第十五話 裏切り者と腹筋崩壊
「さて、知っていることを全て教えてくれるかな?」
「わ、私は何も話す気はない!」
結束バンドで腕を椅子に固定されながら尋問されている少女はものすごい剣幕で正面に座るセイアを睨みつけた。
セイアはそれに対して困ったものだと言わんばかりの表情を向けている
「あなたがすぐに情報を吐いてくれるとは私たちも思っていませんので」
隣に座り、いつも通り紅茶を仰ぐナギサ。
「でも、早く吐いちゃったほうが楽になるんじゃないかなぁ?」
机に両肘をつき、可愛らしく尋問に取り掛かるミカ。開かれた瞳は全く笑っていなかったが
「“この箱の中身は一体何?“」
「......下賎な大人に対して教えることは何もない」
そして、荷物の中から出てきた一際厳重でパスコードの打ち込みが必要な謎のアタッシュケース。
先生が持ってもさほど重さを感じないほどには軽い
「目的と、そのケースのパスコードを教えてくれればそれでいい」
「何度も言っている!私は何も言わない!マダムの計画に狂いはない......秤アルトは死ぬぞ.........ははっ」
________________ジャキッ
その瞬間、三方向から少女は銃を向けられる
「あんまり調子に乗らないほうがいいじゃんね?」
「ご自分の状況を、わかっていないのでしょうか?」
「あまり気分の良い物言いではないな。さて、訂正してもらおうか」
ミカのサブマシンガンである『Quis ut Deus』を後頭部に向けられ、ナギサの『ロイヤルブレンド』とセイアの『鋭き光彩』の二丁の拳銃を側頭部と額に当てられる
三人の瞳孔からは完全にハイライトがなくなり、いつもはこのような言葉は流すはずのセイアでさえその感情を行動に移していた。
詰まるところ________________
「では、それを踏まえてもう一度聞こうか。君の目的とパスコードは?」
「っ.........答えは、『地獄に堕ちろ』だティーパーティー」
多少痛めつけられようが構わないと言ったスタンスで少女は食ってかかる。
脂汗をかきながらも、少女は笑い続けていた。
「マダムはこの世界に楽園をお築きになる......エデン条約も、シャーレも、あの男ですら全てマダムの掌の上...... vanitas vanitatum et omnia vanitas......マダムのご意志は私の中で今でも残り続けている......」
「“......マダムって、ベアトリーチェのこと?“」
「貴様のような人間が軽々しくマダムの名を口にするなッ!!」
もはや信奉とすら呼べるほどにベアトリーチェを語る少女に、先生は一瞬恐怖心を覚えた。
「あの男が余計なことをしなければ......私は今でも自治区に残れたというのにっ..........!」
「“......アルトみたいに反旗を翻す子もいれば、君みたいにベアトリーチェを信仰してる子も、確かにいてもおかしくないか“」
同じ学園の2人でも、考え方はまるで違った。
「秤アルトはこんな、気色の悪い場所に私を送り込んでっ、誰かを救ったと本気で思っている異常者だ!!」
おそらく彼女はアルトによってアリウスから逃がされた生徒だろう。
「......この子って昔アルトさんと一緒に連れてきた子じゃない?」
「彼はアリウスにからトリニティに転校したアリウスの生徒一人一人に対して保護者の印を押していたからね。覚えているよ」
「そんな恩人を異常者扱いするのは、少々怒りの矛先がお門違いなのでは?」
「黙れッ!!」
ついに反論のボキャブラリーがなくなったのか、黙れの一言しか言わなくなってしまった
「そも、君は自分からトリニティに行きたいとアルトに頼んだからここに来たのではないのか?私は少なくともそう記憶しているはずなのだけれど」
「っ......それ、は」
少女はセイアのその言葉に口ごもり、何かをモゴモゴボソボソと呟いている。
「大方、そのベアトリーチェとやらに『あなたは選ばれた』程度の言葉を囁かれたのだろう?」
「.............っ......」
どうやら図星だったようで、さっきまでのつぶやきもなくなった。
「......良くも悪くも、そのベアトリーチェという大人はアルトから聞いた通りの人物らしい。まるで子供を道具だとしか考えていない」
「結構、というかかなり最低じゃない?」
ミカの言葉に少女は一瞬反応する。
それも、図星だったからだ。
「......自分の野望のために、先輩にあんなことを.........っ」
ナギサはそう呟き、まるで苦虫を噛み潰したかのように顔を顰めた。
昔から面倒を見てもらっている人間をまるで道具のように扱われていることを知れば、このような感情になるのも当然のことだろう
「......アルトさんの方は大丈夫なの?」
「“さっきヒナ
「では、情報がまとまり次第そちらに連絡を入れよう。気をつけてくれ、先生」
三人は部屋から去った先生を手を振って見送る。
「......さて、では尋問を再開しようか」
「っ......!私はマダムを裏切りは________________
「それならもう大丈夫じゃんね⭐︎あなたにとっておきの人がいるから⭐︎」
「素直に話しておけばよかったと、後悔することになるでしょうが......」
ナギサとミカは意味深に笑みを浮かべ、セイアは座っていた席を一度立ち、後ろの扉を開けた。
「さて、君の出番としようか、腹筋崩壊太郎くん」
その扉を開いた瞬間、その部屋の中から筋骨隆々のマッチョマンがゆっくりと登場した。
なぜか、英語の曲がBGMとして流れ始めている
「っ......さっきの......だが、私が暴力程度で口をわr「腹筋ッパワーーーーッ!!!」
その瞬間、少女の頬を腹筋崩壊太郎の咆哮と共に何かが掠めた。
滅多に傷つくことのないキヴォトス人の頬が、薄く切れ込みが入るほどには傷ついている
「.........腹筋、パネル.........?」
見れば、腹筋崩壊太郎の腹筋は見事に見事になくなっており、その腹筋はというと
「わーお⭐︎、すごい威力じゃんね」
「ブフォッwwwちょ.........すみませんっ.........っwww」
「ナギちゃんそんな笑い方したっけ?」
少女の隙間を縫うように、壁や床に突き刺さっていた。
切れ込みを入れられた頬からは、赤い鮮血が薄く滴っていた。
「......ぁ......」
その瞬間、少女は自身の行いを後悔した。
自分は、喧嘩を売る相手を間違えたのだと
「パワァ」
目の前のボディビルダーは次々に自身の筋肉を魅せるためのポーズを取り続けている。
「腹筋は、何度でも甦るッ!!」
流体金属が吹き飛んだ腹筋パネルの隙間を埋めるように染み込み、再び腹筋崩壊太郎の筋肉を完全なものとして元に戻した。
「ぁ、あぁ......」
流れているBGMに合わせて筋肉ポーズをとり続けている。
確実に、次のサビで殺られる。
「腹筋パ「ま、待てっ!!待ってくださいッ!!話しますっ!全部話しますからぁっ!」
今にも再びその筋肉を解き放とうとしている腹筋崩壊太郎のセリフを遮り、少女は声を上げた。
だが、セイアはBGMが流れているスマートフォンを離すコトなく、ことの成り行きを椅子に座ってただただ見つめていた。
「......っ!0204だ!!」
耐えきれなくなり、少女は口を割った。
だが、BGMは止まってくれない
「......おい......今情報を話したでしょ!?早く止めてよ!」
どんどん曲はサビに向かっていく
だが、それをセイアも、ミカも止めない。
ナギサに至ってはポージングがツボに入り、紅茶を手放して顔を伏せてプルプル震えている。
「ね、ねぇっ!ごめんなさいっ!!私が悪かったですっ!!謝りますからぁっ!」
さっきまでの威勢はどこへやら、恥も外聞もかなぐり捨てて少女は助けを叫んだ。
そもそも、先生がいない時点で止めるものなど誰もいないのだが
情けなく涙と鼻水を垂れ流し、刻一刻と迫る自らのタイムリミットに恐怖する。
「許してください!ごめんなさい!!なんでもしますからぁっ!!」
「......君は大いに勘違いしている」
セイアは聖母のような微笑みを崩すことなく、淡々と言葉を連ねていく
「まず、この学園を裏切ったこと。君の一つ目の間違いだ」
指を一つ折る
BGMは曲の中盤に差し掛かっている。
腹筋崩壊太郎は背筋を見せつけていた
「肩にちっちゃい重機のせてんのかいっ⭐︎」
「せ、背中に翼が生えてますよー......!」
ミカはノリノリ、ナギサは少し恥ずかしそうに腹筋崩壊太郎に声援を送った
「二つ目、情報を吐けば許されると思っていること」
BGMはサビ前の静けさを迎えていた
腹筋崩壊太郎はサイドチェストで胸筋から腓腹筋、上腕二頭筋を見せつけていた
「ナイスバルクじゃんね⭐︎」
「ちょ、チョモランマ!」
2人は同じように腹筋崩壊太郎の隆々とした筋肉を褒め称える
それに対して腹筋崩壊太郎はファンサービスと言わんばかりに筋肉を動かしてみせた
「三つ目_________________
BGMはサビに向けてビートを上げる
「......アルトを侮辱したことだ」
「.........ヒッ」
腹筋崩壊太郎は腕を頭の後ろに組み、腹筋をくの字に曲げて強調。
そして________________
「腹筋パワーーーーーーッ!!!!!!」
堂々と、そう叫んだ
____________________
「む、きゅ.........」
腹筋崩壊太郎の叫びで少女は気絶し、その情けない表情を晒している。
実際腹筋崩壊太郎は少女に向かって腹筋パネルを飛ばしていない。
詰まるところ、あれはただの脅し兼セイアの
「......さて、箱の中身は、と」
「容赦ないねぇセイアちゃん」
「ふふっ......柄にもなく怒ってしまった」
いたずらっ子のように嬉しそうに頬を吊り上げるセイア。
「というか、これは......?」
パスコードを打ち込み、箱の中身を確認。
その中に隠れていたのは________________
「......制御端末に、USBメモリのようだね」
タブレットのような制御端末に、何かの花のようなデザインを施されたUSBメモリ。
セイアはそれに軽く触れ、持ち上げてみる。
「......どうやら、これが鍵となりそうだね。データを先生に送ってくれるかい?」
「了解です!ではメモリを私のヘッドセットに挿入してください!」
セイアは腹筋崩壊太郎に持ち上げられ、頭についているヘッドセットにUSBメモリを挿入。
「データ送信完了!」
「......これで、私たちの仕事は終わりかな」
先生ならばこのデータを有用に使ってくれるだろう。
「......たとえアルトが異端者だとしても、私はアルトを肯定する」
「先輩は、私にとっても恩人ですから」
「うんうん!一緒に笑う準備はいつでもできてるんだから!」
彼女達を敵に回すのは、できるだけやめておいた方が良いだろう。
もちろん、敬愛する彼女達の『先輩』を敵に回すのも、お勧めしない
このお話を読む時は、ぜひ『あの曲』を聴きながらをお勧めします