「勉強……両立できる形を考えないとな」
「うん」
とりあえず目下の所はやはり期末テストだ。
不戦の約定はあっけなく崩壊し、こうなればもう共存を目指すしかない。
テスト勉強をする、キスもする。どちらも譲れば、待つのは破滅だ。大げさだけど。
「問題はさぁ、キスってお互いの口をくっつけないとできないことだよね~」
「わかる。キスしながら教科書見たりとかできないもんな」
キスしている最中はキス以外のことは大体できない。一人でもできない。この行為、欠陥多過ぎでは?
「あーあ、せめて興味持ったのが、おっぱい揉むとかだったらな~」
「どんな後悔だよ」
「だっておっぱい揉みながらだったら、勉強だってできるじゃん」
仮に、いちかがそれにハマってたとして、今の感じを見ているとやっぱり勉強どころじゃなかったと思うけどな。
一人でできる分、むしろ今以上に気を取られていたかもしれない。
「そうだ、いちか。ポモドーロタイマーって知ってるか?」
「ポモドーロ? パスタのソース的な?」
「それは……いや、それもポモドーロか。よくわかんないけど、それとは別物」
ポモドーロタイマー。
なんか、どっかの学者さんが提唱したとかなんとかな、作業ルーティンみたいな話だったと思う。
例えば、タイマーを25分に設定し作業を行う。タイマーが鳴ったら5分ほど休憩を取る。それが終わったらまた25分作業する。それを何度か繰り返し、5回に1回くらいのペースで20~30分程度の長い休憩を取る。
「そうすると、短期集中がしっかりできて、余計な雑念も入らず、効率的に勉強とかできるんだってさ」
「…………? んで、それがどしたん? 知識マウント?」
「察し悪いな。これを導入してみるのはどうかなと」
「んー……? つまり、25分間キスして、5分勉強を繰り返す、みたいな?」
「逆だ、逆!」
それほぼキスしかしてないじゃん! いつも通りじゃん!
「25分勉強して、5分休憩、ないしはキスの時間を取る。そうすりゃ、上手いこと両立できるんじゃないかってさ」
「えーっ、キスの比率少なくない?」
「そこは調整しても良いけど……ていうか、そもそもは勉強が優先だからな。テスト、お前だって勉強しなきゃまずいだろ」
「そーだけどさー……まあ確かに、一昨日からずっと全然勉強手につかなかったし、たまにでもキスできるならその方がいっかぁ」
「さすがのいちかでも、25分くらい我慢できるだろ」
「そりゃあ、学校では我慢ばかりですしぃ~。それくらいの我慢、全然余裕ですがぁ?」
いちかが煽るような声を出し、背中でこちらを押してくる。
言ってくれる。俺よりずっと我慢できないくせに。
学校でだって、我慢期間じゃなくてもたまにヤバイ目してるくせに。
「じゃあそういうことで」
「きゃっ!?」
俺が話を終え起き上がると、それに反応していちかが咄嗟に布団を被った。
裸――というか下着姿を見られないために警戒しているんだろうけれど、別に見ないし。
「って、お前はガン見だなっ!?」
いちかは布団を鼻の辺りまで被り、しかし目から上は外に出して、じいいっと俺の体を見てきていた。
アンダーウェアを脱ぎ捨て、何も着ていない素肌を、まじまじと観察してきている。
「……お前さぁ」
「ぐへへ、意外とあんさん、いいからだしとるのぉ~」
「変態かよ」
「筋肉むきむきやないのぉ~」
「ムキムキじゃねぇよ」
普通だ普通。
筋トレも運動も必要以上にしていなければ、暴飲暴食もしていない。
そんな、非常に平均的な体だと自負している。
「……ちょっと触っていい?」
「なんで!?」
「だって気になるじゃん! しょーちゃんと同じ! 男の子が女の子のおっぱいが気になるように、女の子も男の子の筋肉が気になるのです! 別にしょーちゃんだからとかじゃないからね!? 勘違いしてんじゃないよ、このおバカ!」
「どうして俺が責められてるんだ……?」
「いーじゃん。別に減るもんじゃなしに」
「その理屈なら、俺もお前のおっぱいを触らせてもらうってなるけどいいのか?」
「それは駄目」
すげなく否定される。我が儘すぎでは?
「だっておっぱいは減るもん」
「え、減るの!?」
「減るよ。だっておっぱいって脂肪でしょ? 脂肪って運動すると消費されるんだよ。だから触られるとその分脂肪が燃焼されて減っちゃうの。……たぶんね」
「そうなんだ……知らなかった……」
恐るべしおっぱいの秘密。てっきり揉まれたらその分だけ大きくなるものだと思っていた。なんか、漫画とかでそんな話読んだことあるし。
これ、義務教育でしっかり教えておくべきでは……?
「おっぱいの大きさと、きゅっとしたくびれの両立――あたしのこの芸術的おっぱいを、しょーちゃんなんかに触らせて縮ませたとなっては世界中のいちかちゃんファンがガッカリするからね」
「お前も努力してるんだなぁ」
「え? 努力はしてないよ。自然とこうなっただけ」
「してないのかよ!?」
「だからいいんじゃない。天然物だから価値があるの。正しく、奇跡的って言えるでしょ」
と、俺の布団に完全に隠した肢体を誇るいちか。
ちょっとムカつくけれど、そういうことなら仕方ない。
「じゃあ、未来の男のために大事に取っておかなきゃな」
「うんうんっ」
「そんじゃ、俺はトイレついでに廊下で着替えてくるから。お前もその間にちゃんと服着とけよ」
「えっ、筋肉……」
「確かに筋肉は触られても減らないかもしれないけど、ただ施すだけじゃ幼馴染みの堕落を促してしまう恐れがあるので却下します」
「そんなァ!?」
どうやら本気で触れると期待していたらしい。
なるほど、男の筋肉にそれほどの価値があったとは……いや、でもまだ分からない。
こればっかりはいちかの性癖なだけかもしれないしな。頭の片隅に、そういう人もいる程度に収めておこう。