「まるで恥部を晒すみたいで嫌なんだが……恥部だけに」
「うるさい」
「ごめん」
怒られるに足るしょうもない冗談を言ってしまった。
軌道修正、軌道修正っと。
「普段は…………履いてるからな」
「履いてる? ……って、パンツのこと? は!? 今日ノーパンだったの!?」
「当たらずとも遠からず……」
「ど、どどど、どういうこと!?」
いちかが警戒を露わにし、俺の膝の上からシュバッと離れる。
いやむしろ、今の今まで離れなかったのが不思議だよ。俺は加害者(言い得て妙)ながらそう思った。
「パンツの下にな、もう一枚履いてるんだ」
「もう一枚……?」
「お前も知ってるだろ。プールとかで海パンを履くときにさ、股間が浮き出ないようにもう一枚サポーターってのを履いて、膨らみを押さえつけるみたいな話」
「いや、知らないし。知ってるだろって知らないし」
「そういうのをな、ちゃんと履いてるんだよ。普段は」
そう、これが俺の隠していた秘密。
もちろん、…………もちろん? キスをすれば、俺の『男の子』は戦闘準備をしっかり整えてしまう。遠足の前日バリに張り切ってしまう。
これはもうしょうがない。梅干しを見れば唾液が出る、みたいな話で、なんかもう、どうしようもない話なのだ。
しかし、思春期の芽生えと共に「いちかにバレたら恥ずかしい」と気がついた俺は、研究の末に日常使いにベストなサポーターを選び抜き、しっかりと押さえつけることによって事なきを得ていた! ちょっと痛いけど!!
「え……なんでそんなことわざわざ……」
「いや、バレたら普通に恥ずいし。お前も引くだろ」
「うん。引く」
「だからだよ」
はい、おしまい。話もおしまい。俺の威厳(元からあったかは不明)もおしまい。
いくら幼馴染み相手でもこんな話はきつい。というか仮に男子相手でもこんな話はきつい。
俺は心の中でしっかり涙を流しつつ、それでも平然とした顔を保っていた。だって泣いたら本当に何も残らないもん。
「なにそれ………………」
いちかも絶句している。
もしかしたら、俺をキモがってもうキスなんかしないと言い出すかもしれない。
それは…………ちょっと嫌だな。頻度が多いとは思いつつも、俺もいちかとキスがしたいって分からされた直後だし……。
「しょーちゃん……」
「……はい」
「…………………………なんか、カッコいいじゃん」
「はぁ?」
いちかの口から出た感想に、俺は思わず「こいつ頭おかしいんか?」と思ってしまった。
いや、だって、意味が分からないし!
なんなのこいつ!? 全肯定系幼馴染みなの!?
「だって、それって、キスの最中に元気にしちゃって、あたしが遠慮しないように……気を遣ってくれてたってことでしょ?」
「……んん?」
照れくさそうに頭を掻きつつ、どこか嬉しそうに笑ういちか。
いや、何を言っているんだ? 恥ずかしいからって言ったよね?
なのに、それがいちかのため……?
「しょーちゃん、気遣いの鬼だもんね。そういうとこ、女の子に知ってもらえたらきっともっとモテると思うのになぁ」
いや、幼馴染み相手に元気になるからそれを隠すためにサポーターを毎日履いてますなんて絶対引かれるだろ。
「えへへ、そっかぁ。そういうことかぁ」
いちかは噛み締めるように呟きつつ、四つん這いにこちらに戻ってきて……また俺の股の上に座った。ホワイ?
「謎が解けたら安心しちゃった」
「問題は何も解決してないんだが!?」
「あ、そうだよ。一つ忘れてた」
「お……おう?」
「じゃあなんでさっきはそのサポーターっていうの、履いてなかったの?」
ぐいぐい来ますねぇ、お前!?
そんなに詳らかに探りたいか、俺のやや子事情!?
「そりゃあ……キス断してたろ。キスしないなら履かなくてもいいじゃんか」
「あー……なるほどね」
いちかは納得したように頷き……いや、なぜか不機嫌そうに唇を尖らしている。ホワイ?
「しょーちゃんは本気で、あたしとする気なかったんだ」
「そりゃあ、そうだろ……」
「ふ~~~~ん」
いちかはやはり不機嫌そうに、こちらを責めるようにねちっこく言った後、そっぽを向いてしまった。
なぜか、耳を赤くし、足をもじもじさせながら。
「……あたしは毎日、ちゃんと準備してたのに」
「………………準備?」
「はっ!?」
しまった、といちかが声を上げる。
準備ってなんだ? 女子にも何か、バレたら不都合な現象が起こるって意味か……?
――ピピピッ。
「あっ!」
なんて話しているとセットしていたポモドーロタイマーが鳴った。
二セット目にして、25分、全く勉強しなかった……!?
「……しょーちゃん」
いちかが身を捻り、座ったままこちらと振り返ってくる。
その顔は、耳の色同様真っ赤に染まっていた。
「……しよ」
「い、いや、でも勉強……」
「うっさい。するぞ!」
いちかは俺の膝に座ったまま、体をひねった苦しそうな体勢で、それでもキスを求めてくる。
俺はその勢いに圧され、少し前傾になりつつ唇を重ねた。
「ん、ちゅ、れろぉ……!」
いちかはすぐに舌までいれてくる。苦しそうだけれど……きっと、見た目ほどではないんだろう。
「ちゅぱっ……ねえ、しょーちゃん」
「なんだよ」
「興奮、してる?」
「…………」
ふざけんな、バカ。
調子に乗るな。
からかうならもうやめるぞ。
そう言ってやりたかったけれど、軽口で流すには、いちかの目はあまりに真剣で……ほんの少し、沈黙が流れる。
「……ああ」
俺は頷くしかできなかった。他の何を言ってもどうせ嘘になる。そしてその嘘は、多分いちかに見破られる。
どうせ見破られるなら、正直に言ってしまった方が精神衛生上良いからな。