数日後——
空は不気味なほど静まり返り、湿った風が街の外れを吹き抜けていた。
異常な雰囲気が漂い、まるで世界そのものが息を潜めているかのようだった。
そして——
「……来た。」
街の外れにぽっかりと空間の歪みが生じ、紫色のゲートが出現した。
その歪みの奥から、次々と異形のモンスターたちが這い出てくる。
前脚を大地に突き立てるたびに振動を生む巨体の獣、
無数の刃を持つ触手を蠢かせる異形の影、
鋭い牙を持ち、腐食する霧をまとう狼のような魔物——
俺は剣を握りしめ、一歩前に出た。
シオン「……本当にやるの?」
「はい。ここで“負ける”ことで、奴をおびき寄せるんです。」
シオン「……分かった。でも無茶しないでよ。」
「もちろんです。」
俺は深く息を吸い込み、モンスターたちへ向かって駆け出した。
激戦が始まる。
最初の獣が飛びかかってくる。
その爪が地面をえぐる寸前、俺はギリギリでかわし、剣を振るった。
鋭い一閃が獣の体を斬り裂き、黒い血が飛び散る。
背後から迫る触手を避けつつ、二体目の魔物に踏み込む。
剣を逆手に持ち、刃を突き立てる。
だが、わざと浅く斬りつけ、即死させない程度のダメージに抑える。
(ここからは……押される。)
三体目の魔物が口を開き、毒霧を吐き出した。
避けるのではなく、俺はあえてその場に踏みとどまった。
「……ぐっ……!」
毒霧が体を蝕み、感覚が鈍くなる。
その隙を突いて、獣の鋭い爪が俺の腹を斬り裂いた。
血が飛び散り、視界が一瞬揺らぐ。
(……まだだ。)
もう一撃、もう一撃と攻撃を受け、俺はゆっくりと地面に膝をついた。
モンスターたちは俺を完全に追い詰め、最後の一撃を加えようとする。
(……来い。)
俺は倒れたまま、視線だけを遠くに向ける。
そして——
正「やはり、師匠はそうするか。」
待ち望んだ声が響いた。
空気が一瞬にして変わる。
どこからともなく黒い霧が立ち込め、空間が軋むような音を立てた。
モンスターたちが突然動きを止め、怯えたように後ずさる。
まるで、この場の“主”が現れたことを察したかのように。
「——天川正。」
ゆっくりと霧が晴れ、そこに現れたのは、漆黒の衣をまとった男。
鋭い目で俺を見下ろし、冷たく笑う。
正「貴様が“負ける”など、不自然すぎる。」
「……気づいていましたか。」
天川正「当然だ。貴様がわざと敗北する理由は、俺をおびき寄せるため。それならば……」
彼はゆっくりと剣を抜き、刃を俺の喉元に突きつけた。
天川正「ここで終わらせるまでだ。」
刃が振り下ろされる——その瞬間。
シオン「開いて!ドリームウォーク!!!」
シオンの叫びとともに、禁書の力が解放された。
魔法陣が宙に浮かび、黒い靄のような魔力が広がる。
天川正の剣が一瞬、ピタリと止まる。
正「……それは……」
シオン「これ以上近づいたら、本当に発動するからね?」
天川正はシオンを見つめたまま、一歩引いた。
(今しかない——!)
俺は瞬時に剣を握り直し、天川正との距離を一気に取る。
正「……ほう、逃げるか。」
「逃げる訳が無い。」
俺は構えを取り、改めて天川正と対峙する。
「ここからが本番。」
静寂の中、俺と天川正の視線が交錯する。
次の瞬間、戦いが始まった。
刃と刃が交差し、鋭い衝撃音が夜の空気に響き渡る。
正の剣は重く、鋭い。
一撃でもまともに受ければ、即座に終わるほどの威力だ。
「……ッ!」
俺は間一髪で剣を弾き、後方へ跳躍する。
正「思ったよりも粘るな。」
「……当然だろ。」
天川正はわずかに目を細め、再び剣を振るった。
一閃——かすっただけで、服が裂ける。
直後、蹴りを繰り出してくるが、俺はそれを腕で防ぐ。
だが、そのままの勢いで吹き飛ばされた。
(……強い。)
一瞬でも気を抜けば、そのまま終わる。
だが、奴は明らかに余裕を持って動いている。
(まだ、何かを企んでいる——)
そう思った瞬間。
天川正が、唐突に後方へ跳び退った。
「……?」
正「そろそろ潮時か。」
「……逃げるのか?」
正「逃げる?違うな。」
彼はゆっくりと剣を収め、不敵に笑った。
正「俺の目的は、ここで貴様を倒すことではない。」
シオン「……どういうこと?」
天川正は視線を俺たちから外し、遠くの街を見下ろす。
正「貴様らはまだ気づいていないのか?」
シオン「何を……?」
正「この街は、もう終わる。」
その言葉と同時に——
街の上空に、巨大な亀裂が生じた。
紫色の光が空を裂き、ゆっくりと大きく広がっていく。
そこから現れたのは、無数のモンスターの影。
シオン「……まさか……!」
正「師匠——今起きてるモンスタースタンピードの主だ。」
「……!」
正「この街は、ここで終わる。」
彼は微笑みながら、一歩ずつ後退していく。
正「せいぜい、足掻くがいい。」
その言葉を最後に、天川正の姿は霧のように消えた。
残されたのは、街の上空に広がる異常な亀裂と、今にも降り注がんとする魔物の群れ——
「……ッ、シオンさん!」
シオン「分かってる!やるしかない!」
ちょっと文字数少なくて申し訳ないです。