蒼薔薇の戦乙女   作:蘭帆

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沢山の誤字報告ありがとうございます!

あまりの多さに反省しています。





10話:覚醒

「残念…一歩遅かったなぁ」

 

「うっっ…ぐ」

 

 男はレイピアを引き抜くと、右肩からドス黒さを含んだ赤がどくどくと溢れ出る。

 

「マルムヴィストッ…!」

 

「おや、俺を知っていたか…」

 

 金色の刺繍の付いた豪華な衣装に、鋭利なレイピア…間違いない、六腕の一人マルムヴィストだ。いや、マルムヴィストだけでは無い。その後ろには、『闘鬼』ゼロを含めた六腕が勢ぞろいしている。更には、球体の水晶のようなマジックアイテムを持った死霊術師(ネクロマンサー)に、マルムヴィストのような刺突武器を持った金髪のビキニアーマーを着た女戦士までいる。

 

 自分には時間稼ぎの役割があったが、まさかここまで戦力を集中させてくるとは思わなかった。さらには街にもアンデッドたちが蔓延し、住人等もそれに気づいたのか、徐々に夜のエ・ランテルに喧騒が広がっていく。

 

(くそっ! 油断した…! だけど、致命傷は逃れた…ここからは作戦通り…っっ?!)

 

「おっと、ふふふ…流石の蒼の薔薇のセリと言えど、動けないようだな? 俺のレイピアは特殊でな、一度攻撃が当たれば、かすり傷でさえ死に至らせる。いかに耐性を持っていようとタダでは済まない」

 

(毒か…!)

 

 先程のレイピアには毒が盛られていたようだ。右肩から段々と身体が痺れていくのを感じる。

 

「なぁ〜んか、呆気ないなぁ〜。王国最強の冒険者って聞いてたから少しは楽しめると思ってたのにサ」

 

「クレマンティーヌ、お喋りはこいつの息の根を止めてからだ」

 

 どうやら確実にここで私を仕留めるつもりらしい。念には念を入れて、この過剰戦力を引き連れてきたのだろう。

 

「じゃあ、私がトドメを差してしまおうかしら? 前からコイツのこといたぶってやりたかったのよ」

 

 エドストレームは以前セリに付けられた古傷を押さえ、笑みを浮かべながら近づいてくる。そこには確かな怨念が籠っていた。

 

「よくも私の顔に傷をつけくれたわね!」

 

 六本のナイフを同時に宙に浮かせ、体の周りを華麗に踊らせている。まるで、一つ一つのナイフが意思を持って、我こそがその刀身を地で染め上げようとウズウズしているようだ。その様は、正に“死の舞踊”という言葉が相応しい。

 

 やがてナイフは溢れる殺気を抑えきれなくなって、全てのナイフはセリに向かって同時に走り出した。

 

「っく! 舐めるなぁぁぁ!!」

 

 かろうじて初撃を避けると、痺れる体に鞭を打って抜剣、そのままナイフを弾き返した。

 

「な!? なぜ動ける!!」

 

 たとえ毒というデバフがかかっていたとしても、英雄級。未だに足元はおぼつかないが、それでも、六腕とは確固たる実力の差があった。

 しかし、そのことは余計にエドストレームのプライドを傷つけた。

 

「殺す……!!」

 

 今にも飛び掛かろうとしたその時、

 

「待て」

 

 苛立ちの混じった低い調子の声は彼女を静止させた。

 

「てめぇはいつまで私情を優先してやがる。俺たちがなんのためにここまできたか忘れたのか。これはお前の復讐のためじゃねぇ」

 

 激情に任せたわけではない意外にも冷静な口調のゼロだが、その言葉には節々に怒りが感じられた。エドストレームもそれを察知し、渋々殺気を鎮める。

 

「そうだ。まずはこいつを確実にここで殺す。その後に邪魔するやつらも皆殺しだ。わざわざズーラーノーンの協力まで仰いだんだ。徹底してやらなきゃなぁ」

 

(“ズーラーノーン”…アンデッドを奉る裏組織…。ということはこのアンデッドたちはあの死霊術師がやったのか? あの金髪の女も関係者か…!? これはまずいな)

 

「さて、待たせたな」

 

 そのままお喋りしていて欲しかったところだが、その気は無いようだ。

 

「お前ぇら、全員で行くぞ!!」

 

 六腕は、ゼロの号令で一斉に襲いかかる。

 この状況、数々の死線を潜り抜けてきた過去と比べてもかなりまずい状況だ。だが、セリもリグリットに魔法を教えてもらうようになった時から、驚異的な成長をしていた。

 

「今こそ、成果を見せる時です……リグリットさん」

 

 剣先はすぐ目の前に伸びる。幻覚魔法を使って死角から回り込むものもいる。

 

「オラァ!! 死ねやぁ!!」 「終わりだっ!」

 

魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)……」

 

 その時、ゼロはセリの周りから放たれる強力な魔法の気配を感知する。眩く発光し、その光は雷撃となり、三対の龍を織りなしていく。

 

「まずいッ! 離れろッッ!!」

 

 が、既に攻撃態勢を立て直すことはできなかった。

 

龍雷(ドラゴンライトニング)!!」

 

 その詠唱と共にあたりは閃光に包まれ、少し遅れて雷鳴が轟いた。

 

「っく!! どうなった!?」

 

 砂埃が晴れると、そこにはぴくりとも動かなくなった六腕と、力無く膝をつくセリの姿があった。かろうじて攻撃を躱したゼロだけのようだ。

 

「うひゃーおっそろしいねぇ。三重最強化した第五位階? 魔法なんて喰らったらひとたまりもないよー。かわいそうニ」

 

「お前ら!! 約束と違うぞ! 俺たちに協力をするのではなかったのか!!」

 

 ゼロが警備部門の最大戦力である六腕を失った中、対するズーラーノーン側は、攻撃せずただ突っ立っているだけであった。

 

「アンデッドを召喚し、街を混乱させることができたのは、誰のおかげだと思っている。既に十分過ぎるほどの協力をしていると思うがな」

 

(共同で裏社会を支配しようなどという誘いをそのまま信用するほど私は愚かではない。この機会に八本指の力を削いでおくことができるのならば当然するまでだ。これで私の願いにまた一歩近づいた…)

 

 カジットの思惑とは裏腹に、ゼロは協力する気を見せない彼らに対してワナワナと震えている。

 

「まぁそんな怒んないでよ〜。ちゃんと協力はするからサッ。それに相手の出方を窺うのは戦士として当然のことじゃない? あんた達には悪いけど、計画のための尊い犠牲ってやつ? アハハ!! また怒った〜」

 

 煽り口調のクレマンティーヌのいうことは、頭にくるが、正論だった。冷静に考えてみると、全員で特攻に出るよりは、もっと色々な戦法を試すべきだったと、今更ながら後悔する。

 

「アハハ!! そんな顔しないでよ〜! それにサ、無駄じゃなかったみたいだよ?」

 

 クレマンティーヌの視線の先には、力尽きた様子のセリがいた。そのまま無防備に歩みを進める。

 

「ほぉ〜ら、もうこんなに消耗してる…。あの至近距離で魔法を使ったんだから、自分にも被弾したんだろうね。毒の状態も考慮して、全員まとめて殺すつもりだったのかもしれないけど、ざぁ〜んね〜ん、このクレマンティーヌ様には通じなかったみたいね! あたしってばてんさぁ〜い! アハハハ!!」

 

 もはや、魔法を振るう気力さえ起きなかった。毒に侵され体は言うことを聞かず、自分の魔法のせいで全身に力が入らない。クレマンティーヌは手でセリの頬を撫でるように優しく包む。その手はこの場に不釣り合いなほど柔らかく暖かい。

 

 しかし、次の瞬間、両足に激痛が走った。

 

「あ、あぁぁぁ!!」

 

「う〜ん! いいねぇ!! もっと聞かせて! その悲鳴! あぁゾクゾクするわ!!」

 

 刺突武器が両足を貫いた。逃げることも敵わず、もはや万策尽きた。クレマンティーヌは満足した様子で、優しく抱擁する。

 

「痛いでしょう? 死にたくないでしょう? 大丈夫よ、あたしこう見えても優しいのよ。すぐに殺したりせず、十分に可愛がってあげるからネ」

 

 クレマンティーヌは抱擁しながら、頭を優しく撫でる。こんな状況なのに、なぜか安心感が生まれてきた。頭がふわふわしてこのままずっとこうしていたいと感じた。

 

(あぁ…ラナー、ラキュース…)

 

 今日のことが思い出される。馬車で二人に寄りかかられたこと、孤児院で見たラナーの優しい微笑、帰りの二人の美しい姿。

 

『私たちずっと一緒だよ!!』

 

 何度も言い合ってきた言葉だ。二人がいたから、いつも頑張れた。ラナーとラキュースがいたから…。わかってるこれは走馬灯だ。この心地よさも胸の暖かさも全て、最後に夢を見させてくれているのだ。

 

(最後にまた会いたいなぁ……)

 

 もう自分の命はここで潰えてしまうかもしれないけれど、

 

(最後にもう一度だけ、会いにきてくれたなら…なんてもう無理かな…)

 

 その時、胸の中でずっと秘められていた何かが込み上げてくる気がした。それは強大な何か、だけど生まれた時からその存在を無意識に感じていた。とても懐かしい匂いがした。

 

『あ…………ば…………ん…の』

 

 耳を澄ますと、何か音が聞こえる。より注意深く聞いてみると、誰かの声のようだった。そしてそれは段々と大きくなっていって…

 

『あんた!!! 馬鹿じゃないでありんすの?!?!?』

 

 ついにはっきりと聞こえた。だが、予想外に、その言葉は暴言めいていた。

 

(!? 走馬灯の中で罵られるなんて…私そんな悪いことしたかな…?)

 

『走馬灯じゃありんせん!! おんしが呆れるほどに馬鹿だから忠告しておくでありんす!』

 

 心の中で思ったことで会話ができてしまっていることに驚いていると、さらに声の主は続ける。

 

『最後に会いに来て欲しいだなんて傲慢でありんす! 本当に会いたいなら、大切なら! 自分から会いに行くべきでありんしょう! 手遅れになって一生後悔しても遅いでありんす!!』

 

 ふと、自分が冒険者を志した時のことを思い出した。ただ領内で平穏に暮らすよりも、世界中を見て回り、自分の力で未知を既知にする。そう思って、父の反対を振り切って、冒険者になった。そんな当たり前のことも弱気になって忘れてしまっていたのか。他人に言われて思い出すとは。

 

(そうだ…私はまだ死にたくない…! ラナーとラキュースに会いたい!! ずっと一緒にいるって約束したんだから!!)

 

 先ほどまでの自分が嘘かのように勇気が、ケツイがみなぎってきた。

 

(でも、今の私には…もう…)

 

 そうだ、いかに戦う意志があろうと、既に詰んでいる。魔法も使えない上に、動きも封じられた。加えて相手はゼロと凄腕の死霊術師、そして未知数だが、相当の戦闘力を誇っていると思われる戦士。敵の目の前でセーブをしてしまったようなものだ。ロードしたところですぐに殺されるのは目に見えている。

 

『やれやれ、仕方ないでありんすね。今だけは妾の力を貸してあげるでありんす』

 

(え、それは…どういう…?)

 

 すると、一気に意識が現実に引き戻される。体に激痛が走る。クレマンティーヌは抱擁したまま、私を愛撫している。そして、時折痛めつけていたのか私の身体には無数の傷跡があった。

 

「あっれ〜? 意識戻った〜?? よかった、心配したよ〜これ以上痛めつけられないかなって!!」

 

「わた、…しは…」

 

 瀕死の体でなんとか言葉を紡ぎ出す。

 

「ん、なぁに〜? 命乞いなら聞いてあげようか? 聞くだけだけどサ」

 

「まだ、…た、た…かえる…」

 

 その瞬間、不気味な笑みを浮かべていたクレマンティーヌから一気に殺気が溢れ出る。

 

「あ゛ぁ゛ん?? テメーはもう詰んでんだよ! この状況どうやって打開すんだよ! この期に及んで根拠のねぇ勇気搾り出してんじゃねぇ!!」

 

 クレマンティーヌは人が変わったかの様に激昂し、『あぁ! ムカつく!!』と言いながら地団駄を踏んでいる。が、突然スンっと冷静になり、早口で話し始める。

 

「おっけーわかったよ。そんなに死にたいって言うなら殺してあげる。正直反応薄いし飽きてきてたのよね」

 

 刺突武器を構え、鬼のような形相だ。

 

「死ねぇぇぇぇ”ぇ”!!」

 

 そのまま武器は振り下ろされる…その刹那、強大な力が湧いてくる。火事場の馬鹿力なんてものじゃない。そんなちっぽけなものではない。山よりも硬く、風よりも速く、そして、圧倒的な魔力と筋力がみなぎってくる。

 例えるなら、正に、『神の力』だ。

 

 その異様すぎる気配を感じ取り、クレマンティーヌはすんでのところで武技《超回避》を発動した。

 

 白い光が現れ、それが一本の槍となってクレマンティーヌへ向けて放たれる。

 

「うぐぁぁぁ!!」

 

 槍は《超回避》を発動させたクレマンティーヌをかすめて後方へ通り過ぎた。そして、爆発音が響き、クレマンティーヌも後方へ吹き飛ばされる。

 

「はぁ…はぁ…一体どんなインチキを使いやがった!? よくも、このクレマンティーヌ様を……?」

 

 クレマンティーヌは何か違和感を覚え、周りを見る。

 そこには原形を留めていないほどに損傷したカジットとゼロと思わしき残骸があった。

 

「一撃で…?」

 

 今度は前方から恐ろしい気配がする。その圧倒的な存在感に、足が震えて動けない。腰が抜けて立ち上がることもできない。全身には鳥肌が立っていた。

 

「ど、どうなってやがる…!! てめぇ‥何しやがった!?」

 

 一歩一歩踏みしめる。先ほどまで感じていた痛みも屈辱も。これから与える恐怖と絶望を。

 

「そんなはずねぇ…この英雄級のクレマンティーヌ様が恐怖するなんて…!」

 

 この力があればこいつを殺せる。守れる。ラナーも! ラキュースも!! 

 

「ありえねぇんだよぉぉ!!!!」

 

 クレマンティーヌはありったけの武技を発動させ、音速を超えた超高速で飛びかかる。その力は誰もが認める英雄級。しかし、

 

「な!?!?!?」

 

 その攻撃は届くことはなかった。セリは英雄の渾身の一撃をいとも容易く防いだ。それもただ防いだだけじゃない。武器の先端を指でつまみ超高速の突進をビタリと止めたのだ。

 

「ば、化け物…!?!?!? っが…!」

 

 次の瞬間、クレマンティーヌの首は宙を舞った。

 

 空中でセリの姿を見下ろす。傷は完治し、状態異常にもなっていないようだった。

 なぜこれほどの力を急に会得できたのかはクレマンティーヌにはわからない。しかし最後に見た。

 

 その瞳が真紅に染まっているのを。

 

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