OCG・マスターデュエルデッキ使いの行くGX世界〜ヲーと記憶喪失メンヘラを添えて〜   作:名無しのモンスター

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はじめましての方ははじめまして、名無しのモンスターです。

今回からふと思いついた遊戯王の小説に挑戦してみたいと思います。

なのに原作未修というね……大丈夫だろうか(オイ)

とりあえず知ってる範囲で好きな事をやってるんだなって感じで読んでくださると幸いです、はい。


1期目
ドラゴンメイドvs試験デュエル


 

 デュエル・アカデミア。

 超有名企業・海馬コーポレーション社長である海馬瀬人がオーナーを務めている、カードゲーム『デュエルモンスターズ』専門の学校で、寄宿制のデュエリスト養成学校である。

 孤島に設立されたその学園では、学生達が一流のデュエリストを目指して今でも切磋琢磨している。彼等が主に目指しているのはプロデュエリストであろう(個人的偏見)。

 

 その学園に入学するための実技試験会場に、一人の少年が自分の出番はまだかと、自分の席で水筒に入れた麦茶を飲みながら待機していた。

 彼の名前は王辻 翼。肩辺りにまで伸ばしている金髪を一纏めに結い、首に4:3の四角い大きな水色の水晶のペンダントを二つも掛けている、顔立ちの整った細身長身の美形男子だ。

 このまま自分の出番を待つのも気が引けると感じたのか、一度確認し終えていたデッキの中身の再チェックをしていると。

 

『次、試験番号15番』

「あ、俺か。よっしゃ行くか」

 

 アカデミア試験者を呼ぶアナウンスが流れ、それが自分を呼んでいるのだと理解したのか、すぐにデッキをカードケースにしまいリュックの中にある()()()()()と共に持ち運んでいった。

 

「ってか俺は15番か。ということは、筆記試験は思ったよりも結構良かったんだな。ヒヤヒヤしたぜ」

 

 試験には筆記と実技の二種類が行われる。一番重要視されるのは実技であるが、デュエルモンスターズ──デュエルをする当たって大事な知識をどれほど持っているのかという点では、試験に合格するのに必須な内容だ。

 その成績の良さが、実技試験を行う順番を決めるシステムとなっている。そしてこの試験に参加している者は120人程もいる。そのためか、翼は自分の試験番号が低いことに安堵しているのだ。

 

 深呼吸をしながら気持ちの切り替えをしている内に、翼は上が黒で下が白のジャージを着ている黒髪の初老の男性が立つ試験フィールドへと到着する。

 

「君が試験番号15番の、王辻 翼だね? 私が試験官の滝沢だ。君のデュエルタクティス、抜け目無く見定めるから全力で挑むがいい‼︎」

「は、はい‼︎ よろしくお願いします‼︎」

 

 思ったよりも熱血漢だな。ってか服装がジャージて。翼は二連続で内心ツッコミを入れるも、そのジャージを着た試験官の滝沢が左腕に装着している専用の機械──デュエルディスクを展開して構えているのを確認し、それに続くように同じくデュエルディスクを展開させる。

 双方がデュエルディスクを展開し、構える。となればやる事は一つだ。

 

決闘(デュエル)‼︎」

 

 翼のアカデミア合否を決めるためのデュエルの火蓋が、切って落とされた。

 

 

LP:4000

 

試験官

LP:4000

 

 

「先攻は君からだ」

「わかりました。俺のターン……」

 

 翼がデュエルディスクに装填されているカードデッキのトップに手を置き、その1枚を引こうとした……次の瞬間。

 

「グゥゥゥ……ドロォォォアァアァアァアッ‼︎」

 

 溜めてから鼓舞するように……ではなく、苦虫を噛み潰しているかのような嫌々とした表情をしながらもそれを我慢するように叫び、ドローした。突然の出来事に試験官も動揺を隠せずにいた。

 ちなみにドローした後の翼、何事もなかったかのように叫ぶのを即座にやめ、冷めたような表情となった。うわぁ‼︎ 急に落ち着くなぁ‼︎

 

「ど、どうした? 大丈夫か? どこか痛むのか?」

「あ、いえ。気にしないでください。ただの先攻ドローアレルギーなんで。これ、どうしても自分がやろうが相手がやろうがついやっちゃうんですけど、先攻のドローフェイズが終わればすぐに治まるんで」

「そ、そうか……? 無事ならいいが……」

 

「いや先攻ドローアレルギーってなんだよ」

「なんでそんなに先攻ドローが嫌なんだよ」

「こいつ頭がおかしいぜ」

 

 続行しても問題ないことに試験官が胸を撫で下ろす中、翼の実技試験を見ていた他の受験者が異端者を見ているかのような陰口を叩き始める。

 陰口を叩かれ始めたことに察し、翼は顔を真っ赤にしながらも1枚のカードをデュエルディスクにセットする。

 

「俺は手札から【ドラゴンメイド・ラドリー】を召喚します」

 

 

【ドラゴンメイド・ラドリー】

ATK:500

DEF:1600

 

 

 するとどうだろうか。突如として翼の目の前に、青い龍の尻尾と耳のついた低身長のランドリーメイドの少女が現れたではないか。それも出現する寸前に眩い光沢を放ちながら。しかもフンスッとしたポーズをして。動いた。

 しかし、デュエルディスクを使用してのデュエルで、モンスターがソリッドビジョンで具現化することは日常茶飯事となっている。そのため、誰も突然のモンスターの登場に驚きはしないのだ。

 

「キャー‼︎ 何あの子可愛いー‼︎」

「あんな可愛いモンスターいたか⁉︎」

「ラドリーちゃん、だっけ? こっち向いてー‼︎」

「このロリコンどもめ!」

「こいつ頭がおかしいぜ」

 

 まぁ、今回に関してはモンスターに対する黄色い声援が多く飛び交ってはいるが。

 

「えっと……ド、【ドラゴンメイド・ラドリー】の効果を発動します。デッキの上から3枚を墓地に送る。頼むぞラドリー」

 

 黄色い声援に戸惑いながらも、翼はラドリーの持つ効果の発動と効果の説明をし、彼女に指示というお願い事をする。

 ラドリーがそれに頷いた途端、どこからともなく現れた洗濯物の入ったカゴの山を持ち上げ始める。ふらつきそうになりながらもそれを地面にゆっくりと置いたのに合わせて、翼はデッキのカードの3枚をデュエルディスクの墓地ゾーンに入れた。

 そして、墓地ゾーンに行ったカードの確認をすれば……

 

「よし、中々の落ちだったぞラドリー。助かる」

 

 墓地に送っても問題ない、または墓地に送られた方が効率良いカードが墓地に行ったのか、翼はラドリーに褒め言葉を送る。それを聞いたラドリーは気恥ずかしくも笑顔で頭を掻いた。

 ラドリーのこの反応に微笑んだ翼は、次の行動へと移した。

 

「もちろん先攻は攻撃できないので、俺はこのままカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 相手ターンに発動できるカード、または相手に除去されても問題ないとされている魔法(マジック)(トラップ)カードを裏側表示でセット。同じ表示形式となる巨大なカードのソリッドビジョン2枚を目の前に出現させ、翼は自分のターンを終えた。

 

 

LP:4000

手札:3枚

フィールド:

【ドラゴンメイド・ラドリー】ATK:500

伏せカード2枚

 

 

「ふむ……なるほど。墓地にカードを送り込むことで、君のデッキは何かしらの機能を働くだろうと見た。だがいいのかい? 攻撃力500のモンスターを攻撃表示にして。それより攻撃力の高いモンスターと戦闘を行えば破壊されて、その差分だけダメージを受ける……その事を忘れてしまったのかね? 表側守備表示でも出せるし、その方が戦闘破壊されてもダメージを受けないぞ?」

 

 彼のこのターンでの行動を見て、自身なりに分析したことを口にした試験官。そして攻撃力の低いモンスターを守備表示で出さなくてよかったのかと問いかけると、翼は微笑みながらその問いに答える。

 

「分かってますよ。でも、そういうところの対策はきちんとしてますのでご安心を」

 

 デュエリストとしての腕前が優秀か素人並かはともかく、このまま何もしなければ不利になることは概ね理解していた翼。その上での対抗手段を持っているようだ。

 それを微笑みながら説明したと思えば、何故か不満気な表情を浮かべ出す。

 

「それに……」

「それに?」

「裏側表示や特殊召喚によるものならともかく、ただの召喚での表側守備表示なんて甘えですからね」

「………………は?」

 

 先攻ドローがよろしくないと思っているらしい翼、またもや変わった拘りを持っていた模様。これには試験官も呆れたかのような表情を出さずにはいられなかったようだ。

 

「なんだその変な拘りは?」

「確かになんか甘え感はあるだろうけど」

「先攻ドローと言い表側守備表示での召喚と言い、なんで嫌な行為ばっかあるんだこいつ」

「こいつ頭がおかしいぜ」

「お前はそれしか言えんのか」

 

 無論、他の受験者もここでも陰口を叩くしかなかった。翼が嫌がっていることが他のデュエリストにとっては当たり前の事だと思っているようだ。翼と他のデュエリストでデュエルの見解が違うのだろうか。

 

「ま、まぁいい。次は私のターンだ、ドロー‼︎」

 

 試験官、気を取り直してと言うかのようにカードを力強くドローした。

 

「私は【ブラッド・ヴォルス】を召喚‼︎」

 

 

【ブラッド・ヴォルス】

ATK:1900

DEF:1200

 

 

 試験官の前に現れたのは、斧を武器に持ち、龍の顔の骨を兜にしている屈強な悪魔だった。

 戦闘狂かと思われるが、幼女とも言えるラドリーが相手フィールドにいるのを見て『え……?』と戸惑う様子を見せた。幼い子供を相手にするのはさすがに気が引けるのだろうか。

 

「念には念を入れよう。装備魔法【一角獣のホーン】を【ブラッド・ヴォルス】に装備させる‼︎ 装備されたモンスターの攻撃力は700ポイントアップする‼︎」

 

 兜の額に既に付けてある角が、ユニコーンの持つ角のように鋭利的に伸びる。その角の力によるものなのか、【ブラッド・ヴォルス】は体から一瞬の輝きを放ち雄叫びを上げる。

 

 

【ブラッド・ヴォルス】

ATK:1900→2600

 

 

「バトルフェイズだ‼︎ 私は───」

「自分または相手のバトルフェイズ開始時、【ドラゴンメイド・ラドリー】の効果は発動されます」

「む!? このタイミングでの発動だと⁉︎」

「自分・相手のバトルフェイズ開始時、このカードを持ち主の手札に戻し、自分の手札・墓地からレベル7の【ドラゴンメイド】モンスターを1体選んで特殊召喚することができます。いけ、ラドリー‼︎」

 

 翼がラドリーに合図を送れば、彼女は両腕に力を入れながら某バトル漫画でありがちな気を溜めるポーズを取り始める。

 するとどうだろうか。一瞬にしてラドリーの体全体が眩い光に包まれ、徐々に姿・形・身長が大きく変わっていく。

 

「本来の姿へと変化せよ、【ドラゴンメイド・フルス】‼︎」

 

 

【ドラゴンメイド・フルス】

ATK:2600

DEF:1600

 

 

 光が収まった時には、ラドリーは既に別の姿──龍そのものへと変化させていた。小さな龍を思わせる二本角と愛嬌のある瞳の要素はそのままに、2・3メートルはあるだろう細長い体躯を、上半分は青、下半分は白の程良い質感・質量の体毛で覆っていた。

 

「マジかよ⁉︎ 変身した⁉︎」

「ってかあの子ってドラゴンだったんだ⁉︎」

「人間の姿で尻尾があるのも納得だな……」

「ドラゴンの姿も、これはこれで可愛い……‼︎」

 

 当然ラドリーの突然の変化に、他の受験者は騒然としていた。可愛い女の子が突然異種化したような状況に立ち会ったのだ、驚くのも無理もない。

 

「まさか手札の上級モンスターと入れ替わる形で変身する効果を持っているとは……だがそのモンスターの攻撃力は2600。私の今の【ブラッド・ヴォルス】と互角であるため、このままいけば相打ちとなる。このままいけば……な」

「その言い方、まるでそちらも対抗手段があるのだと言っているような言いようですね」

「その通りだ。よって私は【ブラッド・ヴォルス】で【ドラゴンメイド・フルス】を攻撃‼︎」

「迎え撃て、フルス‼︎」

 

 斧を両手で持った【ブラッド・ヴォルス】が飛び上がり、フルス目掛けてその斧を振り下ろす。対するフルスは一回転しながら尻尾を勢い良く振るい、斧を受け止め鍔迫り合いとなる。

 

「ダメージ計算前、速攻魔法【収縮】を発動‼︎ フィールドのモンスター1体の元々の攻撃力をターン終了時まで半分にする‼︎」

 

 

【ドラゴンメイド・フルス】

ATK:2600 → 1300

 

 

 試験官がこのタイミングに使用可能なカードを使用した途端、フルスの体に紫色の光が膜のように照らされた。それに合わせるようにフルスの攻撃力が変動して【ブラッド・ヴォルス】の攻撃力を下回ってしまい、尻尾が斧に押され始めてしまう。

 このままいけばフルスは【ブラッド・ヴォルス】との戦闘に負けて敗北し、翼のライフポイントが削られてしまうが……

 

「その【収縮】の効果適用後、まだダメージ計算に入っていないのでここで手札の【ドラゴンメイド・フランメ】の効果発動‼︎ このカードを手札から捨てることで、自分フィールドの【ドラゴンメイド】1体の攻撃力はターン終了時まで2000ポイントアップする‼︎」

「何⁉︎ 手札から仲間の攻撃力を変動させる効果を発動できるモンスターまでいるのか⁉︎」

「これで【ドラゴンメイド・フルス】の攻撃力は3300になる‼︎」

 

 翼も突然のステータス変動への対策を取っていないわけではなかった。

 フルスの背後に突然ゆっくりと降下してきたのは、青い角と身体を覆う鱗を持つ、上半分が赤くフルスよりも身体周りの一回り大きい龍だった。

 その龍が両手で抱えている赤い光の球体をフルスに差し出せば、それはフルスの体内へと入った途端、紫色の光の膜が赤色に変わり、フルスが可愛らしさがありながらも気高い雄叫びを上げる。

 

 

【ドラゴンメイド・フルス】

ATK:1300 → 3300

 

 

「いけ、フルス‼︎ 叩き潰せ‼︎」

 

 翼の指示に呼応するように、フルスはその尻尾で【ブラッド・ヴォルス】を押し出し、そのままの勢いで地面に叩き落とした。

 【ブラッド・ヴォルス】はソリッドビジョンによる地面にクレーターが生まれた演出によるものと、それによる衝撃の二つが重なったからなのか、破裂して一欠片毎に小さく割れたガラスのように消滅した。

 それと同時に仲間が戦闘を終えたのを確認したのか、赤い龍──フランメは上空に飛び上がって何処かへと飛んで消えていった。

 

「ッ‼︎ やるじゃないか……‼︎」

 

 

試験官

LP:4000 → 3300 (3300 - 2600 = 700)

 

 

「装備魔法は装備モンスターがフィールドからいなくなれば破壊され墓地に送られるが、【一角獣のホーン】は墓地へ送られた場合、強制的にデッキの一番上に戻る」

 

 モンスターが破壊されたことによる風圧に襲われるも、それに臆せず試験官は効果の発動が可能なカードの処理を行い、次の行動へと移る。

 

「メインフェイズ2へと入───」

「その前に【ドラゴンメイド・フルス】の効果を発動します」

「まだ何かあるのか⁉︎」

「自分・相手のバトルフェイズ終了時、このカードを手札に戻し、手札のレベル2の【ドラゴンメイド】を1体特殊召喚できます」

 

 戦闘を終えて疲れたのか、フルスが一つ深呼吸をした途端、一瞬にして光に包まれたかと思えば、翼の持つカードと同じ大きさ・形状となって彼の手札へと戻っていった。

 

「本当は【ドラゴンメイド】の設定的に、変身先であるラドリーに戻したいところですが、勝利優先でこいつを出します。来い、【ドラゴンメイド・ナサリー】‼︎」

 

 

【ドラゴンメイド・ナサリー】

ATK:500

DEF:1600

 

 

 フルスがいた位置に新しく現れたのは、看護師──ナースを彷彿とさせるメイドの衣装を着た、ピンクの髪と龍の尻尾を持つ美少女。右腕にはナースが持つカルテを抱えていた。

 

「おぉ、美少女だ‼︎」

「あんな綺麗な子もメイドなのか‼︎」

「えぇなアイツ、あんなモンスター持ってて‼︎」

「羨ましい……‼︎」

「大人のお姉さんいいね⭐︎」

 

 黄色い声援も、ラドリーに負けない……というよりは多めに聞こえ始めてきた。特に男性陣から。男ってば単純。

 

「【ドラゴンメイド・ナサリー】の効果発動‼︎ このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、ナサリー以外の自分の墓地のレベル4以下の【ドラゴンメイド】モンスターを1体、対象を取って特殊召喚することができる。【ドラゴンメイド・ティルル】を特殊召喚‼︎」

「ラドリーで墓地に送られたカードの1枚か‼︎」

 

 

【ドラゴンメイド・ティルル】

ATK:500

DEF:1700

 

 

 ナサリーがカルテを確認する仕草を見せたのと同時に現れたのは、赤いロングヘア―とフランメと同じ青い二本角を持つ、エプロン調のメイド──スティルルームメイド服を着た美少女だった。

 

「【ドラゴンメイド・ティルル】の効果発ど───」

 

 早速彼女の効果を発動……しようとした矢先、翼は尻目にティルルを見た途端に固まってしまった。それも今にも苦笑いしそうな表情で。

 ティルルがドレススカートを清く正しくかつ優雅に両手で持ち、翼に向けて一礼した。ここまでは別に翼も気にしていなかった。だが、問題はその後だった。

 

『……♡』

 

 ティルル、頭を上げた途端、目をハートにした笑顔で翼を見つめてきたのだ。しかも何やら荒い息を吐いているようにも見える。『活躍するので見ていてください』と言っているように見えて、何やら良からぬ事を思っていそうな様子だ。

 

「あぁ、えっと……」

「………………」

 

「な、なんかあのモンスターだけ様子がおかしくね?」

「まるで雌みたいな顔をしてやがる……」

「まさか、調教⁉︎」

「ソリッドビジョンのモンスターをどう調教しろと言うんだよ」

「じゃあなんで目をハートにしてんだあの子は?」

「スタイルはめっちゃいいんだけど、なんだろうな……」

「デカくはあるけどね……」

「あーう⭐︎」

 

 ここまでの翼の他のモンスターとは全く異なるリアクションを見せるティルルに、さすがの試験官も呆然とせざるを得ない様子だった。それに気づいた、この場面でも黄色い声援を出しそうなはずの他の受験者達も。

 

「そ、その……すみません。こ、これはそういう仕様にするために、デュエルディスクを改造したとかではないですよ? 俺も何故このモンスターがこんな顔をしているのか分からなくて……」

「あ、いや……別に責めたりとかする気はないが……」

「ティルル、デュエルに集中」

『……‼︎』

 

 試験官にデュエルディスクの細工はしていないことを伝え、ティルルに正気に戻るよう促す翼。彼の呼ぶ声に気づいた彼女は我に返り、すぐにその場で頭を下げる仕草で謝罪の念を伝える。

 ちなみにこの一部始終を隣で見ていたナサリーは苦笑いを浮かべていた。このような光景を間近で見ていれば、複雑な感情になるのも無理もない。

 

「えー……気を取り直して【ドラゴンメイド・ティルル】の効果を発動します。デッキから【ドラゴンメイド】モンスターを1体手札に加え、手札の【ドラゴンメイド】モンスターを1体選んで墓地に送ります。ここは……そうだな。【ドラゴンメイド・ルフト】を手札に加え、【ドラゴンメイド・フルス】を墓地へ」

 

 ティルルが左腕で生クリームの入ったボウルを抱えると、右手の泡立て器でその生クリームをかき混ぜ始める。

 そして泡立て器を持ち上げ生クリームのツノを作ったと思えば、それは1枚のカードを生成して翼の手札へ。さらに翼がフルスのカードを墓地に送ったのに合わせ、生クリームの中心がフルスの姿を形取った。

 効果の発動処理を終えた事を確認し、翼が1人静かに頷くと、それを見たティルルが歓喜した表情を浮かべた。が、すぐにハッと我に返り気を引き締める。何この子、可愛い。

 

「えぇ……これでバトルフェイズ終了時のカードの発動は終わりましたけど……大丈夫ですか?」

「あぁ……コホンッ。カウンター戦法とそのアフターケアの両方ができる事には驚かされたが、私もただやられるだけのままにはならないぞ‼︎ このままいけばモロに攻撃を受ける可能性が高いのでな、ある程度の守備態勢を取らせてもらう‼︎」

 

 先程のティルルとの一連の流れで、試験官の思考が止まってしまったのだろうかという不安を感じていた翼。効果処理後すぐさま試験官に問いかけるも、やはり彼もデュエリスト。如何なる事態が起きようとも状況を作ることに集中するつもりのようだ。

 

「メインフェイズ2。魔法(マジック)カード【黙する死者】を発動‼︎ 自分の墓地の通常モンスターを守備表示で特殊召喚する‼︎ 蘇れ、【ブラッド・ヴォルス】‼︎」

 

 地面から放出するように出てきた光から、フルスに戦闘破壊された【ブラッド・ヴォルス】が姿を現す。それも斧を抱えながらしゃがみ込み、防御の体勢を取っていた。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンドだ‼︎」

 

 リバースカードを用意し、次のターンに備える準備を整えた……その時だった。翼がまた動いたのだ。

 

「エンドフェイズ時にリバースカードを2枚オープン‼︎」

「2枚全てをここで発動だと⁉︎」

「セットカードは速攻魔法【サイクロン】と(トラップ)カード【砂塵の大竜巻】。【サイクロン】は自分または相手フィールドの魔法・罠カードを、【砂塵の大竜巻】は相手フィールドの魔法・罠カードのみを1枚破壊する。よってそれぞれの効果で2枚の伏せカードを破壊する‼︎」

 

 突如翼が発動させ、起き上がらせた2枚のリバースカードから2種類の竜巻が発生。それらは試験官が伏せた2枚のリバースカードを飲み込み、ガラスの如く割ってしまった。

 

「クソッ、【落とし穴】と【リビングデッドの呼び声】が……‼︎」

 

 【落とし穴】は相手が攻撃力1000以上のモンスターを召喚・反転召喚した時にそのモンスターを破壊する(トラップ)カード。

 【リビングデッドの呼び声】は自分の墓地のモンスターを攻撃表示で出し、このカードがフィールドを離れるまでそのモンスターがフィールドを離れるまでの間留まらせる永続(トラップ)カード。

 2枚とも使用された時の受験者の対抗策云々があるかどうかを見定めるために、試験管のデッキに入れられたカードではあるものの、それをセットした途端に2枚とも破壊された。その事実に試験官は動揺せざるを得なかった。

 

「(まさか2枚とも魔法・罠カードを破壊するヤツだったとは……‼︎ 下級モンスターの低さをバトルフェイズ開始時によるモンスターの入れ替えで補える分、次のターンに繋げるための妨害に回しやすくしているということか……‼︎)」

 

 万全の態勢を整えられなかったことを悔やむも、試験官は翼に対してこう評価した。天晴れ、と。

 

 

LP:4000

手札:2枚(【ドラゴンメイド・ラドリー】1枚、【ドラゴンメイド・ルフト】1枚)

フィールド:

【ドラゴンメイド・ナサリー】DEF:1600

【ドラゴンメイド・ティルル】DEF:1700

 

試験管

LP:3300

手札:1枚

フィールド:

【ブラッド・ヴォルス】DEF:1200

 

 

「俺のターン、ドロー‼︎ 【ドラゴンメイド・ラドリー】を召喚‼︎ ここでは効果の発動はしない‼︎」

 

 

【ドラゴンメイド・ラドリー】

ATK:500

DEF:1600

 

 

 再び少女のメイド──ラドリーが出現し、少々不安じみた表情で翼の表情を確認する。そして彼が自分の効果の発動を見送ると宣言したのを聞いてホッと胸を撫で下ろす仕草を見せた。

 ラドリーの墓地肥やし効果は、【ドラゴンメイド】の進化形態やナサリーの効果の蘇生要因を多く準備しやすくするのに良いカードではある。だが墓地に送られる3枚のカードはランダム制となっており、重要性のあるカードを落としてしまうリスクがある。

 それをラドリーも理解していたためか、翼がその効果を連続で使用してしまわないかと不安に感じていたようだが、その心配はないと確信したのか、先程のリアクションを見せていたのだ。

 

「さてと……今の俺の盤面なら、3体を墓地の上級【ドラゴンメイド】に入れ替えれば、このターンで貴方のライフを削り切ることができますが……そちらの手札に戦闘ダメージを0にさせる【クリボー】などがいるパターンも考えられるので、こうします」

「……? 一体何をするつもりなんだ?」

 

 翼の宣言に試験官が首を傾げていると……翼はデッキとは別のゾーンにセットされているもう一つのデッキから、1枚のカードを取り出してそれを試験管に見せつけた。

 

「エクス……じゃなかった、融合デッキのこのカードは、自分のフィールド及び墓地から1体ずつ、同じ属性でレベルが異なる【ドラゴンメイド】モンスターを除外した場合のみ、ここから特殊召喚することができます」

「何⁉︎ 【融合】カード無しで出せる融合モンスターだと⁉︎」

 

 融合モンスター。基本的には魔法カード【融合】を用い、指定されたモンスターを融合素材として手札・フィールドから墓地に送ってから、融合デッキと呼ばれるもう一つのデッキから特殊召喚されるモンスターの事である。

 呼び出すのに必要なパーツとなるカードを揃えないといけないという、一手間掛かる行動で出す分、ステータスが高かったり効果が普通のモンスターよりも強かったりするモンスターが多いのが特徴的である。

 だが、翼がこれから呼び出そうとしているモンスターはあまりにも特殊だった。【融合】カードを必要とせず、融合素材をフィールド・墓地に揃える必要があり、しかもそれらを除外することによって呼び出せるものとなっていた。正しく『特殊』召喚と言っても良いだろう。

 

「俺のフィールドには水属性でレベル2のラドリーが、墓地には水属性でレベル7のフルスがいる。よってエク……融合デッキから特殊召喚するための条件はこれで満たされた‼︎」

 

 ラドリーが両手を組み、何かを祈るかのようなポーズを取る。するとどうだろうか。彼女の変身体であるはずフルスが、半透明の姿でラドリーの背後に出現したではないか。

 フルスらしきその龍がラドリーを包み込むように優しく抱きついた途端、2人──1人と1匹の体は1つの光となって全身を包まれ、やがて足して割っているかのように縮小しながら姿形を変え始める。

 

「同じ従者である仲間に導かれ、光の従者よ、今ここに‼︎ 融合召喚‼︎ いでよ、【ドラゴンメイド・ラティス】‼︎」

 

 

【ドラゴンメイド・ラティス】

ATK:2000

DEF:3000

 

 

 光が収まった時には、先程まで祈りの態勢を取っていたラドリーとフルスの姿はなく、代わりに豪華なドレスを身に纏ったプラチナブロンドの髪のレディースメイドの美少女が立っていた。

 

「お、おぉ……‼︎」

「綺麗……」

「可憐だ……」

「ふつくしい……」

「beautiful……」

「今誰か饒舌に英語で言わんかった?」

 

 新たな【ドラゴンメイド】モンスター・ラティスの姿にまたもやざわめく受験者一同。だがそれは黄色い声援によるものではなく、ラティスの美麗な姿に圧倒されている反応であった。

 

「【ドラゴンメイド・ラティス】の効果発動‼︎ このカードが特殊召喚した場合、デッキからレベル4以下の【ドラゴンメイド】モンスターを1体特殊召喚することができる‼︎」

 

 ラティスの目の前にエメラルドとも言える緑色の宝玉が浮遊して現れ、それに目掛けてラティスが両手を翳す。するとその宝玉は輝き出し、そこから人の形を形成し始めた。

 

「来い、【ドラゴンメイド・パルラ】‼︎」

 

 

【ドラゴンメイド・パルラ】

ATK:500

DEF:1700

 

 

 形成と輝きが終わり、宝玉は1人の【ドラゴンメイド】となった。ネックラインが露出し、スカート丈の短いフレンチメイド風のメイド服を着用している黄緑色の髪の美少女である。

 その少女は何やらケーキの生地らしきものを頬につけており、緩んだ口をモゴモゴと動かしていたが、現状に気づいたのか気まずいと言っているかのように目を見開き、口周りをハンカチで拭きながら口の中の物をゴクンッと飲み込んだ。サボってたのかこのメイドは。

 

「【ドラゴンメイド・パルラ】の効果発動‼︎ 召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから【ドラゴンメイド】カードを墓地に送ることができる。【ドラゴンメイド・エルデ】を墓地へ」

 

 突如どこからか出てきた受け皿付きのティーカップとティーポットを手に取り、ポットの中の紅茶をカップの中へと優雅に注ぎ込むパルラ。注ぎ終わった紅茶の中には、これまで翼が使用・手札に加えたドラゴンの姿とは異なる【ドラゴンメイド】のシルエットが映し出されていた。

 

「融合モンスターからさらに仲間を呼び出し、手札にも墓地にも下級モンスターの入れ替え先を備えるとは……」

「まだですよ。永続魔法【ドラゴンメイドのお出迎え】を発動‼︎ このカードがフィールドにいる限り、俺のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、俺のフィールドの【ドラゴンメイド】モンスターの数×100ポイントアップする‼︎」

「いやいくらなんでも念を入れすぎではないか⁉︎」

 

 

【ドラゴンメイド・ラティス】

ATK:2000 → 2400

DEF:3000 → 3400

 

【ドラゴンメイド・ティルル】

ATK:500 → 900

DEF:1700 → 2100

 

【ドラゴンメイド・ナサリー】

ATK:500 → 900

DEF:1600 → 2000

 

【ドラゴンメイド・パルラ】

ATK:500 → 900

DEF:1700 → 2100

 

 

 翼が新たなカードの発動をした途端、【ドラゴンメイド】の体にそれぞれのイメージカラーとなるオーラらしきものが宿り始める。【ドラゴンメイド】の数だけ変動するとはいえ、ラティス以外の【ドラゴンメイド】は攻撃力が低めのため微妙に見られることだろう。今のままでは、だが。

 

「バトルフェイズに入り、ティルル・ナサリー・パルラの効果発動‼︎ 彼女達もラドリーと同じように、手札・墓地の上級【ドラゴンメイド】へと変身する‼︎ ナサリーはラドリーと同じくレベル7とだけど、ティルルとパルラはレベル8のへと変わる‼︎」

 

 ラティスが【ドラゴンメイド】達の前に立ち、ドレススカートの裾を両手で持ちながら一礼する。まるでこれから仲間達の演技を披露させますと伝えているかのように。

 それと同時に、ラティスを除く【ドラゴンメイド】一同の背中からそれぞれのイメージカラーを持つ龍の翼が生え、【ドラゴンメイド】達はそれを大きく広げた。それと同時に彼女達の全身が光に覆われていく。

 

「ティルルを墓地の【ドラゴンメイド・フランメ】へ、ナサリーを墓地の【ドラゴンメイド・エルデ】へ、パルラを手札の【ドラゴンメイド・ルフト】へと変貌‼︎」

 

 

【ドラゴンメイド・フランメ】

ATK:2700 → 3100

DEF:1700 → 2100

 

【ドラゴンメイド・エルデ】

ATK:2600 → 3000

DEF:1600 → 2000

 

【ドラゴンメイド・ルフト】

ATK:2700 → 3100

DEF:1700 → 2100

 

 

 ティルルは前のターンでフルスに効果付与をしに現れたフランメの姿に、ナサリーはナース帽腹部に被ったままナース服の模様が施された龍に、パルラは腹部に白・背中に濃い緑色の羽毛を持っている黄緑色の龍へと姿を変えた。

 そして出現したのと同時にステータスも【ドラゴンメイドのお出迎え】によって上昇。フランメの効果を使わずとも攻撃力が3体とも3000以上となったのだ。

 

「攻撃力3000が3体も⁉︎」

「しかもその内の2体はそれを超えてるぞ⁉︎」

「海馬社長の【青眼(ブルーアイズ)】にも負けてねェ……‼︎」

「ヤバいよヤバいよ」

 

 永続魔法の効果によるものとはいえ、攻撃力3000以上のモンスターが複数並ぶという状況はあまり無いらしく、他の受験者達の度肝を大きく抜かしていた。まるでプロデュエリストのデュエルを見ているかのように。

 

「(下級モンスターの低い攻撃力のカバーや防御手段への対策だけでも高いテクニカルだというのに、その上でさらにここまで魅せるのか……完敗だな、これは)」

 

 今の翼の盤面だけでなく、ここまでのデュエルの流れを思い返しながらの評価として、試験管は彼のデュエルタクティスに太鼓判を押さざるを得なかった。

 

「バトル‼︎ 俺は【ドラゴンメイド・エルデ】で【ブラッド・ヴォルス】を攻撃‼︎ ディフェンドブラスト‼︎」

 

 エルデが口内からピンク色の光を溜め込み、それを一筋の太い奔流──レーザーとして放たれた。それは【ブラッド・ヴォルス】を全身丸ごと飲み込み、爆発を巻き起こし消滅させた。

 試験官のフィールドにモンスターがいなくなった。となれば、後はもうお分かりだろう。次の攻撃からは、試験官のライフポイントが攻撃力分減らせるのだ。

 

「次に【ドラゴンメイド・ルフト】でダイレクトアタック‼︎ フレンツブラスト‼︎」

 

 続けてルフトがエルデと同じ流れで黄緑色の奔流を放ち、試験官の足元の地面に当て爆発のソリッドビジョンを発生、それによる風圧を巻き起こした。

 

「ぬおおおっ⁉︎ 演出によるものかは分からんがすごい迫力だな‼︎」

 

 

試験官

LP:3300 → 200(3300 - 3100 = 200)

 

 

「そして【ドラゴンメイド・フランメ】でダイレクトアタック‼︎ スウィーティーブラスト‼︎」

 

 最後にフランメが他の龍達と同じように赤い奔流を放ち、ルフトと同様に試験官の近くの地面に爆発のソリッドビジョンを発生させた。それもルフトと同じ攻撃力のはずなのに、その時よりも高い風圧を巻き起こしながら。

 

「完敗だ……ッ‼︎」

 

 

試験官

LP:200 → 0(200 - 3100 = -2900)

 

 

 デュエルの勝敗が決したのと同時に、翼の目の前にあった【ドラゴンメイド】達も【ドラゴンメイドのお出迎え】も光の粒子となりながら消えていった。デュエルが終了した以上この場に留まらせる必要はないという、デュエルディスクのシステムによるものだろうか。

 

「見事なデュエルだった‼︎ これにて試験は終了だ‼︎ 合格発表は後日通達するので楽しみにしていたまえ‼︎」

「はい、ありがとうございました」

 

 何はともあれ、これで翼のデュエルアカデミアの実技試験デュエルは終了となった。翼は試験官に一礼し、そそくさと試験会場を後にするのだった。

 

 余談だがこのデュエル中、ラティスは自分は攻撃に参加できない事実を知って豆鉄棒を食らったような表情を浮かべたのだとか。結局モンスターを増やす意味はなかったようなそうでもないような。

 

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミアの試験会場を後にし、自分の家・何の変哲もない男子の部屋へと戻ってきた翼。部屋に入ってすぐに持っていった【ドラゴンメイド】デッキを取り出し、7枚のカードを引き抜いては勉強机に並べた。

 

「お前ら、もう出て来ていいぞ」

 

 翼がそう呟いた途端、突然引き抜かれた全てのカードが浮遊し、それを中心に等身大と言ってもいい程の大きさとなる人型の光が生成され始める。そして実際の人間がいるかのように、カードのイラストに合わせて色がつけられていく。

 そして、全ての光にカードのイラストに合わせて色が付けられたと思いきや……

 

 

『『『『『『『ご主人様。デュエルアカデミアの合格とオベリスク・ブルーへの編入、おめでとうございます』』』』』』』

「いやまだ合格したわけじゃないからな?」

 

 

 なんと‼︎ デュエルを行っているわけでもデュエルディスクを起動したわけでもないのに、【ドラゴンメイド】となった光だったものが全員人間そのもののように動き出した‼︎

 それも翼に向けて忠義を表しているかのように一礼‼︎

 しかも全員声を出した‼︎

 こんな事が現実であり得るだろうか⁉︎ 否‼︎ 断じて否‼︎

 ちなみに翼は慣れてるか全く動じてない‼︎ なんかズルイ‼︎

 

「実技試験で俺はお前達【ドラゴンメイド】のみんなを使って、攻撃力3000以上を並べて試験官に勝った。だけど実技試験で勝ったからってオベリスク・ブルーへ入れるとは限らないぞ? なんか複雑な条件もありそうだし。下手すれば変なミスとかでオシリス・レッドの可能性だって……まぁ階級がなんてのはそんなに気にしてないって理由で調べてないから知らんけど」

 

 翼が【ドラゴンメイド】の思うような事が今後起きるとは限らないと語るが、それはあながち間違っているわけではない理由があった。

 デュエル・アカデミアには生徒のレベルによって階級が分けられることになっていた。上からオベリスク・ブルー、ラー・イエロー、オシリス・レッドという順番になっており、待遇も激しい。何より高等部からの入学でオベリスク・ブルーから始めた生徒はこれまで1人もいなかったとか。

 そして翼の実技試験。一見余裕の勝利とも言えるデュエルではあったが、その大半はあくまでラドリーの墓地肥やしが運良く成功してできた結果である。もしもそれで運任せによる戦法だったと判定されれば、オシリス・レッド行きの可能性が出てくるだろう。翼はそれを危惧していたのだ。

 

『ご自身を卑下なさらないでください!!』

「ティ、ティルル……?」

 

 そんな翼の不安を、無理矢理にでも払拭しようとする者がいた。デュエル中に目をハートにして翼を見つめていた場面のあった子・ティルルだった。真剣な眼差しで翼を見つめながら言葉を続ける。

 

『その理論がないとは否めませんが、ご主人様は最善を尽くして今回のデュエルに勝利いたしました!! ですので最悪オシリス・レッドに入れられる可能性はないかと……!!』

「わ、悪かった悪かった!! 悪かったよティルル‼︎ 俺が悪かったから落ち着いてくれティルル‼︎ いやマジで!!」

 

 このままだと熱く語り続けるだろうと感じた翼、必死にティルルに呼びかけ制止を試みる。何かを迫られた状況にでも遭っているのだろうか。

 

『ハッ!? も、申し訳ありませんでした。私としたことが大変取り乱してしまいまして……』

 

 翼の必死の呼びかけで我に帰ったのか、ティルルは目を見開いて落ち着きを取り戻し、その場で翼に謝罪した。場の取り乱しなど従者としてあるまじき行為だ、そう言い聞かせながら。

 

『いやティルルがご主人様の事で取り乱すなんてことはちょいちょいあるじゃん───』

『何か仰いました?』

『あっごめんなんでもないよ……』

 

 パルラが何やら指摘を入れようとした途端、ティルルは彼女に顔に影を落としながらの笑顔を向け、萎縮させた。うわおぶちぎれびじょこわい。

 

「けどまぁ……あのデュエルに勝てたのはティルル達のおかげだな。ティルル・パルラ・ナサリーの力があってこその勝利だったし、ラティスとラドリーもそれに繋げてくれたしな。本当にありがとう」

 

 翼がそう呟きながら【ドラゴンメイド】の5人──実技試験にて翼に召喚された者達──に感謝の意を伝えれば、それぞれが照れたり喜びを示したりと、少なくとも満更でもない反応を見せる。特にティルルは歓喜丸出しの明るい表情だ。

 

『ご、ご主人様……‼︎ そう言ってくださるとはティルルは感激です‼︎』

『ありがとうと言いたいけど……うーんこのっ』

『うふふっ。お役に立てれたのでしたら何よりです』

『心より感謝いたしますの。……今回は攻撃に参加できませんでしたが』

『ラドリーも墓地肥やしが運良くてよかったです‼︎』

 

 ティルルは先述通り。パルラは素直に喜ぶべきかと悩む。ナサリーは緩やかで優しさのある微笑みわ浮かべながら。ラティスは活躍し足りなかったこと対する不服感で頬を膨らませながら。ラドリーは内心焦りを抱えながら。

 それぞれがそれぞれの反応を見せているのを見ながら、翼は残る2人の【ドラゴンメイド】の方へと顔を向ける。それも罪悪感を持っているかのような表情で。

 

「それと……チェイムとハスキーはすまなかったな。今回のデュエルでは出番を渡せなくて」

 

 前頭部のみを出しているメイドキャップを被り、スクエア型の眼鏡を掛け、クラシカル調のメイド服を着込んでいる黒髪の女性・【ドラゴンメイド・ハスキー】。

 ティルルのと似たロングスカート付きで手首から先と首から上のみの肌を出している黒いメイド服を着ている長い銀髪の女性・【ドラゴンメイド・チェイム】。

 彼女達も当然【ドラゴンメイド】ではあるものの、実技試験では翼に召喚──呼び出されることはなかった存在だ。彼女達が出なくても勝てる状況だったとはいえ、翼はその事を申し訳なく感じていたようだが、ハスキーもチェイムも謝罪する必要はないと言い聞かせるように首を横に振った。

 

『いえ、お気になさらず。私達はご主人様が望める結果を残せたとなれば、何も責めるつもりはございません』

『私も同じ気持ちですぅ。ご主人様の勇姿をデッキ越しでも見られて幸せものですのでぇ……♪』

 

 礼儀正しくかつ謙遜的な態度、そして抱擁感のある笑みで翼を咎めないと語るハスキー。独特の語尾を持った丁寧口調でのおっとりとした性格で、デュエルの場面に出れずとも幸せであることを語るチェイム。二人とも他の【ドラゴンメイド】と同じように翼に忠実であり、人も良いと見た。

 が。チェイムの方は表情をよく見れば、顔を紅潮させており舌で口周りを舐めずり回している。しかも何やら荒く吐息も出している。それを隣で見ていたハスキーは、やっぱりかと言っているかのように額に手を当て呆れた様子を見せる。

 

「(チェイムもチェイムで、時々俺に向けてくる想いがティルルと違うヤバさになってる気がするんだよなぁ……この子も良い子ではあるんだけどさ)」

 

 そんなチェイムの反応を見て、翼は表情に出さなかったものの引き気味であった。今にも色々な意味でチェイムに襲われてしまうのではないか、そんな警戒心を持ちながら。

 今に始まったことではないか。そう自分に言い聞かせた翼は、【ドラゴンメイド】達に申し訳ないと言っているかのような表情を見せながらペンダントの一つを握りしめ、口を開く。

 

「さて、これからもっと俺と話したい子もいるっちゃいるかもしれないけど……そろそろいいか? あの人の事なんだけど……」

『『『『『『『あ、あぁ……かしこまりました……』』』』』』』

 

 翼がこれから何をするのかを察したのか、【ドラゴンメイド】一同は罰の悪そうな引き攣った表情で了承した。翼にではなく、別の人物に対して申し訳ない思いを抱えているかのように。

 【ドラゴンメイド】達の了承を得た翼は、握っていたペンダントの水晶──ケースを開いた。その中に入っているのは、1枚のカード。

 全体的にメカニカルな黄金の装甲を持つグリフォンのイラストを囲っている色は、【ブラッド・ヴォルス】などの通常モンスターのベージュ色や【ドラゴンメイド】などの効果モンスターの茶色、ハスキーやラティスなどの融合モンスターの紫とは異なり、金色に近い黄色となっていた。

 

 

『………………なんだ。今日も対人戦で使われなかったこのヲーを煽るために呼んだのか? どうだったのだ? 弱いヲーのいないデッキを使って勝った感想は?』

「いや弱いから使わなかったんじゃないですって。どうか気を損ね続けないでくださいよ……」

『フンだ。今に始まったことではないからな』

 

 

 そのカードの名前は【ラーの翼神竜】。【オシリスの天空竜】・【オベリスクの巨神兵】と並ぶ神──三幻神と呼ばれる一体。

 (ファラオ)の神殿にて永遠の眠りについているはずの神のカードが、一般人とも言える翼の手元にあり、カードの状態のままデュエルに参加できなかったことに対する愚痴を溢していたのだった。

 




試験管「……アレ? そういえば私、王辻とのデュエルで【ブラッド・ヴォルス】しか出してなかったような……」

※ちなみに試験管の最後の手札は【セイバーザウルス】でした。【ブラッド・ヴォルス】と攻撃力が同じやで。ってか手札誘発を警戒する意味なかったじゃん。オリ主の予想ガバガバー。
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