アリウスクソボケオオバッタ   作:カブライニキ

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真実。再会。奇跡


第−7話

 

「こんなものッ!!」

 

先輩と別れたあと、私の部屋に残る先輩の痕跡を全て消していく。

 

最初に目をつけたのは先輩からもらったアクアリウムのチケット

 

 

結局、連れて行ってくれるわけじゃなかったんだ。

 

 

そう思うとなんだか心が締め付けられるような痛みがズキズキと鳴った。

一瞬、表面に描かれた海の絵が私の尾を引いた。

 

もしも、破いて仕舞えばもう先輩を思い出せなくなってしまうのでは

 

そんな執着にも近しい想いがチケットに掛けられた手を止める。

 

 

「......っ......あいつはッ......裏切り者だ......!」

 

 

そう自分に言い聞かせながら、腕に力を込めていく。

チケットの真ん中から、だんだんと断面が生まれる

 

びりびり、ぶつぶつ。

 

やけに破る音が大きく聞こえた。

こんな紙切れ一枚に、なんの価値がある

 

再び言い聞かせる。

今度はもう少し強く力が籠った。

 

すると________________

 

 

 

 

 

 

バツっ

 

 

 

 

軽い音が響いて、チケットが真ん中から破けた

 

 

破れた海の絵。真ん中に堂々と描かれていた鯨が真っ二つに切れている。

 

 

「ぁ」

 

 

突如として、私の背中にヒヤリとした何かが当てられたような感覚が襲った。

 

 

「......ぁ..........これ、は......ちがっ.........?」

 

 

誰に聞かせるわけでもない言い訳が虚空に消えていく。

 

何か、やってはいけないことをやってしまったような感覚。

 

破けてしまったチケットが手のひらの中でくしゃっと音を立ててシワまみれになった。

 

 

「なん、で......」

 

なんでこんなことをしたのか、自分でもわからなくなった

 

 

だって、先輩は裏切り者だから。

 

 

じゃあなんでこんな酷いことをしたの?

 

だって、もう先輩の残したものを見たくなかったから。

 

してもらったことは全部忘れちゃったの?

 

だって、それも全部私たちを騙すための算段だったから。

 

楽しかった思い出は、全部嘘なの?

 

 

 

 

だって、だって、だって、だって、だって

 

 

言い訳ばかりが心の中でこだまする。子供じみた言い訳ばかり。先輩の言葉なんて聞かなかったくせに、自分の言い分は通したいなんて、ガキみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩が、お墓に来てくれたときも、ずっと謝りたくて

 

『お前が裏切ったから』

 

破いてしまったチケットのことも、

 

『お前が来なければ』

 

先輩がいてくれたから

 

『お前がいたせいで』

 

 

 

 

 

 

『心底、気持ち悪い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

「ご気分は?」

 

「.........控えめに言って、最悪かな」

 

 

ホシノはどこかもわからない施設の地下に幽閉されていた。

 

手足は謎の技術によって縛られ、冷たい床に跪かされている

 

 

「......いい加減、鍵を渡してはもらえませんか?」

 

「これはお前の鍵じゃない」

 

 

「それはあなたのために彼が私に渡したもの「私のせいでお前の手に渡ったものだ」

 

 

ホシノは縛られる寸前にゼロツープログライズキーをその手に握った。

そのせいで、黒服もホシノからキーを取り戻すことができない

 

 

「......クックック」

 

 

「何がおかしい?」

 

 

「いえ.....失礼。その美しい友情に、感服したのですよ」

 

 

黒服は心にもないことを語る。

それに対してホシノは何も言わない。というより、何もいう気力にすらなれない。

 

 

「では、指が疲れた時にでも置いておいてください」

 

そう言って黒服はホシノの拘束を解く。

 

 

「では、こちらを」

 

 

そう言って黒服は何かの錠剤を彼女の横に置いた。

 

これが、黒服の提案した実験。

『新たな神秘を生み出す』だとかなんとか言っていた。

 

 

「あの理事長は良いアイデアを生み出す力を持っています。私も、彼のアイデアに賛同したのですよ」

 

 

「......これを飲めばいい?」

 

「ええ。あなたがするのはそれで十分です」

 

 

一杯のコップに注がれた水。

その水面にホシノの表情が映し出されていた。それはとても暗く、無気力で空虚な表情だった。

 

 

「......今絶対に飲まなきゃいけない?」

 

「いえ、あなたのタイミングで構いません。ですが、あなたがそれを飲まなければ『契約』が成立しないことをお忘れなく」

 

 

そう言って、黒服は部屋を出て行った

錠剤を再び見据える。筋弛緩剤や睡眠薬の類ではないようだが、あまり良い薬のようにも思えない

 

ホシノは再び、キーを握り締めて体育座りのように蹲る。

 

もしかしたら、先輩には会えないのかもしれない

 

 

あいつが私の約束を馬鹿正直に守るとは到底思えない。焦って、いいカモになった私を騙しただけの可能性だって十二分にある。

 

 

「.........シロコちゃん」

 

マフラーは、大事にしてくれるかな。悪いことしてないかな

 

「.........ノノミちゃん」

 

お金の使い方はちゃんと守ってくれるかな。私がいなくなったら、まとめ役がノノミちゃんしかいなくなっちゃうなぁ

 

「セリカちゃん......アヤネちゃん」

 

私がいなくなっても、2人は変わらず笑顔でいてくれるかな。

.......いや、あの2人ならこれからのアビドスをちゃんと任せられる

 

 

「..............先生」

 

私なんかを心配してくれて、嬉しかった。

一緒にラーメンを食べてくれて、嬉しかった。たくさん助けてくれて、頼もしかった。

 

だから、私がいなくなってもみんなを守ってほしい

 

 

 

「せん、ぱい」

 

できることなら、謝りたい。

ユメ先輩のことも、あの時のことも、チケットのことも

 

そして、もしも叶うのなら________________

 

 

 

「.......こればっかりは、重いかな」

 

 

そう言って私はさっきまでの考えを振り払う。無い物ねだりをしたって、叶わ無いことを知っているから

 

 

「......バカだなぁ」

 

キーを見つめて、私はつぶやく。

先輩のことを勝手に悪者に仕立て上げて、自分だけが楽になった。

 

私がのうのうと生きている間、先輩はたくさん苦しんだ。

私が何も知ら無い間に、先輩はたくさん私たちのことを助けてくれた

 

どこまでも都合が良くて、どもまでも自分本位。

 

 

「......楽しかった」

 

そう、呟く。

そうだ、楽しかったんだ。先輩と一緒に買い物をした日も、先輩たちと一緒に宝探しをした日も

 

 

全部楽しくて、終わってほしくなかった。

 

 

「たのし....ぐすっ........かった.......なぁ」

 

ボロボロと、涙が溢れ出す。顔を下に向けているから、尚更涙が出てくる。

 

 

今更自分の愚かさを知ったところで、何も変わら無いのに。

私が全部壊して、今も壊し続けてる。

 

自己中の、クソ野郎

 

 

楽しかった日々が続いてくれればと何度願っただろう。

 

それでも、無情に日々は過ぎていって、私は愚かなまま成長した

 

 

「遅いんだよ.........」

 

 

それも、全部全部わかっている。今更遅いことも、もう何も手に入ら無いことも知っている。

 

 

だけど

 

 

だけれども

 

 

もう一度だけチャンスがあるのなら

 

もう一度だけ私に権利が与えられるのなら

 

 

 

 

どうか、先輩に謝らせて

 

 

 

その瞬間、ホシノの手に握られていたキーが一瞬淡い光を放った

 

 

 

 

 

「...............え?」

 

 

そして、ホシノの目の前には見覚えのある封筒が置かれてる。

 

 

「て、がみ」

 

紛れもなく、先輩が私に当てて書いた手紙の封だった。

 

「づっ.......!」

 

頭痛が走る。

あの夢を思い出してしまう。

 

『お前を許さない』

 

 

それでもホシノは、手紙に向かって手を伸ばす。

 

幻覚かもしれない。また、ただの夢かもしれない

 

 

それでも、ホシノは今度こそ自分の意思で手紙を求めた。

 

『お前を許さない』

 

きっと、先輩はそんなことを書かないから。

 

 

そしてホシノは、ついにその封を手に取った。

 

 

『小鳥遊ホシノへ』

 

封筒にはそう書かれている。

今でも怖い。糊付けされた部分を開けようとしても、手が震えるせいでうまく封を切れない。

 

チケットはあんなに簡単に破けたのに。

 

 

震える手をどうにか止めながら、無限にも思える時間をかけてホシノはついに手紙の封を切った。

 

 

「拝啓ホシノ、へ」

 

 

 

 

 

アリウスクソボケオオバッタ

 

 

 

第二部

アビドス編

 

 

『拝啓、始まりの君へ』

 

 

 

 

『この手紙を読んでいるということは......っていうのはやってみたかっただけです。もう色々と知っていると思うので、説明は省きます』

 

手紙には、丁寧な文字で先輩の言葉が書かれていた。

 

契約書に書いてあったような綺麗な文字ではなかったが、一文字一文字に心がこもっているように思えた。

 

 

『本当にごめん。ホシノの言う通り、俺は裏切り者だ』

 

 

『だけど、ユメ先輩を侮辱したこと、ホシノを傷つけたことも謝りたいです』

 

『手紙を書くのは苦手なので、短いかもしれまん』

 

 

『でも、シロコやノノミ、それにホシノを残して勝手にいなくなったことを後悔しています』

 

『とても許されるようなことではなかった。勝手にいなくなって、勝手に見限った』

 

 

『果てには、ホシノが1番嫌なことを平然とした』

 

 

違う

 

『俺のことは嫌いで大丈夫です』

 

嫌いなんかじゃないです

 

 

『でも、ホシノの大切なものは、大切にしてください』

 

先輩も、私の大切な人です

 

『でも、もしも俺にチャンスがあるのなら』

 

 

私にチャンスがあるのなら

 

 

 

 

 

 

『一緒に会って、話したいです。ユメ先輩も一緒に』

 

 

 

 

第−7話

『敬具、秤アルト』

 

 

 

 

 

同じだった。

先輩も私も、結局同じ気持ちだったんだ

 

 

「......行こう」

 

 

ホシノはゆっくりと立ち上がる。

 

手紙と鍵を手に、正面の扉を目指して歩き出す。

 

 

もう2度と失えない。

 

2度と、失わない

 

 

だから、今ここで動かなかったらもっと後悔する

 

 

 

ホシノは重厚な扉に手を掛け、扉を開く。

 

 

だが、ホシノが開けるよりも先に________________

 

扉が音を立てて開いた。

 

 

 

 

「あ......」

 

「.......せん、ぱい?」

 

 

 

その先には

 

 

 

 

「ひ、久しぶり。ホシノ」

 

 

声を上擦らせた、先輩が立っていた

 

 

 








次回、アビドス編最終回

『第±0話』

秤アルトと小鳥遊ホシノ
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