「んで、これが小さい頃にもらったコスモスを栞にしたやつです」
「“すごく大事にしてるんだね“」
「まぁ、妹からの贈りもんですから」
アルトは隣でホシノに背負われている先生に懐から取り出した栞を見せ、少しはにかんで笑う。
そりゃ、大事なものを他人に褒めてもらえたのだ。嬉しくないわけはない
「“それで、腕章の話は?“」
「聞きたいっすか?いいっすよぉ〜」
アルトはサオリに背負われながら先生と話し始める。
「......腕章、まだしてたんだ」
「兄さんはそういうのちゃんとつけるから。昔からコートに引っ付けて付けっぱなしにしてた」
「えへ......洗濯の時姫ちゃんに怒られてましたよねぇ......」
楽しそうに『それ』を語るアルトの表情は年相応の表情のままだった。
「でも先輩って変なところで几帳面だからねぇ......」
「ああ。アルトは変なところで几帳面だ」
「変はないじゃん......」
だって、事実なのだから。
「アルトは他人や友人に対しては常に気を配って生きているくせに、私たちが気を向ければそれを断るだろう」
「いや......だってさぁ......」
「誰に対しても真摯なのは秤先輩のいいところだけど、私もそういう先輩の几帳面さは、少しだけ苦手」
「う“っ......」
実際アルトはそういうところばかりである。
他人に借りを作った時はどんな相手だろうがその借りを返すくせに、いざ他人から好意や謝意、恩意を返されるとそれを断る。
なぜなら、アルトは誰かの好意やらに気づけないからである。
知っての通りアルトはクソボケである。それはもう、重度の
その理由は幼少期に受けていたベアトリーチェからの虐待の影響もあれば、そもそも自分が好かれるはずがないと本気で思っているから、という理由も存在している。
『誰も本当の俺を知らないから』『知られたら幻滅される』『そもそも誰かが俺を好きになることなんてありえないから』
なんてネガティブ思考が心の奥に根ざしてしまっている。
「“私たちに気を配る必要なんて、あんまりないんじゃないかなぁ“」
「親しき仲にも礼儀ありとは言うが、アルトがやっているのは『背負い込み』だ。私が言うのも違う気がするけれど、アルトはなんでも1人で抱え込もうとする癖がある」
「......それに、自分のことを省みなさ過ぎ」
先生たちが言う通り、アルトは何でもかんでも1人で背負い込む。
それに加えて誰かの不満には誰よりも敏感だから、家族以外に対して気を使いすぎる癖というのも明確に存在している
「“少なくとも、アルトを想ってる子達は、ここにいるからさ“」
「......まぁ、そうですね......」
自分の行いを軽く顧みながら、自身を背負ってくれているサオリの方に顔を埋める。
珍しく自分がする側になってみると、なんだか落ち着いて感じた。
「......いい匂い......」
いつもミサキやアツコに頭皮を嗅がれているのを思い出して、サオリの髪の毛も吸ってみる。
さらさらしてていい匂いがする。俺の頭皮もおんなじ匂いするのかな
「っ......アルト、少し、くすぐったいぞ.........」
「すまん.......けど、もうちょい、このままで......」
アルトは少し申し訳なく思いながらも、サオリの長い髪に顔を埋め続ける。
......やっぱり、甘えたがりなんだな、俺って
「......姉さん、おんぶ変わるよ」
「いや、まだ大丈夫だ」
「疲れたでしょ」
「疲れてはいないが......」
なぜかミサキにひっぺがされそうになったが
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「“ここは......教会?“」
「......俺もここは初めて見たな」
アルトは一度サオリの背から降り、さっきまでの工業的な通路ではなく、驚くほど瀟洒に造られた教会を見渡した。
こんな作りの場所は今までも見たことがなかったため、その荘厳さに息を呑んだ
アリウス自治区ではこんなに綺麗な教会を見たことなんて一度もなかった。
所々は崩れていても、その中にはしっかりとした神聖さがあり、一切の穢れを感じさせなかった
「......きれーだなぁ」
不意に、アツコと見たかった。なんて考えが頭を過った。
アツコは別にこんなところ好きじゃねぇだろ.........
......でも、なんか、一緒に見たかったな
「......また出たねぇ」
ホシノが再び現れたユスティナに銃を向け、そう呟く
ガシャ、と金属音を奏でながら前に立っていたヒナも銃を構えた。
だが、何かがおかしい
今まであった変身の兆候が見られない
「......しかも、敵対していない......?」
「罠だよ。先手を打った方がいい」
サオリとミサキも銃を向け、今までとは違ったユスティナに警戒心を抱いていた。
「......はぁ.........なるほど、そう言うことね......」
アルトは警戒を露わにする全員よりも一歩前に出て、聖徒会の列に向かっていく
「“ちょっ......!“」
「あー、ほら、大丈夫ですよ」
アルトは先生に見えるように前列にいた生徒と握手しようと手を伸ばしてみる。
ホシノとヒナがすでに飛び出しそう、というか何歩か前に出ている
「......ほら、ね?」
差し出した手のひらを、ガスマスクの礼拝装をした生徒は優しく握った。
まるで敬意を払うように、アルトも握手をしてみせた。
「“......いや、どうなってるの......“」
「.....後で説明しますよ」
鬼気迫る表情だった2人はきょとんとした表情を浮かべ、サオリ達はため息をつきながらアルトに向かって歩き出した。
「数時間振りか。秤アルト」
「そっすね。マエストロさん」
ギィギィと、木と木が擦れる音を響かせながらその『異形』が姿を露わした
「“っ!アルト......!“」
「だ、大丈夫!この人は大丈夫だから......」
先生は素早くアルトとマエストロの間に割って入り、その異形を睨んだ。
「“......ゲマトリア、だよね“」
「......ああ。だがその敬称で呼ばれるのは好まない。私の芸術に敬意を払い、『マエストロ』と呼んでほしい。先生」
マエストロも木製の瞳を先生に向け、己をの名を語った。
「......答えは見つかったのか」
「まぁ、おかげさまで」
再びマエストロは先生の後ろにいるアルトに向かって語りかけた。
先生は納得のいっていないような表情をうかべつつ、アルトの邪魔にならないようにと再びアルトの後ろに下がった。
「......先を急ぐだろう」
「......ええ」
ギシ、と一際大きな軋轢音を響かせた。
「でも、ここにいる理由は分かってますよ」
その一言に、マエストロはその顔を上げてアルトの表情を見据えた。
「まぁ、マエストロさんにも助けられたところありますから......だから、その分くらいは付き合いますよ」
「.........ああ.........感謝を」
マエストロはいつも通りの人間的な声は出さずに、それでもどこか感嘆を上げたように応えた
「はじめましょーか」
『ゼロワンドライバー』
アルトはいつものように腰部にドライバーを装着
「秤アルト、貴様ならば私を理解してくれるだろう」
マエストロが左手を挙げると、教会のようなカタコンベ内が揺れを起こす。
「“アルト!“」
「すんません、先生。ちょっとだけ時間もらいます」
懐から銀色の大型のプログライズキーを取り出しながら、少しだけ先生の方を振り返った。
「“......大丈夫なんだよね?“」
「約束しますよ」
「“......はぁ、信用するって、決めちゃったもんなぁ“」
先生は陰鬱とした表情ではなく、いつも通りの少しの自信を携えたアルトを見やる
「ごめんな2人とも。ちょっとばかし行ってくる」
ついてきてくれた2人には俺の都合に付き合わせてしまうな
「......先輩なら、大丈夫だよ」
「怪我しそうになったら、行くから」
「ははっ、ありがと」
そう言ってホシノは再び銃と盾のグリップを強く握り直した。
いつでも飛んで(物理)いけるように、ヒナは羽を大きく広げる。
「で、私達は何をすればいいの?」
「まぁ、左右の雑魚頼んだ」
「了解だ」「了解」
「わ、私は......」
「いつも通り、狙撃頼んだ」
「え、えへへ......わかりました......了解、です」
ちょっと前だったら、俺1人でやるとか頭悪いこと言ってただろうけど、もう普通に頼っちゃうもんね
「.......さて、芸術鑑賞の時間だ」
次第に地鳴りが止み、教会の中心にある紋様のような場所から赤い布が吹き出した
それがまるで劇が始まる前の幕のようにかかったと思えば、次はだんだんと収縮していく
「......不格好甚だしいが、構わない」
地面から二対の錫杖が現れ、次第に布が人型のような形をとっていく。
その背後には、まるでヘイローのような豪奢な天輪が現れて数回輪転する
「貴様の力を、私に証明してくれ」
「名を_________________
「.......結構がっつりバケモンだったなぁ......」
裕に5〜6メートルはあるであろう巨体が祈るように手を組み、こちらを見下ろしていた
姿形は確かに人間に似ているが、その雰囲気や、異様な形の体躯が恐怖心を駆り立てる
「......行くぞ」
「......強いなぁ......」
やる気マックスのサオリに若干驚きながらも、アルトはキーの天面に存在するスイッチを押し込んだ
「じゃあ、こっちも見てもらおうか」
『Everybody JUMP』
『オーソライズ』
アルトはカタコンベ内では確かに変身できない。
なぜなら、短いスパンで変化するカタコンベにライダモデルを届けられないためである。
だが、一部だけ例外が存在する
アルトは手首のスナップで『メタルクラスタホッパープログライズキー』を開く
『プログライズ』
アルトの体の一部はクラスターセルを仕込ませるために収納組織を格納している
腕から、足から、身体中からクラスターセルが溢れるように飛び出していく。
稲子のように大群を作りながらアルトの周囲を旋回。
『Let's Rise Le,Le,Let's Rise』
だからこそ、アンダースーツおよび装甲をアルトの体一つで生成可能
アルトはゆっくりと右手を持ち上げた左腕の肘に当て、左手を顔の横まで持っていく
そして、ドライバーから発せられる警告音を掻き消すような大声で叫んだ
「レッツ、変身!!」
どうせなら、楽しく行こうか
『メタルライズ』
プログライズキー後方に有る『ライダレリーフ』を折りたたみ、オーソライザーに被せる
『Secret material.HIDEN,Metal』
『メタルクラスタホッパー』
銀の群体が一点に集中することで大型のバッタのライダモデルを生成。
それがアンダースーツと装甲を形作っていく
それは刺々しく、それでいて禍々しさを感じさせる独特のデザインをとられていた
『Changing to lethal weapon プログライズホッパーブレード』
『Attache Caliber.』
『Attache case opens to release the sharpest of blade.』
銀の装甲を纏ったアルトの手には二対の剣が握られていた。
複眼が紅く染まり、それがライトイエローに塗り替えられていく
そして、装甲の隙間のような場所から赤黒い煙のようなものが吹き出し、辺りを包み込んだ
装甲の表面が一瞬生きているかのように蠢き、すぐさま元の形に戻った。
全て、問題無し
クラスターセルの群体制御も完璧だ
そして、ドライバーも高らかにそう宣言した。
「さて、行こうか」
クラスターセルを一部展開。障壁型防御をオート展開
戦闘、開始
眠すぎ