「......先生......」
先生が静かな病室の中に入ってきた。
それをアルトは虚な目線で迎える
「“怪我はすごく多いけど、命に別状は無いって。二、三日すれば2人とも元気になるよ“」
命に別状は無い。
その言葉を聞いてアルトは安堵の表情を浮かべた。
「......ごめん先生、俺......」
「“大丈夫だよ。あの子達には.........私が言っておくからさ“」
先生は寝ているヒヨリを膝枕しているアルトの隣に座った。
筋肉が裂傷している膝に頭を乗せるなど、本来ならば痛みで悶絶するのだろうが、それはアルトには関係ない。と言うより、この状況はアルトの精神安定に必要なプロセスだった。
「......いつも、気持ち的に不安定になる時はこうやって、ヒヨリに膝枕するんだ」
涙の筋を作って眠っているヒヨリの頬を優しく撫で、静寂が耐えられないのを隠す気もなくぽつりぽつりと語り出した。
「“アルトもみんなに支えられてるんだね“」
「......逆だよ」
ヒヨリを撫でる手が止まり、アルトは一呼吸置いて、
「俺が支えられてばっかりなんだ」
目線を膝元のヒヨリから、病室のベットに横になっているサオリとミサキに移し替えた
「バカみたいだろ?自分はどっかで自分を強いって勘違いして、この様だよ」
傷だらけの2人を見ていると、自分の傷などどうでも良くなる。
というか、痛みを感じない傷なんかに一切の価値はない。2人の方が、何倍も、何百倍も痛いのに
「......俺のためだってさ」
息が荒くなる。
「ここまでボロボロになったのも」
やばい、胃が気持ち悪い
「ここまで戦ってくれたのも」
視界のピントが合わない
「ここまで、してくれたことは、全部」
吐きそうだ
「っ......ぜんぶっ.........う“っ.........お“......ぇ.........ごめんせんせ......ふくろ、」
すでに喉元まで到達した吐瀉物をどうにか喉に押し留め、すんでのところで先生から袋を受け取る。そして一度ヒヨリを先生に預け、吐く。
痛みは感じないくせに、こんな不快感も涙が出るのも止まってくれない。
「げぇっ.........お“ぇっ.........あ“.........」
ただ、憎い
こんなことを招いた俺も
2人に物を投げたあいつらも
こんなことを考えやがったベアトリーチェも
ただただ、憎い。
憎たらしい
止まってくれない吐き気も
誰かを許そうとしない俺も
流れてしまう涙も
胃が気持ち悪いのも
我慢しろ
我慢しろ
今まで通りだ
一回閉じ込めて、あとで全部はこう
気持ち悪い
......もう、ぜんぶぜんぶ、感じなくなって仕舞えば________________
「“大丈夫。今は、大丈夫だから“」
そんな願いが頭をよぎろうとした瞬間、背中に温かい物を感じた。
先生の手が俺の背中をさすってくれている。
「“我慢しないでいいから。大丈夫“」
スッと、嫌な感覚が飛んでいくようだった。
気持ち悪いのも、涙も、憎いのも
一瞬だけ全部楽になった。
「“いつも溜め込むなって私に言うのは、君だよ“」
......ああ、クソ
飲み込むのは、俺だけでいいのに
「“これじゃあ、アルトだけが我慢しちゃうよ“」
家族がいて
「“アルト1人に背負わせるなんて、私も、みんなも絶対許さないから“」
これ以上を望んだことなんて、一度もないのに
「“......大丈夫、大丈夫“」
これじゃあ
それ以上を、望んでしまうだろ
「......ははっ、慰められんなら、可愛い女の子が良かったなぁ」
「“うっ......まぁ、今は私で我慢してよ......“」
「.......先生」
「“......うん“」
「......こんなこと言うの、絶対間違ってるってわかってるんだけどさ」
「“私はそれを否定しないよ“」
否定されなくていい。
誰かにこれ以上否定されるのはまっぴらだ
「俺、頑張ったよな?」
自分が決めて、自分がやったことだ。
しかも、それは誰かに向けた迷惑だ。頑張りを肯定されるどころか、叱咤されても、怒鳴られても、殴られたって文句は言えないのに、俺はそれを望んでしまった。
「自分ではさ、結構頑張った方だと思うんだよ」
誰かに頑張りを、苦しいのを認めてほしいなんて、ガキだ。俺だったらぶん殴ってやるよ。
「やりたいことも結構我慢したしさ」
我慢を選択したのだって自分だろ。家族以外何もいらなかったんじゃないのかよ
「戦うのだって結構嫌だしさぁ」
それを肯定してほしいのは俺が安心したいからだろ
「普通に、学校通えたらな、って、さぁ」
泣くなよ
そこで泣いたら
「っ.........ぁ.........う“っ......怖いもんは、怖いしさぁ.........っ」
再び、アルトの背に手が添えられる。
そこで泣いたら、また、慰めてくれるって、解ってるから
「“......頑張ったね。本当に、頑張ったよ“」
都合のいい言葉だけじゃない。
vanitas vanitatum
都合のいいことばっかりの人生じゃなかった。
omnia vanitas.
何回も、その言葉に流れそうになった。
全部虚しいのも
全部苦しいのも真実だから
だけど
『そう言うみんなの場所を、俺が守れたらなぁって』
『俺に夢はない。だけど、夢を守ることはできる』
『俺は、運命と戦う。そして、勝ってみせる』
ありし日に憧れた言葉を、抱き続けてきたから
.........けど
「“.........言い忘れてたけど、三つ目の条件“」
先生は俺と目を合わせた。
「“私を、頼って“」
けど、たまには
ちょっとだけ、
ほんのちょっとだけでいいから
「........っ...........頼む.........先生...........助けてくれ」
誰かに頼らせてください、神様
「............私にだってそれぐらいできるよ」
ビシリと、体が固まった。
「.........ミ、ミサキィ!?」
「声大きい......」
ま、待て俺落ち着け。素数を数えるんだ。12345667883293829384......
「い、いつから見てました......?」
「兄さんが弱音を吐き出したところ」
バッチリ最初の方から見られてるじゃないすかぁ.........
「あと、姉さんも起きてるよ」
「え“ぇっ!?」
確かにサオリの方のベットを見てみると、一瞬ビクッとなったぞコイツ
「す、すまないアルト......途中で止めてしまうのも忍びなく......」
「あ“〜っ.........う“あ“〜...............クソ.........」
めっっっっっっっちゃ恥ずかしいじゃないすかぁ!!コレェ!!
「てっ、てことはまさかヒヨリも!?」
ヒヨリにまで聞かれてたらホンマに恥ずかしいってこれ
「すぴ〜.........んごっ.........」
「“......多分、普通に寝てるんじゃないかな“」
「だろうな」
良かった。何も良くないが良かった。
「それより兄さん、私たちはそんなに頼りなかった?」
「えっ?」
「確かにみんなには相談しづらいだろうけど、道具の私にはいくらでも吐き出せたんじゃないの?」
「......やっぱその道具ってのやめない?ミサキも嫌でしょ......」
めちゃくちゃ『道具』の部分力こもってた気がする......
「は?別に私は嫌だなんて一言も言ってないし、そもそも兄さんは手に持った道具の責任も取れないの?」
「えぇ......?(困惑)」
んなこと言われても......俺は別に......
「“......アルト、道具ってどう言うこと?“」
あっ先生いつにもなく顔が怖え
「ほら、早く
「違うよ先生!?本当に違うんだよこれh「“アルト、私はそれを否定しないよ“」
やめてよ!!俺に優しくしないでくれ!!
「アルト......私では、頼りなかったのか?」
「い、いや、全然そんなことはないけど......俺の問題をみんなに押し付けるのは違うかなぁって......」
「兄さんの勝手な想像で決めつけないで。私たちはそんな弱くないから」
なんか2人とも急に元気になってない!?
確か起き上がるだけでも三日くらいかかるって言ってたよね!?
「......私はアルトに恩を返せれば、報いられればそれでいい.........だが、アルトが1人で背負ってしまっては、またアルトに貸しを作ってしまう......それでは、いつまでたっても私はアルトに報いられない」
「い、いや、んな昔のこと気にしなくたって......」
「昔のことだからこそだ。
サオリが『それ』と言った瞬間、先生は何を勘違いしたのか両目をギョッと見開いた。
「違うよ!?傷だよ傷!!昔事故っただけだから!」
「“事故る.........アルト、後で私とOHANASI⭐︎しようか“」
「あ“あ“あ“あ“あ“あ“!!終わったァァァァァ!!!」
その後、誤解を解くのに結構掛かった
ミサキ(身体中痛い……)
サオリ(……だがこれぐらい、アルトの傷に比べれば)
って感じでこの2人身体中バッチバチに痛いのに無理して起き上がってます。
愛の力ってすごいね!!
さて、次回からようやくアリウス分校およびベアトリーチェ攻略戦が始まります。
ここまで読んできてくださった皆さん、絶対に曇らせて晴らすのでお楽しみにしてくだせぇ!!
では次回アリウスクソボケオオバッタ第十二話『空崎ヒナに
……ここまで読んでくださった皆様ありがとうございます。
ここで、いらないと思いますがお話の流れを再確認していきましょう。
① アルト、トリニティを襲撃。ノリノリでヒナ達の脳を粉砕⭐︎
② アルト、ヒナ達を庇って生きてるのが不思議なレベルの重傷を負う。(みんなが曇る!)
③ アルト、起きてミカとセナ、ヒヨリに喝を入れられる。
3.5 アツコ、ベアトリーチェと合流
④ サオリ、ミサキ、アルトの病院に到着。ボロボロになってアルトを曇らせる
⑤サオリ、ミサキ、体の痛みを堪えつつアルトの独白を目撃。←今ここ