「“それでミカ達に怒られてたんだ?“」
「この歳になって情けないですけどね、ちょっと目ぇ覚めた気がします」
しゃくしゃくとアルトと先生とヒヨリはミカがお見舞いに持ってきてくれたりんごを齧っていた。
アルトは口内がズタズタになっているのですりりんごをスプーンで食べている。
「......んで、ずいぶんいつも通りですけど」
「“それを言うならアルトもいつも通りに戻ったんじゃないの?“」
「楽々言ってくれますねぇ......まぁ、それについては認めますけど」
ミカ達が去ったのち、先生は病室にいつもの調子で出てきた。
「......先生は、俺があんとき言ったセリフ全部嘘だと思ってるんですか?」
「“全部ではないだろうけど、アルトは演技が下手だから“」
こうやって、すぐに見透かされる。ここが俺との違いなんだろうな。
踏んできた場数と経験の差がありありと滲み出ている。俺だって歳は食ってるはずなんだけどなぁ
「“でも、私はアルトのことを知らないんだなって思った“」
「......当たり前でしょ、別の生き物なんだから」
「“でも、知ろうとするのは大人の義務だから“」
「......お人よしだから騙されて、裏切られるって言ったのは結構本心ですよ」
「“まぁ、本当に裏切られてたら私は今ここにいないだろうから“」
言ってることが意味不明だ。
悪いのは当然俺なのにこの大人は俺を知れなかったことを悲しがっている。
だからこそ言っていることがあっているからより腹が立つ。なんだ俺イライラしてるんだろう
ああ、そのくせ重度のお人好しだからだ
「......先生」
「“ん?“」
「何か、俺に手伝えることってある?」
一旦殻に籠るのは終わりだ。
セナの言った通り俺はこのまま終われない
「“うーん.........そう言うアルトこそ、何かして欲しいことはある?“」
「なんで疑問文を疑問文で返すんだよ......」
「“だって、ずっとウズウズしてるじゃん。だから、何かして欲しいことでもあるんじゃないかなって“」
また、見透かされた。
これだからこの大人は嫌いだ。いつもは貧弱でいつ襲われるかわかったもんじゃないくせにこうやって頭は切れてこっちのことを見透かしてくるんだ。
そう言うところが嫌いだし
「......恨んでるとすら思い込んでたんだけどなぁ......」
手錠をはめられた手を両方動かして片肘.........と言うより普通に両肘を机につく
「“あ、そうだ“」
「......いや、何してんだよ」
先生が懐から何かを取り出したかと思えば、それを手錠の穴に刺して手錠を外しやがった
「“こっちはヒヨリの分ね“」
「いやいやいやいやおかしいだろ」
そう言いつつも自由になった両手の動きを確認し、先生から半強制的に押し付けられたヒヨリの方の手錠の鍵を受け取る
「いくらシャーレが超法的機関だからってやっていいことと悪いことが.........」
「“それと、これも“」
さらに俺は驚愕した。
なんと先生は回収されたであろう『ゼロワンドライバー』と『プログライズキー』を机の上に置いた。
「“取ってくるのには難儀したけどね“」
ドライバーは破損なし。キーもいつも使ってる三種類揃っている
「......本当に先生がアホかどうか疑いが出てきたぞ......」
「“ひどっ!?“」
俺は目の前に置かれたドライバーとキーに手を伸ばした。
「“あ、ダメだよ“」
「じゃあなんで目の前に置いたし......」
「“何もタダであげるだなんて言ってないからね“」
ニヤリと笑みを浮かべた先生はドライバーを手に持って俺に向きなおった。
「“これを渡すには、条件が三つある“」
「条件?」
先生は少し息を吸い、
「“まず、ヒナやアコに謝ること“」
「“アルトのことを私に教えること“」
予想外、ではなかった。
元より
まぁ、謝って許されることでは決してないが
先生にも、いつか俺のことを話す日が来るだろうなとは他人事のように思っていた
「......最後は?」
「“それは、二つの条件が終わったら言うよ“」
そう言って先生は俺にドライバーを渡した。
「......了解。条件に応える」
俺も渋々ドライバーを受け取り、その条件に答えた。
「......俺のことを教えるのは、移動しながらでもいいか?」
「“うん。許可はもらってきたから行こうか“」
俺は先生の手を借りながら立ちあがろうとするが_______________
「......ごめん先生」
「“足、力入らない?“」
立とうと踏み出した一歩は失敗。先生に体を支えられる形でようやく立ち上がった。
「ヒヨリ、行くぞ」
「むにゃ.........はっ、りんごは......?」
「全部食ったろうが」
「ありがとな、ヒヨリ」
「え、えへへ......兄さんのお役に立てて、嬉しいです」
結局アルトは車椅子に乗せられ、それをヒヨリが押す形で動き出した。
「“じゃあ、教えてくれる?“」
「......まぁ、そうだな。どっから話せばいいのやら......」
約束通り俺はありのままの俺を全部教えることにした。
死ぬ前のこととかは伏せつつ。
「俺はアリウス分校ってところで生まれたんだ」
病院内は驚くほど静かで、俺が声を発する度にフロアに俺の声が響いてなんだか落ち着かなかった。
「“トリニティと蟠りがあった学園だってナギサから聞いてけど......“」
「それについては俺も最近知った。そもそも俺はそう言う政権問題には一切干渉しないように過ごしてきたから」
そうしてアルトは語った。
「......とにかく家族を守るのに必死だった。俺が作ったライダーシステムも、俺が戦う理由も、全部根底には家族がいた」
家族のこと
「俺ってさ、痛覚ないんだよね。というか疾患が多すぎて痛覚ないとやって行けない」
「昔吐きすぎで食道が焼けちゃってあんまり物も食えない」
「体も、一部改造してる」
自分の体のこと
「......アリウスには、ベアトリーチェって頭のおかしいやつがいる。大人のくせにアリウスの生徒会長やってるババアだ」
「今回のこともあいつが主導だ。だけど、ことを起こしたのは俺だし、あいつとの口約束を馬鹿正直に信じたのだって俺だ」
ベアトリーチェのこと
デカグラマトンのことも説明しようと思ったが、過ごしてきた時間が長すぎるしこれを語ることによってあのちびっこ三人のことを知られるのも危険につながるだろうな
「す、少し前に2人で海にも行きました......えへへ、あれは楽しかったです......」
ヒヨリも会話に参加し、アリウスで過ごしたことを語ってくれた。
「“アルトは慕われてるんだね“」
「まぁね。みんなのお兄ちゃんですから」
だからこそ、十八歳になってもアリウスを離れないこと、すでに一年留年していることも語った。
「と言うのが、俺のこれまでの人生かな」
「“......教えてくれてありがとう“」
その余韻に浸るように先生は一瞬溜息をつき________________
「“ちょっと頑張りすぎじゃない!?“」
「..........え?」
目頭を赤くしながら車椅子に座るアルトに詰め寄っていた。
「“アルトを利用してたベアトリーチェ?って言うやつも許せないし、結構一緒にいたのにそれにすら気づけなかった私も許せないなぁ......“」
「いや、先生が気を病ませる必要な一切ないだろ......話さなかった俺が悪い」
唸りながらほろりと涙を浮かべる先生を見ていると、なんだかわからないけど落ち着いてきた。
「......ありがとう、先生」
俺のために本気で怒ってくれて。俺のことを本気で心配してくれて
「......俺のことを信じてくれてありがとう」
「“......あはは、アルトがいなくなっちゃったら私の仕事が山のように積み上がるのも時間の問題になっちゃうからね“」
「それが目的かい」
冗談めかして先生がそう言うと、エレベーターは目的の一階についた。
「“それじゃあ行こうか.........って、なんの騒ぎだろう“」
エレベーターを降りると、病院の正面玄関に人だかりができていた。
「“......あそこから出ると危なそうだね......アルト、あっちの裏口を________________
裏口を使わせてもらおう、そう先生が言おうとした時には
「......違うだろ」
アルトはすでにその人だかりに向けて歩き出していた。
無理やり体を動かしているからか、体の至る場所から血液が流れ出ていた。
ポタポタと、アルトの歩く道に赤い点が落ちていく
「っ、どいてくれ......」
アルトは人だかりを押し除けながら人々の目線の先に向かった。
「ひっ、て、テロリスト!?」
「なんで手錠してないの!?」
「早く正義実現委員会を呼んできて!!」
押し除ける必要もなく、アルトが歩くたびに周りのトリニティの生徒達は逃げるようにアルトに道を明け渡した。
慌てるもの、怒り出すもの、手に持っているものを投げつけるものとさまざまだったが、アルトはそれを意にも返さずに目線の中心にあったものを見た。
「..........サオリ、ミサキ?」
いや、見てしまった。
「ア......ルト.........ここにいた、のか.........」
意識を保ち、おそらくここまで這いずりながら歩いてきたであろう傷だらけのサオリ。
すでに意識を失い、サオリに抱えられているミサキ。
「すま、ない.........ひめ、が」
「喋んな!!」
地に倒れ伏したサオリとミサキを軋む体で助け起こし、傷口をクラスターセルで塞いで止血する。
「ああクソッ!!?なんで、っこんなあ“!」
おそらくここに来るまでも着ているアリウスのコートのせいでさらに傷を負っただろう。
「れんら、く......が、つかなかった.........だか、ら.........アズサ、に」
「喋んなっつったろ!!っ......!なんで、ここまで......!」
なんでここまで無理したんだ。そんな言葉が出かかって、頭がスッと冷えた。
それ、俺じゃないか
「やっぱり仲間じゃない!!動けるなら早く出て行ってよ!!」
うるさい
「まだ正義実現委員会は来ないの!?」
「こんな時に出てこれないなんてほんっと役立たず!!」
「じゃあなんでもいいから早く呼んでよ!」
「五月蝿いッ!!」
テメェらのうるさい声がキンキン響いてミサキの息遣いが聞こえないだろ。
「ああ“、クソが......っ!」
「......すま、ない......アルト、に.........どうか............」
報いようと
「.........サオリ?」
目を開けている。
「なぁ」
反応がない
「なぁって!!」
周りの音がうるさくて、息してるかどうかもわからない
「俺の、ためなんかに」
俺なんかが
「あ“ぁ“」
ぼやける視界と、痛みがないくせに軋む体を、後ろにいる先生に向けた。
救護騎士団に連絡してくれてる。取り乱したヒヨリのそばにいてくれる
俺にも声をかけてくれてるはずなのに、耳が詰まったように音が聞こえない
「せん、せい」
2人を腕に抱えながら、アルト表情を涙で濡らしながら
「たす、けてくれ」
震える声で、そう振り絞った
みんなが言おうとしていることは知ってるよ。
無理すんな?
お前が言うなクソボケぇぇぇぇぇ!!