キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話   作:としぞう

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第2話 幼馴染みとのキス

 ファーストキスは、小学校に入る前に済ませた。

 相手は当然、阪内いちかだ。

 

 お互いキスの意味もろくに知らず、なにかで見たか、なにかで影響を受けたか、なんとなくのノリで唇を合わせた……そんな感じだったか。

 もちろん子どものする、微笑ましいおままごとみたいな話だ。普通はファーストキスにカウントしないのかもしれない。

 

 でも、たとえおままごとであっても、それがファーストキスだというのは紛れもない事実だった。

 

「ん、ちゅ、れろぉ……」

 

 玄関から、俺の部屋に場所を移した。

 でも、どれくらい玄関でして、どれくらいかけて二階の俺の部屋まで移動したのかは分かっていない。

 ただ、いちかがだだを捏ねる子どものように、一切唇を放そうとしなかったのは確か……というか、いつも通りだな。

 

 思えば、初めてキスをしたあの頃からずっとそうだった。

 

――ねえ、しょーちゃん。またあれやろっ。

 

 小学校に入ってからも、毎日お互いの家を行き来する関係。

 普通におしゃべりしたり、一緒に勉強したり、テレビを見たり、ゲームをやったり……それでも、タイミングを見計らって、いちかはそうねだってきた。

 

 彼女にも、当然俺にも、「この行為は誰かにバレてはいけない」という感覚はあったはずだ。

 

 それはキスという行為の存在を知った際に一緒についてきたものだったかもしれないし、「これほど気持ちよく心地よい素晴らしい行為」を誰もおおっぴらに行っていないという事実から、こっそり隠れてするものだと察したのかもしれない。

 今となってみれば、遠い昔の出来事であり、その時の心情なんて全く覚えちゃいないのだけど。

 

 ただ、そうやって、お互いの部屋で、トイレで、お風呂で、時にはお互いの親が歓談しているリビングと扉一枚挟んだだけの廊下で、互いの口を貪り合っていた。

 

 もちろん俺もこの行為が好きだったけれど……正直比べるまでもなく、俺より遙かにいちかの方がハマっていたのは確かだ。

 

 俺はせいぜい週に一度……いや、二度くらいできればいいなと思うところ。

 しかし、いちかは毎日しないと気が済まなかった。小学校の年次が上がるたび、六時間目まで授業のある日が増えるごとに、早くキスしたいとイライラを見せるようになった。

 

 それでも普段、誰にもバレないよう互いの家でするようにはしている。ただ、時々我慢しきれない彼女に引っ張られて学校内でやったことも稀に、いや、しばしばあった。

 学校とかで、俺から誘ったことはない……なかった、はず。

 

「……しょーちゃん」

「え?」

 

 突然、両頬を手で挟まれた。

 そうしてきたのは、俺の上に跨がって見下ろしてくるいちかだ。

 

「何考え事してんの。ベロ、止まってたけど」

「あ、いや……」

「別の女のこと?」

 

 じとーっと見下ろしてくるいちか。

 杉内は彼女を「優しい」と言っていたし、世間の評価はそれで間違いないのだけれど……こうして我が儘な顔を、俺の前だと遠慮無く見せてくる。

 

「べつにしょーちゃんが誰を好きになろうがあたしには関係ないけど、ベロはちゃんと動かしてよね」

「そんな、口じゃなく手を動かせみたいな言い方」

「だって、しょーちゃんにやってもらった方があたしは気持ちいいもん。あたしばっか動かして、しょーちゃんだけ気持ちよくなるなんてズルくない?」

「それは…………ごめんなさい」

「分かればよろしい。じゃっ、ポジションこーたい!」

 

 いちかはチャキっと笑みを浮かべ、俺の上から離れ、俺のベッドに寝転がった。

 俺といちかの身長は健全な高校一年生同士らしく、頭一つ分くらい離れている。俺が身長162cm、いちかが145って言ってたから、17cmくらい離れているのか。

 

 そんな彼女とキスをすれば、基本的に彼女が見上げる形になって、ずっとやってると首が痛くなるとかなんとか。

 そしてその痛みが嫌かといえばそうではないけれど……と前置きしつつ、俺との身長差が広がり始めてからは、俺に覆い被さられてするキスも割と好きとかなんとか言っていた。

 

「ほら、はやく~」

「わーってるよ」

 

 急かしてくる彼女に従い、ベッドの上に乗る。一人用の、小さい頃からずっと使っているベッドの、若干きしむ音が聞こえた。

 

「ねえ、ツバ垂らして」

 

 俺に跨がられると、いちかはにやっと楽しげに笑った。

 

「えー……」

「むっ、嫌そうな顔」

「そりゃだってさぁ……お前、外すと怒るじゃん」

「当たり前じゃん。ほっぺたとかについたら気持ち悪いし」

 

 ここでいう気持ち悪いは、感触がという意味で、俺の唾液自体をディスってるわけではない。じゃなきゃ飲みたいなんて言わないし。

 

「じゃあさ……んれぇ」

 

 いちかが大きく口を開き、舌を伸ばす。

 

「ほぉふへはひーへほ」

「はい?」

「察し悪いな~」

 

 こちらを小馬鹿にするようにため息を吐くいちか。

 

「だからあたしがベロを伸ばして、その先にしょーちゃんがベロをくっつけて、ベロからベロにツバを垂らしてくれたら外さないじゃん?」

「なるほど」

 

 つまり互いの舌を橋代わりに唾液を渡らせようという話らしい。

 

「頭良いでしょ」

「天才かと思った」

「ふふん。今日、授業中に思いついたんだよね~」

 

 どや顔を挟みつつ、再び舌を伸ばしてくる。

 よそ見をした償いだ。ここは大人しく言われたとおりにしよう。

 

「はーやーくー」

「今作ってっから……よし」

 

 口の中の唾液を集め、自分の舌に乗せる。

 そして、待ち受けるいちかの舌先に自分の舌をくっつけて……慎重に唾液を垂らした。

 

「んれぁ……んぐっ。はぁ~……」

 

 いちかはしっかり唾液を待ち受け、喉を鳴らして飲み込む。

 

「あはぁ……いっぱい飲んじゃった」

「美味いのか?」

「んー………………味はあんまりしないけど、でも、しょーちゃんのツバを飲んでるっていうのがなんか……クセになるってゆーのかなぁ」

「よく分からん」

「あたしも。……まっ、いっか! ほら、続きしよっ」

 

 いちかはにやっと笑いつつ、俺の首に腕を回す。

 

「あっ、腕しんどかったら体重乗っけちゃっていいかんね?」

「重いだろ」

「それもまた……癖になる的な?」

「なんじゃそりゃ」

「そりゃはそりゃじゃ。ほらっ、んーっ」

 

 苦笑しつつ、ねだられるまま唇を合わせる。

 

「ちゅっ、んっ、ちゅぱっ、れろぉ……」

 

 待ちきれないとばかりに迎えてきたいちか。それに俺もしっかり反撃する。

 それが良かったのか、まるで犬が尻尾を振るみたいに、もっと勢いよく舌先をじゃれつかせてくる。

 

 そうして俺達は、家に二人きりなのをいいことに、そんな小競り合いを時間を忘れて楽しむのだった。

 

 

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