キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話   作:としぞう

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第29話 カップルランチ

 いちかの言ったデートプラン。

 その第一章は十時開店のファッションビルに乗り込み、ウィンドウショッピングを楽しむ、だった。

 

「ねっ、しょーちゃん! これ可愛くない!?」

 

 ファッションビルに入った、おしゃれな名前のアパレルショップひとつひとつで足を止め、はしゃぎながらお眼鏡にかなったアイテムを見せてくる。

 

「おー、いいんじゃね」

「なんか返事てきとーじゃない?」

「俺にオシャレの良し悪しが分かると思うのか?」

「思わない」

 

 思わないんかい。じゃあ最初から聞くなよ。

 

「でも、しょーちゃんが選んでくれたの、いくつか持っててもいいかなーって。ああでも安心して。今日すぐ買うつもりはないから。しょーちゃんが良いって言ってくれたので、無難そうなのをメモってお小遣いが溜まったら買おうかなってくらいだし」

「そこまでハードル下げられると助かるけど……」

 

 最初にいちかが候補を選び、最終的にいちかの判断が入るなら、俺が判定する必要はない気がするんだけど……まぁ、ただ後ろをついて歩くだけというのも退屈だし、こっちの方が俺的にはマシか。

 

 それから気がつけば二時間近くも、ウィンドウショッピングに費やした。

 殆ど冷やかしだけだったが、いちかは終始楽しげで、俺は足の疲れを感じる暇もなかった。

 

 宣言通り、いちかは度々俺に意見を求めてきた。洋服、靴、アクセサリー……彼女ができたことも、良い感じになった女子もいない俺に知識も何も無く、完全に俺個人の趣味、フィーリングに任せるしかなかったのだけど……いちかは文句を言わず、俺が良いと言ったアイテムは全て律儀にスマホにメモしていた。

 もしも今日の最後にそれらを踏まえての採点とかされたら泣く自信があるぞ。

 

 そういうわけで時間が過ぎ……時計の針が天辺を指したくらいのタイミングで、俺たちはビルの上層階にあるレストラン街、その中に入っているオムライス屋に来ていた。

 これがデートプラン第二章。

 

「あのぉ、この恋人限定ランチセットっていうの見て来たんですけど~」

 

 いちかは店員さんにスマホ画面を見せ、そんな甘ったるげなセットメニューを勝手に頼んでしまう。

 カップルなんて真っ赤な嘘だけれど……店員さんは俺といちかを順番に見るとあっさり納得してオーダーを通してしまった。

 

「おい、いちか」

「珍しいよね~。今どきカップル割なんてさ。ほら見てっ。このセットだと、普通のランチ料金で、プラスにパフェがついてくるんだよ!」

「そりゃあ確かにお得だけどさ……」

「ま、いいじゃん。店員さんも納得してくれたんだし。ふふっ、あたしたちって案外、普通にカップルっぽく見えてるのかもよ~? 万が一証明しろって言われたら、しちゃえばいいし?」

 

 しちゃうって、キスをって意味だろうか。

 やっぱりテンションが高い。一々楽しそうなのがこちらに伝わってくる。

 それはやはり、テストから解放されたからなのか……それとも……。

 

「あ、そーだ。ドリンクバー取ってきてよ。あたしいつものね」

「……りょーかい」

 

 そんな小さなおねだりに、俺は大人しく従う。

 ちょうど俺も少し喉が渇いたところだ。

 

 いちかに言われたとおりいつもの――こういうドリンクバーには必ずある、オレンジジュースを二杯入れてくる。ついでに、紙エプロンももらっておいた。せっかくの勝負服、ソースを跳ねさせて汚しでもしたら目も当てられないからな。

 いちかは、「しょーちゃんがオレンジジュースなんて珍しいね」と言っていたけれど……そうだろうか。

 

「いちかに釣られたのかもなぁ」

 

 そう答えると、いちかは少し目を細めて、「そっか」と微笑んだ。

 そうこうしている内に、トマトソースのものとホワイトソースのもの、二つのオムライスがやってきた。丁寧にシェアできるよう予め小皿が添えられている。

 おそらく男女だから紅白……縁起物ではあるけれど、やはり今どき珍しい取り組みと言わざるをえない。

 だからこそ、席に置かれた標準メニューの中には記載せず、ウェブサイトでのみ掲載しているんだろうけど。

 

「しょーちゃん、はい。あ~ん」

 

 なんて思っていると、いちかが自分の選んだホワイトソースかけオムライスを一口、スプーンに載せ、こちらに向けてきた。

 

「…………」

「なぁに、毒なんか入ってないよ」

「分かってるけど……さすがにそれはハズい」

「あはは。確かに」

 

 いちかは大人しく引き下がると、スプーンを自分で咥えた。

 頬がほんのり赤らんでいる。さすがにレストランという他人の目もある場所でこの手のいじりを続けられるほど、彼女の心臓もフサフサなわけじゃない。

 ましてや互いに食べさせ合うとか……そんなん完全に恋人じゃん。

 

「ん、美味しい~」

「そうだな。とろっとろだ」

 

 ドレスドオムライス、なんて言うんだろうか。固まっているとも溶けているとも言えない、絶妙なとろとろの卵と、しっかり味のついたチキンライス。

 それが甘塩っぱいトマトソースと絡み、絶妙なハーモニーを奏でている。まさにオムライスフィル交響楽団やで。

 

「しょーちゃんのも美味しそうだねぇ~」

「ああ、美味いぞ。ちょっと食うか?」

「うんっ。はい、あ~~~~」

 

 口を開き身構えるいちか。先ほどよりも余計に頬が赤く見えるのは、今度の「あーん」は主導権をこちらが握っているからだろう。もしも俺が悪ノリし、いちかの口にスプーンを突っ込めば、いちかはそれを受け入れるしかない。

 俺たちは人目もはばからない迷惑なバカップルとして、他の客から冷たい視線を浴びるだろう。

 

(……さすがにそれは面倒だよなぁ)

 

 俺は小皿に何口分かを移す。

 それを見て、いちかは幾分かほっとしたような……そして幾分か呆れたような、そんなため息を吐いた。

 

「しょーちゃんのいくじなし」

「申し訳ございませんねぇ。ほい」

「はいよっ。あたしもあげるねっ」

 

 すぐに別の小皿に自分のオムライスを移し、交換に差し出してくるいちか。

 こちらも……うん、まろやかで美味しい。

 

「こっちも美味しい~。となるとぉ、他のメニューも気になっちゃうよね。キノコのやつとか、アボカドが乗ってるやつもあるんだって!」

「俺はおしゃれなやつじゃなくて、いかにもオムライスって感じの、ケチャップが乗ったやつも気になるな」

「こういうシンプルなのが一番美味しいっていうもんね!」

 

 オムライスを食べながら、別のオムライスの話を弾ませる。

 別段おかしなことでもないが、ちょっと背徳的でもあって面白い。

 というか……いちかの口から出る言葉は、やはり俺によく馴染む。

 思考のチューニングが合っているとか、そんな感じ。カッコよく言い過ぎな気がするけれど。

 

 そういう意味では……まあ、わざわざ口に出すような話でもないけれど、オムライスより、セットで実質タダで手に入ったパフェより、いちかと交わす会話が一番良かったのは間違いない。

 

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