「はぁ……はぁ……はぁ……」
「わ、悪い。大丈夫か、いちか?」
「だい、じょぶ……」
アラームによって我に返り、彼女を離した瞬間、いちかはソファに突っ伏してしまった。
肩で息をし、荒い呼吸を繰り返しながら、耳まで真っ赤にしたその表情をソファで隠している。
「しょーちゃん、ほんっと上手くなったよね……キス……」
「そりゃあこれだけやってるんだ。お互い様だろ」
キスが上手くなったのか、それともいちかのツボを探すのが上手くなったのか……両方だろうか。
俺は気まずさを感じつつも、とりあえず体ごと逸らして彼女に背を向ける。
(指摘、しない方がいいよな……)
キスの最中、ふと気がついてしまった。
いちかの押しつけてくる胸に……その先っちょに、小さな変化が生まれていたことに。
それに気がついた瞬間、正直俺もやばくなって……律儀に大事な装備を置いてきた俺は、今、自分のそれを隠すために体ごとひねっていちかの視界に入らないようにしているのだけど。
でも……なるほど、俺のサポーターを取り去った対価とはよく言ったもんだ。
いちかも今までしっかり隠していたわけだ……自分の体の変化を。
だからって自らそれを晒すようなこと、我が幼馴染みながら律儀なヤツだと感心してしまう。
そうやって、体を反らしながらも顔では彼女を見てしまっていると……うつむいていたいちかが、視線だけこちらに向けてきた。
「……しょーちゃんのえっち。見過ぎっ」
「見てない」
「いや、今まさに見てんじゃん! ガン見じゃんっ! そういうの普通、気まずそーに目を逸らして言うもんだよ!?」
「見てない」
「だぁからぁ!」
抗議するように、ガバッと身を起こすいちか。
顔は真っ赤で、胸には…………明らかに、最初よりも浮いた『それ』が公明正大に主張していた。
「……今からでも、ブラ、付けてきた方がいいんじゃないか」
「~~~~っ! いいのっ、このままで!」
左腕を盾に、それを隠すいちか。いや、正直、見させられる俺もつらいものがありまして……。
「う~……覚えときなよ!? やられっぱなしじゃ済まさないんだから!」
「いや、お前からやれって言ったんじゃんか」
「とにかく、必ずリベンジするから! 覚悟してなよ、しょーちゃん!」
涙目のまま、空いた右手でびしっと俺を指さしてくるいちか。
そんな姿が可愛らしくて、俺はつい吹き出してしまった。
昼ご飯は適当に出前でも取って、と言われているらしい。
俺もいちかも料理はできない……というか、双方の母親がかなり料理好きでよく張り合っているので、出る幕が全く無いのだ。
そういうわけで、「勉強会といったらこれだよね~」といちかが選んだ昼ご飯は、ピザ。
何が勉強会といったらなのか分からないし、むしろ手がベタベタになって鬱陶しいとも思うけれど……ただ、ピザは十分好物と呼べる存在なので、文句は一切無い。
俺の分もとおじさんとおばさんが与えてくれた五千円の範囲で、メニュー表を睨み付けつつ、最後はいちかの独断と偏見で注文した。
そうして届いたのは――。
「シーフード祭りじゃん!」
えび、いか、貝……そしてカニ!
頼んだピザ二枚ともがシーフードと、まさにいちかの趣味全開となっていた。
そう、シーフードはいちかの大好物――。
「しょーちゃんも好きでしょ、シーフード」
「めっちゃ好き!」
そして俺の大好物でもある!
というか、ピザといったら肉よりシーフードな印象なんだよな。地中海らへんの空気がそう感じさせるのか。知らんけど。
正確にはピザはアメリカ風で、地中海風はピッツァとか呼ぶらしいとかはもっと知らんけど。
「えへっ、しょーちゃんも変わらないねぇ」
「大体、節目節目で同じもん食ってるからな」
俺といちかは食の好みも似通っている。
そういうところも家族って感じを強くさせる。
「来るまでどうしよっか?」
「……そうだなぁ」
てっきり「キスして待とっ!」とでも言われるかと思っていた。
まさか投げられるとは思ってなくて……でも、今キスして涎で口がべちゃべちゃになった状態で配達員さんを迎えるわけにもいかないし。
「雑にテレビでも見るか」
「雑に?」
「雑に」
そういうわけで言葉通り、休日昼間によくやってる、いつかのバラエティの再放送を雑に眺めながらピザの到着を待ち、そうして届いたピザを貪り喰らい、午後の勉強への英気を養うのであった。