キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話   作:としぞう

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第9話 浮上した問題

「ここ、テストに出るからちゃんと復習しとけよ」

 

 先生の言葉を聞き、すぐさま教科書に蛍光ペンを引く。

 夏の期末テストが来週に迫っていた。こういう定期試験、中間テストとか期末テストとか、そういう概念は中学からあったものの、高校に進学した今、より一層重みのようなものを感じる。

 

 というのも、通っていた公立中学は小学校からエスカレーター式に進学した生徒が殆どで、学力にはかなりばらつきがあった。

 俺はその中でも中の上、もしくは上の下あたりの成績を収めていて、あまり緊張感の無い日々を送っていた。

 

 しかし、高校は受験を経て進学している。最上位ではないものの、全体のレベル感で見たら上から数えた方が早い、ギリギリ進学校と呼ばれる程度の偏差値で……殆どの生徒が、入学時点でおそらく殆ど同じくらいの学力で並んでいる。

 

 なので、少しサボれば平気で下位に落とされるだろう。そして試験の順位を見た親は、「我が息子は高校に入って気を抜き怠けている」と危機感を覚えるに違いない。

 

 そうなれば毎日勉強漬け。ノルマを課され、小遣いも減らされるかもしれない。

 それは良くない。実に良くない!

 

 ギリギリ進学校らしく、のっぴきならない家庭の事情を除いてバイトを禁止されている校則により、俺の財力は有限だ。

 

 なので、ひもじい生活を送らないためにも、今まで以上にしっかりと、緊張感を持って試験勉強に臨まねばならない。

 そして、そうなれば問題は、試験内容自体に留まらない。

 

 目下の所、真っ先に解決しなければならない問題が、俺の中にはあった。

 それは――

 

 

「えーーーーーっ!?」

 

 放課後。

 それを伝えると、いちかはこの世の終わりのような悲鳴を上げた。

 

 この反応は予想できていた。だから、俺の部屋ではなくいちかの部屋に呼ばれたタイミングで提案したのだ。

 近所の方から、俺の部屋でいちかの悲鳴が聞こえたとなれば醜聞に響くというものだから。

 

「なんで、なんでなんでっ!」

 

 半泣きになりながら縋り付いてくるいちか。

 その勢いに任せてくる魂胆は見え見えなので、しっかり肩を掴み押し返しておく。

 

「当たり前だろ。テスト一週間前なら部活だって休みになるんだから」

「そんなの中学からそうだったじゃん。でも、中学の時はしょーちゃん、そんなこと言わなかったのに」

「中学から高校に上がれば色々変わるだろ。お前が人前で『しょーちゃん』なんて呼ばなくなったのと同じで」

「むぅ……」

 

 別に呼んで欲しいわけではないので、これはあくまで売り言葉に買い言葉的なもの。

 

 じゃあ明日から外でも「しょーちゃん」と呼びますと言われたら、俺が困る。急に変えられたら、明らかに何かあったと匂わせるようなもんだし。

 

「そりゃあ、部活は時間いっぱい使うじゃん。授業が終わってから日が暮れるまで。大会とか目指して猛練習してるんだろうし……でも、こっちはそんなんじゃないじゃん! 隙間時間にちょこ~~~っとやるくらいでさ。だから……」

 

 すうっと大きく息を吸い、いちかは怒りを露わにする。

 

 

「キス禁止は、断固反対っ!!」

 

 

 ああ、これは俺の部屋からだろうがいちかの部屋からだろうが、外に漏れていたらまずいなぁ。

 そう思いつつ、俺は冷めた態度を崩さなかった。

 

 ここで揺れれば押し込まれる。俺だって反発されると分かっていて、覚悟して提案したのだ。生半可には崩されない。生全可にも崩されない。

 

「第一、えらそーに言ってるけど、しょーちゃんこそ耐えられるの?」

「と、言いますと」

「しょーちゃんだってキス好きじゃん! なのに、一週間もあたしとキスしなくて平気なわけ? 生まれてから一度もそんなことなかったじゃん!」

 

 そう、幼稚園のお泊まり会でも、小学校の林間学校でも、中学の修学旅行でも、俺たちは人目を盗んでキスしてきた。

 それほどまでに、俺といちかの日常にはキスが染みついている。

 一週間なんて期間キスをしないなんて、まさに前代未聞だ。

 

「正確には、一週間後のテストが四日間続くから、十一日間だな」

「二桁いってんじゃん!? 絶対無理!」

 

 いちかが両手を挙げて降参を示した。俺も口に出してみて、改めてこんなに長いと分からされる。

 けれど、テストを乗り切るためだ。こればかりは耐えるしかない。

 

「キスしながらだって勉強できると思いますっ!」

「お前、さっきも隙間にちょこっととか言ってたけどさ。やり始めたら止まらないだろ」

「むぐぐ」

「勉強しながらとか言って、今まで何度も、休憩ってていでキスして……そのまま勉強会が終わったじゃん」

「……それはあたしだけの責任じゃないもん。しょーちゃんだって悪いもん」

「そうだよ。だから責任を感じてこうしてキスを我慢しようって訴えてるんじゃないか。お前がキスを我慢するってことは、俺も我慢するって意味なんだから」

「そうだけどさぁ……そうだけどさぁ!!」

 

 ばたばたと両手両足を暴れさせてだだを捏ねるいちか。

 いちかだって分かっている筈。テストは大事だ。俺も彼女も学力は殆ど変わらないのだし。

 

 そんな二人が、テスト直前までキス三昧となれば共に沈むのは確定。

 双方の両親が、お互いがお互いを駄目にしていると邪推――ならぬ、真実に気がつき、引き剥がそうとしたって順位を落とした後じゃ文句も言えない。

 

「前に言ってたろ、ずっと一緒にいたいって」

「……それじゃああたしがプロポーズした感じに聞こえるんですけど」

「そのためには、ここを乗り切るのが必要だ。中間とはワケが違うんだから」

 

 ちなみに中間は入学してから五月いっぱいくらいまでの範囲だったが、期末はそれから今まで、さらには中間までの範囲も入ってくる……まさに一学期の集大成といったところ。

 中間の成績だって褒められたものじゃなかった。あそこにさらに倍の範囲が追加されれば……考えるまでもない。

 

「終わったらいっぱいやってやるから」

「……やってやるって、しゅーちゃんはしたくないみたいじゃん」

「したい。めっちゃしたい。絶対したくなってるし、お前が嫌だって言ってもやめないと思う」

 

 はっきり本音を言うのはダサいが、そうなることは目に見えている。

 いや、むしろ十日以上も間を空ければ、その状態に慣れてキス卒業となるかもしれないけど……。

 

「なにそれ。めっちゃテンション上がるんだけど!」

 

 ……どうやら、俺のダサすぎる本音はいちかに響いたらしい。

 

「あたしとキスしたすぎておかしくなってるしょーちゃん……ぐへへ、そりゃあ絶対ムービーに収めたい逸材だぜぇ!」

「既にお前がおかしくなり始めてるぞ」

 

 そう言いつつ、核心には触れない。

 即ち――俺が耐えられない以上に、お前が耐えきれずおかしくなるんじゃないか、という疑念には。

 

 

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