キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話   作:としぞう

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第12話 後の祭り

 ……ここからは後日談。というか、一時間後の話。

 二人でシングルベッドに、顔を合わせず背中を向けながら、寝転がる。

 

「俺、なんか変なこと言わなかった……?」

「あ、あたしも……絶対変なこと言った……」

 

 それは百点満点の恥ずかしさからくるものだ。

 正直なところ、恥も何もかも、いちかには全部知られている気がする。家族くらい、家族以上に、ずっと一緒にいて、秘密を共有して……まさか今更、またこんな感じになるなんて思っていなかった。

 

 キスの熱に浮かされて、俺は何か、とてつもなく変なことを言った気がする。それはもう覚えていない。いちかが何か言ってたけれど、それも覚えていない。

 ただ……ただ、妙な恥ずかしさ、気まずさだけがあった。

 

 いちかの顔を直視できないくらいに。

 

「なんか、暑い」

 

 背中越しに、布が擦れる音が聞こえ……ぱさっと、何かが床に落ちた。

 

「こっち見たら、ビンタするから」

「見ねーよ」

「……しょーちゃんも、暑いでしょ」

「………………だな」

 

 俺は彼女にならい、アンダーウェアを脱ぎ、同じく床の方へと投げる。

 布一枚なくなっただけで、肌に触れる空気が気持ちよく感じる。

 

 そして再びベッドに寝転び……すぐに、いちかが背中をくっつけてきた。

 汗を掻いた肌が、いちかのそれとくっつく。暑いから脱いだのに、いちかの体温のせいで全然涼しくならない。……まぁ、嫌な感じではないのだけど。

 

 肌と肌が触れ、一部、固い布が触れる。おそらく、いちかのブラジャーだ。

 最後に彼女の裸を見たとき……まぁ、小学生の頃、一緒に風呂に入っていた頃まで遡るが、その時は彼女はまだそんなものをつけてはいなかった。

 

 いちかの胸が今の、男子達の視線を釘付けにして誘惑する、そんな豊満なサイズに育ったのは、中学に入って以降のことだ。

 もちろん、制服、洋服越しにはその膨らみを見たことがある。キスの時に触れることだって多い。

 

 だから、どうだって話じゃない。そう。決して。

 

「んぅ……」

 

 そんなことを考えていると、いちかが背中を擦りつけてきた。

 意図は分からないけれど、より一層、熱が伝わってくる感じがした。

 

「……悪かったな」

「え?」

 

 お互いの衝動が落ち着き、冷静になった今……不意に自分の口から謝罪が溢れた。

「いや……キス禁止とか言って、自分が我慢できなくなってたら世話無いなってさ」

「ふふっ、たしかに」

 

 いちかがクスッと笑う。

 

「ほんと。どーかしてるよ、しょーちゃんは。あたしはもちろん、しょーちゃんだって我慢できる筈ないって、あたし言ってたでしょ」

「うん、お前が正しかった」

「じゃあ……結婚する?」

「ぶっ!」

 

 話のあまりの飛躍っぷりに、吹き出してしまう。

 確かにそんな話をしたけども!

 

「それがずっと一緒にいられる確実な方法だって、しょーちゃんだって分かってるでしょ」

「……そうかもしんないけど」

「ふつう、こういう話って男の子からするもんなんじゃないの? 女子に言わせるなんて、サイテー」

「そもそも動機が普通じゃないし……ていうか、お前だって本気で言ってるわけじゃないだろ」

「ふふっ、まーね。しょーちゃんは家族みたいに思ってるけど、お母さんにとってのお父さんって感じになるイメージはこれっぽっちもないなぁ」

 

 今は間違いなく、たった三日で限界がくるくらい、俺達は互いを必要としている。子どもの頃に掛け合った、習慣という呪いのおかげで。

 けれどやっぱり、未来の話は分からない。どちらかが、どちらかの代わりを、より健全で正しく手に入れる可能性は否定できるものじゃない。

 でも……。

 

「大学は、一緒の所にしてもいいかもな」

「えっ、一緒に住むってこと?」

「それは保留」

 

 今日分かった。これは薬であり毒だ。

 俺にとっていちかとのキスは必要なもの。日々の暮らしを人並みに保つための精神安定剤と言ってもそう的外れじゃない。

 

 けれど同時に、彼女が側にいればどうしようもなく求めてしまう。

 時間を忘れ……バカみたいに。

 一つ屋根の下、親の目も無い。そんな状況になったら、最低限の寝食を除き、ずっとキスを求めてしまう可能性だってある。

 

 そして、いちかもそれを撥ね除けないだろう。むしろ彼女の方から求めてきて、俺は撥ね除けられる自信がない。

 

 これがもしも恋人という関係なら、それでもいいのかもしれないけれど。

 たとえ互いに互いを求めようと、側にいなければ不安に心を押しつぶされようと、俺たちはどうしようもなく、幼馴染みなままだった。

 

 

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