キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話   作:としぞう

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第28話 デート

 ――じゃあ明日。午前十時に駅前集合っ!

 

 いちかはそう言い捨て、自分の家へと入っていった。

 明日の約束をしたということは……今日はもう会う気が無いということだろうか。

 

 そうなると、昨日から今日まで、ずっとキスをしていないことになる。

 俺でも口寂しく感じてくる時間だ。いちかは俺よりずっとキャパがないから、キス断みたいな縛りが無い今、普通に求めてくると思っていたけれど……。

 

(失恋の傷が、キスからの卒業を促した……とかかな)

 

 幼さから始まった習慣。おままごとの延長。

 互いの欲望をぶつけ合うだけのキスから、いちかが卒業しようというのなら……多分、褒めるべきことなんだろう。

 置いてかれた俺はしばらく眠れない夜を過ごすんだろうけど。

 

「ていうか、なんでわざわざ駅前で待ち合わせなんだ?」

 

 いちかと一緒にどこかに出かけることは珍しい話じゃない。

 ただ、家が隣同士ということもあり、どちらかが迎えに行くか、家の前で落ち合うか、大体そんな風に待ち合わせしている。

 

 休日の駅前なんて無駄に人は多いし、そもそも待ち合わせ時間より早く着くべきかどうかとか考えるのも面倒だし……普段通りにやった方がいいんだろうけどな。

 

「……まあ、何か目的でもあるんだろうけど」

 

 スマホを使って抗議しようと思ったけれど、やめた。

 そんなのも分からないのぉ? と笑われる気もするし、これだから非モテは……とバカにされる気もする。

 誘ってきたのはいちかだ。こういうとき誘われた側の俺は悠然と待ち構え、出された物に余裕を持って対応していくべき。それが大人というものだ。

 

 ◇

 

「あんまり眠れなかった……」

 

 一日明けて、現在午前九時。

 昨日、結局眠気に負けて帰ってすぐ寝てしまった。晩飯時には起き、そこから晩飯とか風呂とか色々やっていたらすっかり目が冴えてしまって……それからは一睡もできなかった。

 昼夜逆転。これじゃあ昨日の繰り返しだ。

 

 とはいえ、日が明けてから寝たって絶対時間までに起きれない。

 ちょうど良い感じに眠くなってきたのを感じつつ、俺は家を出た。

 だらだら歩いても三十分はかからない。約束には随分早く着いてしまうけれど、駅前のベンチにいればたとえうたた寝していたとしても、時間にやってきたいちかが起こしてくれるだろう。

 

 早く着いていたのなら当然遅刻の責めを負うことはない。

 俺は考え得る中で最高の選択を選んだと内心ほくそ笑んだ。

 そして、その完璧な計画は――。

 

「あれ? しょーちゃん?」

 

 まさかの、俺よりも早く着いていたいちかによって脆く打ち砕かれた。

 

「いちか……? まだ三十分以上前だぞ」

「そうだねぇ。正確には三十七分前」

 

 わざわざスマホで時間を確認しつつ、いちかが訂正してくる。

 いちかは……随分とこぎれいな格好をしていた。

 ふわっとしたクリーム色のワンピース。白いサンダル。

 どちらも汚れが目立つから、と本人は気に入りつつも『本当に大事な時にしか身につけない』と決めているものだ。

 

「えへへ……どうかな」

「よく似合ってる」

「……ありがと」

 

 当然、それは彼女にとって勝負服と言っても過言ではない。

 快活なイメージの強いいちかにしては大人しめな印象を感じさせるが、だからといってそれが似合わない筈もなく、文句なしに、身内びいきを抜きにしたって誰もが振り返るだろうと思えるくらいに似合っている。

 彼女の、答えを知っているという意味でかなりあざとい質問に、俺は迷うことなく頷く。

 どうして彼女が今日、こんな服装を選んだのかは分からないけれど……おかげで逆に、わざわざそんな質問をしてきた意図を考える余裕がなかった。

 

「しょーちゃんは、いつも通りだね」

 

 いちかが苦笑する。

 俺の今日の服装は、Tシャツにカーディガンを羽織り、ジーパンを履いた……そんないつも通りと言うほかない面白みのないものだった。

 

「お前がそんな格好してくるって知ってたら、タキシードでも着てきたさ」

「なぁに、ずいぶんキザなこと言うじゃん」

「キザ……かな。ドレスコードに合った服を着てくりゃ良かったって言いたかったんだ。そもそもどこに行くかも知らないわけだし」

「あははっ。それならだいじょーぶ。しょーちゃんにドレスコードなんて求めたら、制服とか着てきそうだし」

 

 なにを言う。学校の制服は結婚式にも葬式にも着ていけるドレスコード・カーストにおいて最上位に位置する存在だぞ。

 まぁ、彼女の言うとおり、俺にそれと並ぶ洋服コレクションは無いんだけどな。当然、勝負服と呼ぶような気合いの入ったものも、当然ない。

 

「あたしがこの服を選んだのは……しょーちゃんが確実に似合ってるって言ってくれるって知ってたから」

 

 スカートの裾を軽くつまみ、その場でくるっとターンするいちか。随分様になっている。

 

「……ていうか、なんでこんなに早く着いてるんだよ。もしかして、結構前からいたのか?」

「んー、着いたのは九時くらいかなぁ」

「約束の一時間前じゃねぇか。自分から設定しておいて……」

「いーの。待ちたい気分だったし。それにしょーちゃんこそ、こんなに早く……らしくなくない?」

「早く目が覚めたんだよ」

「本当はあたしとのデートが楽しみで眠れなかったんじゃな~い?」

 

 違う……が、眠れなかったのは本当なので、なんとも微妙なところ。寝不足がバレれば絶対にからかわれるのは分かっていたし。

 

「でも、この時間じゃお店が開くのもちょっと待たなきゃだよね。てきとーに散歩でもして時間潰そっか」

「お店って、どこ行くつもりだったんだ?」

「それは後でのお楽しみ~っと♪」

 

 いちかは鼻歌交じりに俺の手を握り、歩き出す。

 どうやら徹底的に先のことを話さないつもりのようだ。サプライズでも楽しんでいるつもりなんだろうか。こちらは不安になるだけなんだけど。

 

「今日は全部あたしの奢り――って言いたいところだけど、懐事情には限界がありますので、ほどほどにってことで!」

「奢ってもらうつもりはないから。……今のところ」

 

 そんな不安によって、「全部割り勘で行こうぜ」なんて男女平等の精神を揺るがされてしまった。

 けれど、いちかは特にツッコむことなく、やはりご機嫌そうに笑っていた。

 

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