アリウスクソボケオオバッタ   作:カブライニキ

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第二十二話 ゼロワンとルシファー

 

 

「あとちょっとだから、我慢できるか?」

 

「......うん」

 

 

今年で八歳になるアツコの手を握って、十歳のアルトは再び列と一緒に動き出す。

 

列を囲む大人達は、誰も彼もが俺たちをチラチラと見ていたり、『かわいそう』と言ったような同情の念が向けられてくる。

 

 

同情するなら金をくれ、と言うセリフを前世で聞いたことがあるが、今以上にそれを感じたこともない

 

 

「......ごめんな、無理させてばっかりで」

 

 

動きづらい服

好き勝手に動き回れない列

 

そして、常に肩肘を張らなければいけない緊張感

 

 

どれも子供には、苦痛の時間でしかないだろう

 

 

「さっさと行ってほしいわ......」

 

 

「あんなガキが本当に内乱を終わらせられるの......?」

 

 

「かわいそうにねぇ......」

 

「あんな小さい子達が......」

 

 

「かわいそうに」

 

「可哀想」

 

「可哀想だ......」

 

 

「私だったら耐えられない......」

 

「ああ、可哀想に......」

 

「ひどい」

 

「可哀想」

 

「かわいそう」

 

 

 

 

 

 

 

「可哀想に」

 

 

 

 

 

 

 

 

......うるせぇよ

 

 

 

「......おいで、アツコ」

 

「ん......?わっ......」

 

 

また少しだけ屈んで、アツコを抱き上げる。

そして、頭を優しく撫でながら再び歩を進める

 

 

「......ほんと、わけわかんねぇよ」

 

 

急にこっちの世界に産み落とされたと思いきや、今度は身売り

 

しかも相手は俺のことをいつも鞭で叩くあの真っ赤ババア

 

 

 

「アツコだけは、俺が絶対に守るから」

 

 

嗚呼、苦しい

 

周りからの視線が痛い

 

足が震える

 

怖い

 

これからどうなるんだ

 

アツコはどうなるんだ

 

これからの人生をどうすればいいんだ

 

アツコを守るにはどうすればいい

 

アツコの人生を守るためには

 

アツコの権利を守るためには

 

アツコの夢を守るためには

 

 

 

一体、どうすれば

 

 

 

 

 

 

 

 

『な、なんだこのガキッ!!』

 

 

 

 

 

 

ふと、大名行列のように並んだ行列の一角から悲鳴が起こった。

 

 

何か向かってくる

 

背格好的に、俺と年齢の近い子供

 

 

 

アルトは腰につけていた『アタッシュカリバー』に手をかける。

その気になれば、いつでも居合で仕留められる

 

 

『うわぁっ!?』

 

『さっさと追い出せ!!』

 

 

周りの大人は役立たずだ

 

的確に銃弾に沈められていっている

 

 

おそらく後方からの狙撃もあるだろう

 

 

 

 

「こっち」

 

 

「は?」

 

 

急にマスクの子供に腕を掴まれ、行列から強制退場させられる。

 

アツコを抱っこしておいて良かった。

 

 

 

 

 

「......なんだ、お前」

 

 

 

 

あの時、お前が手を引いてくれなかったら、一体どんな人生を送っていたんだろうな

 

 

 

サオリ

 

 

 

________________________________

 

 

 

 

「......随分、遠慮なく攻撃しましたね......」

 

 

『メタルクラスタホッパー』

 

 

『It's High Quality.』

 

 

アルトが放った拳を、ベアトリーチェは左手で軽々受け止めた。

 

「アツコ以外は切り捨てましたか......」

 

 

「いいや、違うさ」

 

 

そのまま足払いのように蹴りを放つ。

一旦だが、距離を取ることに成功した

 

 

「あんな過去の模造品なんかに、勝ち目はねぇ。サオリ達が絶対に勝つ」

 

 

剣を構え、攻撃用のクラスターセルを解き放つ

 

不安がないと言えば嘘だ。

焦りがないと言えば、嘘だ

 

だけど、みんなが俺を信用して送り出してくれたんだ

 

 

「俺はみんなを信用する。俺なんかいなくたって、サオリ達は強い」

 

 

余裕綽々といった立ち姿のベアトリーチェは、また空間に亀裂を入れ、そこから武器を引き摺り出す

 

 

「......では、その家族とやらと共にその生を終わらせてあげましょう」

 

 

「やって見ろよ」

 

 

一気に踏み込む

 

 

「クソババア!!」

 

 

すれ違いざまに剣で一撃

さらにクラスターセルをトゲのように幾つも生やしてベアトリーチェの装甲を貫く

 

 

だが、ベアトリーチェは悲鳴一つ上げない

 

 

 

「無駄ですよ。私に、死と言う概念は存在しない」

 

 

植物の蔓のようなライダモデルが傷を埋め、再び元の形に戻った

 

 

「やはり、戦闘面に関しては私はお前に勝ち目はない」

 

 

サウザンドジャッカーを振り翳して、ベアトリーチェはアルトに切り込む。

 

 

 

 

一度ブレードで受け止め「づぅっ!?」

 

 

 

アルトの思考とは裏腹に、ベアトリーチェは素早い切り返しによってアルトの剣を力押しだけで弾き飛ばした。

 

 

「......カタログスペックはお前が上かよ......ッ」

 

 

「当たり前でしょう」

 

 

今度は剣ではなくクラスターセルの防壁によって攻撃を受け止める。

 

防御自体は成功するが、これでは防戦一方

 

 

「あの日、あの時私は『崇高』に至る筈だった」

 

 

剣とクラスターセルの刃が交差し、火花が飛び散る

 

 

「“アルト!!“」

 

 

先生がシッテムの箱をこちらに向けながら叫ぶ。

 

 

そして謎のシールドのようなものが俺とベアトリーチェの間を隔て、攻撃を弾き切った。

 

なんちゅう強度してんだ

 

 

「鬱陶しい......」

 

 

ベアトリーチェは今度は先生に向かって右腕を翳した。

 

 

 

「ッ!!先生ッ!」

 

 

その瞬間、大量の骨とイバラのようなモノが地中から大量に現れる。

 

 

『ファイナルストラッシュ』

 

 

クラスターセルを纏わせた剣でそれを破壊して、先生の前に立つ。

 

 

 

「“ごめんアルト......!“」

 

「大丈夫、先生のおかげでかなり体が楽だ」

 

 

守られながら戦っていることに負い目を懐いているのか、先生から謝られた。

 

先生が指揮してくれているおかげで何十倍も戦いやすいってのに

 

 

「薬は、足りそう?」

 

「“そっちは大丈夫。大量にもらってきたから“」

 

 

先生の周りには青色の円のフィールドのようなものが立ち上がっており、その円の中では薬を服用した時と同じ効果が現れていた

 

 

「その程度を守ったところで、結末は変わりません」

 

 

「だったら変えてや、るっ!!」

 

連続で飛んでくる攻撃を二つの剣とクラスターセルで防ぐ。

 

それでも攻撃の密度が高すぎてうまく攻撃をいなせない。

 

そのせいで先生のシールドまで攻撃がたびたび飛んでいってしまう

 

 

「はぁ、はぁっ」

 

 

経過は順調

だけど先生をやられれば一瞬で瓦解する

 

 

「ッ!」

 

 

「いつまでも憎たらしいガキがッ!」

 

 

足元を狙った攻撃。

先生を巻き込むまいと空中に飛び上がり、クラスターセルを月光剣のように飛ばして骨を砕きイバラを切る。

 

 

「お前のその偽善が、私の夢を阻む......!」

 

「お前が夢を語ってんじゃねぇよ!」

 

 

再び剣が交差し、鋭い火花を散らす。

 

カタログスペックで遅れをとっている以上、気を抜けば一瞬で持っていかれる

 

 

「だから、私はこの力を手に入れた......!」

 

 

「づっ!!」

 

 

鍔迫り合いが始まり、アルトはなんとかベアトリーチェの剣を受け止め切る

 

 

「そしてお前を確実に殺すためについにこの力を手に入れたッ」

 

 

ベアトリーチェが剣を弾き、再びラッシュを始める

 

 

「こんな感覚は初めてでしたよ......!何せ子供が大人の言葉を聞かないのは初めてだった......!」

 

 

「大人の言うことを聞くだけが子供じゃねぇんだよ!!そうやっていつまでも子供相手に好き勝手やってるテメェの方がガキなんだよッ!」

 

 

「黙りなさいッ!!」

 

 

大きく剣を振り抜き、アルトは大きく後方に跳躍する。

 

 

スペックでは劣っているが、ベアトリーチェに欠けている実践経験をアルトは持っている。

 

 

 

よって、実質状況は五分

 

 

だがアルトには守るべき対象が二つもある。

 

 

「では、これでどうでしょうねぇ?」

 

 

ベアトリーチェは磔にされているアツコに向かって手を伸ばした。

 

 

「っ.......!」

 

そのせいで攻撃のタイミングを失い、アルトはベアトリーチェの攻撃をもろに食らった。

 

痛覚がないおかげで戦闘は続行可能だが、胸部装甲をかなり削られている。

 

 

 

このままではジリ貧

 

 

 

「先生......あなたも彼に騙された『大人』でしょう......?」

 

 

ベアトリーチェの視線が先生に向いた瞬間、アルトはクラスターセルを展開して防御にシフトする

 

 

「“私は、アルトのことを信じた“」

 

 

「盲目的に他人を信用するのは愚者のことでしょう?我々は、賢く、そして圧倒的な『大人』」

 

 

「“......子供は、生徒は、大人なんかより強い力を持ってる“」

 

 

「そんなことはあり得ません。何故なら、子供は我々大人が管理し、使う道具に過ぎないのだから」

 

 

徹底的に相慣れない言葉が交わされては沈んでいく。

そこに、アルトが入り込む余地など存在しなかった。

 

 

「一度考え直してみては?大人と、子供の在り方についてを」

 

 

「“......私がそれについて考え直すことなんて、一つもない“」

 

 

先生は異形のベアトリーチェを臆さずに睨みつける。

 

 

「......交渉決裂、と言ったところでしょうか」

 

 

腕をくみ、困ったようなジェスチェーをするベアトリーチェ。

 

最も、その動きに隙は無かったが

 

 

「......ですが、すでにあなたは負けているのですよ、先生」

 

 

ベアトリーチェはコツコツと踵を鳴らしながらアルトの周りを円を描くように歩き出す。

 

アルトもそれと同じように、ベアトリーチェを睨みながら円状に歩く

 

 

「私は、とある実験によってキヴォトスの外部と接触することに成功しました」

 

 

自慢するように、ベアトリーチェは手振りを交えながら語る

 

 

「そして、とあるモノを観測することも......」

 

 

何故か笑いを漏らしながら、そのまま語り続ける

 

 

 

「『アレ』は、わかりやすく言うなら神秘の核心だった」

 

 

「『アレ』に触れた神秘(mystery)恐怖(terror)に反転され......その表裏を裏返した」

 

 

なんのことか、さっぱりわからない

 

 

「......アレを観測したことでキヴォトスに生じる現象は、まだ私たちですらわからないのです」

 

 

剣を杖のように扱い、ガツ、ガツと地面を削る音が木霊する

 

 

「『アレ』について、私たちは全くの無知なのですから」

 

 

「......何が言いたい」

 

 

その問いに、ベアトリーチェは少しの笑いをこぼし、綴った

 

 

「解釈されず、理解されず、疎通されず.........ただ到達するだけの不吉な光」

 

 

「目的も疎通もできない不可解な観念」

 

 

まるでそれを素晴らしいものかのように、両手を広げて語った

 

 

「私たちゲマトリアの最大の宿敵.........私たちはそれを_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「色彩、と呼んでいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベアトリーチェは、ちょうどアツコの真後ろの窓に嵌め込まれているステンドグラスに目線を移した。

 

 

まるで、ブラックホールを想起させるような、ただの()

 

 

だが、そのステンドグラスからは絶えず『嫌な気配』が漂い続けていた。

 

 

 

 

「......そして、この概念に観測できたのは、お前のおかげでもあるのですよ?秤アルト」

 

 

「......何、言ってんだ」

 

 

「あなたが使用するライダーシステム......それは、『無名の司祭』と『名もなき神』の力を混ぜ合わせて作られた......いわゆる複合品」

 

 

ドライバーを指差して、2人は歩を止めた。

 

 

「知らずに使い続けていたのかもしれませんが......まぁ、私としてはそちらの方が好都合でしたが」

 

 

話が、全く見えてこない

ここまで興味のな話をがっつりされるとは思わなかった

 

 

「アレ......色彩との接続点として、大いに役立ってくれましたよ」

 

 

「接続、点......?」

 

 

「それに、お前の神秘はよぉく輝いてくれましたよ」

 

 

 

......仮に

 

 

「“ど、どう言う、こと?“」

 

 

仮に、俺がライダーシステムをここまで順調に作れたのが、泳がされていただけだとしたら

 

 

「色彩と接触するための唯一の方法......それこそが________________」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......俺、ってわけか」

 

 

 

 

 

 

どうやら、半分利用されていたらしい

 

 

「色彩と接触する『ルーター』としての役割を持ってんのが、俺ってことだろ?」

 

 

「ええ。正解です」

 

 

ライダーシステムを作成するときに核として使用したのは、確かに『禁術』だった。

 

 

『禁術』とは、所謂ブラックボックス

 

概要、存在、概念

 

その全てがわからないままドライブコアに組み込まれている謎の技術

 

 

だが、それがなければドライバーが稼働しないと言うことだけがわかっていた

 

 

『『色彩』と言う存在は知っている』

 

 

まじで?

 

『ああ。長く昔だが、一度その存在がキヴォトスに接触したと言う記録は残っている』

 

 

記録は?

 

 

『それ以降の記録が完全に抜けている。その時私は一度完全に破壊されたのだろう』

 

 

お前をぶっ壊せる奴がいたことにも驚きだが、復活できることにはもっと驚きだ

 

 

『特段秀でたものでもない。そも私のプログラムは自動販売機に組み込まれたただのAIだ』

 

 

 

 

「つまり、ベアトリーチェは俺ってWi-Fiルーターを無断で使ってキヴォトスとはまた違ったネットワークに接続した......それもウイルスみテェなのが蔓延るかなりヤバいネットに。って感じだな」

 

 

「“......アルトを、それだけのためにここに押し留めていた......?“」

 

 

 

案外驚くべきほどのことでも無かったな。

俺がこの状況で驚けるのはあいつが実母だった時だけだ

 

 

......え、大丈夫だよな

 

 

『DNAの観点から見てもお前とあのゲマトリアは違う』

 

だよなありがとびびったわ

 

 

 

 

「“......そんなことの、ためだけに“」

 

先生はボソボソと何かを呟く

 

 

「崇高な目的、と言って欲しいものですねぇ......大人であるあなたになら理解されると思っていましたが......何もかもが違ったようです」

 

 

先生は珍しく怒りの感情を全面にし、再びシッテムの箱を構える

 

 

「“お前を許さない“」

 

 

「フフッ.........生徒のために義憤する聖職者......なんともまぁ......愚かで浅はか」

 

 

再びベアトリーチェも剣を構え直す

 

もちろん、アルトも

 

 

 

 

 

その瞬間___________

 

 

 

 

何かの叫びが、バシリカの内部を満たした。

 

 

反響した高音が、2人の耳をつんざく

 

 

 

「......聞こえましたか?アレこそが『聖女』すでに地下回廊に送り込みました」

 

 

「死体をわざわざ人形にするとは、悪趣味極まりない」

 

 

「ふふ......なんとでもどうぞ」

 

 

何かが蠢く音が、足元から響く

 

 

「聖徒会の最も偉大な聖女.........『バルバラ』

 

 

それに乗じて、アンブロジウスの叫びも何度かこだました

 

 

「マエストロの言う通りこれには美学はないのかもしれませんが......「兵器」には兵器なりの機能美がありますから......これに関してはお前と同じだと考えているのですが、それについては彼にひどく否定されましてねぇ......」

 

 

「だろーな。テメェと同じだなんて死んだ方がマシだ」

 

 

アルトは腰を深く落とした。

 

みんなは、大丈夫だ

 

絶対

 

 

俺は、俺の役割を全うする

 

 

舞台装置でいい

 

 

それでも

 

 

アツコは俺が助ける

 

 

 

 

「日の出まで残り1時間半......人生最後を満喫しなさい」

 

 

 

 




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