追記:
所々の修正をしていたところ文字数が20000字を超える事態となってしまいました。
なので急遽、この『カリフォルニア・ガールズ ちゃん』その2を分割して次話に『その3』を投稿させていただきます。大まかな流れは修正前と同じですが、所々の展開が変わっているので一度読んでくださった方も是非もう一度、読んでいただければ幸いです。
――便利屋68のオフィス
その片隅で、小さなテーブルの上にばさばさとトランプが撒かれる。
「じゃ~ん!次はね~トランプで『七並べ』をしよっか♪」
無邪気な声を上げて、ムツキは笑った。
「フン……七並べ、か。」
場に7を出すことから始まり、順番に数字を並べていく。手札を早く無くした方が勝ち。それだけのこと。…そこまで頭を使うゲームではない。シンプルなルールに、単純な勝敗。
吉良は、ムツキの背後に浮かぶ不気味な影に目を細める。
“カリフォルニア・ガールズちゃん”
――その名を持つ、名状しがたい存在。
柔らかく形を変えるそれの不定形な輪郭が、吉良の闘争本能に警鐘を鳴らしていた。
拳で黙らせるのは簡単だろう。しかしこの手合いに、力だけで挑むのは愚策
(まずは――様子を見るしかないな。)
結局、浅黄ムツキの提案を受け入れる決断を下したのだった。
「くふふ……じゃ、配っちゃうよ~?」
カードを滑らせるムツキの手つきは、妙に慣れている。油断なく目を光らせながらも、吉良は配られたカードを静かに手に取った。
「ちなみにね~~吉良さんが負けたら、“記憶”をもうひとつもらっちゃうから♪」
「フン……やれるものならな。」
(ジャンケンは所詮、3分の一の運勝負……このわたしがコイツに負けたのだって"たまたま"だ。一回チョット勝ったからと言ってチョーシこいてるんじゃあないぞ小娘め。)
吉良は鼻を鳴らし、眼前の少女を見下ろす。
テーブルの中央には、手榴弾そっくりの奇妙な物体がひとつ。奪われた“記憶”が、そこにある。誰かの姿が、淡くその表面に浮かび上がっていた。
(アレが一体何の『記憶』かは思い出せない――だが、この吉良吉影の勘がアレを必ず取り戻さなければならないと警告している……!)
―――
*
ゲームは始まった。
吉良は慎重に手を進める。だが──
「あ!もうすぐ終わりそ~だよ♪」
(なッ!?…なんだと…ッ!?)
開始早々、ムツキがひょいとカードを出す仕草に吉良の眉がわずかに動いた。
普通、こんな速さで手札を使い切ることなど不可能なハズに決まってる。
(浅黄ムツキの手札は残り2枚…そしてわたしの手札はまだ5枚…!イヤ、待て――そもそも配られた時の枚数が…!)
「まさか…!最初から手札の枚数が違っていたのか!?」
吉良の追及に、ムツキは意地の悪い笑みを浮かべた。
(やられた)
吉良の頭に生じた違和感が徐々に大きくなり、確信へと変わる。
そのまさかだったのだ…配られた時から、既に…、手札の枚数が違っていたのだッ!!
おそらくはカードを配るときに何枚かを『ぴったりと』重ねて渡していたのだろう…カードを配る時に、さりげなく枚数を操作する。…単純で、簡単なイカサマだ。
しかし、ゲームの途中でそれを気付くのは難しい。何より、“子供の遊び”であるがゆえに、疑うことすらしないこそ…
(……クソッ!だから『七並べ』を選んだとゆーことか…ッ!!)
――しかし、それに気付いた時にはもうすでに遅い。
「やった~!私の勝ち~♪」
「ッ――!!」
「えへへ♪ 気づいちゃった? でもね~吉良さん……バレなきゃイカサマじゃないんだよ?」
無邪気に笑うムツキ。その目には悪びれる色など微塵もない。
彼女のその言葉に、その態度に、吉良の眉がピクリと動いた。
次の瞬間、机がガタリと大きく揺れる。吉良が勢いよく椅子を蹴り飛ばし、立ち上がっていた。
「いい気になって知った風な口をきいてんじゃあないぞッ!! このちっぽけな
苛立ちに満ちた声が低く響く。その瞳は明らかに怒気を孕んでいた。吉良の額の静脈が僅かに脈打つ。
「きさまのそのフザけた真似でッ!この吉良吉影の記憶を奪うとは……ッ!!」
机越しにムツキへと踏み込む吉良。右の拳を固く握りしめ、そのまま振りかぶる。
「そのへらず口ごと、ブッ潰してやるッ!」
しかし──
(……ッ!?)
その瞬間だった。
拳が振り下ろされる刹那、喉の奥に“異常”が走る。
「ぐッ……!?」
ムリ…
ムリムリ…
(……なんだ……!?)
反射的に手が喉を押さえる。殴りかかるはずだった拳が中空で止まった。
喉の奥が熱く、膨らんでいくような異様な感覚。それは虫が這い回るような不快感とも、異物が詰まった感じとも違う。まるで体の内側から何かが増殖し、押し広がっていくような――
ムリムリムリ……
――何かが“芽吹く”ような不快さが、口内にまで迫ってきた。
「ぐぅ……っ!? おえッ……ッ!」
ムリムリムリムリイ…ッ!!
手で口を押さえるが、間に合わない。
ごぽり、と喉奥が弾けるような感覚と共に――
ぽろり、と何かが飛び出した。
「うッ!?」
(コロコロ…)
それは白く、丸く、軽い。
……ポップコーン、だった。*1
「わぁ! 今度はポップコーンなんだ~♪」
ムツキが笑う。その無邪気さが、背筋を這うような寒気を誘う。
(まさか、体の中で――!?)
次の瞬間、口内で連鎖するように“弾ける”感触が襲いかかる。
「おえッ……がッ、ごほッ……うえええぇぇッ!!」
(パチパチパチ…)
大量のポップコーンが吉良の口から噴き出した。
喉、胃、食道――体内から逆流してくる無数の白い粒。
まるで噴水のように次々と吉良の口から飛び出し、床を白く覆っていく。規則正しく膨らんだ粒にはバターの香りがほのかに漂い、まるでできたてのようだった。
ムツキは床に散らばる無数のポップコーンを不思議そうに眺めながら、くすくすと笑う。
「わあ……いっぱい出てきた♪」
「……何だッ……!? 何を──したッ!?」
吉良のその問いかけに、ムツキはくすくすと笑っていた。
「くふふっ……そんなに怒らないでよ〜。ねっ?」
彼女は吉良の怒りなどどこ吹く風といった様子で、床に転がる白い粒をつまみ上げる。
「わ、あっつ……出来たて♪」
そう言って、そのままぽいっと口に放り込んだ。
「ん、おいし〜。バター風味なんだね!」
何気ない一言に、吉良は目を見開いたまま呻いた。まるで口から出たものとは思えぬ自然さで、ムツキはくすくすと笑う。
「あーこれ、吉良さんの中から出てきたんだよね? でもまあ、いいかっ。あはは♪」
「ハア…ハアーッ…ハアッ…ハアーッ」
吉良は自分の喉に手を当て、まだ残る違和感に顔をしかめる。体の中から異物が出てくるという異常な体験に、冷や汗が背中を伝っていた。
床に広がるポップコーンの山。
そのどれもが熱を帯び、湯気すら立ち上がっていた。
そして――
ピキッ……
粒のひとつが、紫に光る。
蠢くポップコーンの群れが、やがて一つの塊へと形を変えていく。
(グォォオ――ン)
「あっ…!」
ムツキが目を見開く。
ポップコーンの塊は、やがてまたひとつの“記憶の手榴弾”となって床の上に姿を現す。
――その表面には、これまでとは明らかに違う『何か』が映し出されていた。
「えっ!? これッ! 本当にもらって良いの?」
ムツキの声が震える。その瞳に映るものは、彼女さえも戸惑うほどの『力』を秘めていた。
「これが吉良さんの能力…」
刹那、手榴弾の表面に紫がかった人型の影が浮かび上がる。それは人の形を取りながらも、明らかに人ではない『何か』。
「"キラークイーン"ッ!! ヤバッ! なるほど"爆弾"なんだねっ♪」
その名を口にした瞬間、吉良の体に再び異変が走った。
何かが──確かに、大切な何かが、彼の中から削り取られていく。
「能力そのものじゃあないけど、『能力』を使うという吉良さんの『記憶』…」
「ま、待て…!それは一体……ッ!?」
「つまりね~吉良さん自身が『爆弾』を使うとか使えたということを……」
「思い出すことは決して
「――ッ!!」
吉良の声が震える。自分の中から確実に"何か"が失われていく。それは、まるで砂時計から零れ落ちる砂のように、確実に、そして容赦なく進んでいく。必死に記憶を手繰り寄せようとするも
――まるで霧の中に溶けていくように『記憶』が薄れていく…
「浅黄ムツキッ!! 今…わたしの『記憶』から何を奪ったのだッ!?」
「………」
「その"手榴弾"……それは一体なんだッ!? そこに"何が"が映っているのだァ――ッ!?」
「教えなぁ~~いっ!くふふ♪」
「――ッ!!」
ムツキの無邪気な笑い声が、便利屋68のオフィスに響き渡る。その無邪気さと、目の前で起きている残虐な光景のギャップが、状況をより一層不気味なものにしていた。
(このわたしの――能力だと?)
吉良の意識の中で、最後の記憶の欠片が消えていった。重要な何かを失ったことは確かだ。
だがその『何か』が具体的に何なのか、もはや思い出すことさえできない。
吉良は震える足を踏ん張りながら、眼前の小娘を見据えた。
「………もう一度だ。……もう一度、このわたしと勝負をしたまえ。」
「ん~?そろそろ私の『勝ち』ってことでいいんじゃないの~?」
吉良は確かに理解していた。この少女の本質を。無邪気な笑顔の裏に隠された狡猾さ。遊び感覚で人の記憶を奪う残虐性。そして何より…全てを『遊び』として処理する、危険な純真さを。
だが――
(こんなヒドイ時にこそ…最悪の時にこそ!『チャンス』というものは訪れるという過去からの教訓だ………『追い詰められた時』こそ……冷静に物事に対処し…『チャンス』をものにするのだ吉良吉影ッ!! このわたしがきり抜けられなかった物事など一度だってないハズだッ!)
「………もっとも 闘ったとしても わたしは負けんがね。」
「へ~♪」
オフィスに差し込む陽光が、新たな戦いの幕開けを告げていた。
■
──アビドス自治区・柴関ラーメン
扉を開けた瞬間、豚骨醤油の濃厚な香りがふわりと鼻孔をくすぐる。まるで歓迎の印のように、温かな湯気が店内に満ちていた。
「おっ、先生と便利屋の連中じゃねえか! いらっしゃい!」
厨房の奥から顔を覗かせたのは、この柴関ラーメン店の大将。陽気な笑顔がトレードマークの柴犬だ。
"ご無沙汰してます、大将。"
先生、アル、ハルカ、カヨコの四人はテーブル席に腰を下ろす。注文する前から、大盛りのラーメンが運ばれてくるあたり、粋な計らいは相変わらずだった。
湯気を立てる丼の前で箸を構えながら、アルがゆっくりと口を開く。
「で、先生。今日の本題は何かしら?」
"うん。実はね――"
ラーメンの香りに包まれた穏やかな空気を破るように、先生は少し真剣な声で続けた。
"アビドス高校の件……できればカイザーローン絡みの依頼から、手を引いてもらえないかなって思ってるんだ。"
「……知ってたんだ。私たちの雇用主が誰なのか」
箸を止めたカヨコが、やや鋭い目を向ける。
"うん。君たちがもしカイザーローンに依頼されて動いてるのなら、任務補助金の支払い記録があるはずだと思って――"
「……手付金はもらわない。それがうちの鉄則なのよ。」
不適な笑みを浮かべ、アルが口を開く。
声には揺るぎない信念が込められ、瞳には自分たちの信条を貫く強い意志が宿っている。
………横に座っていたカヨコは、手元の丼を見つめたまま、頭を軽く抱えるように肩をすくめた。
「華麗に仕事を終えてから依頼料を受け取る。……この順番が崩れたら、私たちが追及するビジョンは達成できないの。」
「ビジョン? そんなのあったっけ。」
カヨコが呆れたように首を傾げる。
「あるわよ!? 法律と規律に縛られない、ハードボイルドなアウトロー! それが便利屋68のビジョンでしょ!」
「そう? ……ああ、そうだった。」
カヨコの曖昧な返事に、アルはぷくっと頬を膨らませてから、咳払いひとつ。
「コホン……とにかく。手付金をもらったら、それが鎖になる可能性もあるの。こちらの意思に反して、望まない行動を強いられるなんて、まっぴらだわ。」
「だから、依頼料はあくまで成功報酬。そこは絶対に譲らないわ。」
その言葉に込められた決意の強さに、先生は思わず微笑む。先生はアルの瞳の中にキラリと輝く、ダイヤモンドのように固い決意をもつ『気高さ』を見た……
「という訳だから……悪いけど先生――」
"ちょっと待ってね。"
先生は鞄の中から一枚の書類を取り出し、そっとテーブルに置いた。
"これは吉良さんから、内々に借りたものなんだ。カイザーローンがアビドスで受け取っていた借金の利息が、どう運用されているかを記録した資料だよ。"
(実際は、銀行強盗して手に入れたものなんだけどね………)
そう心の中で呟きながら、先生の頭には、昨日の黄昏時に起きたあの出来事が蘇っていた――
□......
――アビドス高等学校 対策委員会部室
放課後の空気が部室の隅々にまで染み渡る時間帯。西の空から差し込む橙の光が、埃の舞う机の上を照らしていた。
パタパタと紙をめくる音だけが静かに響く中、対策委員会のメンバーたちはヒフミと共に持ち帰った書類に目を通していた。緊張感を孕んだ静寂が続く……その時だった。
(バンッ!!)
「なっ何これ!? 一体どういうことなのよっ!?」
セリカの怒声が部室を揺らす。彼女のネコ耳は横にピンと張って外側に向き、怒りに任せ手にした紙を叩きつけるように机に置いた。
――その手に握られていたのは、一枚の集金記録だった。
「先月の集金記録……アビドスから788万円回収したって書いてあるわ。でもそのすぐ下に、カタカタヘルメット団への“任務補助金500万円”って……どういうことよコレ!?」
唖然とした空気が流れる中、アヤネが記録をのぞき込みながら、困惑した声を漏らす。
「つまり……私たちの支払った借金が、そのまま……」
「ヘルメット団の資金になってるってことですか……!?」
ノノミの声が震える。
部室を照らす夕陽が、その場にいた全員の影を長く落とした。
「そんな…カタカタヘルメット団に……?」
「ヘルメット団の背後にいるのは、まさか……カイザーローン?」
誰かがそう呟いた瞬間、空気が凍りついた。
エアコンの風が異様に冷たく感じられる。外気との温度差ではない。それは、真実に触れてしまったという“寒気”だった。
「ど、どういうことでしょう!? 理解できません!学校が破産したら、貸し付けたお金も回収できないでしょうに…どうしてそのようなことを……?」
アヤネが震え声で叫ぶ。正論だ。それなのに、説明のつかない事態が目の前で進行している。
先生はしばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。
"…この件、銀行単独の仕業じゃなさそうだね。カイザーコーポレーション本社の息がかかっているとしか思えないよ。"
「....はい。そう見るのが妥当ですね。」
「………」
言葉が消え、再び部屋を沈黙が支配する。
机の上の書類が、夕日を反射して鈍く光った。
エアコンの吹き出し口からは冷たい風が、淡々と無慈悲に吹き続けている。
それは、これから彼女たちが向き合う現実の過酷さを告げているかのようだった。
......□
現在の紫関に意識を戻した先生は、静かに目の前の反応を見つめていた。テーブルに置かれた書類を手に取ったアルの表情には、アビドス対策委員会の面々が浮かべていたものと同じ衝撃、そして深い憤りの色が浮かんでいた。
「……な、なによ、これ……一体どういうことなのよっ!?」
(バンッ!!)
手元の書類がテーブルに叩きつけられる。乾いた音が、静かだったラーメン店の空気を鋭く引き裂いた。
「アル様……ど、どうされましたか……?」
「社長……何を見たの?」
慌ててのぞき込んだハルカとカヨコの表情もまた、紙面に目を落とした瞬間、凍りついたように強張っていく。感情の種類こそ微妙に異なるが、そこにあったのは同じ深い動揺だった。
「私たちが依頼を受ける前は、アビドス高校にカタカタヘルメット団が襲っていたのは勿論知ってたけど……」
「ま、まさか…アビドスの人たちから回収した借金の利息を……そ、そのままヘルメット団へ手付金として渡していたなんて………」
「でも、アビドスの子たちが破産でもしたら貸し付けたお金は回収なんかできないはず…一体何のために……」
言葉の途中で息を飲むカヨコの瞳は揺れていた。ハルカは黙って拳を握り締めていた。アルはテーブルに伏せた手に力を込め、唇を震わせながら書類を睨みつけている。
(パンッ)
乾いた音が再び響いた。今度は先生が、手を叩いた音だった。
"はい、それじゃあ──ここで私から、ひとつ提案があるんだけど……いいかな?"
その一言で、場の空気が変わった。全員の視線が、静かに座っていた先生へと集まる。
「なっ……なにかしら? ……先生……?」
視線を向けたアルの声に入り混じっていたものは、動揺と戸惑い――
そして――先生の顔には、確かに何かを決意した者の静かな強さが宿っていた。
ムツキは良い子なので、吉良の『記憶』を奪うなんてことしないのでは…?と、ふと書いているときに思ったのですが、エンヤ婆が作中で「矢が指す対象を射抜けば必ずスタンド使いになり、味方にもなってくれる」と吉良吉影の親父に教えていたので、黒服や『彼女』の部下の願い通りに行動したと考えれば…ギリギリセーフの範疇です。たぶん