キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話   作:としぞう

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第15話 『男の子』

 そうして、次の25分が始まる。

 

「ん~、これあたしにすごく合ってるかも。勉強はしなきゃいけない。しょーちゃんとキスもしたい。その需要を完璧に満たしてくれる! 神アイディアだよ、しょーちゃん!」

「さいでっか……」

 

 心なしかツヤッツヤになったいちかの感想を聞きつつ、俺はため息を吐く。

 俺としては25分の勉強の合間にハードな運動を一つ挟んだ気分だ。

 

 キスは好きだけれど、普通に疲れもするし……そりゃあ、我慢した後のは無尽蔵って感じだったけれど、今はその衝動も落ち着いてしまっている。

 いちかはいつ、どんなときでもキスをすれば体力回復できるアビリティ持ちなので、全然元気そうだけれど……羨ましい。

 

「あ、そーだ。ねえ、しょーちゃん、ちょっと前いい?」

「なにが。ていうか、勉強」

「やってるやってる。ほら、手ぇどけて~」

 

 いちかが単語帳を見せびらかしつつ、前を開けるよう促してくる。

 仕方なくそれに従うと……いちかは、まるで俺を座椅子代わりにするように、あぐらを掻いた股の上に座ってきた。

 

「これでよしっ」

「……なにやってんだ」

「キスしてるときさ、あたしら抱きしめあってんじゃん?」

「ああ」

「あれ、結構苦しくて好きなんだよね~」

 

 こいつ、けっこうマゾ気質だよなぁ……。

 

「だから、勉強してるときも、こうやってくっついてたら落ち着くかな~って。そんな実験! べつに、抱き枕みたいにぎゅーってしてくれてもいいよ?」

「前見づらいんだけど……」

「あたしは見えてるから問題なし子ちゃんっ」

 

 俺は見づらいから問題ある夫くんなんだが?

 

「なんか、こうしてると昔を思い出すよね」

「そうか? ……ああ、確かに、無駄にくっついてた記憶があるにはあるな」

「小学校の低学年くらいだったよね、たしか。あの時はまだ、唇くっつけるキスしか知らなかったよねぇ」

 

 そう、舌を入れるキス……通称ディープキスとかフレンチキスとかそう呼ばれるそれを偶然発見したのは小学五年生の頃だった。

 その時にはキスにも慣れて、キスしながら普通に喋ってて、うっかり舌を入れたのが始まりだ。

 それこそ、全身に電撃が走るような、すさまじい体験だったと……はっきり覚えています。そう、はっきりと。

 

「なんか……冷静に考えたら変だよね」

「なにが」

「あたしたち、付き合ってないの」

「今更っ!?」

 

 付き合ってないのにキスをする。

 それが世間的に見たら異常だよねっていうのが本作のテーマなんですが!?

 

「もしも付き合ってたらさぁ。こんな状況、ひゃくぱーおっぱい揉まれちゃうよね」

「またおっぱいの話かよ」

「だって、そーじゃん。今ノーブラだし」

「マジで!?」

「うそ」

「…………」

 

 いやさぁ……Tシャツ着てるから分かんないじゃん……透けないから……。

 

「でも、こんな風にくっついてたらおっぱい揉まれちゃって、キスもいっぱいして、あたしも…………あれ?」

「あれ、とは」

「しゅーちゃん……さっきトイレ行くって言ってたよね」

「ん、ああ……」

「その時さぁ……………………した?」

「した、とは」

「そのぉ……おひとりで」

「………………………………はあっ!?」

 

 しゅしゅっと、一瞬だけとあるモーションを見せるいちか。

 それはまるで……というか完全に、男が日常的にやるとある行動を示していた。

 それを、幼馴染みに指摘されるなんて……ものすごい屈辱だ! 顔が爆発しそうだ!

 

「いきなり何言ってんだ、お前!?」

「だってさぁ。さっき、キスしたとき…………アレ、硬くしてたじゃん」

「なぁ……!?」

 

 き、気付かれてたのか……!?

 確かに、そう。それを言われちゃあ、事実なので否定できないけれど……。

 

「いやぁ、無視すべきだと思ったし、実際そうしたんだけど……なんか、指摘しないのも違うかなって思って言っちゃった。てへっ」

「違わねぇよ!? 一度引っ込めたんだから言うなよぉ!」

 

 それは決して開けてはならないパンドラの箱だ。

 なぜなら、我が『男の子』が臨戦態勢になってしまったという事実は、おそらく女子の目から見ればそういうこと。

 事実、指摘してきたいちかだってどこか気まずげだ。気まずげに目を逸らし、頬は少し赤らんでいる。いや、なんでだよとツッコミたい気持ちも若干あるけれど。

 

「しゅーちゃんさぁ……まさかだけど、あたしに、その……」

「違う。それは断じて違う」

「断じて!? そこまではっきり言う!?」

 

 言わねばならんのだ……男には言わねばならん時がある!

 

「これは……生理現象みたいなもので、お前にどうこうって話じゃないんだよ」

「……と、言いますと?」

「まず前提として、キスは気持ちいい。どうしようもなく、これは事実だ」

「うん」

 

 いちかも余計なツッコミは入れてこない。

 キスが気持ちいいというのは紛れもない事実であり、議論の余地など全く無いからだ。

 

「そして……男とは気持ちいいと、元気になるものなんだ!」

「そうなの!? 気持ちいいだけで……じゃあ、マッサージとかされても?」

「ああ」

 

 はっきりと頷いておく。

 まぁ、マッサージとか軽く肩を揉まれるくらいしかされたことないからあんま知らんけど。

 

「……でもさ、しょーちゃん」

「ん」

「普段は硬くなってなくない?」

 

 ……そう来るか。そう来るよな、やっぱり。

 

 そう。いちかの言うとおり……いや、違うな。

 いちかが疑問を抱いたとおり、これまで一度も、いちかに『男の子』について指摘されたことはない。

 

 しかし、それはこれまで『男の子』が起きなかったからじゃない。

 むしろその逆……いちかの指摘は全く間違っている。

 

 我が『男の子』は毎回、しっかりと臨戦態勢を取っていたッ!!

 

 しかし、気付かれなかったのは……それは俺の事前努力があったからだ。

 

「……言わなきゃだめ?」

「だめ。気になって夜も眠れなくなるから」

 

 そんなに気にしてあげないでほしい。いや、マジで。

 しかし、いちかがその気なら……観念するしかないか。

 

 俺は溜め息を飲み込みつつ、観念して肩を落とした。

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