再会
ハーフフットの人材派遣ギルド兼鍛冶屋の前に立つと、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ほら、そこはもっとしっかり締めろ。鍵師の仕事は精密さが命なんだよ。」
その声に、マルシルの胸がぎゅっと締め付けられる。懐かしさと同時に、どうしようもない不安が彼女を支配する。
扉を開けると、そこには頭ひとつ低い若いハーフフットを教育する年を取ったチルチャックがいた。かつての小柄で無邪気な彼は、白髪混じりの頭と、深く刻まれた皺を持つ初老の姿になっていた。それでも、その職人特有の神経質な目つきと、器用に手を動かす姿は変わらない。
「……チルチャック。」
マルシルの声に、彼は振り返った。しばらく目を細めて彼女を見つめると、不意に微笑んだ。
「久しぶりだな、マルシル。ずいぶん綺麗になったじゃないか。少し休憩だ。」
その一言に、マルシルは胸が苦しくなる。彼が笑顔でいることが余計に痛みを伴わせた。
マルシルの心情
「……ずいぶん老けたのね。」
思わず、口からこぼれた言葉。
「おいおい、それが再会した仲間への第一声か? そりゃあ、ハーフフットの寿命はエルフやヒューマンよりも短いんだから仕方ないだろ。」
チルチャックは笑いながら軽く肩をすくめた。その様子は昔と変わらないように見えるが、その言葉が突き刺さる。
「でも、なんだかんだでまだまだ元気だぜ。娘たちももう成人して、今は好きにやらせてもらってるさ。」
彼の明るい口調に、マルシルはどう答えればいいかわからなかった。彼女の瞳に映るのは、かつての仲間であるチルチャックではなく、「時間に追われる存在」となった彼の姿だった。
「……ごめんなさい。」
「なんだよ、急に謝るなんて。」
「私は……あなたの時間の流れに気づいていなかった。気づきたくなかった。」
チルチャックの言葉
「マルシル。」
チルチャックは優しく微笑むと、小さな手で彼女の腕を叩いた。
「お前はそんなことを気にするな。お前は俺たちと違うんだよ。お前はもっと長い時間を生きるんだから、そんな顔するな。」
「でも……!」
「俺たちは俺たちの時間を全力で生きる。それでいいんだ。お前と過ごした日々は楽しかったし、後悔なんてしてない。」
その言葉に、マルシルは涙をこらえきれなかった。彼の言葉は優しく、でもどこか突き放すような現実感を帯びていた。
別れ
二人はしばらく、かつての冒険の日々について語り合った。王となったライオスの馬鹿な提案や、センシの食材探しのこだわり、そしてファリンの笑顔。思い出話をするたびに、マルシルの心は少しずつ救われていくようだった。
だが日が沈む頃、彼女は別れを告げる時が来たことを悟った。
「……元気でね、チルチャック。」
「お前もな。また気が向いたら顔を見せに来いよ。」
そう言って彼は、小さな手を振った。
帰り道マルシルは夜空を見上げた。満天の星の下で、彼女は一人、涙を流した。
「私は……ずっと一人で…」
だがその涙は、悲しみだけのものではなかった。ファリンの蘇生のために仲間達と波瀾万丈があり、その中で彼女に新たな覚悟を与えたからだ。彼女は孤独を受け入れ、その中で生きる術を学び、彼らの記憶を胸に刻み続けることを決めた。
「いや、みんな、ありがとう。私はこれからも生きていくわ。あなたたちが残してくれた時間と共に。」
その足取りは軽やかではなかったが、確かに前に進んでいた。