一曲;ドルチェ
「おーいみんなー、来週からちょこっと出かけるんだけど来るか?美味い飯とバカ高いホテルに無料で泊まれる権利を手に入れた」
「美味しいご飯ですか?!た、たとえば何が......!!」
「知らんが、言えばヒヨリの考えてる料理全部出てくるんじゃないか?」
「ぜ、全部ですかぁ?!う、うへへへ......人生生きてれば良いこともあるんですね......」
先の事件からしばらく経った頃、アルト達は暖かな家の中でくつろいでいた。
こじんまりとしているが、六人ほど暮らせるようなファミリータイプの家屋、これはティーパーティー三人やアルとの関わりの深い人物達が出資して建てられた
「何これ、ゲヘナのパーティー?面倒ごとの予感しかしないんだけど」
「まあまあそう言わずにさぁ、別にこっちから面倒ごとを起こしに行くわけじゃねぇんだし......」
「こっちからじゃなくて、向こうからのアクションで面倒ごとが起きるってことでしょ」
「......そ、そんなことはなかったり......そんなこともなかったり......そんなことがあったり......」
アルトの膝の間に座っていたミサキはアルトの手に握られた五枚のチケットのうち一枚を取り、アルトに軽く揺さぶりをかける。
ミサキの目を誤魔化すのは実際叶わないものである
「私はパス、みんなで行ってきなよ」
「行かないの?」
同じく、というよりミサキに特等席を譲って腕にまとわりついていたアツコも会話に参加。
「あんまりキラキラした場所は苦手だし、料理も泊まるところもアルト兄さんが用意してくれる。必要ない」
「まぁそう言われればそうなんだけどさぁ......ほら、偶には新しいものも感じてみたくない?そだ!パーティーもあるみたいだからミサキのドレスとか「いらない、そんなもの買う余裕があるなら兄さんが使って」ヌゥ......」
ミサキの一言にアルト撃沈。
ミサキは別にアルトを邪険にしたいわけでも、ましてや嫌いなわけでもない。
「ドレスとかパーティーとか、絶対似合わないのはわかってるから」
無感情で、愛想もない
そんな自分が明るく朗らかなアルトのそばにいるという事実に耐えられない、というのがミサキの真意
「......似合わないとか、似合うとか、そういうんじゃなくてさ。俺はミサキと、みんなと行きたい。それにお兄ちゃんとして妹のドレス、見たいなーって下心もあったり」
だが、そんなことはアルトにとってどうでも良い。
アルトは家族の意思を第一に考えている。
「......私がアルト兄さんの近くにいたら、空気が悪くなる。それだけじゃない、姫たちや姉さんにだって......」
「そう言うことをミサキにいう奴がいたらそれこそ俺たちが黙ってない。だから、もし良かったらさ、一緒に行こうぜ」
アルトはそう言ってミサキの頭を優しく撫でた。
「っ.......わ、分かった。行くから......手......」
「あ、ごめん......いつまでもこの距離感じゃダメだよなぁ......」
アルトはいつまでも妹達が小さく見えてしまうことを諌めつつミサキから手を離そうとすると________________
「は?別にやめてほしいとは一言も言ってないんだけど?」
「ええ......」ナデナデ
急に眼光を鋭くしたミサキに諌められ、アルトは若干ビビりながらもミサキを撫で続ける
「アツコは行くか?」
「うん、お兄ちゃんが行きたいところなら私も行きたいから」
「自分の意思......だよねですよねすみません笑顔怖い怖い怖い」
「私が選んだんだから、否定しないで、ね?」
いつまで経っても、それこそ関係を持った今でも自分のことを優先的に考えない兄に対してまたもや強行手段に出そうになるアツコ
家族の前だから辞めたが
「サオリも行くか?」
「うっ......!?ば、バレていたのか......」
「そりゃそんなに体乗り出してたらな」
「ぬ......訓練不足か......」
ミサキ、アツコ、ヒヨリの三人はアルトにひっついて過ごしていたが、サオリは一歩引いたところで見ていた。
だがアルトが軽く腕を広げて呼べばまるで飼い猫のようにトコトコと寄ってきてちょうど良いスペースに収まった。
「わ、私が行ってもいいのか.......?」
「当たり前だろ、逆に俺がいない時のみんなの統率とか頼みたかったから。頼りにしてるぞ〜」
「っ......分かった、任せてくれアルト」
頼りにしてる、その言葉を聞いたサオリは胸の中から何から込み上げるような感覚を覚えた
そしていつもの少しだけネガティブな自分を振り払ってアルトに凛々しい笑顔を見せた。
撫でられているため、格好はついていないが
_______________________________
『ってことで、来週からよろしくな』
「ええ、先輩が来てくれるのは私も嬉しいから」
耳元に押し当てられたスマホのマイクから先輩の声が聞こえる
優しくて、弾むような明るい声
『嬉しいこと言ってくれるねぇ〜、俺もヒナちゃんに会えるのすげぇ楽しみ』
「っ!そ、そういうことを急に言わないで......びっくりするから」
受話器越しの会話で本当に良かった。今の私のニヤけてしまった表情を見られなくて良かった
見られてしまったら、きっと次こそ自分の気持ちを抑えることなんてできないから
『あ、そだヒナちゃん、この前言ってたピアノの件だけど......』
「まさかマコトが先輩にもやらせるとは思わなかった......手間をかけてごめんなさい先輩」
『んにゃ、それに関しては俺とバカ殿の約束だからな。逆に俺がヒナちゃんに迷惑かけてる』
「迷惑だなんて思ってないから、私としては先輩がいてくれたら............」
そこで、私の声が止まった
先輩がいてくれたら、安心する?
頑張れる?
......違う、もっと何か言いたいことが
もっと......
『ヒナちゃん?どした?』
「あ......いやっ、なんでもない......」
でもなぜかその言葉は出てこなくて、私の胸の中にはなぜか小恥ずかしさだけが残った
心臓の音がとくとくと早ってしまう
それに準じてまた顔が熱くなる
それからは先輩と長く話していた。
最近あったこととか、家族に作った料理の話とか
『最近はちゃんとストレス発散してる?さては夜も眠れてないでしょ。夜更かしは美容の天敵だぞ〜?ヒナちゃんは可愛いんだからぐっすり寝なきゃダメよー』
いつも通り、何回も『可愛い』と言われた
その言葉を聞くたびにやっぱり背中がぞくぞくとなってしまう
人前で言うのは辞めてほしいけど、こうやって2人きりで話す時は......
『んでさ、最近みんなの食欲が旺盛になっちゃってご飯作るのも楽じゃな......あ、もう十二時回ってら』
「言われてみれば......」
『明日も朝早いし、今日はここで切り上げても大丈夫そうか?』
「うん、それじゃ......またね先輩」
そう言って電話を切り上げて、私はちょっとした余韻に浸る。
「はぁ......」
余韻に浸っていると実感してしまう先輩との会話の終わり
余韻に浸れる時間は幸せな気持ちになれる。けど同時に先輩の声が聞こえなくなってしまったことへの軽い喪失感が体を包んでしまう
『おやすみなさい、先輩』
それが嫌で、性懲りも無く先輩へのメッセージをモモトークへ打ち込む
『おやすみ!ぐっすり寝るんだよ〜』
すると、すぐに先輩はそう返してくれた。
その文字列を見ると、私の心はまた高鳴る
「......ピアノ、一緒に練習したいな......」
スマホの画面を消して、豆電球のついた天井をじっと眺めてみる
「先輩、スーツとか着るのかな......」
頭の中にスーツを着てこちらに手を伸ばす秤先輩の姿を夢想する
『ほら、ヒナちゃん手』
「っ〜!!」
絶対かっこいい
スーツの先輩、見たい
「.........あ」
そこで私は思い出す
「ドレス用意してない......まぁでも、倉庫を探せば昔のくらい..........」
......でも
「......もしもし、こんな時間に電話をかけてしまってごめんなさい」
私は先輩に詳しい知人に電話をかける
今は十二時を回っているからまさか電話に出るとは思わなかった
『だいじょぶだぁよ〜、ヒナちゃんから連絡くれるなんて珍しいねぇ。おじさんびっくりしちゃった』
電話から聞こえて来るのは朗らかな先輩に似た声
「小鳥遊ホシノ、単刀直入に言うわ」
『うん、なんでも言って〜』
私は自分の袖を少し握って勇気を振り絞る
きっと小鳥遊ホシノなら
「今度、買い物に付き合って......ほしい」
先輩の好みを知ってる、かもしれないから
先に言っておく、アルトくんはヒナちゃんに食われます