蒼薔薇の戦乙女   作:蘭帆

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14話:舌戦

「すげぇ活気だな…」

 

 帝都アーウィンタール、皇帝の書状から私たちは帝国の中心に来たわけだが、その活気に圧倒されていた。

 

 確かに王国も、街を歩けば肩がぶつかってしまうほど多くの人で溢れかえっているし、帝国で人の集まっている娯楽施設や屋台などの飲食店、冒険者組合は、どれも王国にも存在するものだ。

 しかしその街行く人々の表情には雲泥の差があった。

 

 王国では、経済難や食糧不足などで常に不安と闘いながら必死になって生きている。しかしながらこの帝国ではどうだろうか。

 

 この国では誰もが目を輝かせている。今日の不安などなく、明日への希望を抱いている者にしかできない顔だ。

 

「やはり今代の皇帝は随分と優秀なようですね。王国に対して強気に出れるだけあります」

 

 帝国の街並みにラナーも簡単の声を漏らす。

 

 現在、私たちは帝国の役人に、皇帝の元まで案内されている最中である。道中、帝国の様子を見て回っている。役人もラナーの反応に満足げにしている。

 

 こうして帝国が王国に優っているところを見せさせることで、これからの交渉を有利に進めさせるという魂胆だろうか。

 

 しかし、私たちがいるとはいえ、敵国にラナーを送るのはあまりにリスクが大きい。今回の依頼、いつも以上に張り切らなければ。

 

 

「この先で陛下がお待ちです」

 

 

 意外にも案内された場所は、城ではなく闘技場だった。荘厳で洗練された闘技場の建築に圧倒される。中には人々が観客として、超満員に詰め込まれている。身分も平民から豪商まで、その多くが平民で構成されている。

 

 このような娯楽に平民が手を出せるということは、やはりそれだけ所得が安定しているのだろう。

 

 大扉を開け、VIP席へと入るとそこには四人の騎士、白く長い髭を纏った逸脱者、そして鮮血帝が待っていた。

 

 

「ようこそ、バハルス帝国へ。私は、皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、今日は両国にとって有意義な話し合いにしよう」

 

 

 顔からは見るからに余裕が見える。国力でも、舌戦でも負ける気がしない、そういった自信が見て取れる。

 

 だが、この話し合いにおいて帝国に勝ち目は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──では、王国に対しての支援のお話はそういうことでお願いいたします」

 

 

 円滑に進められる会議の中で、その立場はいつの間にか逆転していた。

 

 

(クソっ! どうしてこうなった!? まさかこの女、帝国の要求を全て読んでたとでもいうのか!?)

 

 

 王国に対して、無理な要求をした後、譲歩したように見せた本来の狙いを突き通す。ジルクニフの得意な形だったが、無理であると仮定していた初めの要求から受け入れられてしまってはこの作戦はすべて瓦解する。

 

 八本指との戦争が終わったばかりであるはずの王国が豊富な食料を所有し、既に管理の体制まで整えているなど誰が予想出来ただろうか。

 こちらの動きを完全に読んでいたとしか思えない。

 

 さらには帝国側の要求を呑む交換条件で、王国に対する経済的な支援まで結び付けられてしまった。初めはこちらの必勝の会議だと思っていたが、想定外の損失を被ってしまった。

 

 

「続けて、王国でも帝国に倣い、魔法学院を設立したいと考えているのですが、その際に、帝国の魔法講師を招いていただけないでしょうか」

 

 

「申し訳ないが、帝国も制度が出来たばかりでそこまでの余裕はないのだ」

 

 

「いえ、悪いことばかりではありません。王国は帝国と魔法の共同研究をしたいと思っております」

 

 

 経済的な支援だけでなく、魔法の支援まで申し出てくるとはなんと図々しいことか。この手の問題はすぐに返事をしてしまっては危険だ。とりあえず曖昧にさせておいて…

 

 

「おぉ! それは素晴らしいことですな! 陛下! 是非とも受け入れるべきですぞ!」

 

 

 帝国側に意外な賛同の声が上げたのは、逸脱者フールーダ・パラダインだった。

 

 

(爺~~!!!!)

 

 

「魔法とは素晴らしいもの! その深淵を共に覗こうというのであれば、帝国は大歓迎ですぞ! 特に後ろのお嬢さんには是非!」

 

 

 フールーダの視線の先は、第三王女の護衛として来ていた蒼の薔薇の魔法詠唱者だ。レエブン侯の娘で、名は確か…セリだったはずだ。

 彼女が入室してきた瞬間から爺の目色が変わった。爺には、人の魔力を量ることが出来るという異能がある。おそらく、彼女の魔力量が想像以上のものだったのだろう。

 

 爺のこの興奮具合から見てもどうやら今までにあってきた魔法詠唱者の中でもトップにはいる。それが王国にいるというだけで脅威であるのに、魔法の支援までして強化させる訳にはいかない。

 

 

「もっもちろん王国の魔法学院設立は素晴らしいことだと思う。だが、このような重要な取り決めはすぐに行うのではなく、そうだな…例えば、設立後に技術的に足りない部分があるとすれば、その時もう一度話し合うというのはどうだろうか!?」

 

 

「えぇ、もちろんそのつもりです。こちらとしても慎重にことを進めたいと考えています」

 

 

 とりあえず、強引に契約を結ばれないことに安堵する。先延ばしにしておけば、その間に手立てを打っておけば良い。後は、爺が余計な事を言わないように抑えさえすれば…。

 

 

「ところで、王国はどのような魔法を研究するつもりなのですかな?」

 

 

(爺~~!?!?!!)

 

 

「そうですね、初めは日常生活に役に立つ生活魔法や初級の攻撃魔法を教え、国民全体の魔法レベルの底上げ、魔法への偏見の解消をめざしたいと思っています。その中でも突出する者のために、クラス分けをしてレベル別の魔法を教えていこうかと」

 

 

「ほうほう! 素晴らしいですな! 魔法のレベルによっては私が教鞭をとってあげても良い!」

 

 

「ま、まぁそれはおいおい考えるとしよう…」

 

 

 爺は非常に有能だが、魔法への執着が強すぎるあまり、魔法のこととなると狂人になる。だが、帝国としても無下にできないのが困ったところだ。

 

 

「王国では後々、治癒魔法も教えたいと思っています。そうですね、例えば…モンスターの呪いを解く、解呪魔法なども…」

 

 

「それは本当ですか!?!?」

 

 

 ラナーの話に食い気味に入ってきたのは、先程まで大人しく後ろで控えていた帝国四騎士の1人、レイナースだった。

 

 本来ただの騎士が国家間の話し合いに許可なく割り込んで入るなどありえない事だ。だが、レイナースにとってはそんなことは関係なかった。

 

 長年己の顔を蝕んでいた呪い。帝国に仕えているのも、この呪いを解く方法をフールーダに調べてもらっているからだ。

 

 未だに呪いの解呪法は分かっていない。そもそも解呪魔法は他の魔法に比べて優先度が低いため、積極的に研究されないのだ。

 

 だが、目の前の王女は国を挙げて解呪魔法についての研究を行うと言っている。もしこれが本当に実行されるのだとしたら、解呪に大きく前進することとなる。

 

 故に、レイナースは藁にもすがる思いでラナーの話に聞き入っていた。

 これによって帝国の中枢の人物の二人が、王国の魔法支援に対して大きく賛同することとなってしまった。

 

 

(不味いな…。一体どこで知ったか分からないが、帝国の配下の情報をかなり得ているらしい…)

 

 

「まぁまぁ、今回は魔法学院よりも王国と帝国の終戦を祝うべきでしょう!」

 

 

「あ、あぁ…そうだな。本当に喜ばしいことだ…」

 

 

 王国をこれから敵にまわすのは不味い。むしろ友好的な関係を築いていた方が帝国の利益となるだろう。

 

 爺は酷くどうでも良さそうな顔をして、もっと魔法談義をしたいと思っていそうだが…。

 

 

(ふぅ…。今回の会議は私の完敗だな…)

 

 

『それでは、今回のメインのイベントを開催いたします!!』

 

 

 その時、場内に全体アナウンスが流れ、観衆は今日一番の盛り上がりを見せる。

 

 

『闘技場の王! 武王!!』

 

 

 大層な名前とともに、全身鎧を身につけた巨大な戦士が現れた。その姿は見るからに人間では無い。

 

 

「武王…ですか…?」

 

 

 先程と打って変わって、可愛らしい表情で疑問符を浮かべるラナーにジルクニフは思わず「うげ…」と出かけるが、すんでのところで飲み込むことに成功する。

 

 

「武王とは闘技場の王に与えられる称号ですよ。特に、今代の武王は歴代最強と名高い戦士です」

 

 

 後ろから四騎士のうちの一人から補足が入る。

 

 

『本日は来賓にバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下、リ・エスティーゼ王国第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ殿下にお越しいただいております!』

 

 

 実況から紹介が入り、ジルクニフとラナーは観客に向かって手を振る。観客の中では、意外な二人の紹介に、もしかして婚約について話し合っていたのではないかと噂が飛び交う。

 

 

(今はそんな気分じゃないんだ、勘弁してくれ。舌戦では敗北を喫し、且つこちらの戦力まで探られるとは全く……ん…? 待て…)

 

 

『それでは試合開始!!』

 

 

 武王の相手は帝国のワーカーチーム天武のリーダーとのことだ。

 

 

「ここで私がガゼフ・ストロノーフを超える戦士であると証明して差し上げましょう」

 

 

 威勢よく武王に飛びかかったものの、全ていなされ、武技にも対応され、奴隷のエルフから支援をもらい体格差を埋めようとするも、それでも届かず。段々と勢いを失い、最後は武王が天武を撲殺し勝負ありとなった。

 

 会場は衝撃波とも取れるほどの歓声に包まれ、武王コールが跋扈する。

 

 

「流石は武王と言ったところか。その名に恥じぬ戦闘力だ。どうだ? 蒼の薔薇の諸君らも戦ってみたくなったのではないか?」

 

 

(……!?)

 

 

「おぉ! それは良い提案ですぞ! 陛下! 是非ともセリ殿に挑戦して頂きたいものですな!」

 

 

「っっ!? お戯れはおやめください陛下! セリは冒険者である前に、王国貴族です! もし万が一のことがあれば王国と帝国の関係に悪影響を及ぼします!」

 

 

 ラキュースは必死に止めようとするが、皇帝だけでなく、フールーダまでノリ気にさせてしまったなら止められるかは分からない。

 

 

「安心してくれたまえ。もちろん公式の試合ではなく、親善試合としてだ。むしろ我が国と王国の友好的な関係を国民にアピールするチャンスではないか?」

 

 

「全くその通りでございますな! 陛下!!」

 

 

「ラナー王女殿下もそうは思いませんか?」

 

 

「そ、それは…ダメです…!」

 

 

 ジルクニフはそのラナーの葛藤した様子に衝撃を受ける。この会議中、一度も表情を崩さなかったラナーが初めて動揺を隠せなかったからである。

 

 

(これは、もしかすると…?)

 

 

「いいでしょう。私もちょうど武王と戦ってみたかったところです。王国と帝国の終戦を宣言するのに最適です」

 

 

「ちょっと! セリ!」

 

 

 ラナーの様子を見て、セリが自ら名乗りをあげる。ラキュースは止めに入るが、セリはラナーの元へ歩みを進める。

 そして耳元で囁く。

 

 観客は未だ熱冷めぬ様子だ。だからこそ、この二人のやり取りも誰にも聞こえなかっただろう。

 

 そしてセリは飛行魔法を使い、闘技場へと飛び降りる。

 突如現れた蒼の薔薇の魔法詠唱者に会場にどよめきが走る。

 

 

「私は王国のアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のセリ! たった今! 帝国と王国は終戦条約を結んだ! これは非常に喜ばしいことだ!」

 

 

 セリの声は拡声魔法を通して会場全体に響く。観客からは戸惑いの交じった喧騒に包まれる。

 

 

「祝い事には催しが必要だろう! 武王! 私はお前に試合を申し込む!」

 

 

 一つ間が空いて会場からは先程の試合を超える歓声が沸きあがる。

 武王も新たな強者に受けて立つと宣言する。

 

 こうして、急遽、正式に二人の親善試合を行うとアナウンスが流れた。

 

 

(確か私は舌戦で負けたかもしれない。だが、タダで負けるつもりは無い…! この戦いを通してお前たちの戦力を推し量ってやる)

 

 

 ジルクニフはいつもの自信満々の表情に戻り、満足気に笑みを浮かべた。

 

 

(私はまだ…戦える……!!)

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