蒼薔薇の戦乙女   作:蘭帆

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16話:再起

「魔法三重最強化・雷撃」

 

 

 三重化された雷撃は武王の体に直撃し、今までの耐久性が嘘であったかのような傷を与えていく。

 

 

「グォあぁぁ!」

 

 

 苦悶の声が響き渡る。今まで攻勢に出ていたはずの武王が、逆に完封されている現在の様子に観客は大盛り上がりだ。逆転の展開というのは一人の心を最も動かすものの一つであろう。

 だが、観客には悪いがこの試合の決着は引き延ばさせてもらう。武王に決定的なダメージを与えるにはより高位の魔法を使わねばならないが、それを皇帝の前で出すのは得策ではない。だからと言って負けてしまえば、蒼の薔薇の名声に傷がつく。

 

 故に引き分けとさせてもらおう。ちょうど武王の体力も限界が近くなってきただろう。私も魔力の枯渇が起き始めている。体が重く、言うことを聞かない。魔法を使うのも苦しい状況だ。

 

 

「武王頑張れぇぇぇぇ!!!」

 

 

 帝国の皇帝か…。鮮血帝などと言われているが、ここまで必死になって王国を警戒するとは。国民からしたらよほど闘技場が好きなのだと映るはずだ。

 だが、彼ではラナーには勝てない。私にも。この一連の流れだって全て計画されたもの。申し訳ないが今回は勝ち逃げさせてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい…」

 

 

「俺らでも凄さはわかるけどよ、やっぱアルシェから見てもありゃ異常なんか?」

 

 

「魔法技術が発展している帝国中を探しても、あの人に勝る魔法詠唱者は一人しかいない。…いや魔力量だったらそれ以上かも?」

 

 

 武王の試合と聞いて闘技場に来ていたワーカーチーム『フォーサイト』は、突如決まった王国の冒険者の実力に驚愕していた。歴代最強と謳われていた今代の武王が手も足も出ない圧倒的な力、そして何より、人の魔力をみることができる異能を持っているアルシェの発言だ。

 

 

「それはアルシェの元師匠よりもってことか!?」

 

 

「私の記憶が正しければ、だけど」

 

 

「まじかよ…」

 

 

「それにまだ全力を出しているようには見えないのである」

 

 

(本格的にまずいな…。蒼の薔薇…王国で最も活躍する最高位の冒険者チーム。これほどの戦力があるとはな。王国が再興してきているのは聞いていた。帝国も戦争などしている場合では無くなったんだろうな。これから王国へ冒険者が流れていくことを考えると、その分ワーカーに危険な仕事が回ってくる。俺たちも依頼を選んでいられなくなる…)

 

 

 ヘッケランは帝国でのワーカーの立場に危機を覚える。そしてメンバーのことも考えると、帝国でワーカーを続けるよりまともな職に就いた方が良いのかもしれないと思い始めていた。

 

 

(一から冒険者を始めるのもなぁ……ん?)

 

 

 ヘッケランが神妙な顔をしているのに気付いたのか、イミーナが腕にそっと抱きついてきた。彼女はいつもこうして支えてくれている。彼女だけではない。他のメンバーもいつだって頼りになる大切な仲間だ。

 

 

(俺も一人で悩んでる場合じゃないな。この後みんなに相談してみるか…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐアァぁァぉァぉ!!」

 

 

 武王はすでに戦闘不能になっている頃だ。私もあと一撃が限界といったところだろう。

 残りの魔力がギリギリの中、最後の魔法を唱えるために詠唱を始める。

 波乱は何もない。全てが計画通りに動き、予定された結末を迎える。……はずだった。

 

 

(よし……! これでラスト…)

 

 

 その時、視界がぐにゃりと曲がり、一瞬意識が飛ばされそうな感覚が生じる。

 

 

(こ…これは……!?)

 

 

 すんでのところで持ち堪えるも、頭が割れそうなほどズキズキと痛む。魔力枯渇とはまた別の痛みだ。まるで自分の中に全くの別人がいて、体を乗っ取られそうになる、そんな感覚だ。

 本来あり得ないことだ。常人であれば私の年齢も加味し、厨二病を患ってしまった残念な子と認識されるはずだろう。

 

 しかし、不思議なことに、その感覚はどこかで覚えがあった。

 八本指との紛争の際に生死を彷徨った時に感じたあの感覚。名も知らない少女の声が頭に響き渡り、完全に体を支配されてしまったとき。その直前に同じような感覚に陥った。

 

 

(まずい…早くケリをつけないと……!)

 

 

 意識が徐々に薄れていく中、会場全体が今日一番の盛り上がりを見せる。

 

 

『おい、あれ見ろよ!』

 

 

『うおおぉぉ!! 勝負はまだ終わってねぇ!』

 

 

「そうだ! そこだ! やってしまえ! 武王!!」

 

 

 これまでやられっぱなしだった武王がむくりと立ち上がったのだ。

 その姿は、まるで何かに操られているかのようだ。魔法による支配とはまた違う。もっと魔物としての本能的な力だろう。

 

 

(大丈夫…落ち着いて魔法を打てば……っっ!?)

 

 

 最後の力を振り絞り、魔法を発動させるも、直前で強烈な頭痛に見舞われ、その魔法は軌道が横に逸れてしまう。

 

 

(外した…!? っっ…!)

 

 

 もう一度強烈な痛みが襲い、魔力の枯渇もあり、セリは完全に意識を失い、その場に倒れ込んでしまう。

 

 意識が遠のいていく最中、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

『妾と交代でありんす』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セリ!!」

 

 

 倒れ込んだセリに対して護衛であるはずラキュース達蒼の薔薇は、バルコニーから身を乗り出し、セリの身を案じている。

 ラナーも表情を崩さず、平静を何とか保ってはいるものの、今すぐにでも駆けつけてあげたい気持ちでいっぱいだ。

 

 

「どうしたんだ!? 魔力の枯渇があったとはいえ、セリが魔法を外すなんて…!」

 

 

 普段のセリの実力を知っている仲間たちはすぐに違和感に気づいた。セリに魔力の枯渇が起こったのは初めてではない。冒険者を始めた頃は、よく無茶をして枯渇状態に陥っていた。

 その際も、魔力がなくなったら剣で戦闘を行っていた。このように、魔力の枯渇だけで倒れるのはおかしい。

 

 それにセリが失敗をするはずはないという圧倒的な信頼関係があった。故にこういった考えに至った。”対応できないほどの非常事態”が起こっているのだと。

 

 

「陛下! 試合を中断するご許可を!」

 

 

「ぶおっ……そうだな…帝国側としてもここで貴国との関係が悪くなることは避けたい」

 

 

「では陛下!! 試合中断の宣言を!」

 

 

 先ほどまで武王の熱狂的なファンになっていたジルクニフは、すぐさま冷静さを取り戻すと、少しの間考える仕草をした後、不敵な笑みを浮かべ、満を辞したかの様子で話し始める。

 

 

「ふふ…貴殿ら蒼の薔薇が参戦するというのはどうだ? 王国最強の冒険者である貴殿らが闘技場に降り立てば、帝国民はきっと大いに盛り上がりを見せるだろう」

 

 

 ジルクニフが王国の戦力偵察を目的としていることは、その場にいる全員が理解していた。ラナーに舌戦で負け、セリにも上手く誤魔化されたことが気に食わなかったのだろう。

 

 

「ただ終わらせるだけでは芸がないだろう? 仲間を救うのを誰かに任せるのも心もとない。私なりの配慮なのだがなぁ?」

 

 

 その笑みはようやく出し抜いてやったという愉悦を含んでいた。

 セリはまだ地に伏したまま動く気配は無い。武王はゆっくりと足を引きずりながら、一歩一歩近づいている。もう考えている暇は無い。

 

 ステージへと飛び降りようと手をかけた時、後ろから腕を何かに引っ張られた。

 振り返ると、ラキュースの腕をラナーが俯きながら掴んでいた。顔はよく見えないが、ラキュースにはわかった。自分とセリにだけ見せるわがままを言いたい時のラナーだ。

 

 だが、こうしている間にも、武王は己の本能に従い襲いかかろうと、歩みを進めているのだ。

 

 

「これ以上は…! ラナーごめん!!」

 

 

「ったく! 仕方ねぇな! ティナとティアはここに残っててくれ!!」

 

 

 ラキュースが闘技場へ飛び立つと、それに続くようにガガーラン、イビルアイもステージへ降りる。

 ラナーはそれを止めることはできず、ただ黙って見ていることしかできなかった。

 

 

(これは、正解かもしれないな…。それにしてもあの女にも同じ反応を見せるとはな…)

 

 

 手を伸ばしたまま硬直しているラナーを見て、ジルクニフは自分の推理が当たっているという確信を得ていた。

 

 

(面白い…。爺に頼めば、こちら側に引き込めるかもしれない。そうすればこの女を自由に操れる…)

 

 

 ジルクニフは、手に入れた情報からどのような一手を打てるか思考を巡らせる。

 

 

(ふっふっふ…国民たちの気持ちが大いにわかるぞ。逆転勝利とはここまで心躍るものなのだな…!)

 

 

 武王に熱狂するのも納得だと思う。なんなら闘技場の試合観戦が趣味になってしまいそうであった。

 そして、その武王にもつい期待を寄せてしまう。この戦力差を埋めることはできないかもしれないが、最後に何か役に立って喜ばせてほしいと思ってしまった。

 

 しかし、そう上手くはいかない。

 ガガーランとラキュースはセリを守りながら武王の攻撃を受け止め、イビルアイの魔法で武王はあっけなく地に伏した。

 

 親善試合ということに配慮して、息の根は止めていないが、意識はなく、戦闘ができる状態ではないだろう。

 

 

「終わったな」

 

 

「なぁんだよ。もっと楽しめると思ってたんだけどなぁ…」

 

 

「初めからわかっていただろう。あいつは立っているのが不思議な状態だったんだからな」

 

 

 二人がたわいもない会話をしている傍で、ラキュースは真っ先にセリの元へ向かい、抱きかかえる。そして、命に別状のないセリを見てひとまず安心する。

 

 

(よかった…)

 

 

 外傷は一切なく、脈も問題ない。顔は綺麗だ。いや、可愛さも感じられる。今はその綺麗な顔を晒しながら静かに眠っていて、何をしてもバレなさそうだ。

 そして、心臓の音を聞くフリをして、そっと顔を近づける。いけないことをしているのはわかっているが、もう止められそうにない。

 

 

「おいおい…公衆の面前で仲間に恥をかかすような真似はやめてくれよ?」

 

 

 後もう少しで唇が触れる…というところで雄々しい声に現実に戻される。

 

 

「邪魔しちまって悪りぃが、セリの容態の方が今は大事なんじゃねぇのか?」

 

 

「なっ!? 何もし…してないわよ!?!?」

 

 

「確かに()()何もしてねぇな」

 

 

「別に何もするつもりなかったわよ!! 心臓の音を確認しようとしただけだわっ!?」

 

 

 ガガーランは心底呆れたように、かつ見慣れた光景かのように対応する。イビルアイは仮面で顔は見えないが、きっと同じように呆れた顔をしているのだろう。そうに違いない。

 

 

「はぁ…そうかい……。あれで誤魔化せると思ってるとは、こりゃ重症だな…」

 

 

「何よ!? 二人して!!」

 

 

「私は何もしていないが?」

 

 

 約一名、はぁはぁと息切れし、肩で呼吸しているが、観客の目もあるため、悪目立ちしないよう、すぐに立ち去るべきであるということは自明であった。

 

 

「そんなことより早く戻った方がいいんじゃないか?」

 

 

「そんなことより!?」

 

 

「そうだな…。姫さんも待ってるし、抜け駆けしたラキュースのことで怒ってるかもしんねぇしな!」

 

 

 後々、闘技場の運営者に事情を説明し、ひとまずはラナーたちの元へ戻るということとなった。

 

 

「しっかしセリはどうしたんかなぁ…? 昨日の夜飯食い過ぎたのか?」

 

 

「ガガーラン……セリはたくさん食べるところが可愛いんじゃない…」

 

 

「ぉ…ぅ……そうか…。ん”ん”っ…イビルアイ、飛行(フライ)で俺たちも運んでくれねぇか?」

 

 

「そのつもりだ…。みんな私の近くに寄ってくれ」

 

 

 セリをラキュースが抱っこし、イビルアイの周りに集合する。

 

 

「ではいく────」

 

 

 その時、イビルアイはとてつもない存在感からくる威圧感に押しつぶされそうになる。

 それは、圧倒的な格上に敵意を向けられた時のような感覚で、息が詰まり、恐怖で体が震えてしまうほどだった。

 

 

「おい、どうしたんだよイビルアイ。まさかお前もセリと同じで飯食べすぎたのか?」

 

 

(なんだ? これは…? まるで竜王と相対した時のような…?)

 

 

「ん、セリ!? 気がついた?? どこか変なところはない??」

 

 

「おぉセリ! 目ぇ冷めたのか! 昨日何食ったんだ? 誰にも言わねぇから教えてくれよ!」

 

 

 ラキュースとガガーランがセリの目覚めに喜んでいる中、イビルアイだけは理解していた。あれは自分たちのよく知る仲間(セリ)ではないということを。

 

 

「ラキュース!! 今すぐ()()()から離れろ!!!!」

 

 

「え」

 

 

 イビルアイは瞬時に危険を呼びかけるも、すでに遅かった。

 ラキュースは()()()片手で首を掴まれて宙に持ち上げられてしまう。瞳は紅く染まり、邪悪な笑みを浮かべていた。

 

 

「随分と美味しそうでありんすねぇ」

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