アリウスクソボケオオバッタ   作:カブライニキ

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第十一話 秤アルトの独白

 

「......先生......」

 

先生が静かな病室の中に入ってきた。

それをアルトは虚な目線で迎える

 

 

「“怪我はすごく多いけど、命に別状は無いって。二、三日すれば2人とも元気になるよ“」

 

 

命に別状は無い。

その言葉を聞いてアルトは安堵の表情を浮かべた。

 

「......ごめん先生、俺......」

 

「“大丈夫だよ。あの子達には.........私が言っておくからさ“」

 

 

先生は寝ているヒヨリを膝枕しているアルトの隣に座った。

筋肉が裂傷している膝に頭を乗せるなど、本来ならば痛みで悶絶するのだろうが、それはアルトには関係ない。と言うより、この状況はアルトの精神安定に必要なプロセスだった。

 

 

 

 

「......いつも、気持ち的に不安定になる時はこうやって、ヒヨリに膝枕するんだ」

 

 

涙の筋を作って眠っているヒヨリの頬を優しく撫で、静寂が耐えられないのを隠す気もなくぽつりぽつりと語り出した。

 

 

「“アルトもみんなに支えられてるんだね“」

 

「......逆だよ」

 

 

ヒヨリを撫でる手が止まり、アルトは一呼吸置いて、

 

 

 

「俺が支えられてばっかりなんだ」

 

 

目線を膝元のヒヨリから、病室のベットに横になっているサオリとミサキに移し替えた

 

 

「バカみたいだろ?自分はどっかで自分を強いって勘違いして、この様だよ」

 

傷だらけの2人を見ていると、自分の傷などどうでも良くなる。

というか、痛みを感じない傷なんかに一切の価値はない。2人の方が、何倍も、何百倍も痛いのに

 

 

「......俺のためだってさ」

 

 

息が荒くなる。

 

 

「ここまでボロボロになったのも」

 

 

やばい、胃が気持ち悪い

 

 

「ここまで戦ってくれたのも」

 

 

視界のピントが合わない

 

 

「ここまで、してくれたことは、全部」

 

 

吐きそうだ

 

 

 

「っ......ぜんぶっ.........う“っ.........お“......ぇ.........ごめんせんせ......ふくろ、」

 

 

すでに喉元まで到達した吐瀉物をどうにか喉に押し留め、すんでのところで先生から袋を受け取る。そして一度ヒヨリを先生に預け、吐く。

痛みは感じないくせに、こんな不快感も涙が出るのも止まってくれない。

 

 

「げぇっ.........お“ぇっ.........あ“.........」

 

ただ、憎い

 

 

こんなことを招いた俺も

 

 

2人に物を投げたあいつらも

 

 

こんなことを考えやがったベアトリーチェも

 

 

ただただ、憎い。

 

憎たらしい

 

 

止まってくれない吐き気も

 

誰かを許そうとしない俺も

 

流れてしまう涙も

 

胃が気持ち悪いのも

 

 

我慢しろ

 

我慢しろ

 

今まで通りだ

 

一回閉じ込めて、あとで全部はこう

 

 

気持ち悪い

 

 

 

 

......もう、ぜんぶぜんぶ、感じなくなって仕舞えば________________

 

 

 

 

「“大丈夫。今は、大丈夫だから“」

 

 

そんな願いが頭をよぎろうとした瞬間、背中に温かい物を感じた。

先生の手が俺の背中をさすってくれている。

 

 

「“我慢しないでいいから。大丈夫“」

 

 

 

 

 

スッと、嫌な感覚が飛んでいくようだった。

気持ち悪いのも、涙も、憎いのも

 

 

一瞬だけ全部楽になった。

 

 

「“いつも溜め込むなって私に言うのは、君だよ“」

 

 

......ああ、クソ

 

 

 

飲み込むのは、俺だけでいいのに

 

 

「“これじゃあ、アルトだけが我慢しちゃうよ“」

 

家族がいて

 

 

「“アルト1人に背負わせるなんて、私も、みんなも絶対許さないから“」

 

 

これ以上を望んだことなんて、一度もないのに

 

 

「“......大丈夫、大丈夫“」

 

 

 

これじゃあ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以上を、望んでしまうだろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ははっ、慰められんなら、可愛い女の子が良かったなぁ」

 

 

「“うっ......まぁ、今は私で我慢してよ......“」

 

 

「.......先生」

 

 

「“......うん“」

 

 

「......こんなこと言うの、絶対間違ってるってわかってるんだけどさ」

 

 

「“私はそれを否定しないよ“」

 

 

否定されなくていい。

 

誰かにこれ以上否定されるのはまっぴらだ

 

 

「俺、頑張ったよな?」

 

 

自分が決めて、自分がやったことだ。

しかも、それは誰かに向けた迷惑だ。頑張りを肯定されるどころか、叱咤されても、怒鳴られても、殴られたって文句は言えないのに、俺はそれを望んでしまった。

 

 

 

「自分ではさ、結構頑張った方だと思うんだよ」

 

 

誰かに頑張りを、苦しいのを認めてほしいなんて、ガキだ。俺だったらぶん殴ってやるよ。

 

 

「やりたいことも結構我慢したしさ」

 

 

我慢を選択したのだって自分だろ。家族以外何もいらなかったんじゃないのかよ

 

 

「戦うのだって結構嫌だしさぁ」

 

 

それを肯定してほしいのは俺が安心したいからだろ

 

 

「普通に、学校通えたらな、って、さぁ」

 

 

泣くなよ

 

そこで泣いたら

 

 

「っ.........ぁ.........う“っ......怖いもんは、怖いしさぁ.........っ」

 

 

再び、アルトの背に手が添えられる。

 

 

 

そこで泣いたら、また、慰めてくれるって、解ってるから

 

 

 

「“......頑張ったね。本当に、頑張ったよ“」

 

 

都合のいい言葉だけじゃない。

 

 

vanitas vanitatum

 

 

都合のいいことばっかりの人生じゃなかった。

 

 

omnia vanitas.

 

 

何回も、その言葉に流れそうになった。

全部虚しいのも

 

全部苦しいのも真実だから

 

 

だけど

 

 

『そう言うみんなの場所を、俺が守れたらなぁって』

 

 

 

 

 

『俺に夢はない。だけど、夢を守ることはできる』

 

 

 

 

 

『俺は、運命と戦う。そして、勝ってみせる』

 

 

 

 

 

ありし日に憧れた言葉を、抱き続けてきたから

 

 

 

.........けど

 

 

 

 

 

「“.........言い忘れてたけど、三つ目の条件“」

 

 

先生は俺と目を合わせた。

 

 

 

 

「“私を、頼って“」

 

 

 

 

 

 

 

けど、たまには

 

 

ちょっとだけ、

 

 

 

ほんのちょっとだけでいいから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........っ...........頼む.........先生...........助けてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

誰かに頼らせてください、神様

 

 

 

 

 

 

 

 

「............私にだってそれぐらいできるよ」

 

 

ビシリと、体が固まった。

 

 

「.........ミ、ミサキィ!?」

 

 

「声大きい......」

 

 

ま、待て俺落ち着け。素数を数えるんだ。12345667883293829384......

 

 

 

「い、いつから見てました......?」

 

「兄さんが弱音を吐き出したところ」

 

 

バッチリ最初の方から見られてるじゃないすかぁ.........

 

 

「あと、姉さんも起きてるよ」

 

 

「え“ぇっ!?」

 

 

確かにサオリの方のベットを見てみると、一瞬ビクッとなったぞコイツ

 

 

「す、すまないアルト......途中で止めてしまうのも忍びなく......」

 

 

「あ“〜っ.........う“あ“〜...............クソ.........」

 

 

めっっっっっっっちゃ恥ずかしいじゃないすかぁ!!コレェ!!

 

 

 

「てっ、てことはまさかヒヨリも!?」

 

ヒヨリにまで聞かれてたらホンマに恥ずかしいってこれ

 

 

 

「すぴ〜.........んごっ.........」

 

 

 

 

「“......多分、普通に寝てるんじゃないかな“」

 

 

「だろうな」

 

 

良かった。何も良くないが良かった。

 

 

 

「それより兄さん、私たちはそんなに頼りなかった?」

 

「えっ?」

 

 

「確かにみんなには相談しづらいだろうけど、道具の私にはいくらでも吐き出せたんじゃないの?」

 

 

「......やっぱその道具ってのやめない?ミサキも嫌でしょ......」

 

 

めちゃくちゃ『道具』の部分力こもってた気がする......

 

 

「は?別に私は嫌だなんて一言も言ってないし、そもそも兄さんは手に持った道具の責任も取れないの?」

 

「えぇ......?(困惑)」

 

 

 

んなこと言われても......俺は別に......

 

 

「“......アルト、道具ってどう言うこと?“」

 

 

あっ先生いつにもなく顔が怖え

 

 

「ほら、早く()()()()()()()()()()()にさっきのことそっくりそのまま言ったら?あ、()()()()()()()()()()()()()()()の方が良かった?」

 

 

「違うよ先生!?本当に違うんだよこれh「“アルト、私はそれを否定しないよ“」

 

 

やめてよ!!俺に優しくしないでくれ!!

 

 

「アルト......私では、頼りなかったのか?」

 

 

「い、いや、全然そんなことはないけど......俺の問題をみんなに押し付けるのは違うかなぁって......」

 

「兄さんの勝手な想像で決めつけないで。私たちはそんな弱くないから」

 

 

なんか2人とも急に元気になってない!?

確か起き上がるだけでも三日くらいかかるって言ってたよね!?

 

 

「......私はアルトに恩を返せれば、報いられればそれでいい.........だが、アルトが1人で背負ってしまっては、またアルトに貸しを作ってしまう......それでは、いつまでたっても私はアルトに報いられない」

 

 

「い、いや、んな昔のこと気にしなくたって......」

 

 

「昔のことだからこそだ。()()はアルトの一生に残ってしまった......」

 

 

 

サオリが『それ』と言った瞬間、先生は何を勘違いしたのか両目をギョッと見開いた。

 

 

「違うよ!?傷だよ傷!!昔事故っただけだから!」

 

 

「“事故る.........アルト、後で私とOHANASI⭐︎しようか“」

 

「あ“あ“あ“あ“あ“あ“!!終わったァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、誤解を解くのに結構掛かった






ミサキ(身体中痛い……)

サオリ(……だがこれぐらい、アルトの傷に比べれば)


って感じでこの2人身体中バッチバチに痛いのに無理して起き上がってます。

愛の力ってすごいね!!


さて、次回からようやくアリウス分校およびベアトリーチェ攻略戦が始まります。
ここまで読んできてくださった皆さん、絶対に曇らせて晴らすのでお楽しみにしてくだせぇ!!


では次回アリウスクソボケオオバッタ第十二話『空崎ヒナに感謝(謝罪)を』でお会いしましょう!!






……ここまで読んでくださった皆様ありがとうございます。

ここで、いらないと思いますがお話の流れを再確認していきましょう。


① アルト、トリニティを襲撃。ノリノリでヒナ達の脳を粉砕⭐︎

② アルト、ヒナ達を庇って生きてるのが不思議なレベルの重傷を負う。(みんなが曇る!)

③ アルト、起きてミカとセナ、ヒヨリに喝を入れられる。

3.5 アツコ、ベアトリーチェと合流

④ サオリ、ミサキ、アルトの病院に到着。ボロボロになってアルトを曇らせる

⑤サオリ、ミサキ、体の痛みを堪えつつアルトの独白を目撃。←今ここ

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