アリウスクソボケオオバッタ   作:カブライニキ

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最終話でございます。

もはや言葉は不要!


満を辞してご覧ください


±0話 秤アルトと小鳥遊ホシノ

 

アルトは、軽い扉を開けた。

 

キィ、と音を立てて木製の扉が開く。

 

 

「......流石に、いねぇか」

 

オイルで汚れたコートを煩わしそうに脱ぎながらその部屋に入る。

その部屋の持ち主は、どうやらもうこの場所にはいないようだ

 

「.........何か、書類でも見つかれば.........ん?これは......」

 

 

デスク周辺に何かホシノの手掛かりになるものを探そうとする。

 

すでにその情報源は全て焼き払ってしまった。

感情に任せてしまいやすいのはやっぱり自分の悪い癖だとアルトは自重する

 

 

「......はぁ、律儀にすんなら、もうちょい別のところを律儀にしてほしいもんだがね」

 

デスクの上に乗っかっていたアタッシュケースと、置き手紙

 

アタッシュケースの中にはもちろんアルトが黒服に渡したドライバーが入っていた。

 

「......『お返しします』ねぇ」

 

A4サイズ用紙の無駄遣いとも思えるただ一言だけの文章。

 

その下にはどうやらアビドス本校舎の地図のようなものが書き記されていた。

 

 

『実験と結果は貴方にお任せします。やるもやらないも貴方の自由ですが、契約はまだ続いていることを彼女にお伝えください』

 

 

地図の下部には、そう書かれていた。

おそらく理事が言っていたものと同じものだろう。

 

 

全く、心底気持ち悪いが、どうにも憎み切れない相手だ

 

 

「......実験、か」

 

手紙の隣に置いてあった、錠剤。

こっちはアルトが普段服用しているものと同じ物のようだ。最後に抽出だけしてくれたのはありがたい

 

「.........さて、行くか」

 

 

アルトは黄色のパステルカラーが目立つ剣を片手に部屋を出る。

 

 

その部屋を出た廊下には________________

 

 

 

 

 

何か、原型を留めないほどに壊れてしまった残骸が転がっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

「ここか。んじゃ、解析と解錠、頼んだぞ」

 

 

扉に鍵穴のようなエフェクトが浮かび、そこにアルトは剣を差し込んだ。

 

『第一ロック解除、ジャミングツール破壊.........最終ロック解除』

 

「せんきゅ」

 

アルトは差し込んだ剣を左に回し、扉のロックを完全に解除する。

 

 

『プログライズホッパーブレード』

 

ミレニアムサイエンススクールの技術とアルトの『禁術』を合わせて作り上げたマスターキー

 

様々なプログラムを崩壊させ、アルトに使えるよう書き換える鍵。

 

今回は扉のロックを解錠するための鍵として使用した。

 

 

 

 

「.....................」

 

 

『......どうした』

 

「.......なんか、怖え」

 

『この扉の向こうにいるのは小鳥遊ホシノ一名だ。もし抵抗されても十分対処できる相手だろう』

 

「......人間の心をわかってねぇやつめ......」

 

 

だが、アルトはその言葉に救われた。

緊張がほぐれ、扉にかかっていた手に力を入れる

 

後悔するのは、さっきで終わっただろう。

 

俺が苦しもうが、悲しもうが、時間は過ぎていく。

この二年間で痛いほどに学んだだろう

 

ガコッ、と軽い音が鳴り、扉が少しだけ開く。

 

 

「......怖えな」

 

 

もう2度と後悔しないように

 

「ホシ、ノ......!」

 

今動かなかったら絶対に後悔するから

 

 

2度と失わない

2度と失えない

 

 

決意と決断

 

 

それを手にした瞬間、扉が大きく開いた

 

 

そして、その扉の前には________________

 

 

 

 

「......せん、ぱい?」

 

 

ホシノが、顔を覗かせていた

 

 

約一年越し。

最後にあったのなんて、だいぶ昔に墓参りに行った時だ。

 

 

なんと言われるだろう

 

何を問い詰められるのだろう。

怖い

 

怖いよ

 

けど、

 

 

 

「ひ、久しぶり。ホシノ」

 

 

上擦った声でも、君と話したい

 

 

 

_______________________

 

 

久しぶり。

元気にしてましたか?最近はどこで何をしてたんですか?

 

そんな言葉が、私の頭を駆け巡る。

 

けど、どれも私の口からは出てこない。

 

ずっと、会いたくて。

ずっと、謝りたくて。

 

 

それでも、私はその可能性を踏み潰して

 

 

 

けれども、先輩は来てくれた

 

 

「......え、えーと......」

 

私が何も喋らないからか、先輩はあたふたと何か話題を振ろうとしている。

昔から先輩は私が暗い雰囲気になってる時、たくさん笑わせてくれた。

 

私は、先輩に悲しい顔をさせることしかできなかったのに

 

 

罪悪感と、後悔が混じって、声が出てくれない

 

 

「......えと、その.........ホシノ、ごめん!!」

 

 

先輩は、大きく頭を下げた。

 

ごめん?

 

 

「な、なんで、先輩がそんなこと」

 

ようやく出てきた声は、そんなわけのわからない質問のために出てきた

 

謝るのは、絶対に私の方なのに

 

 

「ユメのこと、いなくなったこと、裏切ったこと!全部謝る!!謝って許されることじゃないけど.......」

 

 

頭を下げているせいで、先輩の表情が見えない。

 

 

「.......ぁ........違い、ます」

 

ふるふると震えながら首を横に振り、先輩のその顔に触れる。

 

暖かい。いつも私に笑顔を向けてくれたその顔。

 

本物だ。

夢にまで見たのに、感触はあっけなくて、でも、優しくて

 

 

「私が、全部.......」

 

罵ったこと

ガキみたいに拒絶したこと、先輩に酷いことを言ったこと

 

チケットを破ったこと、何もできなかったこと

 

 

「ぜん、ぶ......!」

 

全部謝りたいのに、涙だけが溢れて、また何も言えない。

 

先輩がしてくれた全部、感謝したくて

 

私がした全部、謝りたくて

 

 

「ごめん......なさい......」

 

掠れた声でホシノは謝罪の言葉を放った。

 

それに、アルトは呆けた顔を浮かべる

 

 

「い、やっ!ホシノは全く悪くないんだ.....!俺がもっと万能だったら......っ!!ウゴゴゴゴ.......!」

 

顔を抑えて泣いてしまう私を、先輩は必死にどうにかしようとしてくれる。

 

 

「ウワァーーッ!!ごめんよ!!本当にごめんッ!!」

 

裏返った声で必死に謝罪を続ける先輩を見ていると、自然と涙が引っ込んでくれた。

 

 

「な、なんでもします!!まじでなんでもするんで視界に入ることだけはお許しをッ!!」

 

思いき地面に膝をつき、額を地面に叩きつける。

 

ジャパニーズ土下座。美しすぎるフォームは、ホシノの笑いのタゲを一気に貫通した。

 

 

「ぷっ......ぐすっ......あははっ!!えぐっ.......うへへへへへっ!」

 

鼻声で、ホシノは笑い声を上げた。

後悔と、嬉しさと、可笑しさで嗚咽の混ざった変な笑いが出てくる

 

 

「っ.........ごめんなさい、せんぱい」

 

「あー......えと、その......大丈夫?」

 

「えへっ......大丈夫だよ」

 

 

ホシノはアルトに抱きつき、謝罪と感謝の言葉を連ねる。

言えなかったことを、言いたかったことを

 

 

「......今まで、いっぱいありがとうございました」

 

 

謝罪より、感謝を

 

 

「これからも、ずぅっとよろしくお願いします」

 

 

たくさんもらってしまった恩を、たくさん返したい

 

 

「よ、よろしくお願いします?」

 

とんとん、とホシノの背中を優しく撫でるアルト

 

 

 

そういうところだぞ、クソボケ

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

「ほら、約束通りホシノと来てやりましたよ」

 

 

昔と同じように缶ジュースを墓の前に供え、アルトも同じように缶ジュースを啜る。

 

「......ユメ先輩、この人秤アルトっていうらしいですよ」

 

ホシノもジュース片手に墓に向かって話しかける。

いつの日か、三人で話した時のように

 

 

「......言おう言おうとは思ってたけどさ、言えないこともあるもんなんだな」

 

 

ジュースを飲み終えると、アルトは煙草を咥える。

 

「あ、ライターねぇんだった」

 

「それ結構な頻度で吸わなきゃないやつなのに学習しないねぇ、先輩は」

 

 

「人の契約反故にしたやつがなんか言ってら」

 

「う“っ......それはごめんってぇ」

 

2人はもう暗い顔では墓に向かわない。

2人の表情は、昔のように明るいままだった

 

 

「まぁいいや。あとでカヨコにでも借りにいくか」

 

 

「......カヨコって、便利屋の白黒の子?」

 

「ん、あいつライター常備してくれてるからあとで事務所にでも______「だったら私がそこらのコンビニで買ってあげますよ。便利屋にまで行ってたら日が暮れます」

 

 

「なんだ急に硬い口調になって」

 

「別に〜」

 

いつも通りの口調に戻り、ホシノは墓に背を向ける。

その表情はどこかむすっとしたような表情になっていた

 

「じゃあね、先輩」

 

「また来年......じゃねぇや。今度からはもうちょい頻度上げるんで」

 

墓をペチペチと叩き、アルトも墓から顔を背けた。

 

 

「あ、そだ先輩」

 

 

「ん?言っとくけどバイクは運転させられんぞ。俺が捕まる」

 

ライズホッパーに跨り、アルトはホシノに向く。

煙草は咥えたまま。

 

 

「これ、覚えてるかな」

 

 

「これって......」

 

真ん中から真っ二つになったアクアリウムのチケット。

 

だが、それはセロハンテープによって形を取り戻していた。

お世辞にも、綺麗とは言えないものだが

 

 

あの日、破ってしまったその思い出

それをホシノはアルトに差し出す。

 

「まだ、有効期限効いてるかな」

 

 

先行入場券なのだから、二年近く経った今有効期限など効いているはずもないのだろう。

 

だからそれは、ホシノから先輩(アルト)に向けられた言葉

 

 

「.........あー.......実はさ」

 

 

アルトはチケットを受け取らなかった。

 

その代わりと言わんばかりに、ポケットから三枚の紙を取り出した。

 

 

「......俺も、気になってたところ」

 

 

チケットには、ホシノが破いたものと同じクジラと海が描かれていた。

 

「.........()()()、行こう」

 

不安そうな声で、アルトは問いかけた。

 

ホシノに対する罪悪感と、不安感は今でも拭いきれない。

それでも、アルトは一歩踏み出すことにした。

 

あの時みたいに、すれ違ってしまわないように。

 

すれ違ったとしても、こちら側から歩み寄れるように

 

 

「.....はい!みんなで行きましょう!」

 

 

ホシノも、それに歩調をあわせる。

貴方が追いつけるように。

私が追い抜かれないように

 

 

「それじゃあ出発!おじさんが運転しちゃうよぉ〜」

 

「捕まるって言っとるやろがい」

 

快調に、バイクは走り出す。

 

砂の匂いがする公道を、二つの心地の良い風が通り抜けていく

 

 

 

 

過去に囚われた後輩(ホシノ)は、ようやく未来に進むことができた。

 

 

進むことに囚われた先輩(アルト)は、ようやく歩調を弱められた。

 

 

プラスでも、マイナスでもない。

 

 

ゼロに向かって彼らは進んでいく

 

 

その影を、見守る翡翠色の影に後ろ髪惹かれることなく。

 

 

 

 

 

 

 

第±0話

 

 

「先輩、これからもよろしくね」

 

 

 

 

『小鳥遊ホシノと』

 

 

 

「......俺でよかったらよろしくするよ」

 

 

 

 

『秤アルト』

 

 




どうも、鏑丸でございます。

いかがでしたでしょうかアビドス編最終回!

理事との戦いを抜かしたのは私にとっても苦渋の決断でしたが、私の直感に任させてもらいました……!

これでライダー作品名乗っていいのなという自分自身の声がずっと聞こえてきましたが、曇りに曇った2人を晴らせたからこれでよしとしましょう。


ここまで感想を書いていただいたり、評価をいただき本当にありがとうございました!!
ここまで書き進められたのは皆様のお陰でございます!

次章のエデン条約編もお楽しみにッ!!


あ、次回からアビドス編の後日譚入ります。
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