「まずはこちらを」
「......これは?」
ホシノの前に置かれたのは、頑丈そうなアタッシュケース。
黒服は質問に答える前に、アタッシュケースを解放した。
「彼が私との取引に使った『交渉手段』ですよ」
中に入っていたのは、デカデカと『2』の意匠がこされた、ホシノにも見覚えのある『それ』
そして、隣には大型のプログライズキーが仕舞われている。
「二年前行った正当な取引の代物です。彼が言うには、『自分の最高戦力』だそうです」
なんとなく、似ている気がした。
先輩がいつも戦う時に装備していたドライバーに。
「......これがどうした?」
「おや?あなたは知りたいのでは?」
黒服は鼻につくような態度でホシノに問う。
「彼と私の間にあった、『取引』の全貌を」
その言葉に、ホシノは少し反応する。
その通りなのだ。ホシノはその真実を知りたがっている。ここで引き下がるわけには行かないだろう。
「......クックック......早く教えろ、ですね?」
「わかってるなら___「もちろん。では、私と彼の......『天津垓』、と呼んだ方がよろしいでしょうね。」
「私と彼の契約についてお話ししましょう」
......さっきから、妙に引っかかる。
目の前の男はこんなにも簡単に真実を語る人間だっただろうか。
「実を言うと私たちは既知の仲でして......二年前、彼が突然現れた時は驚きました」
「......やっぱり」
こいつと先輩は繋がっていた。
やっぱり、命の恩人と言えど警戒を怠るべきじゃなかった
「アビドスで活動できるだけの資金と、偽造ID。そして家を用意してくれ......と」
『天津垓』という名前もやはり偽名。ずっと私たちのことを騙していたのか
「その対価として、彼は自身の体を提供しました。」
「体?」
「彼の神秘のことです。量は貴女には到底及びませんが......その質と特性は貴女をも軽々と凌駕する」
『神秘』
こいつが研究している謎の概念。
先輩はそれを知っていて、自らを対価にした?
「私としてもとても魅力的な提案でした。何せ彼の神秘を調べる機会など訪れることはないと考えていましたからね.........」
黒服の声の抑揚が、少し上がった気がした。
まるでその興奮を隠せないかのように
「あれほどこの世界の理りから外れた神秘......まだ覚えていますよ。その熱狂を、その力の奔流を」
顔は後ろ姿で見えないが、言葉には確実に興奮が混ざっていた。
私にはまるでわからない。こいつが言っていることも、先輩の真意も
「......失礼、本題に戻りましょう」
コホン、と咳払いをし、黒服はアタッシュケースの中にあったキーを取り出す。
「......契約は、それだけ?」
「ええ、
黒服は勿体ぶる。
まるでホシノが真実を知るのが楽しみで仕方ないと。そう表情が物語っていた。
「彼が2回目の契約を行ったのは確か......『梔子ユメ』の__「その名前をお前が語るな」
刹那、黒服の眉間にショットガンが突きつけられる。
銃を突きつけたホシノの表情はまさに怒りに濡れていた。
「......失礼。彼が2回目に契約を行ったのは今から丁度一年前のことでした」
黒服はホシノに謝罪したが、本当に申し訳なく思っているかどうかは不明だが。
ホシノは銃を収める。
だが、今からちょうど一年前、という言葉にホシノはあからさまに表情を落とした。
今から一年前、それは_____
「天津垓が貴女の前から離れた日......その日私たちは2度目の契約を行いました」
先輩が、いなくなった日だ。
そして、ユメ先輩の一周忌の時。
あの日私たちはいつも通りお墓参りをして、二人でアビドスに帰るハズだった。
だというのに、見てしまった。
聞いてしまった。
聞きたくない言葉を。
見たくない先輩の姿を
「契約内容は________________
こんなことになるのなら、一緒にいたくなかった。
出会わなければよかった。
結局は、先輩も私を利用し続けた。
信用できる物は何も_____
『私が貴女から完全に手を引き、アビドス高校の借金を帳消しとする』
「......は?」
「それが、彼と私の契約の全貌です」
完全に否定された言葉が、寸前で引っ込んだ。
次回、ホシノ曇る。デュエルスタンバイ!!