影が地を這い、俺の足元で蠢いている。
正「ほう……随分と雰囲気が変わりましたね。」
「……今の俺は、ただの俺じゃない。影道としての力、そして悪魔の力もある。」
影が形を変え、俺の腕に纏わりつく。悪魔の気配が混ざり合い、ただの影ではない、異質な力へと変貌していく。
「さっきまでとは違うぞ。」
正「……面白い。」
俺は地を蹴り、一瞬で間合いを詰める。
「——影魔轟裂*1」
影と悪魔の力を掛け合わせた一撃が、正の前に炸裂した。
ズガァァン!!
衝撃波が地面を砕き、黒い閃光があたりを包む。
正は紙一重で飛び退いたが、左腕を覆っていた呪符の防御が剥がれた。
正「なるほど……影と悪魔の力をここまで融合させるとは。」
「まだまだいくぜ。」
影が俺の背後でうねり、触手のように広がる。
「悪魔の"力"ってのは、ただの力じゃねえんだよ。」
俺は影を前方に放つ。すると、影は無数の爪のように形を変え、一斉に正へと襲いかかる。
正「——呪言"火壁"」
正の前に炎の壁が生まれ、影の爪が触れた瞬間に爆ぜた。
しかし——
「甘いな。」
影が炎を巻き込み、漆黒の炎となって正を囲う。
正「……ほう。」
「——影炎獄*2」
影と炎の力が融合し、正の足元から黒い火柱が噴き上がる。
正は飛び上がるが、その軌道を読んで俺は影を剣に変えて突き出した。
ザンッ!!
剣が正の胴をかすめ、呪符の防御がさらに剥がれる。
正「クク……これは驚いた。」
「お前の呪言、そろそろ底が見えてきたんじゃねえか?」
正は一歩退く。
しかし——
正「いいえ、むしろこれからが本番です。」
「……?」
正の足元から、黒い紋様が浮かび上がる。
正「——呪言"開門"」
地面が揺れ、巨大な魔法陣が展開される。
正「モンスタースタンピード、ここで解き放ちましょうか。」
「……なに?」
正「あなたが力を見せてくれたおかげで、私も決意できました。この街はもう不要です。」
「おい……まさか……!」
正「さあ、宴の始まりです。」
魔法陣が輝き、次元の裂け目が広がっていく。
「——っ!!」
次元の裂け目が完全に開き、そこから無数のモンスターが這い出してくる。異形の影がビルの壁をよじ登り、地面を揺らしながらのし歩く獣型の怪物、空中を旋回する鳥型の魔物——その数、軽く百を超える。
正「さて、思う存分暴れてください。」
「ふざけるな……!」
俺は影を剣の形に変え、前に出ようとした。
——しかし、その瞬間、空間が揺れた。
シオン「天津さん!!」
星の光が地面に降り立ち、そこからシオン、シオン?、マリン?が現れる。
シオン?「おーおー、大変なことになってるじゃない!」
マリン?「モンスター大量発生!? これってまさかヤバイやつでは!?」
シオン「とりあえず、こっちはシオン達で何とかする!」
「助かる……!」
いろはも駆けつけ、バトルアックスを担いで構える。
いろは「天津殿、すいせい先輩を頼みます!風真はこのモンスター達を優先して倒すでござる!」
「分かった、頼む!」
俺はすいせいを見る。
彼女は息を荒げながら立っていた。戦いの最中、星の力を覚醒させたばかりの彼女は、まだその力を制御できていない。
「すいせい……ここから離れろ。」
すいせい「で、でも……!」
「今のお前じゃ、また戦いの途中で動けなくなる。ここはシオン達に任せて、まずは力の使い方を学べ。」
すいせい「っ……分かった……」
彼女は悔しそうな表情を浮かべながらも、俺の言葉に従って後退していく。
俺は改めて、目の前の天川正に向き直った。
「さて……お前との決着、そろそろつけようぜ。」
正「フフ……まだ余裕があるようですね。では、どこまで持つか、見せてもらいましょうか。」
影と悪魔の力が腕に纏わりつく。
「この街は……誰にも壊させねぇよ。」
正「……ほう?」
天川正がこちらを見据え、わずかに口元を歪める。まるで、すべてを見透かしているかのような不気味な笑み。
「本体の俺を狙っても無駄だ。」
俺は影を操り、事務所に眠る本体ごと術を取り込んだ。闇の波が地面から湧き上がり、まるで空間そのものを飲み込むように本体の俺を包み込む。
正「……なるほど。影の力を利用して、本体を"影の領域"に隠したわけですか。」
「そういうことだ。」
正「ならば——貫くまで、ですね。」
彼は袖から何枚もの呪符を取り出し、指で素早く印を結ぶ。
正「呪言《滅穿》。」
次の瞬間、呪符が一斉に弾け、鋭い光を帯びた矢が無数に生まれる。それはまるで光の雨のように降り注ぎ——
「甘いな。」
俺は影を伸ばし、悪魔の力と融合させた。影が漆黒の翼となり、全ての矢を弾き返す。
「この影の中にいる限り、俺はお前の攻撃を受けることはない。」
正「……随分と厄介な力ですね。」
「お前の術ごと"喰った"からな。お前が狙うべき本体はもう、お前の術が届かない場所にいる。」
正はわずかに目を細めた。
正「では、その影ごと消せば良いだけのこと。」
再び呪符を取り出し、今度は別の印を結ぶ。
正「呪言《封獄》。」
地面が軋み、影の中にまで異質な力が侵食してくる。まるで影そのものを縛り、閉じ込めようとするかのような術。
「……そう簡単にはいかねぇよ。」
俺は悪魔の力をさらに解放し、影と混ぜ合わせる。すると影が形を変え、まるで巨大な顎のようなものが形成される。
「影喰い——"無尽黒牢"!!」
影の顎が一気に正へと襲いかかる。
正「フ……これは……!」
彼は咄嗟に後退するが、その瞬間、俺は影の中から飛び出し、正の懐に入り込んだ。
「——喰らえ!!」
黒く変化した拳が正を捉え——
拳が天川正の顔面を捉えた瞬間、衝撃が周囲に波紋のように広がる。しかし——
正「……遅いですね。」
ゴッ!
俺の拳が貫いたはずの天川正が、まるで影のように揺らぎ、霧散した。
「っ、分身か……!」
正「影を扱うのはあなたばかりではないですよ。」
いつの間にか俺の背後に回り込んでいた天川正が、呪符を数枚宙に放る。
正「呪言《封獄・影縫い》。」
呪符が俺の影へと突き刺さり、鋭い鎖のように絡みつく。影を支配する力が強制的に封じられ、俺の動きが鈍くなる。
「クソッ……!」
正「あなたの影の力は厄介ですが、所詮は影。"光"の前では無力ですよ。」
正が手をかざすと、呪符から眩い光が放たれ、俺の影をかき消そうとする。影が弱まると同時に、俺の体に重圧がかかる。
(このままじゃ……!)
俺は悪魔の力をさらに引き出し、影を"喰わせる"ことで打開を図る。
「——"闇喰い"!!」
影の中から黒い触手のようなものが生まれ、絡みついた呪符を無理やり喰らい尽くす。
正「ほう……」
正がわずかに驚いた表情を浮かべたその瞬間——
ドォンッ!!
事務所周辺に大量のモンスターが召喚され、街のあちこちで咆哮が響き渡る。
「っ……これは……」
正「私の手の者たちが"門"を開きました。さぁ、これであなた方は私と戦っている暇などなくなる。」
視界の端で、シオンたちが集合し、それぞれの武器を構えるのが見えた。
シオン「そっちは任せたよ!シオンたちはこのモンスターを片付ける!」
いろはも既に動き出し、次々とモンスターを斬り伏せている。
いろは「天津殿!拙者たちがここは食い止める!」
すいせいはまだ息が整わない様子で立っていたが、俺は彼女を見て指示を出した。
「すいせいさん、あなたは下がってください!」
すいせい「で、でも……!」
「まだ力を使いこなせていないあなたがここにいても危険です!今は休んでください!」
すいせいは悔しそうに唇を噛みながらも、一歩後退する。
正「さて……これで邪魔は入りませんね。」
正が再び呪符を構える。
「……あぁ、やっと邪魔が入らずにお前を潰せるってことだ。」
俺は影を広げ、悪魔の力をさらに引き出しながら、決着をつける覚悟を固める。
次回最終回