キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話   作:としぞう

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第16話 男の子の話

「まるで恥部を晒すみたいで嫌なんだが……恥部だけに」

「うるさい」

「ごめん」

 

 怒られるに足るしょうもない冗談を言ってしまった。

 軌道修正、軌道修正っと。

 

「普段は…………履いてるからな」

「履いてる? ……って、パンツのこと? は!? 今日ノーパンだったの!?」

「当たらずとも遠からず……」

「ど、どどど、どういうこと!?」

 

 いちかが警戒を露わにし、俺の膝の上からシュバッと離れる。

 いやむしろ、今の今まで離れなかったのが不思議だよ。俺は加害者(言い得て妙)ながらそう思った。

 

「パンツの下にな、もう一枚履いてるんだ」

「もう一枚……?」

「お前も知ってるだろ。プールとかで海パンを履くときにさ、股間が浮き出ないようにもう一枚サポーターってのを履いて、膨らみを押さえつけるみたいな話」

「いや、知らないし。知ってるだろって知らないし」

「そういうのをな、ちゃんと履いてるんだよ。普段は」

 

 そう、これが俺の隠していた秘密。

 もちろん、…………もちろん? キスをすれば、俺の『男の子』は戦闘準備をしっかり整えてしまう。遠足の前日バリに張り切ってしまう。

 これはもうしょうがない。梅干しを見れば唾液が出る、みたいな話で、なんかもう、どうしようもない話なのだ。

 

 しかし、思春期の芽生えと共に「いちかにバレたら恥ずかしい」と気がついた俺は、研究の末に日常使いにベストなサポーターを選び抜き、しっかりと押さえつけることによって事なきを得ていた! ちょっと痛いけど!!

 

「え……なんでそんなことわざわざ……」

「いや、バレたら普通に恥ずいし。お前も引くだろ」

「うん。引く」

「だからだよ」

 

 はい、おしまい。話もおしまい。俺の威厳(元からあったかは不明)もおしまい。

 いくら幼馴染み相手でもこんな話はきつい。というか仮に男子相手でもこんな話はきつい。

 

 俺は心の中でしっかり涙を流しつつ、それでも平然とした顔を保っていた。だって泣いたら本当に何も残らないもん。

 

「なにそれ………………」

 

 いちかも絶句している。

 もしかしたら、俺をキモがってもうキスなんかしないと言い出すかもしれない。

 それは…………ちょっと嫌だな。頻度が多いとは思いつつも、俺もいちかとキスがしたいって分からされた直後だし……。

 

「しょーちゃん……」

「……はい」

「…………………………なんか、カッコいいじゃん」

「はぁ?」

 

 いちかの口から出た感想に、俺は思わず「こいつ頭おかしいんか?」と思ってしまった。

 いや、だって、意味が分からないし!

 なんなのこいつ!? 全肯定系幼馴染みなの!?

 

「だって、それって、キスの最中に元気にしちゃって、あたしが遠慮しないように……気を遣ってくれてたってことでしょ?」

「……んん?」

 

 照れくさそうに頭を掻きつつ、どこか嬉しそうに笑ういちか。

 いや、何を言っているんだ? 恥ずかしいからって言ったよね?

 なのに、それがいちかのため……?

 

「しょーちゃん、気遣いの鬼だもんね。そういうとこ、女の子に知ってもらえたらきっともっとモテると思うのになぁ」

 

 いや、幼馴染み相手に元気になるからそれを隠すためにサポーターを毎日履いてますなんて絶対引かれるだろ。

 

「えへへ、そっかぁ。そういうことかぁ」

 

 いちかは噛み締めるように呟きつつ、四つん這いにこちらに戻ってきて……また俺の股の上に座った。ホワイ?

 

「謎が解けたら安心しちゃった」

「問題は何も解決してないんだが!?」

「あ、そうだよ。一つ忘れてた」

「お……おう?」

「じゃあなんでさっきはそのサポーターっていうの、履いてなかったの?」

 

 ぐいぐい来ますねぇ、お前!?

 そんなに詳らかに探りたいか、俺のやや子事情!?

 

「そりゃあ……キス断してたろ。キスしないなら履かなくてもいいじゃんか」

「あー……なるほどね」

 

 いちかは納得したように頷き……いや、なぜか不機嫌そうに唇を尖らしている。ホワイ?

 

「しょーちゃんは本気で、あたしとする気なかったんだ」

「そりゃあ、そうだろ……」

「ふ~~~~ん」

 

 いちかはやはり不機嫌そうに、こちらを責めるようにねちっこく言った後、そっぽを向いてしまった。

 なぜか、耳を赤くし、足をもじもじさせながら。

 

「……あたしは毎日、ちゃんと準備してたのに」

「………………準備?」

「はっ!?」

 

 しまった、といちかが声を上げる。

 準備ってなんだ? 女子にも何か、バレたら不都合な現象が起こるって意味か……?

 

――ピピピッ。

 

「あっ!」

 

 なんて話しているとセットしていたポモドーロタイマーが鳴った。

 二セット目にして、25分、全く勉強しなかった……!?

 

「……しょーちゃん」

 

 いちかが身を捻り、座ったままこちらと振り返ってくる。

 その顔は、耳の色同様真っ赤に染まっていた。

 

「……しよ」

「い、いや、でも勉強……」

「うっさい。するぞ!」

 

 いちかは俺の膝に座ったまま、体をひねった苦しそうな体勢で、それでもキスを求めてくる。

 俺はその勢いに圧され、少し前傾になりつつ唇を重ねた。

 

「ん、ちゅ、れろぉ……!」

 

 いちかはすぐに舌までいれてくる。苦しそうだけれど……きっと、見た目ほどではないんだろう。

 

「ちゅぱっ……ねえ、しょーちゃん」

「なんだよ」

「興奮、してる?」

「…………」

 

 ふざけんな、バカ。

 調子に乗るな。

 からかうならもうやめるぞ。

 そう言ってやりたかったけれど、軽口で流すには、いちかの目はあまりに真剣で……ほんの少し、沈黙が流れる。

 

「……ああ」

 

 俺は頷くしかできなかった。他の何を言ってもどうせ嘘になる。そしてその嘘は、多分いちかに見破られる。

 どうせ見破られるなら、正直に言ってしまった方が精神衛生上良いからな。

 

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