蒼薔薇の戦乙女   作:蘭帆

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5話:異能

「それではお父様、本日も執務お疲れ様でした」

 

「今日もありがとうセリたん。もう少し部屋にいても良いんだよ?」

 

「いえ、お父様の睡眠時間を削るわけにはいきません。ただでさえお父様がお休みになられているところを見たことがありません。今日のように執務が早く終わった際はゆっくりお休みください」

 

 セリの気遣いにレエブンは思わず感激する。確かにここ最近はよく眠れていない。王国は多くの問題を抱えており、それにより、レエブンは日々頭を悩ませ、領内だけに集中することができていない。王国の他の貴族がもっと優秀であったなら彼の悩みの種も減ったのかもしれないが。

 

「ちょっと待ってセリたん」

 

「それでは失礼します」そう言い残して部屋を後にしようとドアノブに手をかけたセリをレエブンは引き止める。まだ自分に部屋にいて欲しいと駄々をこねるのかと思っているのか、セリは半ば呆れた様な表情している。

 

「仕方がありませんね…。5分だけですよ」

 

「あぁ、いや違うんだ。いや違くはないんだが。セリは最近第三王女様とよくお茶会をしているけど随分と仲良くなれたみたいだね」

 

 セリは、少し驚いた様な顔をした後、再び明るい雰囲気を取り戻した。

 

「はい! ラナーとはとても仲良くさせていただいています! 最近ではアインドラ家のラキュースも一緒にお話していて、とても楽しく充実しています。とても良い友人ができて私とっても嬉しいです!」

 

「あ、あぁそうか……。なら良いんだ……」

 

 目を輝かせながら楽しそうに語るセリは嘘を語っている様にも見えず、ただ幸せそうだった。レエブンが考え込んでいると、セリは不思議そうにこちらを見ている。

 

『あぁ、ごめんねセリたん、呼び止めてしまって」

 

「そんなことないです! お父様お休みなさい!」

 

「うん、おやすみ」

 

 パタン

 

「おかしい……」

 

 セリのいなくなった部屋で一人思案に耽る。

 自分が第三王女に抱えていた感情は真実ではなかったのだろうか。セリは嬉しそうに彼女にのことを紹介し、さらには友人と呼んだ。確かに最近のセリは笑顔が増えた様に思える。日々が充実しているというのは間違いではないのだろう。娘の成長を目で確かめることができることは嬉しい。だが、どうしても昔見た王女の印象が拭えないレエブンは、王女が何か企んでセリに接触しているとしか思えなかった。あの女が何も考えずに、ただ友達になりたいという理由だけで関わりを持っているとは考えられなかった。

 

「私の杞憂で終わってくれれば良いのだが……」

 

 

 

 

「セリたん……? 今なんと言ったんだい??」

 

「はい! お父様! 私は冒険者になりたいです!!」

 

(あのクソ王女がああああああああ!!!!!!!!)

 

 いつも通り王女のお茶会からセリが帰ってくると、突然冒険者になりたいと言い出した。レエブンの悪い予感が的中したのだ。

 

(クソッ!! やはりあの女が何も考えていないはずがなかった! セリたんを冒険者にさせて何をするつもりだ!? 危険なモンスターに襲わせて、クエスト中に暗殺を企んでいるのか? だがこの私がそんなことを許すはずがないだろう!)

 

「セリたん? 冒険者は危険な職業なんだよ?? 国の外には危険なモンスターがたくさんいるんだ。そんなモンスターに襲われたらどうするんだい? きっとすご〜く怖い目に遭ってしまうよ? それに冒険者はセリたんの思っているよりずっと夢のない職業なんだ。”冒険者”なんてのは名前だけで、その実態は対モンスター専門の傭兵の様なものさ。この間教えたよね?? この屋敷で住んでいた方がずっと快適で幸せな暮らしができると思うよ?」

 

「もちろん危険は承知の上です。冒険者の実態についても知っています」

 

「じゃあなんで……? 何か不満でもあったのかナ?」

 

「そいうわけではありません。むしろお父様の統治においては完璧であると思っています。それでも……私はこの領内だけにとどまっていたくはないのです! 己の力でより広い世界を知り、新たな世界を切り開いていきたいのです!」

 

 セリの目には決意の色が感じられた。同時に、ラナーの狙いもわかった気がした。彼女はセリが優れた魔法詠唱者であると知り、接触を図り、冒険者にならせることで引き込もうとしているのだ。大貴族で高位冒険者というのは確かに引き込むことができたならば、政治的にも、戦力的にもメリットは計り知れない。

 

 レエブンは説得されそうになるが、このままではいけないと思い、反論の言葉を考える。いかに可愛い娘の願いだろうと、その何よりも大切な命を守るためだったなら、どれだけ嫌われたって良いのだ。

 

「仮に冒険者になるとしても、いますぐには認められないね。魔法が使えると言っても、たった一人で冒険者をやっていくなんて不可能だから。もしセリたんが大きくなって強力な魔法詠唱者になって、それでもまだ冒険者になりたいというのだったらその時に考えよう。それまでに共に冒険者パーティーを組めるような人材を探しておくっていうことでどうかな?」

 

 レエブンは、セリの冒険者になりたいという願望も一時的なものだと予測し、時間が経てばやがて領内の素晴らしさに気づくだろうと思っていた。もしセリの情熱が本物だったとしても、こちらでパーティーの人員となれそうな人物との接触をブロックしておけば良い。その過程でセリがより強力な魔法詠唱者になってくれれば安全だと考えた。我ながら即興にしては良い策だと考えた。しかし——

 

「いえ! 実を言うとパーティーメンバーについてはある程度目処が立っているんです!」

 

「え……?」

 

「レイネが魔法の講師を辞めてしまい、私は現在魔法の師がいません。しかし、第三位階以上の魔法を扱うことができる人間など限られています。それこそ”英雄”の様な存在でなければ……。しかし、英雄を探すと言うのは難しいものです。今から英雄の誕生を待つと言うのも現実的ではありません。ですが幸いなことに、この国にはすでに英雄が存在していました。さて、お父様は十三英雄を知っていますか?」

 

 セリはニコリと微笑む。一方のレエブンはというと、呆気に取られたようにただただセリの話を聞いていた。

 

「そのうちの一人のリグリット・ベルスー・カウラウ様とお話しする機会に恵まれまして、私の異能(タレント)を見て、師事させていただけるという了承を得ました。また、ラキュースにも同じくご教示してくださるとのことでした。ですので、今すぐに冒険者になると言うことはできないのは確かなのですが、鍛錬して、私たちはいずれパーティーを組みたいと考えています」

 

 レエブンはここに来てもはや断ることができない状況にまで陥っているということに気づく。セリはここまで見越して計画を立てていたのだろうか。自分がなんと反論するかまで予測して、断ることで王国にとっても、レエブル領にも、何より、自分の最も大切なセリにマイナスが大きくなる様な状況を作り上げた。自分の全てを見透かされ、その特性をうまく利用されたのだ。賢いと言っても、セリはまだ子供らしい一面もあるため忘れていたのかもしれない。既にレエブンの敵う相手ではなかったということを。

 

 その後、リグリット・ベルスー・カウラウが、セリとの師弟関係を認めると言う旨の書かれた文書を見せられ、レエブンは観念した。セリが英雄の鍛錬についていけず、途中で投げ出すか、はたまた、鍛錬の中で、別の道を見出すと言うことを期待して。

 

 

 

 

「わかってくださり嬉しいです、お父様!」

 

「全く。わかったというか、分からせられたというか……。ともかく、無茶はしちゃいけないよ?」

 

「もちろんです! 体は資本ですから!」

 

 セリはいつにもなくテンションが高く、ウキウキと言った様子だ。

 

「そういえば、セリたんの異能は生まれた時に鑑定していたから知っていたけど、その後も何度やってもどんな内容かは分からなかったよね? 十三英雄ともなればその才能がどんな力なのかわかったのかい?」

 

「いえ、リグリット様でもそこまでは分からなかった様です。ですが、私に鑑定魔法をかけた際に随分と驚かれていた様子でしたので、見たこともない異能の名前で興味を持ったのかもしれません。大した能力を持たないハズレ異能だと思っていましたが、まさかこんなところで役に立つとは思ってもみませんでした」

 

「名前? リグリット殿はセリたんの異能の名前がわかったんだね? ……それならば本当はわかっていて危険な才能だったから自分の目の届く範囲に置いておいたという可能性もあるな」

 

「お父様…?」

 

 レエブンがセリに聞こえない様な小声で自身の推測を呟くと、何か感じ取ったのか、セリがレエブンを下から覗き込む様にして首を傾げている。

 

「いや、なんでもないよ…。それで、セリたんの異能の名前はなんと??」

 

「えぇっと…。確か…——」

 

 

 

 

「リグリット、君か。随分と久しぶりだね」

 

「あぁ久しぶりじゃな、ツアー」

 

「僕に何の用かな?」

 

「なんじゃツアー、わしらは会う理由がなければあっちゃいけんのかい」

 

「そんなことはないけど。君だって目的がなければ僕に会いに来ないだろう?」

 

「お主だって長年そこの鎧を操っていただけで会いに来ていないじゃろうが」

 

 リグリットは部屋の隅に立っている白金の鎧に目を向ける。

 

「それは悪かったって。まだ怒っているのかい?」

 

 ツアーは一応謝ってはみたが、そこからは特段、反省や申し訳なさなどは伝わってこない。リグリットもそれをわかっているため、この話を続けようとはしない。そもそも本気で怒っているわけではなく、久しぶりに会った友人に軽口を叩いているだけだ。

 

「まぁよい。それでじゃな、わしはつい最近二人の弟子をとったのじゃ」

 

「そうなのかい。今君は冒険者をしているのだったよね。君は冒険者は引退して指導者側に回るのかな? それにしても、今まで弟子を取ることについてはずっと否定的だったのに急にどうしてだい?」

 

「わしはまだ冒険者稼業は続けるつもりじゃよ。弟子を取った理由についてじゃが、実はそれこそが今日ここに来た理由なんじゃよ」

 

「どういうことだい?」

 

「わしが二人の弟子を取る際にそのうちの一人の異能をお主から借りていたマジックアイテムで鑑定したのじゃよ。そうしたら名前だけは鑑定できたのじゃが、他は一切見ることができなかったのじゃよ。危険な異能である可能性を考慮して、念の為、師弟関係を結んでおいて、手の届く範囲に置いておいたと言うわけじゃ。お主ならば何か理由がわかるのではないかと思って訪ねたわけじゃ」

 

「その人間の実力はどの程度なんだい?」

 

「まだ幼いにも関わらず、第三位階までの魔法を満遍なく扱うことができる。このまま成長すれば、わしを越える魔法詠唱者になってもおかしくないと思っておる」

 

「なるほど、それは確かにリグリットが危険視するのも納得だ。でも悪いね、僕では力になれそうもない。今思いつく限りでは情報阻害系の異能とかかな。そのマジックアイテムを防げるほどの異能なら、よほど強力なものとなるかもしれないね」

 

「なるほどな。まぁ弟子を取った以上は責任を持って面倒を見るとするよ。仮に世界を脅かす程の強力な異能であれば、お主に頼むかもしれない」

 

「……それは殺してもいいと言うことかな?」

 

「なるべくそうならない様に頼みたいんじゃがな」

 

「そうかい。その時は気をつけるよ。ところで、さっき名前だけ見れたと言っていたけど、その人間の異能の名前はなんだったんだい?」

 

「それがな、名前だけではどんな効果か見当もつかなかったんじゃが…。確か……

 

 

『鮮血の戦乙女』 じゃったな」

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