アリウスクソボケオオバッタ   作:カブライニキ

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ちょっとタイトル変更


第十二話 そうだ、謝ろう

 

先輩が、目を覚ました

 

......らしい。

 

私はまだわからない。だって、会いに行っていないから

 

 

なんで会いに行っていないかって?

 

 

 

「......もう、こんな時間」

 

 

ヒナは薄暗くなってきた風景を自室の窓から眺め、今日も1日が終わったことを確認する。

 

確認するまでもなく、今日は強制的に終わりになったとわかっているはずなのに

 

 

 

「...........ごはん、食べないと」

 

 

そう思い、ヒナはベットの上から立とうとするが、足がすくんで動かない

 

どうにかして足を冷いフローリングに降ろしてみるが、それ以上足が動くことも、震えが止まることもなかった。

 

 

こうやって私がいつも動けない時、動きたくない時は

 

 

 

「......先輩」

 

 

先輩が、ご飯を作ってくれたっけ。

覚えてる。たくさん覚えてる

 

 

「グラタン......食べたいな」

 

 

ああ、でも、そうか

 

 

きっともう2度と食べられない

 

 

 

 

 

『大義の為の、犠牲になってくれ』

 

 

 

歪な笑顔に、私が今も無傷のままここにいること。

状況と、いつもの先輩を鑑みてあれは絶対に嘘の先輩だった。

 

 

なのに、私は

 

 

「......なんで、信じてないの......」

 

 

裏切られたって、すぐに鵜呑みにして、先輩に怒りを叩きつけた。

 

 

 

 

『多分、違ったんだろうな』

 

 

 

 

「づっ.........ぅ」

 

 

あの時の冷い声と、見たこともない先輩の表情が頭の裏でズキズキと音を立てる

 

「...........................」

 

 

 

ひとしきり頭痛が治った頃、ヒナは部屋を見渡す。

カーテンから差し込む空が完全に暗くなる前の灰色の光。

 

昔は、暗くなるまで一緒にゲームしたり、電気をつけるのも忘れて一緒に仕事したり

 

この空の色が好きだった。

だってそこには、いつも先輩がいたから

 

 

この部屋の空気が好きだった。

だってそこでは、いつも先輩の暖かさがあったから

 

 

この薄暗い窓辺に座るのが好きだった。

だってそこでは、先輩がいつも膝に乗せてくれたから

 

 

キッチンの電球が好きだった。

それをつける先輩の姿が、今でも鮮明に目に焼き付いている。

 

 

毎日帰ってきて、好きなことをして、好きな先輩と一緒に過ごして、一緒にご飯を作って、お風呂は流石に別々で。

 

髪をドライヤーで乾かす手の感触も、一緒にキッチンに立った時の高揚も、全部覚えてる。

 

 

 

何より鮮明に覚えているのは、先輩の『声』

 

 

 

 

 

今日何食べたいー?

 

今日何しよっか

 

頑張りすぎも厳禁だぞ

 

頑張ったなぁ

 

えらい!!ヒナちゃんえらいゾォ!!

 

 

 

 

 

 

先輩は、楽しかったり、気分が上がると語尾が上がる。

 

静かなのに、はっきり聞こえて、耳の奥にしっとり残るような、そんな声。

 

 

 

 

だから、怖かった

 

 

あの時の先輩の喉から出る声は、同じトーンなのに全く違くて

 

 

同じ声なのに、全然違った。

 

 

冷えるような、寒気がするような

 

 

説明できないけど、ただただに怖かった。

 

 

先輩の声が好き。

 

 

あの冷い声が嫌い

 

 

先輩の仕草が好き

 

 

癖が読めないあの戦闘スタイルが怖い

 

 

時折挟む冗談とか、ギャグが好き

 

 

見え見えの嘘のくせに、本気に聞こえるあの嘘が嫌い

 

 

 

 

だから、あの時本当に私の目の前にいるのが先輩か本気で疑った。

全部が、全くの別物だったから。

 

表情も、仕草も

 

あの笑顔も

 

 

全部

 

 

 

「......はぁっ、はぁっ......」

 

 

 

全部が

 

 

 

本当の、先輩だったと、したら

 

 

 

「う“っ......はぁっ、はぁっ.........うえっ.........あ......ぁ」

 

 

私は

 

 

「......もう、無理......」

 

 

握りしめていた風紀委員長の腕章を、足元に落とした。

 

 

「これ、以上は......っ」

 

 

もう、嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然のチャイムの音に、私の体はビクッと震えた。

 

......こんな時間に誰だろう

 

 

できるだけ足音を立てないようにスリッパを履いて足を擦って歩く。

 

そして、ドアスコープを恐る恐る覗き込んだ。

 

 

アコ?

 

 

それとも、先生?

 

 

 

 

 

 

『......ヒナ、えーと......あれ、なんて言うんだっけ......』

 

 

 

 

 

 

 

「.........せん、ぱい?」

 

 

 

 

ヒナの予想に反して、ドアスコープの向こう側にいたのはヒナの悩みの種である秤アルト本人だった。

 

足に力が入らないのか、時折ただ立っているだけなのにバランスを崩して倒れそうになっている。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ」

 

 

ヒナの紫の瞳の中の瞳孔が開かれ、再び呼吸が荒くなる

 

その息遣いが外に漏れ出ないように、必死で口を手で塞ぐ。

 

 

『.......まぁ、出るわけない、か』

 

 

しばらくヒナが息を殺していると、アルトは半分諦めたかのように扉の前で呟いた

 

 

 

『......メモだけでも、置いていくか』

 

 

このまま、やり過ごせ。

 

息を止めていろ。

 

先輩に会えない。

 

 

私は、先輩に会っていいはずがない

 

 

 

『先輩の声で喋らないでッ!!』

 

 

 

何も知らないのに、あんな言葉を吐いた私が

 

 

 

 

『......ヒナ』

 

 

無視しろ

聞き流して

 

 

もう、聞きたく_______________

 

 

『ほんとに、ごめん』

 

 

 

 

 

 

「......ぁ」

 

 

 

あったかい。

 

 

冷たく、ない

 

 

 

 

 

扉の向こうにいるのは________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おわっ」

 

 

 

触れたその背が、やっぱり暖かい。

 

思い切り抱きついても、転びながら私を抱きしめてくれる

 

 

「先輩.........っ............せんぱい......!」

 

 

あの時みたいな、冷たい先輩じゃない

 

 

 

「......ヒナ......」

 

 

 

「せんぱい........ごめん、なさい」

 

 

信じられなくて

 

「私が、よわい、から」

 

 

私が、約束を守れないから

 

 

「っ......ごめん、なぁっ......俺、ヒナに......背負わせてばっかだ」

 

 

アルトもまた、謝罪を。

 

 

秤アルトは結局どっちでもなかったのだ。

 

 

『空崎ヒナに向けた秤アルト』ではなく、初めからただの秤アルトだったのだ

 

その間には確かにアルトの演技、嘘も絡んでいるだろう

 

 

だが、それは人間関係の上で必ず成り立つものだ

 

 

 

 

「ごめんっ......ほんとに、ごめん.........」

 

 

 

最初から、秤アルトは空崎ヒナの先輩だった。

 

 

 

 

 

 

ただ、それだけ

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「次は玉ねぎ?」

 

 

「おう。えーと、玉ねぎは野菜室の奥〜......」

 

 

2人して玄関先でひとしきり泣いた後、2人はキッチンに立っていた。

当たり前のようにエプロンは二枚常備されており、ヒナもアルトもサイズは違えど色、形状も同じ黒のエプロンを使っていた。

 

 

「......お詫びの品、ほんとにこれでいいの?」

 

 

「うん。これがいいわ」

 

 

ヒナとアルトは手際良く料理の下ごしらえを済ませていく

 

 

「先輩のグラタン、食べたかったから」

 

 

「.........まぁ、別のものって言っても俺が今あげられるもんなんてこれぐらいか」

 

 

下ごしらえが終わったグラタンを予熱で熱したオーブンに投入し、タイマーをセット。

 

 

「よし、あとは出来上がりを待つだけだな」

 

 

「うん。ありがとう、先輩」

 

 

ヒナはポニーテールのように後ろでまとめた自身の髪を解き、エプロンを外す。

 

 

さっきまでのような陰鬱とした雰囲気はなく、ヒナもアルトも軽く笑みを浮かべていた

 

 

そしてヒナは椅子に座ったアルトの元に向かって________________

 

 

 

「......失礼するね、先輩」

 

「俺の膝で良ければ、どぞ......」

 

 

ちょこんと、アルトの膝に座った。

もちろんこれも『お詫び』の一部である。

 

 

「......ふふっ、あったかいね、先輩」

 

 

「それなら何よりで」

 

 

そしてアルトは膝に座って体重を完全に預けているヒナの頭を撫でる。

勘違いかもしれないのだが、さっきからヒナの髪の毛の艶が増している気がする。なんというか、ツヤツヤ?している

 

 

「......私は」

 

 

アルトに体重を預けたまま、撫でられたままヒナは少しずつ話し始めた。

 

 

 

「..........私は、先輩にもっと頼られたかった」

 

 

あなたが私を守るために、わざと突き放そうとしたのも知ってる。だけど、私だってあの水色の髪をした子みたいに

 

 

「......もっと、褒めて欲しかった」

 

わがままかもしれない。

でも、先輩はいつも私のことを褒めてくれたから。

 

 

「ゲヘナにも、もっとたくさん来てほしいし、できれば一緒にいてほしい」

 

 

つい顔が赤くなるような言葉を吐き、予想通り私は赤面する。

背を向けてるおかげで先輩に顔は見えないのが唯一の救いだろうか

 

 

「私だって......私だって、先輩と、もっとたくさん.........」

 

 

目頭が、熱くなる。

 

そこで、ヒナの我慢は限界を迎えた。

 

 

 

 

「私だって......!先輩と一緒に寝たい!」

 

 

絞り出すように、ヒナは言葉を連ねる

 

 

「じゃれあいたい!ハグもたくさんしたいし......それ以上のことも......

 

 

危なくすごいことを口走りそうになり、勢いのまま声を小さくする。

 

 

 

「もっと、もっと......たくさん甘えたい......!」

 

 

情けない。

風紀委員長としては0点の姿

 

 

 

「......月並みの言葉になっちゃうけどさ」

 

 

 

それでも、

 

 

それでもあなたは

 

 

 

先輩は

 

 

 

 

 

「俺で良ければ、いくらでも」

 

 

 

 

そんな0点の私を認めてくれるから。

 

 

 

 

 

________________________________

 

 

 

 

「それで、先輩。私は何をすればいい?」

 

2人でグラタンを食べ終わって、ヒナはそう切り出した。

 

 

「.........いいのか?」

 

 

「うん。さっきも言ったけど、私は先輩にたくさん頼ってほしいから」

 

 

床に投げっぱなしだった『風紀』と書かれた腕章を手に取り、ヒナは羽織っていたカーディガンを脱ぐ

 

 

 

 

「......終わったら」

 

 

一瞬、言葉を詰まらせる。

 

 

こんなにたくさんお願いしても、迷惑にならないだろうか。

 

......でも、たくさん甘えるって、自分に誓ったから

 

 

「終わったら、添い寝してほしい......」

 

 

 

「......ははっ、子守唄もつけとくよ」

 

 

 

やっぱりというか、多分わかってくれていない。

 

こんなにわかりやすくしても、先輩は多分ドキドキもしてくれないだろうから

 

 

「......さあ、行こうか」

 

「......今回もよろしくな」

 

 

次は、もう少し大胆にしても、いいよね?

 






書いてる時のワイ「もう付き合っちゃえよ!!」
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