私はチョコフォンデュを貪っておりましたよ、ええ
それのせいでチョコっとお腹壊しましたよ。ええ
……SET チョコ!ワァオ!!!(腹を下す音)
『スクワッドメンバーだけかと思いましたが......まさか“大人“の手を借りるとは......』
「テメェこそ、こそこそ隠居でもしてんのかクソババア」
アルトとベアトリーチェの口論......というより最早口喧嘩が始まった。
そも、アルトは特段ボキャブラリーに富んでいる訳でもなければ、心理的に相手を揺さぶることにだって慣れていない。
だが、口喧嘩の火力だけは一丁前に高い
「さっさと出てきてアツコを返せ。じゃなきゃこっちから出向いてやる」
剣を自分の肩に這わせ、蒼い瞳でベアトリーチェを睨みつける
いつもの穏やかで笑みを絶やさないその表情からは想像もつかないような顔。それを見た周りの六人は若干引いている
(何あの顔......)ゾクッ
(っ......あんな顔も、できるのか)
(こ、怖いです......でも、なんで......見ちゃいます......)
(......あの顔よりマシかな)
(先輩って......犬歯あるんだぁ......)ゾクゾクッ
(“かっこよ“)
.......訂正、引いているどころか全員ガン見している
内2名はなぜか背筋に何かが這うような感覚を覚えたそうな
『くくっ......どちらにせよ、あなたはここに来る以外の選択肢はないのでしょう?』
「......気持ち悪りぃ」
なぜか愉悦を感じているように『笑み』を続けるベアトリーチェ。
『今から見せてあげましょう......
唐突に、ベアトリーチェの姿が消えた。
代わりに、映し出されたのは_____________________
「____________は?」
十字架に括り付けられた、アツコの姿だった。
しかもただただ括り付けられているのではなく、体にベアトリーチェの触手のようなものが刺さっている
「ひ、姫ちゃんに何を......っ!?」
「......あんまり事情は知らないけど、あのおばさんがクズってのは、大体わかったかな」
ヒヨリとホシノが銃を取り出した
「.........お前.........」
マスクを付け直しながら、ミサキもベアトリーチェを睨む
『誰に向かってその口を向けているのですか?ミサキ』
ギョロリ、とアルトに向かっていた幾重の瞳が一気にミサキに向かった
その視線を受けたミサキは、意図せず体が震える
『その男の陰に隠れてしか言動も大きくできない小心者に、とやかく言われる筋合いなどありませんが』
「.........っ........」
言っていることに、何も正当性などない。
だというのに、ミサキの体は恐怖で動かなくなった
当然だろう。幼少期から虐待を受けていた相手が恐ろしくないわけがない
「.........その汚い口を閉じろ」
『ドッキングライズ』
『ファイナルストラッシュ』
刹那
ベアトリーチェのホログラムごと変身したユスティナが切り刻まれた。
「......俺の家族に、妄言を吹き込むな」
『......フフッ.........『ザザッ......』せいぜい大人と絆の力とやらを存分に________________
バギャッ
ホログラムを投影していた機材を踵で破壊し、合体させた二つの剣から手を離し、ホルダーの拳銃を抜いた
そして、タバコの煙と共に『
「短期決戦で行く」
コレで、最後だ
________________
.........痛い
苦しい
...寒い
「っ.........」
体を捻ろうとすれば、体を貫いた触手が食い込んでさらに痛みと出血が酷くなる
でも、意識をここで失うわけにはいかない
「......頑張りますねぇ。これも、あの男の影響ですか?」
ベアトリーチェが私の目の前に顔を近づける
武器は、服と一緒に没収された
隠している武器も、ない
......やっちゃったな。
取られた荷物の中には、お兄ちゃんとお揃いで持ってた栞もあったのに
「......あなたのその足掻きも、全て無意味だということがまだわからないのですか?」
ベアトリーチェは心底不思議そうに悶え苦しむアツコの顔を覗き込んだ。
「......それこそ、あの男ですか。全く......あの男のせいで、私の計画は随分と遅れました......」
「......あはは......それは、よかった、ね」
吐血、とまではいかないけれども血の混じった痰が絡んでうまく声を出せない
「口を慎みなさい」
「づぁっ.........!」
体を貫く触手が、アツコの傷をグリグリと詰った。
それに準じて出血が増え、ベアトリーチェはその血を触手から啜った
「......ですが、まぁいいでしょう」
「はっ.........はぁっ、はぁっ.........ゲホッ!!」
触手の動きが止み、痛みが少しだけ和らいだ
「今こうして、私の理想は着々と叶いつつあります」
ベアトリーチェは光が差し込むステンドグラスに近づき、それを陶酔したような表情で見つめた
「ロイヤルブラッド......片割れですが、それを入手」
扇子を開き、それで持って自身の体を扇ぐ
「秤アルトの弱体化......それに加えて『暁のホルス』に『先生』まで現れた.........」
心底楽しそうに、ベアトリーチェはその乱杭歯を剥き出しにする
「いい意味で、予想外の連続。加えて________________
そして、その手に持った『プログライズキー』をそのステンドグラスから入り込む光に重ねた
「もう時期、『原初の神秘』も手に入る」
『エデンドライバー』
アルトと同じように、その腰にはドライバーが装着されていた
「フフフ.........私は、崇高に至れる.........!」
光に翳されたプログライズキーの天面のスイッチを、静かに押した
『ルシファー』
その後ろ姿を、アツコは仮面越しに睨む
必ず、お兄ちゃんが来てくれるから
だから、まだ
死ねない
_______________________
「邪魔だ」
鉄煙を纏わせた弾丸がユスティナを貫き、装甲ごとユスティナが消えていく
「“キリがないね“」
「ああ、でも先生が的確に弱点への攻撃を指示してくれるからな。大分戦い易い」
「“なんてったって、優秀なハッカーが知り合いにいるからね“」
ムン、と胸を張って自分事のようにそれを語る先生。
「奴ら、数は多くても無限じゃない」
相当数はカタコンベ内でヒナにお片づけされたからな。
無限に湧き出てこられたら、多分無理だっただろうな
「でも、ユスティナ自体は多分無限に出てくる」
「だろーな。けど、変身してるやつは目に見えて減ってきてる」
ミサキは大局を見通せる能力がある。それのおかげで背後を取られない
「助かるよ、本当に」
「.......いいから集中」
ミサキに咎められつつも、俺たちはようやく包囲の少ない場所まで移動できた
「.........ここ、アレだ」
「......ああ、懐かしいな」
たどり着いたのは、小さな教会の跡地
忘れもしない、苦い記憶の小さなカケラ
けれども、俺たちが出会って、俺たちが過ごした『青春』の一欠片でもある
「よっ、と。お、まだあんじゃん」
小休止がてらに、明らかに死角に置かれた木箱をアルトは開いた
「......懐かしいな。こうやって、色々集めてたっけ.........ほら、こっち」
「一体何を......」
アリスク三人は木箱に座ったアルトに寄り、その箱の中身を覗く
「......こ、これまだ残ってたんですか!?」
「これは......」
箱を覗いた瞬間、三人は驚愕の表情を浮かべた。
「“......見てもいい?“」
「うん。逆に見てくれ」
アルトは先生を手招きする
先生も三人と同じように木箱を覗くと________________
「“おもちゃ?“」
木箱の中には、古めかしくも綺麗なまま残っているぬいぐるみや小さなおもちゃや本が大量に入っていた。
中には修理されたものや、穴が空いたところを縫い直したであろう跡があるものもあった
「小さい頃、大人とか、ベアトリーチェの目を盗んで拾い集めてた。んで、ここで訓練した後でみんなでここに集まってたんだ」
アルトは目を細めて、昔を思い出してみる
「ここがちょうど死角になっててさ、絶好のサボりスポットだったんだよ」
アルトの言う通り座っている場所は草木に囲まれている上に多少入り組んでいるため、目を凝らさなければ人がいても見えないだろう位置だった
「......アズサと出会ったのも、ここが最初だったな」
それだけじゃない。
まだ施設ができてなかった頃アツコを育てるために雨風を凌いでいたのだってここだ
何年も、何年も
俺が研究していた場所でもある
自分の神秘
ゼロワンドライバーの開発
腹筋崩壊太郎の製作場所
人生のほとんどを、ここで過ごしたといっても過言でもない
......その分、苦しい思い出だって沢山ある
まだ俺がひとりぼっちの時
俺はここで鞭で叩かれた
顔もわからない大人たちに蹴られ、叩かれた
銃弾で撃たれた
......家族と、戦った時すらあった
苦しかったよ
痛かったよ
「でも、俺は......幸せだ」
自分の命よりも大切だと思える存在に出会えた
「......はは、なんかごめんな、センチメンタルになってしもたわ」
側から見れば、ただのクソみたいな場所でしかないだろう。実際そうだ。
でも、『俺』はここで生まれた『秤アルト』はここで生きた
『秤アルト』は『俺』のままでいられた
俺の、ただ一つで、唯一の
「.........思い出なんだ」
「......先輩」
「......俺は、本当に人に恵まれてる」
木箱から飛び降り、着地。普通にぐらついて倒れそうになるが、それをホシノが支えてくれた
「こうして、俺を支えてくれる友達に出会えた」
何度もぶつかり合ったし、喧嘩別れみたいになってしまった時もあった。
結果、ただ傷ついた時だってあった
でも、その分一生で出会えるかどうかもわからない『親友』になれた
アルトは、ヒナの方を向いた
「俺を、止めてくれる友達に出会えた」
俺が道を踏み外そうとした時だって、俺を引き止めてくれた友達が、2人もいた
ぶん殴ってでも止めようとしてくれた子が、2人も居た
「......先生、あんたに出会えた」
ひどくお人好しで、騙されたって生徒を信用した。
「.........俺が、ここに居ていいって、証明してくれた」
アルトの言葉に、全員耳を澄ます
「だからこそ.........俺は」
「“わかってるよ“」
先生は、珍しく俺の言葉を遮った
「“アツコを助けたいんでしょ?“」
「......ああ」
アルトは先生の目をしっかりと見据えて、背筋を伸ばした
「"私は、君を信用するって約束した“」
「“多分それは私だけじゃなくて、ホシノも、ヒナも“」
「“サオリや、ミサキとヒヨリ......それにアツコもおんなじなんだよ“」
先生は、1人の『大人』として『秤アルト』と言う人間を見据えた
「“君は苦しいことから逃げなかった“」
「“現実から目を背けなかった“」
「“自分の責任を、誰にもなすり付けなかった“」
ただ1人の、『生徒』を
「“確かに、やり方を間違えたかもしれない“」
『先生』として
「“それでも、アルトは“」
向き合った
「“自分自身を貫いた“」
先生は、『秤アルト』を肯定した
誰よりもその肯定が欲しくて、誰よりもその肯定をされなかった人間を
「......っ......あり、がとう」
「あ、アルト兄さん泣いて......!」
「しゃーねぇだろぉ......こう見えて涙脆いんだからさぁ......」
ボロボロと、大粒の涙を堪えながら流す。
後輩や、家族に泣き顔を見られるのは初めてじゃないけど、大分恥ずかしい
「......よしっ!休憩終わり!そろそろ行こうか!」
いつも見たいな空元気じゃなくて、今は本気で声が出た。
「......先生」
そんなアルトを他所に、ミサキは先生に寄る
「“どうしたの?“」
「聞きたいこと、まだあるでしょ」
先生は自分の考えを読まれたのかとも思えるミサキの言動に、ドキッとしつつもそれに答えた
「“......うん。なんで、アツコはみんなから『姫』って呼ばれてるのか、なんでアルトはアツコの兄妹なのに、特別な呼ばれ方をされていないのか.........“」
予想通りの問いだったのか、ミサキはその問いにすぐに答えた
「......姫は、私たちが小さい頃からお姫様だった」
「アルト兄さんと一緒に、毎日気品に溢れる服を毎日着てましたねぇ......私たちとは全然違って......へ、へへ......」
変な笑い声を漏らしながら、ヒヨリもその会話に参加する
「......私やヒヨリにとって、姫やアルトは羨望の的だった」
「ま、まぁ、ミサキさんはあまり興味がなさそうでしたけど......」
サオリも準じて会話に入り、アルトと同じように昔を思い出していた。
「私も全く興味がないわけじゃなかったよ。ただ、表に出さなかっただけ」
『セイントプレデター』を両手で持ちながら、ミサキは立ち上がった
「......兄さんは昔から優しかった。すごく。私にみたいなのにも、手を差し伸べてくれた」
羨望
あるいは憧れ。
もしくはその両方
「......でも、兄さんはベアトリーチェにとって目の上のたんこぶだったから、私たちと同じか、それ以下程度にしか扱われてなかった」
それでも、自分を守ってくれた兄
「......姫は、一度ベアトリーチェに殺されかけている」
サオリの口から飛び出した、衝撃
「“殺されって......“」
「べ、ベアトリーチェにお腹を貫かれて......一ヶ月以上、危なかった日が続いたんです」
だからこそアルトは『暁』の神秘を探し求めた
「兄さんは、私たちの目から見てわかるくらいには姫を溺愛してた。だから、その時は見てられないくらい疲弊してたよ」
アツコを救うために、アルトは文字通りなんでもした。
「自分の血をそのまま輸血しようとした時もあった。あの時は止めるのが大変だった」
「鬼のような形相でしたよね.........」
「“......すごいなぁ“」
先生はアルトを遠くから眺めながら、立ち上がる。
「......私は、そこで過ちを犯した」
サオリも、再びマスクをして立ち上がる
「......一度、ベアトリーチェの甘言に惑わされた時もあった」
ぽつりぽつりと、先生に語られていく
「その私を……アルトに一生消えない傷を負わせた私を、アルトは救ってくれた」
「わ、私も、アルト兄さんに沢山救われました......と、特に......ご飯とか......えへへ」
歩きながら、4人はアルトに近づく。
「お、来たか。なんの話してたんだ?」
「“ふふっ......まぁ、昔のアルトの話かな?“」
「うえっ......絶対変なこと教えただろ......」
苦い顔をしつつ、でもどこかアルトは嬉しそうだった。
「私も先輩の昔とか知りたいなぁ?」
「わ、私も......知りたい」
「......まぁ、語るほどの人生でもないと言いますかぁ......」
「へぇ〜?」
ホシノとヒナに詰められ、アルトは若干たじろいでいる
「......まぁまぁ、んなことはどうでも良くてですねぇ!」
でも恥ずかしさがマックスになったのか、アルトは顔を赤くしながら話題を切り替える......と言うより、元に戻す
「これから俺たちは、ベアトリーチェの本陣である『バシリカ』にカチこむ」
「“具体的な方法は?“」
「ん?何を聞いているんだぁ先生?俺を知ってるあんたなら、答えは出てるだろ?」
久しぶりに快活な笑みを浮かべながら、アルトは先生に向いた。
「".......やっぱり、『アレ』?“」
「当たり前なんだよなぁ......やっぱこの手段に限る」
タバコを携帯用灰皿に押し付けて火を消しながら、アルトは再び灰色のマスクをした。
「特撮ヒーローと言えば?」
「“......正面から殴り込み“」
「正ッ解!」
もう、考えるのやめた
あとは、今度は俺がみんなを信じるだけでいい
信じてもらった分。それを返すだけだ
アルトくんがいるおかげでアリスクのみんなベアトリーチェのことを『マダム』じゃなくてベアトリーチェってネームで呼んでるんですよね。
これもまた、洗脳なのかもしれない