蒼薔薇の戦乙女   作:蘭帆

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再開!!







11話:魅了

「どうなっているの!? このアンデッド達はどこから!?」

 

 爆発の起きた地点へ向かい、街の警護に回っていたラキュース達は、予想外の敵に動揺していた。

 

 てっきり八本指の刺客、具体的には六腕のうちの何人かと、八本指の私兵と戦うものだと思っていた。しかし、結果は大量のアンデッド達が街中に何者かの手により放たれ、市民に対しても被害を出し始めている。

 

 それに加えて、いくつか八本指の手先と思われる者と遭遇戦になったが、六腕とは一度も出会っていない。もしかすると、セリに狙いを絞り、戦力を集中させたのかもしれない。だとすると今、いくらセリでも危険な状態にあると言える。

 

 今まで、ラナーやセリの作戦がここまで破綻することは無かった。やはり王国の現状を一気にひっくり返すような計画は、少ない情報から実行するにはリスクが高すぎたのかもしれない。

 

(早くセリを助けに行かなくてはいけないのに! この数は…!!)

 

「おい! このままじゃキリがねぇぞ! イビルアイの魔法で何とかならねぇのか!?」

 

「これでもどうにかしているつもりだ!」

 

 時は一分一秒を争う。実際、時間さえかければ、この大量のアンデッドを相手取ったとしても、勝利を収めることは出来るだろう。だが、その時間分、エ・ランテル市民とセリを危険に晒すことになる。

 

 そのどちらも守りきるには、あともう一歩足りない。

 

(何か策はないの…??)

 

 アンデッド達の死の山を築き上げ、街中に強烈な死臭を蔓延させても、それでも途方もなく押し寄せてくる。

 

 普段は類稀なるチームワークを見せている蒼の薔薇も、あまりの大群に分断され、その真価を発揮できずにいる。

 

(このままじゃ…!!)

 

 鼓動のBPMがどんどんと高くなっていく。そしてそれは、物事を客観的視点から正解を導き出すことが出来るはずのラキュースの判断を鈍らせた。

 

「意地でも突破してやる…!!」

 

 仲間の支援もない中、一人アンデッドの渦に特攻に出たのだ。

 

「待て! ラキュース!! 単独行動はよせ!!」

 

 イビルアイの制止も虚しく、既にラキュースは包囲されていた。ようやくラキュースも自身が冷静さを欠いていたことに気がついた。

 

 しかし、時すでに遅し。大量のアンデッドは覆い被さるようにしてラキュースに襲いかかった。

 

「ラキュースッッッ!!!」

 

《六光連斬》!!!! 

 

 もうダメかと思った時、六つの眩い光で、アンデッドは鮮やかな断面で真っ二つになり、肉片は爆散四散した。

 

「お前らぁ!! 彼女たちに助力するぞ!! アンデッドをもう一度亡き者にしてやれぇ!!!」

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 見るとそこには、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと王国軍達が集結していた。戦士長の号令で指揮もうなぎ登りの王国兵らは、次々にアンデッドへ突撃して行った。

 

「これは……一体…??」

 

「間に合って良かったです! 怪我はありませんか??」

 

 ラキュースは戦士長に危機を助けられ、唖然としていると、よく知った、戦場には不釣り合いな程美しい声が聞こえた。

 

「ラナー!? それに…!!」

 

 ラキュースが振り返ると、声の主であったラナーとそこにいるはずのないラナーの()()が馬に跨り、兵を率いていた。

 

「国王陛下!! どうしてこのような所へ!?」

 

「このような所ではない。民が苦しんでいるのだ。王たる私がこの状況を打破すべく動かずして、王と言えるだろうか? まぁ、これもラナーの助言で動けたに過ぎないのだがな」

 

「ラナー! あなたの言っていた秘策ってこの事だったのね!?」

 

「はい、セリに時間稼ぎをしてもらったのはこの為です。急な要請だったので少し時間はかかりましたが、これで計画は続行できます」

 

 改めてラナーの頭脳に驚かされる。蒼の薔薇の活躍で市民を救い、王国兵を王族自ら率いる姿を国民にアピールすることで、王の権力を引き上げ、一気に権力の集中も期待できる。これで八本指を壊滅まで追い込めれば、王国は強力な冒険者と絶対的な権力を有する王政に、国民の支持も得ることができ、他国の牽制にもなるだろう。ラナーは少し時間はかかったと言っていたが、アンデッドの大群というイレギュラーがなければ完璧なタイミングだっただろう。

 

 しかしこれでセリのもとまでたどり着ける。他のメンバーも同じことを思っていたようで、目をあわせ合い、覚悟を決める。

 

「ありがとう。流石だわ、ラナー。私たちはセリの援護に向かうわ。念の為いくつか兵を分けてくれないかしら?」

 

「それでは、私も行きます」

 

 その予想できた返答にラキュースは頭を悩ませる。

 

「姫さんよぉ…ここは戦場だぜ? 俺たちもついてるが、万が一のことがあれば俺たちはきっと仲間のことを優先するだろうよ。ラキュースは別かもしれねぇけど…」

 

「その分、私たちがラナー様をお守りいたします!!」

 

 ラナーの専属騎士と王国兵たちは張り切った声で答える。その目からは、なんとしてでも守り抜くという決意が見て取れる。

 

「お前たちじゃ役不足だっつてんだよ。お前ら程度どれだけ集まろうと、相手は俺たちと同格かそれ以上と思われる強敵だ。隙を見て姫さんに一撃でも入れられたら奴らの勝ち。お前らにそんな重役が全うできるとは思えねぇな」

 

 ガガーランの言は確かに正論だった。それ故に兵士たちは言い返すこともできず、ただ、己の無力さを呪うしかない。

 

「それでも、私は行きます」

 

 しかし、断固としてラナーは譲らない。こうなるとラナーを説得するのは至難の業だ。というかできた試しがない。

 

「ラナー…あなたがセリを心配に想う気持ちはわかるわ。でも戦闘力を持たないあなたには危険すぎる。ここは私たちを信じてもらえないかしら?」

 

 ラキュースはなんとか説得を試みるも、やはりラナーは納得いかない様子でなんとしてでもついていくという意志を感じる。

 

「私たちはあなたのことを…」

 

「別に良いだろう。勝手にしろ」

 

 再度諦めずに話し合おうとすると、場を切り裂くような鋭い声が響く。それは痺れを切らしたかのような苛立ちの含んだ声色だった。

 

「ちょっとイビルアイ!?」

 

「お前たちもお前たちだ。今は一刻を争う状況だと分からないか? こうしている間にもセリが危険にさらされているかもしれない。死地に着いてくる覚悟があるというのなら、勝手にすればいいだろう。それよりも私は目の前にある仲間の危機を救いたい」

 

 そうだ。優先順位をよく考えなければいけない。不確定な脅威より、今そこにある危機をしのがなければ。

 

「…! それもそうね。行きましょう!」

 

「すみません、私のわがままで…。お父様、行ってまいります」

 

「あぁ、くれぐれも気をつけてな」

 

 イビルアイに発破をかけられ、一行は進軍を決める。未だ大量のアンデッドが蔓延るも、ガゼフ達と協力することで、徐々に道ができ始める。そして、初めに二手に分かれた場所に近づいていく。

 

(よし、行ける…このまま…この角を曲がれば…)

 

 この先の角を曲がれば、目的地に着く。はやる気持ちをおさえて、警戒を怠らず前へと歩みを進める。視界が開ける。

 

 するとそこには、大量の人の死体だと思われる何かと、その一角に赤色の雨が降り注いだ痕跡がある。辺りは鼻が曲がりそうになるような死臭が漂い、この状況を一言で表すのであれば、正に、地獄絵図だろう。

 

「な、なんてこと…! ……はっ!? セリは!? セリはどこにいるの!?!?」

 

 ラキュースの言葉にこの場にいた息のある者全てがゾッとする。もしかしすると、この中の()()()がセリなのでは? と。

 

 しかし、死体を確認するも、そのほとんどは損傷が激しく、肉片しか残っておらず、人相はおろか、性別すら判断できない。しかし、六腕と思われる死体は確認できた。つまり、ここで戦闘が起きたことは確実だ。

 

(これは…連れ去られた…? 一歩遅かったというの?!)

 

「皆様! 死体の横にこれが…!」

 

 そこに一人の兵士が何かを持ってやってきた。兵士が持っていたもの、それはいつもセリがつけていたはずのマジックアイテムだった。

 それを知っている者は、動揺が隠せない。自分たちの考えていた良からぬ不安が的中してしまったことを暗に意味していたからだ。

 

「そんな…まさか本当に……」

 

「ラキュース? あれは一体なんですか? 知っているのですか??」

 

 肩を落とす蒼の薔薇に対して、ラナーはまだ状況を掴めないでいた。

 

「あれは…あれは、セリの…」

 

 説明をしようとした時、遠くに異常な速度で動く闇夜に輝く二つの赤を捉えた。

 

「なんだ!? 今何か通らなかったか!?」

 

「っっっ! 残党か!?」

 

 それは異様な気配(オーラ)を放っている。過去に六腕と相対した時とは別格の感覚だった。

 目で追えないほどのスピードで飛び回り、段々とこちらへ近づいてくる。こんな能力の持ち主が八本指にいるなんてのは聞いていない。

 

「こいつがアンデッドを召喚した犯人ね!」

 

 その赤は、今まで左右に飛び回っていたのが、急に方向を変えて、こちらへ直進してきた。

 

(来なさい…!)

 

 そして目の前で突然消えた。

 

「…!? どこへ…?」

 

「ラキュース!!」

 

 仲間の声が聞こえたのと同時に、横から強い衝撃が響いた。

 ラキュースは数m吹き飛ばされ、その上には先ほどの赤い何かが乗っかっていた。

 

「ラキュース!! …ってはぁ…なんだ…」

 

「んんっ…は! って…え…あなたは…」

 

 ラキュースに向かってきた正体、それはセリだった。

 まず、セリが無事であったことに安堵した。その次に異変に気づく。

 

 その目は紅く染まり、どこか虚ろである。こちらの声にも反応を示さない。

 

「セリ?? 大丈夫? ここで何があったの?」

 

 色々と言いたいことはあるが、一度冷静に状況を把握しようとする。しかし、いくら待っても反応がない。それどころか馬乗りの状態からぴくりとも動かない。何か魅了(チャーム)系の魔法でもかけられているのだろうかと思い至る。

 

「イビルアイ! セリが魅了にかかっているかもしれないわ! あなたの魔法で解除を…んむぅ…!?」

 

 イビルアイに救援を要請しようとしたその時、上から唇が柔らかいものに塞がれていた。

 

「ん、っや、ま…て」

 

 その光景をみな唖然とした眼差しで見つめていた。危機が去ったのは良いことだが、一体何がどうなればこういう状況になるのか理解ができない。

 

(気持ちいいわ…セリなら…って痛っ!! 噛んだわね!)

 

 ラキュースは惚けていたが、唇を噛まれたことで正気に戻った。いきなり飛びかかってきてキスしてくるなんてどう考えてもおかしい。そもそも、セリとは友達でこういうことをする関係じゃない。

 

「…ん…もう!! 離して!!」

 

 上から覆い被さっていたセリを強めに突き飛ばすと、呆気なく後方に押し飛ばされ、力無く頭から倒れた。

 すぐに精神操作解除の魔法を使おうと思うも、むくりと起き上がったセリは、瞳もいつも通り金色に輝き、少し頬を赤らめていたが、落ち着いた様子だった。

 

「セリ! 気がついた?」

 

「え、あぁ、うん」

 

 周りを見渡し、何が起きているのか状況が掴めない様子でいる。やはり精神系の魔法にかけられていたのだろうか。

 

「少しの間記憶がないんだけど、私何かしてた?」

 

 きょとんとした顔でそういうセリに、内心ホッとした。

 

「いや???? 全然そんなことないわよ!?!?」

 

「そう…? ならいいんだけど……」

 

 周りで先ほどの熱烈なシーンを見ていた兵士たちも、心臓のBPMが190になるかと思うくらいには動揺していたが、なんらかの魔法により操られていたのだと納得する。それでも良いものを見れたと、いやらしくえくぼを浮かべる者もいたのだが。

 

 戦士長から、アンデッド殲滅完了の連絡を聞き、六腕の全員と死霊術師の死亡も確認し、街の住民の安全確認も取れたところで、エ・ランテルでの騒動は終息した。その後、八本指の拠点を調べ上げ、首領と思われる人間をその場で殺害したことでこの作戦は本当の意味で終わりを迎えた。その間、ラナーだけは頬を膨らませて不機嫌そうにしていたのだが、その理由はわからない。

 

 今回の作戦は予想外のこともあったが王国にとって大成功だったと言えるだろう。結果的に八本指の完全排除に成功したのだ。

 

 驚くべきことは、勢力を集中して仕向けられていたセリに何も被害どころか傷一つなかったということだ。加えて、本人に聞いても何が起こったか覚えていないというのだ。

 

 セリの洗脳疑惑もあるため、やはり何者かの横槍が入ったのだと考えてるのが妥当だ。だが、心当たりがあるはずもなく、この一連の騒動には大きな謎が残ることになった。

 

 

 

 

(うまく誤魔化せてよかった…)

 

 エ・ランテルでの用事が終わり、王都に帰還する最中、馬車に揺られながら自分の演技を振り返り、安堵する。このことはまだ誰にも言えない。本当は記憶がないなんてことは嘘で、あの惨状は全て自分が戦闘を行なった結果だなんて。気づいたような素振りをしていた者はいなかったが、皆の前ではバクバクだった。特に、ラナーに見破られるかと思ったが、何故か他のことに気を取られている様子だった。

 

(私はあの時何をしようとしていたの…?)

 

 ラキュースの唇を噛んで、そして…

 

(血を吸おうとしていた…!?)

 

 ラキュースを見た時、強烈な吸血衝動に駆られ、自分を制御できなかった。気がついたらラキュースを押し倒していたのだ。あと少し遅かったら本当に噛みちぎっていたかもしれない。そう思うと恐ろしくてたまらなかった。

 

 あの力がなんなのか、あの少女は何者なのか。まだよくわからない。だが、己に制御できない力は使ってはいけない。取り返しのつかないことになってからでは遅い。

 

 再び少女に脳内で言い寄られても、次は断固として拒否しようと決意するのだった。

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