョッキをテーブルのすみに寄せながら、カリヌシが俺の方を見てきた。
なんとなく、いやーな予感がする。
「この後、少し寄り道してから宿に行くぞ」
寄り道? まさか、また修行とかじゃないよな?
ジト目でカリヌシを見上げる。
「違う違う。ただの買い物だ」
買い物? 一体何を買うってんだ?
「まあ、ついてくりゃ分かるさ」
そう言って、カリヌシは会計を済ませると店を出た。
俺の分の財布はカリヌシが持ってて、そこから千ジェニー札が一枚取り出された。
おっけー俺が食った分としては妥当な値段だ。
そして俺はババアと一緒に後を追う。
店を出て歩くこと数分、カリヌシが向かったのは街の中心部にある市場だった。
色とりどりの屋台が立ち並び、人々が活気に溢れている。
俺はふと、香ばしい匂いに鼻をひくつかせた。
「この市場は食い物だけじゃなくて、道具屋やら骨董品屋やらいろいろあるからな。見て回るだけでも面白いぞ」
確かに、あちこちに雑貨屋やら衣料品店やらが並んでいる。
俺の世界とは違うデザインの服が売られていたり、見たこともない道具が置いてあったりと、ちょっとした観光気分だ。
「おいタイガ、こっちだ」
カリヌシが足を止めたのは、武器を売っている店だった。
店の奥には刀や槍、ナックルのようなものまで置いてある。うわ、マジもんの武器屋かよ。
カリヌシが武器を買おうと思ってるんだろうか。
「お前さんの武器だよ」
「にゃ?」
俺は思わず目を瞬かせた。
でも俺、爪も牙も角もあるし、そもそも念能力があれば武器なんていらない気もするんだけど。
「今あるものに頼ってるだけじゃ、いずれ限界がくるぜ?」
カリヌシの言葉に、俺は思わず沈黙する。
確かに今のところ、俺は己の身体だけでやってきた。
虎として生まれついた以上、それはある意味当然のことだった。
でも、もしそれ以上の力が必要になったとき、どうする?
この世界には俺より遥かに強い奴らがいくらでもいる。
武器を持つことでブーストかけられるんなら、それは悪くない選択肢だ。
……でもちょっと待て、俺は虎だぞ? 俺が使えるような武器なんてあるのか?
「さ、お前さんの使いやすいものを選べ」
店の棚を見渡す。剣、槍、ナックル……いろいろあるが、どれも俺にはしっくりこない。
てか大半は多分俺には使いこなせない。
爪を使う以上、ナックル系か、それとも……。
そんな中、俺の目に留まったのは、一対の鋭い鉤爪のような武器だった。
手に馴染むサイズで、俺の爪と一体化するような形をしている。
「おっ、いいもん見つけたな」
カリヌシが俺の頭を叩いた。
「それは【
……これにするか。
俺は獣爪を手に取り、ギュッと握った。何かが変わる気がした。
俺自身の力を、次の段階へと引き上げるために。
そのとき、ババアがクスクスと笑った。
「へぇ、武器を持ったかい。なら、次からの修行はまた一段階レベルを上げるとしようかねぇ」
えっ?
「あんたがその武器に頼りすぎないように、きっちり鍛えてやるよ」
俺は目の前が真っ暗になった。
……やっぱりこうなるのかよ!?