キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話   作:としぞう

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第5話 友人からの評価

「……てな感じでさ。この間初めてリネと手を繋いだんだけどさぁ。女子の手ってなんであんなに柔らかいんだろうな。オレ、めっちゃ緊張して手汗かいちゃって、で、リネにもからかわれたんだけど、『めちゃ手汗かいてんじゃん』って笑うリネもすげー可愛くて、でもよく見たら耳真っ赤にしてて……ああ、オレ絶対こいつ幸せにするって思ったね」

 

 放課後、逆瀬川寬司が情緒たっぷりなのろけ話を披露する。

 ガラガラの劇場(教室)に観客は俺一人。完全貸し切りで胸焼けも独占状態だ。

 

 とはいえ、この話は初耳じゃない。しっかり彼の彼女から俺の幼馴染み経由で俺に流れてきている。寬司は夢にも思っていないだろうけど。

 

 阪内いちかは世間一般に、口の硬い女で知られている。

 男女の壁を作らず、人なつっこく、聞き上手。

 そんな彼女に、自分一人では抱えきれない悩みや共感を得たい体験談を打ち明ける者は、男女問わず多い。

 

 いちかはそれが自分に対する信頼故だと知っているし、許可無く第三者に言い広めたりはしない。少なくともこれまで一度も彼女から情報が漏れたことはない。

 ……そう、世間一般には思われている。

 

 実際は、彼女の『喋りたい欲』がたった一人の幼馴染みに暴露することで抑えられているだけな話なのだが。

 

 おかげでそのたった一人の幼馴染み、別府省吾は誰も知らないまま、高校随一の情報屋として無顧客営業を続けている。

 裏を返せば俺は、「いちかの正体をバラせる」という爆弾を握っているわけでもあるのだけど……。

 

――そうしたら、しょーちゃんもあたしと一緒に地獄に落ちるだけだから♪

 

 なんて、形だけは無邪気な笑顔で言われてしまえば、首筋に死神の鎌を突きつけられたも同然。そもそも俺はもちろん、いちかが地獄に落ちるのだって避けたいところ。たった一人の幼馴染み、家族同然の相手なのだから当然だ。

 なので俺は「それ聞いたよ」という本音は押さえ、まるで初めて聞いたかのような新鮮さを装い、今まさに独演会を終えた友人に拍手を送った。

 

「良かったな。おめでとう」

「ありがとう……ありがとう……!」

 

 なぜか涙を流す寬司。なぜ?

 

「俺、生まれてきて良かった……リネと幼馴染みになれて良かった……世界一の幸せ者だ……」

 

 冗談では無く本気で泣き出してしまった寬司に、俺はとりあえずポケットティッシュを差し出す。

 髪は金色に染め、耳にはピアスも開けている。わざわざ前髪をうっとうしく伸ばしてヘアピンで止めた、よく言えばオシャレ、悪く言えばチャラついた男子高校生。

 そんな寬司だが、なぜかこちらがうんざりするくらい、純情すぎる純情派だった。

 

(手を繋いだだけで、こうなるもんなのか)

 

 俺としては、やっぱりいまいち分からない感覚だ。

 別に見下しているとかじゃないく……むしろ、彼女持ちという意味では明らかに、彼の方が俺より上位の存在であり、憧れさえ抱きもするけれど。

 

「ていうか、幼馴染みなのに手繋いだことなかったんだな」

「はぁ!? 有るわけないだろ!! ……いや、でもそう言うってこたぁ、お前はいちかちゃんと手を繋いだことがあるってことか?」

「まあ多少は…………ああ、でも、お前らみたいに甘酸っぱい感じじゃ全然ないから」

 

 そう、種類が違う。

 俺はいちかと手を繋いでもドキドキなんかしないし、向こうだってそうだろう。

 それは俺といちかの関係性が、寬司と理音さんのものとは全然違うからだ。

 

「……とかいって、本当は付き合ってるんじゃないよな」

「疑うね、お前も」

「いや疑うというよりこれは願望に近い。付き合えよ、お前ら」

「また始まった……お前ら、すぐ付き合わせたがるよな」

 

 逆瀬川寬司。基本良いやつだが、なぜか俺といちかをくっつけたがっている節がある。

 それは寬司だけでなく、その彼女、野上理音も同様だ。

 

「だってダブルデートとかしたいじゃん!」

「したいのはお前の勝手だけど、それなら別に相手を探した方が早くないか。いちか曰く、女子の殆どは既に彼氏持ちだという噂だし」

「そうなの!? 進んでるなぁ……」

「まったくだよ」

 

 男子故、男子事情に詳しい俺たちからしたら、やはり性別格差なるものの存在を信じずにはいられない、そんな噂に数少ない彼女持ちの寬司でさえ驚く。

 

「でも、こういうのは気心知れたカップルとの方が盛り上がるだろ? その点、同じく幼馴染みという関係から恋人にまで発展させた者達同士、波長が合うお前達との方が絶対楽しいじゃん!」

「まあ、お前らと遊ぶの自体は悪くないけど……」

「いや、まだ付き合ってないお前達と一緒に遊ぶのは、なんだか自慢してる感じがして申し訳なさが勝つ……!」

「まだってなんだよ、まだって」

「いつかは付き合うだろ? 今は家族の延長線上って印象かもしれないけど、不意に恋心を自覚するっていうのもよくある話じゃん」

「よくある話?」

「ラブコメとかで!」

「漫画かよ」

 

 逆瀬川寬司。

 週刊少年誌で連載されている甘酸っぱいラブコメを読んでも顔を真っ赤にする純情少年である。

 

「おぇあ~っす!」

「おっ、リネ!」

 

 なんて話してたら、寬司の彼女、理音さんが教室に入ってきた。

 

「あ~、日直ダルかった~。いっちゃん、手伝ってくれてありがと~」

「ううん。お安いご用!」

 

 その後ろに、理音さんより低身長のいちかが隠れていた。

 日直だった理音さんが日誌を届けに行って、いちかはその道中の話し相手に付き合っていたのだ。

 時間としては10分程度。理音さんにお礼を言われたいちかも爽やかに笑っているが……その瞳の奥に、妙な雰囲気を感じたのはおそらく俺だけだろう。

 

「何話してたん?」

「お前らいつ付き合うんだって話」

「あー、ウチらもそれしてたわ。ね、いっちゃん」

「あはは……」

 

 なるほど。

 あちら側でも被害者が出ていたらしい。

 幼馴染みなら付き合えよハラスメント、通称オサハラの。

 

「幼馴染みだからって遠慮する必要ないのに! 付き合ったら、ぎゃんぎゃんの良いところもっといっぱい見えて、アタシ、最高に幸せって感じなんだから!」

「何度も言ったけど……それはぎゃんぎゃんとリネだからだと思うな~。あたしとショーゴはそういうんじゃないし。ねぇ?」

 

 いちかに話を振られ、はっきり頷く。なぜかため息を吐く寬司と理音さん。

 

「本当にぃ? いっちゃんはショーゴくんと手を繋ぎたいとか、デートしたいとか……き、キスしたいとか思わんの?」

 

 ぴくり、といちかの肩が跳ね、ほんの一瞬笑顔が歪む。

 そんな変化はやっぱりいつも一緒に居る俺にしか気づけないくらいに僅かなものだった。

 けれど、それとは別に見せてしまった、返答に窮したような沈黙は二人にもばっちり気づかれてしまった。

 

「えっ、なに! その意味深な沈黙!」

「まさかそうなのか、いちかちゃん!?」

 

 興奮する二人に、いちかが詰められる。

 いちかもしまったと、頬を引きつらせた。

 

「そ、そんなんじゃないよ!」

「恥ずかしがることじゃないぜ? ほら、省吾も良いやつだし」

 

 そう俺の肩を叩く寬司。

 なぜか寬司は俺を高く評価してくれている。自分を引き立たせる類いの「良いやつ」ではなく、本気で良い人間だと思ってくれているのだ。

 もちろん寬司も良いやつで、理音さんとはお似合いだと思ってる。だから彼女持ちに対する嫉妬はないのだけど……この、俺といちかをくっつけようっていう動きさえ無ければなぁ。

 

「あたしは……」

 

 なんて考えている間に、返答を思いついたのかいちかが口を開いた。

 

「キス、なんて言ったから、リネとぎゃんぎゃんはもうしたのかなーって気になっただけ」

「「ふぇっ!?」」

 

 ボンッと効果音がしそうなくらい、二人の顔が一気に真っ赤になる。

 この反撃は想定外だったらしく、見事なまでにあわあわしている。

 

「き、ききき、キスとか……ね、ねぇ、ぎゃんぎゃん?」

「お、おう。そ、そういうのは、ある程度、もっと時間が経ってからっていうか……」

「へぇ~、そうなんだ」

 

 してやったり、とにっこり笑ういちか。

 彼女はそれで満足したのか、俺の方を見てきた。

 

「ねえ、ショーゴ。ちょっと来て」

「は? なんで」

「気が利かないなぁ。熱々なお二人には二人きりになる時間が必要なんじゃないってあたしは思うんですけど」

「えっ!?」

「ちょ、いっちゃん、それは気遣いすぎっていうか……!?」

 

 二人のこの慌てよう……話の流れ的に、「この機会にキスでもしてしまえ」というメッセージに受け取ったのかもしれない。

 なるほど、これはナイスな反撃だ。いいぞもっとやれ。たまにはこうしてからかってやらないとバランス取れないしなぁ!

 

「……あえ?」

 

 なんて、二の矢三の矢を期待していると、腕を引っ張られた。もちろん、いちかにだ。

 

「ほら、ショーゴ。ぼーっとしてないで立つ」

「あ、本当に行くの?」

「当たり前でしょ。それじゃあお二人さんっ、熱いお時間をごゆっくりお過ごしくださーい♪」

「ちょっ……」

「いっちゃん!?」

 

 いちかは二人の反応を振り返ることもなく、俺の腕を引いて教室を出た。

 

 

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