「どうぞ、よろしくお願いします!!!」
その日、アルトの耳に飛び込んできたのは溌剌とした女性の声だった。
「アビドスの環境を改善するために、署名を集めています!」
とても元気な様子でプリントを通行人達に配っていく。
砂に埋もれた、住宅地の中で。
「......チッ」
「今更何かしたところで......」
「あ、あの、すみません。よければ、こちらに署名を......」
彼女は通行人たちに白い目を向けられながらも、両手に持った書類を渡そうとする。
だが
「いよいよネフティスまで自治区をさるって言うのに、署名が何の役に立つってんだよ!!」
通行人の一人が激昂し、彼女の横を思い切り横切った。
「わっ......!?」
態とぶつかられ、彼女の____梔子ユメの体はバランスを崩す。
「ほら、危ない」
アルトは少し鈍臭いユメの体を支える。
「ほら、一枚落としましたよユメ先輩」
横にいた小柄な少女もユメに落とした書類を渡す。
「ごめんね......二人にまで手伝ってもらっちゃって......」
ユメは申し訳なさそうに書類を受け取る。どうやら特に破損もないようだ。
被害といえばユメの服に少し砂埃がついたことだろう
「何言ってんすか。アビドス立て直すんでしょ?頑張って呼び込みしましょう」
「そうです。元は先輩から始まったんですから責任とって最後までですよ」
「......天津くん......ホシノちゃん.........うん。ありがとう!」
そう言ってユメは再び道に立ち、通行人たちに声がけをする。
「署名?学生さんなのに偉いわねぇ......」
「ここにサインすればいいの?」
今度はうまく行ったようで、犬のような風貌をした婦人からサインをもらっていた。
「ありがとうございました!!」
ユメは二人に深々と頭を下げ、大きな声で礼を言った。
「ふふっ......私たちもアビドスがなくなっちゃうのは寂しいものね......」
「昔は砂祭りにもよく参加したんだけど、それももうなくなっちゃって......」
サインしてくれた婦人二人はそう言って去っていった。
垓とホシノはそれを見守りつつ、ユメと同じく署名活動を行なっていた。
「アビドス治安維持強化方針の説明会です。参加されてみては?」
「目を通していただくだけでも......」
そうしていた署名活動は着々と進んでいく。
この行動自体には、あまり意味はないのだが。
「......先輩は暇なんですか?」
「何じゃい藪から棒に」
プリントやら書類やらを配っていると、ふいにホシノがそんなことを聞いてきた。
「私を助けてくれたあの日から、先輩はよくアビドスに来ていますけど......ゲヘナはそんなに休みが多い学校なんですかね?」
「必要な分の単位は取ってるし、テストの点もそこそこいいから大丈夫だ。あと、」
垓はちらっとユメの方を見やる。
「あぁ〜!それ持って行かないでーー!!」
「カァー」
「アホー」
カラスに書類を奪われ、翻弄されている彼女が見えた。
「先輩、ほっといたらずっとあの調子だからな」
「あぁ.........」
妙に納得したように、ホシノは悩むようなポーズを作る。
そりゃそうだろう。あれがアビドス高校のこれからの未来を決める生徒会長なのだから。
「鳥畜生〜、早くそれ離さないと焼き鳥にすんぞ。それか唐揚げ」
「カァッ」
カラスは書類を手......嘴から離し、去っていった。
そして垓は書類を拾い、脳内いっぱいに埋まった唐揚げと焼き鳥の映像を振り払った。
「カラスに物取られるって......どんだけ〜」
「いつも取られちゃうんだよね......えへへ」
えへへじゃないが。
やっぱ弱そうな方から襲っていくの見るとカラスって頭いいんだなぁって」
「声に漏れてるよ!?」
おっと、どうやら口に出ていたらしい。
口は災いの元というが、意外にも閉じ続けることはできないらしい。人間の体は不便でいっぱいダァ
「あぁん?署名だぁ?」
「はい。お願いします」
「うちらのこと誰だかわかっていってんのか?」
「いえ、知りませんけど......」
ユメ......いや、先輩を助け起こしていると、ホシノが何だか妙な奴らに絡まれていた。
「聞いて驚け!アタシ達はここら一帯を牛耳ってるヘルメット団のリーダー格!!」
「その名も、『カタカタヘルメット団』!!」
「まだまだ勢力は小さいが、いずれは
「何やってんだお前ら」
高々と名乗りを上げる三人に、垓が声を掛ける。
「あぁん?............こ、この人......」
「あ、あの時の!?」
「いやぁ見たことある奴らだと思ったらあの三馬鹿か。元気してたか?」
さっきまで機嫌上場だった三人は垓を見た瞬間
気さくな挨拶で踏み込み、そのまま会話を広げようとしたが____
「た、大変失礼しましたァァァァァッ!!」
「署名大変ご苦労様ですッ!!!」
「てか、何で判別できるんだ......?」
最後のやつが言う通り、三人全員フルフェイスのヘルメットをした上に、似たような風貌の奴らは大量にいる。
そこから垓はなぜか三人を一瞬で判別した。
「みりゃわかんだろ。そっちの制服に尻尾みたいなキーホルダーつけてるのがこの前俺に殴りかかってきたと思ったら案外弱かった『片栗』だろ?」
「せ、正解......全部言われた......」
「んで、メットを半開きにして他との差別化を図ってるのが『油方』」
「正解です.........こ、これは別に差別化を図ってるわけでは......」
「最後にデカデカとRPGを装備してるチビが『酢元』だろ?確か一緒に格ゲーやったよな」
「おー......正解。延々復帰阻止されてボッコボコされた」
次々にそれぞれの特徴を当てていく垓。
少し前にアビドス自治区でとっ捕まえた三人衆である。
何やら頭痛が痛いみたいな組織だったのは覚えていた。
「まーた問題起こしてっからに......今度しっぺな。」
「「「い、イヤッ!!」」」
「結局誰なんですか......」
___________________
「......あれ?」
小鳥遊ホシノは再び目を覚ました。
起きたのはいつもの教室ではなく、黒一色のビジネスルーム
「お目覚めですか?」
「.........黒服」
ホシノは見据えた。
全身をこの部屋のように黒で染め上げた不気味な姿の大人。
「随分とお疲れのようですが?」
「お前には関係ない」
ホシノはその大人の質問を切り捨て、少し靄がかかる視界を晴らす。
「......それで、貴女がわざわざ私に聞きにたこととは?信用などされていないと思っていましたが」
「私だって好きできたわけじゃない。だからさっさと教えろ」
一息をいて、ついにホシノはその質問を放った。
「一年前にアビドスを去ったゲヘナ生......『天津垓』について教えろ」
できるだけ高圧的に、できるだけ威圧的に問うた。
それに対して黒服は、
「クックック......ええ、もちろん構いませんよ」
意外にも、素直に言の葉を綴り始めた。
第−2話
『千割の真実』
・梔子ユメ
『身長約163センチ。薄緑色の頭髪でアビドス高校所属の三年生。それほど特別な神秘特性を持っていなかった。対象からは除外』
・小鳥遊ホシノ
『身長約137センチ。桃色髪のアビドス高校所属一年生。ついに見つけた。完全な神秘の原型。』