現代の影   作:ただの片栗粉

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誕生日と過去の影

 

ホロライブのオフィスに足を踏み入れると、どこか妙な違和感を覚えた。普段はにぎやかな廊下も、今日に限ってやけに静かだ。

 

「影が揺れてる…なんだか、嫌な予感がしますね。」

 

そう呟きながらオフィスのドアを開けると――

 

「誕生日おめでとう!!」

 

目の前に広がったのは、カラフルな装飾と、笑顔のタレントたちだった。

 

すいせい「天津さん、誕生日でしょ?サプライズ成功!」

 

フブキ「いやぁ、うちの大人気社員の誕生日を祝わないわけにはいかないでしょう!」

 

ラミィ「天津さん、これからもよろしくお願いしますね!」

 

まさか、俺のためにこんなことを企画してくれるとは思わなかった。少しだけ、胸の奥が温かくなる。

 

「……ありがとうございます。驚きました。」

 

すいせい「本当はもっとド派手にやりたかったんだけどね。でも天津さん、あんまり誕生日にこだわりなさそうだから、控えめにしといたよ。」

 

「ええ、正直、誕生日を祝われるのは久しぶりですから。」

 

その言葉を聞いた途端、タレントたちが少し不思議そうな顔をする。

 

すいせい「え、じゃあ昔は祝ってもらってなかったの?」

 

俺は一瞬、口を閉ざした。

 

「……昔の話です。」

 

江戸の世、俺は"影"として生きていた。名誉も、富も、家族さえも、持たずに。忍びとして、影の裏に潜み、戦い、殺し、そして最後は命を散らした。

 

誕生日など、祝われるはずもなかった。

 

すいせい「…天津さんってさ、たまに遠くを見るような顔するよね。」

 

「そうでしょうか。」

 

すいせい「うん。なんか…過去にいろいろあったんだろうなって思う。」

 

「……少しだけ。」

 

ホロライブに転生してからは、表向きは普通のスタッフとして生きている。でも、俺の中には、未だに"高田影道"としての記憶がこびりついている。

 

影に生き、影に消えた俺が、こうして光の中にいることが、未だに夢のようだ。

 

フブキ「天津さん、難しいことはさておき、せっかくの誕生日なんだから、楽しもう!」

 

「……そうですね。」

 

過去は過去、今は今。

 

この誕生日が、"天津隆良"としての人生の一区切りになるのかもしれない。

 

俺はそっと、ケーキに刺さったロウソクの火を吹き消した。

 


 

火が揺れる。遠くで聞こえるのは、鋭い刀の音。

 

俺は刀を握りしめ、月明かりの下に立っていた。

 

「……終わらせるか。」

 

江戸の世、俺は"高田影道"として生きていた。影を操る異能を持ち、その力を駆使して戦い続けた。

 

生まれながらにして"影"として生きる運命を背負わされ、名を馳せた頃にはすでに俺の人生に選択肢などなかった。命じられれば斬り、必要とあらば消す。そこに感情など必要なかった。

 

だが、それでもたった一つだけ、俺が抱えていたものがあった。

 

――家族。

 

血の繋がりはない。だが、俺にとって唯一、心を許せる存在だった。

 

「影道よ、また戦に行くのか?」

 

「……ああ。」

 

「……帰ってくるのか?」

 

「当たり前だ。」

 

その約束を果たせなかったのが、唯一の心残りだった。相手は今まで共に戦ってくれた戦友"風真源十郎"だ。

 

ある夜、俺は決戦に向かった。

 

相手は"鬼"と呼ばれる異能の使い手。俺と同じく、人とは異なる力を持ち、数々の戦場を生き抜いてきた男だった。

 

月明かりの下、俺たちは静かに対峙する。

 

「高田影道……貴様の影は確かに厄介だったが、今夜ここで終わる。」

 

「それはどうか。」

 

影踏み――俺は静かに間合いを詰める。

 

奴は気配を察知し、刃を振るうが、俺の影が先に奴の腕を捉えた。

 

「影縛り。」

 

影が細く鋭く伸び、奴の四肢を拘束する。だが――

 

「甘いな。」

 

瞬間、強烈な衝撃が腹を貫いた。

 

奴は"気"を纏い、強引に影を引きちぎったのだ。

 

「ぐっ……!」

 

血が滴る。視界が揺らぐ。

 

「やはり貴様の力は異端だ……だが、それもここまでだな。」

 

そう言って、奴は刀を振り上げる。

 

刃が降り注ぐ瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは――

 

珍しく少し心配そうにしていた源十郎、あいつの顔だった。

 

「……悪いな。」

 

刃が閃き、俺の意識はそこで途切れた。

 

気がつくと、そこは真っ暗な世界だった。

 

体の感覚もない。ただ、意識だけが浮かんでいるような感覚。

 

「……ここは?」

 

声すらも自分のものではないような気がする。

 

だが、その瞬間――まばゆい光が視界を覆った。

 

目を開けると、そこには白い天井があった。

 

「おぎゃあ……」

 

小さな声が漏れる。

 

俺は気付いた。

 

自分が――赤ん坊に転生していることに。

 


 

すいせい「天津さん、どうしたの?」

 

はっと意識を戻すと、目の前にはすいせいさんがこちらを覗き込んでいた。

 

「……いえ、ちょっと昔のことを思い出していました。」

 

すいせい「なんか難しい顔してたよ。誕生日なんだから、もう少し楽しまないと。」

 

「……そうですね。」

 

影に生きた俺が、今はこうして光の中にいる。

 

それが不思議で仕方なかった。

 

フブキ「よし!それよりさ、すいちゃんなんか渡すんじゃなかった?」

 

すいせい「あっ!そうだった......これ、天津さんに。」

 

そう言って、すいせいが小さな箱を差し出す。黒いリボンで丁寧に包まれた、上品な包装だ。

 

「俺に、ですか?」

 

「うん、誕生日プレゼント。」

 

そう言われても、正直戸惑う。誕生日を祝われることなんて、今までの人生でほとんどなかった。ましてや、こうして誰かが自分のために何かを用意してくれるなんて――。

 

「ありがとうございます。」

 

ぎこちなく受け取ると、すいせいは少し満足そうに笑った。

 

フブキ「おおー、開けてみなよ。」

 

「では……失礼します。」

 

リボンを解き、慎重に箱の蓋を開ける。中に入っていたのは――シンプルなデザインの腕時計だった。

 

「これは……?」

 

すいせい「天津さんっていつも時間気にしてるじゃん?だから、仕事でも使えるようなものがいいかなって。」

 

「……なるほど。」

 

確かに俺は時間の管理には気を遣うほうだ。だが、それを覚えていてくれて、こうして贈り物にしてくれるとは思わなかった。

 

「すいせいさん、ありがとうございます。大切にします。」

 

すいせい「ふふ、よかった。」

 

フブキ「いやー、なんかいいねぇ!天津さんも嬉しそうで。」

 

「そんなに顔に出ていますか?」

 

フブキ「ちょっとね?」

 

すいせい「もっとちゃんと喜んでいいんだよ?」

 

「……精一杯、喜んでいるつもりなんですが。」

 

そう言うと、二人はクスクスと笑う。

 

フブキ「まあまあ、それよりケーキ食べようよ!せっかく用意したんだからさ!」

 

俺は腕時計を手に取り、静かに眺めた。

 

影に生き、影に死んだ俺が、今はこうして温かな時間を過ごしている。

 

誕生日とは――こんなにも、優しいものだったのか。




自我失礼します
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