蒼薔薇の戦乙女   作:蘭帆

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6話:門出

 侯爵邸の敷地内、魔法の訓練に励む影が二つ。

 

魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)雷撃(ライトニング)!!」

 

「甘いよ! 魔法最強化(マキシマイズマジック)火球(ファイヤーボール)

 

 二つの雷撃は一つの火球によってかき消された。

 

「まだよ! 魔法最強化(マキシマイズマジック)雷爆騎士槍(ショックランス)!」

 

龍雷(ドラゴン・ライトニング)!!」

 

 雷の龍は魔法を打ち消し、そのまま相手に目がけて一直線に向かっていった。

 

「あっ! 避けて! ラキュース!!!」

 

「えっ!?」

 

 まさにその電撃がラキュースを捉え当たる…寸前のところでかき消えた。

 

「全くセリ! 制御のできん力は使うでないと何度言ったらわかるんじゃ!」

 

「リグリットさん! ……ごめんなさい」

 

 魔法訓練をしていたセリは度々こうして制御不能に陥っていた。

 

「ラキュースもごめんなさい。今日は抑えられると思ったんだけど…」

 

「いえ、あなたの魔法に押し切られてしまった私の責任でもあるわ」

 

 ラキュースは少し悔しそうに言う。セリがラキュースと共に、リグリットに教えを請ってから早五年、セリは十二歳にして第五位階の領域まで踏み込み、ラキュースも十四歳で第四位階魔法まで扱えるようになった。これも客観的に見て、驚くべきことであり、天才であると言えるだろう。それでも、自分の上をいくセリを前に焦りを感じていた。

 

「セリは制御できる様になるまでその魔法は禁止じゃ」

 

「うぅ…。はい」

 

「じゃが、二人とも既に一人前と言って良い。これなら、お前たちの両親も承諾してくれるじゃろう」

 

「本当ですか!? やった!! やったねラキュース!」

 

「えぇそうね! やっと私たち冒険者になれるのね!」

 

 セリとラキュースは、リグリットを師に迎えた後、すぐにでも冒険者になれると思ったが、彼女たちの身分がそうはさせなかった。二人とも王国の高位貴族であったため、お互いの両親は激しく反対した。

 

 レエブンはセリを止めることができないとわかっていたため、早々に折れたが、ラキュースの父親は、ラキュースに婚約をしてもらい、普通の貴族令嬢として幸せを望んでいたため猛反対した。しかし、ラキュースも冒険に出ることを譲るつもりはなかった。そこで、リグリットが認めるまでは冒険者になれないということになった。そして魔法だけでなく、剣術の訓練も行い、五年間の訓練の末、リグリットに認められたのだった。

 

「あっ! じゃあガガーランとティアとティナにも伝えなきゃね!」

 

 リグリットに認められるまでの五年間、ただただ訓練だけをして待っていた訳では無い。冒険者パーティーを組む際に必須なパーティーメンバーも既に集めていた。

 

 一人はガガーラン。彼女は、男性と間違えられる程の屈強な身体をした重戦士で、その実力は既に一流だ。そして、ティアとティナ。彼女たちは、ラキュースに差し向けられた暗殺者なのだが、セリと協力して倒した後、その実力の高さからメンバーにスカウトした。

 

 これで、女六人のパーティーの完成であり、現時点で見ても既に王国有数の冒険者であると言える。特にセリは、非常に優れた魔法の才能に加えて、近接戦闘までこなすことが出来る。さらには、努力を惜しまない精神性も持ち合わせている。いずれはリグリットすら越すことが出来るかもしれない才能の持ち主だ。

 

「楽しみだなー。みんな喜ぶだろうなー。沢山待たせちゃったからその分活躍しないとね!」

 

 楽しそうに語るセリを見て、ラキュースは思わず笑みがこぼれる。セリと初めて会った時は大人びていて、優雅で、模範的な侯爵令嬢といった印象だった。しかし、ともに訓練を繰り返す内に仲が深まり、無邪気で活発な年相応の女の子という印象に変わっていた。初めて会った時からは想像もつかない姿だ。今も冒険者になれることに目を輝かせている。

 

「うふふっ、かわいい…」

 

「ん、どうしたの? 私の顔そんなにおかしかった?」

 

 気がつくと目の前にはセリの顔があった。どうやらボーっとしていたみたいだ。先程もうっかり心の声が声に出ていた。聞こえていなければ良いのだが。

 

「いっいえなんでもないわ。そうね…楽しみね」

 

 セリとなら、どこまでも行けるような気がした。きっと最高位のアダマンタイト級冒険者にも。

 

 旅はついに始まりを迎える。「蒼の薔薇」の冒険譚が始まる。ケツイがみなぎった。

 

 早速冒険に、の前に、この喜ばしい出来事を伝えたい人がもう一人いる。

 

「セリ! ラナーにも話に行きましょう!」

 

 

 

 

「ふんふんふふふ〜ん♪」

 

 重厚感溢れるレッドカーペットの敷いてある廊下を、まだ幼さを残した美しい容姿の少女は軽快に歩く。その姿はまさに”黄金”と呼ぶにふさわしいだろう。

 

「あ! ラナー様よ!」

 

「ラナー様、おはようございます!」

 

「ラナー様は今日もお美しいわ!」

 

 美しく聖女の様に優しいラナーはどこにいても人気者だ。廊下を歩けば羨望の眼差しを向けられ、一度王城の外に出れば国民からの黄色い声援に迎えられる。以前であれば、脳みそにシワのない馬鹿の集まりで、自ら破滅に向かう愚か者で、自分の考えを理解できない鬱陶しく無価値なものでしかなかった。そして、自分は、バカばかりのそんな世の中に絶望した。

 

 だが、今はどうだろうか。少し前まで自分にとって無価値だったものは、大切な守るべきものに変わったのだ。いや、変わったのは彼らではない。むしろ彼女の中で、本質的には何も変わっていない。変わったのは彼女の方だ。

 

 己を理解することができないと見下していたが、そんな自分が愚か者だと知ったのだ。そうわかった日から、周囲の人間がとても愛らしく見えてきた。困っている人がいれば力になってあげたくなり、病気に苦しむ人々を見て可哀想だと思ったり、喜ばしいことがあれば自分のことの様に嬉しくなったり、これが人の心というものなのかもしれないと感じる様になっていた。

 

 前までの自分は人間ではなかったのではないかと、そう思う。こんなふうに思える様になったのも、今、毎日が楽しいのも、親友のおかげだ。

 ラナーは、大きな扉の前で立ち止まる。

 

「ありがとう、クライム。あなたはここで待っていて」

 

 ラナーの専属騎士は、彼女の眩しい笑顔に頬を赤らめるも即座に返事をし、ラナーの後ろで待機する。そしてラナーは親友の待つ部屋の扉に手をかけ、ゆっくり開ける。

 

「久しぶりねセリ!! ラキュース!!」

 

 ラナーは二人の待つテーブルに早歩きで向かう。

 

「私たちつい先週あったばかりなのだけれど…。ねぇ、セリ?」

 

「ラナーは私たちのこと大好きだもんね!! 私もラナーに会うのすっごく楽しみにしてたよ! 毎週会っても新鮮な感じするよね!!」

 

「ちょ、ちょっと私だって楽しみにはしてたわよ!」

 

 彼女らのもとに来て思う。やはり私を変えてくれたのはこの二人に間違いないと。

 ラナーの考えを唯一理解することができ、絶望の淵から救い出してくれたセリ。ラナーとセリをとても大切にしてくれているラキュース。

 

 ラキュースに関しては、初めはその他の人間と同様、生物として見下していた上に、心底どうでも良いと思っていた。しかし今は違う。

 

 セリと友人になった後、頻繁にセリとのお茶会に呼ばれるラキュースを最初のうちは疎ましく思っていたが、長く関わっていくうちにラキュースが王族としてではなく、一人の友人として、心の底から自身を大切に思ってくれていると知った。やがて、ラナーもラキュースを大切にしてあげたいと思う様になった。ラナーの中に人間の心というものが生まれたのだ。

 

 その後、これまでからは考えられないほど多くの人と関わってきたが、やはりこの二人は特別だった。セリと初めて会ってから5年、11歳になったラナーは、その邪悪に満ちていた運命を捻じ曲げ、明るく、人らしい未来へと順調に歩みを進めていた。

 

 セリとラキュースは、いまだ仲良さそうに笑い合っている。その光景は、ラナーにとって今最も守りたいものだ。今日は二人から大切な話があるらしい。その内容はラナーはまだ聞かされていない。二人の様子からして、暗い内容のものではなさそうだが、それはラナーにとってはあまり喜ばしいものではないと推測していた。

 

 そんなラナーの表情を感じ取ったのか、さっきまで戯れあっていたセリとラキュースはどこかケツイのこもった眼差しでこちらを見つめていた。

 

「言ったと思うけど、今日はラナーに伝えたいことがあるのよ」

 

「そんな警戒しなくても悪いことじゃないのに。むしろいいことだよ!」

 

「そうなの。それは楽しみですね」

 

 そういうもその気持ちはラナーからは微塵も感じられない。

 

「そう! 私たちついに冒険者になったんだ! ついさっき冒険者組合に行って登録してきたの」

 

「リグリットさんと三人でパーティーメンバーを探した甲斐あって、私たち三人含めた六人パーティーでチームを組むことになったわ」

 

「チーム名は"蒼の薔薇"! みんなで話し合って考えたんだけど、中々ネーミングセンスある…よ…ね…? ってラナー? 私たちが内緒にしてたこと怒って…る…?」

 

 嬉しそうに話す二人とは対照的に、ラナーは微笑んでいるもののその目は笑っていなかった。むしろその笑みからはどことなく恐怖を感じられた。

 

(やはりこのことでしたか…)

 

 それはラナーの推測通り、危惧していたことだった。そもそも、セリと会うきっかけになったことは、セリの魔法の師匠となれるリグリットを紹介することだったのだが、ラナーは、セリがラキュースを仲間として迎え、ともに冒険者として世界を見て回ることを真の目的としていたということまでは読めていなかった。力を持ったとしても、例えば、王国の魔法への認識を高めるために使ったり、裏社会を牛耳ることだってできたはずだ。だが、セリの目的はそうではなかった。五年前、ラナーはその考えを理解できなかっただろう。だが、今ならわかる。

 

 セリはきっと魔法が好きなのだ。世界が好きなのだ。そしてそんな世界で貴族というしがらみを取り払って自由に生きていきたいのだ。そのラナーにも並ぶ優秀な頭脳でもっと多くのことを理解し、探求したいと思っているのだろう。ラキュースは、昔から英雄譚などの昔話が好きで、英雄に強い憧れを抱いていた。よくラナーにも冒険がしたいと話していた。どういった経緯でそれをセリが知ったのかは不明だが、一つ確かなのは、ここまでの展開を五年前からセリが計画していたということだ。

 

 しかし、ラナーはそれを認めたくはなかった。セリとラキュースの願いなら応援したいと思うが、冒険者とは常に命の危険がつきまとう職業だ。大切な親友である二人にもしものことがあったらと思うと、恐ろしくてたまらない。本当は自分が安全な空間を作り、そこで三人で永遠と暮らしていたいと思っている。外の世界など知らなくて良いから、自分だけで彼女らを独占してしまいたいという欲望に駆られている。

 

 だが、それでは己の目的のためだけに生きていた五年前から何も変わっていない。真の親友とはお互いを尊重し合い、思いやり、自分よがりにならないことが大切だと思っていた。故に、返答はもう決まっていた。

 

「怒ってなどいませんよ。二人がずっと望んでいたことですから。わたくしは応援します。二人ならすぐに王国を代表する冒険者になったくれるでしょう? ただ二つだけ私と約束してください」

 

 ラナーの話を聞いて、セリとラキュースはまずはホッとした。その後、顔を見合わせ、お互い困惑した顔をしていることを確認し合った。

 

「一つは、自分の命を一番大切にすることです。富や名声に気を取られず、危険な依頼は極力受けないようにしてください。二人にもしものことがあったら…なんて、考えたくありません。そして、二つ目は…

 

 ゴクリ…

 

 冒険者になってもわたくしとも遊んでください! 仲良くしてください! 二人だけ仲良くしてるなんてずるいです! 仲間外れは嫌です!」

 

 ラナーは思い切って自分の本音を言ったが、恥ずかしくなり、目を瞑り二人の反応を待った。しかし、いつまで経っても室内は静寂に包まれたままだ。そこで、おそるおそる目をゆっくりと開けてみると、セリとラキュースはいまだ何も言わず、俯いていた。よく見ると小刻みに震えている。ラナーは、自分のわがままに呆れ、怒りに震えているのだろうかもしれないと思った。

 

「あ、あのっ! すみません! やっぱりわがままですよね…。二つ目は聞かなかったことにしてください!」

 

 ドン!! 

 

「ひんっ!!」

 

 ずっと沈黙を保っていたラキュースは、突然机を叩いて立ち上がった。その音と、ワナワナと震えるラキュースにラナーは短く悲鳴をあげる。セリも同じく怒り心頭といった感じだ。

 

「ラキュース!? 二人ともごめんなさい、そこまで怒るとは思っていなくて。もうこんなこと言わないから許してくれませんか?」

 

「ラナー!」

 

「はいっ!」

 

「どうしてそんなこというのよ! 私たちは友達でしょ? 冒険者になったからといって私たちが友達なのには変わらないでしょ?」

 

「はい…」

 

「なら、私たちがラナーだけ仲間外れにするはずないじゃない。私たちもあなたとこれからも仲良くしていきたいわ」

 

「!?」

 

「そうだよラナー! なに当たり前のこと言ってるの! それが"友達"ってやつでしょ!!」

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

 ラナーの頰から一筋の涙が伝う。胸が言葉で言い表せない気持ちで熱くなるのを感じた。そんなラナーを2人は優しく抱きしめてくれた。

 

「ラナーったらそんなに心配だったのかしら?」

 

 ラキュースの胸の中でラナーは呼吸を整え、やはり、二人を危険な冒険に行かせたくないと思う。しかし、二人は自分の親友であり、駒ではない。

 

「ありがとうございます。わたくしもラキュースとセリを応援します」

 

 二人は嬉しそうに微笑み合うと、再びラナーを抱きしめた。

 

「私たちずっと一緒だよ!」

 

「えぇ、そうね。約束するわ。だからラナー、安心して」

 

 三人は強く抱き合い、互いの指を絡ませて約束を交わした。

 その後、近況について話し合った後、セリとラキュースは組合に用事があったため、少し早めにお開きとなった。

 

「ラナー様、紅茶をお持ちいたしました」

 

「ありがとうございます。机に置いておいてください」

 

 ラナーは、ラキュースとセリとの約束を思い返し、笑みをこぼす。そして、自分も二人のためにやるべきことをしようと誓う。

 

「まずは、王国の改革から行わなければなりませんね…」

 

 王国には問題が山積みだ。このままでは、じきに他国に飲み込まれてしまうだろう。しかし今、本来あり得なかったはずの王国の明るい未来への道は、小さな黄金によって開かれたのかもしれない。

 

 そして、この日から二年。王国に二組目のアダマンタイト級冒険者チームが誕生する。

 そのチームの名は「蒼の薔薇」

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