いちかプレゼンツ、休日デート。
その第四章は――。
「喫茶店で感想でも言い合う、か?」
「えっ、なんで分かったの!?」
スクリーンを出て、次の目的を言い当てるといちかが目をまん丸にして驚いた。
簡単な推理……というか、ネタバラシはもう終わっている。今となってはそんないちかのリアクションはあまりにあざとい。
「先輩とのデートがそうだったんだろ」
今日は午前中から、木曜日は四限終わりからという違いはありつつ、いちかはあの日のスケジュールを辿っている。
昼ご飯、映画……ただそれだけだけど、次は感想を言い合ったといちかは言っていた。ウィンドウショッピングは、もしかしたらその後だろうか。
「むー……」
言い当てられたのが悔しいのか、いちかはむすっと睨んでくる。
怒るのは全くお門違いだと思うけれど――。
「……なぁんてね!」
拗ねた態度を見せたのは一瞬だった。
いちかはペロッと舌を出して、いつものように俺を小馬鹿にしてきた。
「しょーちゃんハズレ! 次のプランは感想言い合いっこではございませ~ん!」
「なっ!?」
「だって、あたし寝ちゃって殆ど見れてなかったもん。感想なんて言い合えるわけないじゃん」
「た、確かに!」
見れてないなら感想も言えない。
すごく簡単な前提を見落としていた!
「まぁ、寝る予定はもちろん無かったんだよ? ただちょっと、昨日あんまり眠れなくて、寝不足気味だったというか……」
「そうなのか?」
「って、別にしょーちゃんとのお出かけを楽しみにしてたとか、そういうんじゃないんだからね!?」
急にツンデレみたいなのが出た。別にまだ何も言ってないのに。
「そんじゃあもう帰るのか?」
「まさか! 言ったでしょ。お泊まりも考えてるって。今解散しちゃったらお泊まりどころじゃないじゃない」
「あれは……冗談だろ?」
「まあ冗談だけど。でも、解散するにはやっぱりまだ早いよ」
俺の手を握り、いちかが歩き出す。
足取りは軽い――本当に目的地があるみたいだ。
「じゃあどうする。カラオケとか行くか?」
「それも考えた。ぎゃんリネ夫妻と行ったんでしょ? ズルいな~って思ってたし」
「お前は先輩とデートだったじゃんか」
「そーだけどさぁー……まっ、カラオケは人数多い方が楽しいから、今回はパス!」
……実は感想言い合いがハズレだった時点で、俺の中では予想候補第一位になっていたカラオケだけど、これもハズレだったとは。
帰るでもないというし……ああ、もう何も浮かばない。
「しょーちゃんさん、Supicaの貯蔵は十分かしら?」
「なんだその口調……Supica? まあ、ある程度は入ってると思うけど……」
Supicaっていうのは、改札でピッとタッチすると電車に乗れる魔法のカードのこと。プリペイド式ってやつで、改札とかで事前にチャージする必要があるけれど、一々切符を買う必要がなくなるので、財布にちゃんと忍ばせている。
「……って、まさか」
「うむ。駅前集合にした伏線回収! というわけで……電車乗るよっ!」
大都会東京ならともかく、映画館もファッションビルも駅前にでも来なきゃ無いから……だと思っていたけれど、電車に乗るのが理由だった……?
全部計画通りなのか、それともアドリブで言っているのか、分からなくなってきた。
でもやっぱりいちかの足取りは軽く、真っ直ぐで……驚く俺を見て、彼女は得意げに目を細めていた。
◇
電車に揺られ20分。
ざっくり海の方面へと向かった先には、ちょっとした観光スポットとして、出店やレストラン街、お土産ショップが並びつつ、その中心にちょっとした遊園地的なものがあった。
その目玉はなんといっても海を眺められる観覧車だ。
大、と頭に付けられるほどではないとはいえ、高所恐怖症なら耐えられないだろうというくらいのサイズ……いや、分かりづらいな。まあまあ大きいやつだ。
子どもの頃は近場ということもあり何度も両親に連れてきてもらった。もちろんいちかの家族も一緒だ。
観覧車に乗る度に俺たちは、自分達の家がどの方向にあるのか頑張って当てようとはしゃいだものだけれど、二人きりで乗ったことはこれまでなかった。
こういうところ、地元民ほど来ないというのがリアルだと思う。
「なんか久々に乗ってみたいなーって思ってさ」
券売機で乗車用チケットを購入しつつ、いちかはどこか恥ずかしそうにはにかんだ。
「いちかにしては良いアイディアだな」
「あたしにしてはって何さ! ……ていうか、しょーちゃんのことだから子どもっぽいって馬鹿にするかと思ってたし」
「俺のことだからって何だよ。」
人をクレーマーみたいに言いやがって。俺はどちらかというとイエスマン。いちかについては甘やかし傾向にあると自負しているんですけど。
「ほら、しょーちゃん。行くよっ」
いちかに手を引かれ、俺たちはゴンドラに乗り込む。
一周約十分。ゆっくりとした空の旅が始まる。