事務所の一室、静寂の中で天津殿の姿を見守る。
床に描かれた赤い魔法陣は不気味に脈動し、天津殿の身体はまるで眠るように微動だにしない。しかし、これはただの睡眠ではない。ドリームウォークによる意識の乖離──別次元の天津殿が活動している証拠。
いろは(……天津殿、必ず戻ってくるでござるよね?)
この間に何があっても、拙者が天津殿を守らねば……!
そんな決意を固めた瞬間、事務所の入り口が轟音と共に吹き飛んだ。
正「さて、いましたね。」
黒衣の男──天川正が、呪符を手に立っていた。
いろは「……やはり来たでござるか。」
正「君が護衛役ですか? 残念ですが、そこを退いていただきますよ。」
いろは「退くわけにはいかないでござる。天津殿の使命が終わるまで、拙者が守る。」
正「そうですか。ならば——排除します。」
正「呪言"斬"」
天川正の指先が軽く動いた瞬間、無数の斬撃が空間を裂いた。
いろは「……ッ!」
咄嗟に抜刀し、居合で斬撃を打ち払う。しかし、その圧倒的な斬撃の数は防ぎきれるものではなく、わずかに避けた刃が頬をかすめる。
正「なるほど、反応はいいですね。」
いろは「拙者を侮らない方がいいでござるよ。」
いろは「風刃・連撃!」
いろはは剣を振るい、風の刃を次々と繰り出す。空気を裂くような衝撃が天川正に襲いかかるが——
「呪言"盾"」
天川正の前に呪符が浮かび、風刃をすべて無効化する。
正「その程度では、私を止めることはできません。」
いろは「ならば……!」
いろはは間合いを詰め、超接近戦に持ち込む。居合の速度で天川正の防御を突き破ろうとするが、天川正は一歩も動かず、冷静に迎え撃つ。
正「呪言"雷"」
バチンッ!と閃光が走り、いろはの動きが一瞬止まる。その隙を突かれ——
正「呪言"衝"」
いろはの体に衝撃波が炸裂し、吹き飛ばされる。
いろは「ぐっ……!」
壁に激突し、息が詰まる。しかし、すぐに立ち上がると、天津殿の方を確認した。
彼は——まだ目覚めていない。
いろは「まだ……負けるわけにはいかないでこざる……!」
再び剣を構え直す。
だが、その時——
正「呪言"槍"」
強烈な呪符の一撃が天津殿へと放たれた。
いろは「——!!」
とっさに飛び込もうとしたが、遅かった。
ズバッ!
天津殿の肩を鋭い呪符の槍が貫く。
「っ!!」
いろはの心臓が凍りつくような感覚に襲われた。
天津殿の身体がぐらりと揺れ、魔法陣の輝きが一瞬揺らぐ。
正「ふむ……まだ意識は戻らないか。やはり完全に意識が乖離しているんですね。」
いろは「やめろぉぉ!!!」
怒りと焦燥が入り混じる中、いろはは再び剣を構え、天川正へと突っ込む。
だが——
正「呪言"爆"」
次の瞬間、いろはの体に爆発が直撃し、彼女は吹き飛ばされた。
いろは「がっ……!!」
視界が回転し、床に転がる。全身が痛みで悲鳴を上げる。
いろは「……まだ……拙者は……」
しかし、立ち上がる前に、天川正が天津殿へと歩み寄るのが見えた。
「さて、そろそろトドメを——」
その時だった。
事務所内の空気が一変した。
まるで重力が変わったかのような圧迫感が場を支配する。
正「……何?」
すいせい「お前……よくも……!」
床が砕けるほどの力で、すいせいが立ち上がる。
彼女の瞳は燃えるような青い輝きを放ち、全身から星の光が立ち昇る。
いろは「……すいせい先輩……?」
すいせい「天津さんを……傷つけないで……!」
青いオーラが彼女を包み、まるで天体そのものがそこにあるかのような圧倒的な存在感を放つ。
正「ほう……これは、面白い。」
すいせい「……ぶっ飛ばすから。」
次の瞬間、星の力が炸裂し、すいせいが天川正へと襲いかかった。
熱い。
頭の奥が燃えるように熱くて、身体中に力が満ちていく。
視界が蒼く染まり、空間が揺らぐ。
すいせい「天津さんを傷つけやがって……!」
怒りが沸騰し、星の力が暴発する。
ゴォォォッ!
星屑の光が舞い散り、すいせいの手元に蒼き輝きを宿したバトルアックスが出現する。
両手でしっかりと柄を握り、地面を踏みしめる。
すいせい「ぶっ飛ばす……!」
すいせい「——"星轟斬"!」
踏み込んだ瞬間、大地が砕け、星の残光をまとった斧が天川正へと振り下ろされる。
ゴォォォンッ!!
空間が震え、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。
正「呪言"盾"」
正の前に呪符が浮かび、斧の一撃を受け止める。
しかし——
バキバキバキッ!!
盾にヒビが入り、ついには砕け散った。
正「ほう……面白い。」
すいせい「まだまだッ!!」
斧を振り上げ、その勢いのまま側面からの横薙ぎ。
すいせい「星閃横断!」
斧の刃が光を引き裂くように振るわれる。
正「呪言"転移"」
瞬間、正の姿が消え、攻撃は空を切る。
すいせい「逃げた?」
正「いいえ、まだここにいますよ。」
背後から声が聞こえた。
正「呪言"鎖"」
バッ!
呪符から無数の鎖が伸び、すいせいの四肢を絡め取る。
すいせい「っ、クソッ……!」
正「力は確かに強力ですが、あなたはまだこの力に慣れていない。ならば——」
正「呪言"雷"」
天井に貼り付けられていた札が弾け、雷が降り注ぐ。
バリバリバリッ!!
すいせい「——ッ!!!」
強烈な電撃が全身を駆け抜ける。
身体が痙攣し、膝が崩れそうになる。
正「さて……邪魔者は消えましたかね。」
天川正はすいせいに背を向け、天津の元へと歩き出す。
すいせい「……まだ……終わってない。」
正「……?」
鎖がバキンッ!と砕け散る。
すいせい「まだ……負けてない!!!」
すいせい「——"星嵐爆砕"!!!」
蒼く輝く斧を地面に叩きつけると、周囲の大気が震え、爆発的な衝撃波が天川正へと襲いかかる。
正「フッ。少しは楽しめそうですね。」
すいせい「ここからが本番だよ……!」
星の輝きを宿したバトルアックスを振るい、天川正と激しくぶつかり合う。
蒼い閃光が宙を裂き、衝撃波が空間を震わせる。
すいせい「はぁっ……! どう……だッ!!」
すでに呼吸が荒い。
星の力は確かに強大だったが、それを制御しきれていない。
一撃ごとに体力を削られ、動きが鈍くなっていくのが自分でも分かる。
正「……おやおや、もう息が上がりましたか?」
天川正が余裕の笑みを浮かべる。
すいせい「くっ……!」
斧を振り上げるが、腕が鉛のように重い。
正「そろそろ終わりにしましょうか。」
正「呪言"雷刃"」
バチバチと雷を纏った刀のような呪符が生まれ、天川正の手に収まる。
そして——
正「——貴女にはここで退場してもらいます。」
雷刃が一閃する。
すいせい「……っ!!」
身体が動かない。避けられない。
「……ッ!!!」
ズドォンッ!!
何かが空気を裂いた。
天川正の雷刃が止められた。
正「……ほう。」
「そこまでにしろ。」
すいせい「え……?」
視界の端に、男が立っていた。
黒い影をまとい、高田影道の姿になった——男がそこにいた。
影が揺らめく。
その姿は、今までの俺とは違う。まるで、圧倒的な威圧感を放つ影の剣士のようだった。
「間に合ったか。」
すいせい「……だ、れ……?」
「もう大丈夫です。あとは俺がやるから、少し休んで。」
正「ほう、これは面白い。その姿は.......」
「さて、ここからは——本気だ。」