アリウスクソボケオオバッタ   作:カブライニキ

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覚醒

覚悟

秤はついに、揺れ動く


第七話;鍵と王女の破綻

 

 

「ん......ここ、は......」

 

 

 

小さな部屋の中で、アリスは目覚めた。

 

気を失う以前の記憶をスッポリと抜かして。

つまり、『セーブすることなくロードした』ような状態

 

 

「うぅ......アリス、は......ええっと...」

 

「目が覚めたか」

 

 

まだピントが合わないレンズの前に座っていたのは

 

 

「アルト!おはようございま_________________________」

 

 

 

 

「ごめん」

 

 

今にも泣きそうな顔をした、親しい友人の姿

 

「ある...と?」

 

「......そのまま、何もせず、寝転がっていてくれ」

 

 

いつもの楽しげな雰囲気で話すアルトの姿はどこにもなく、あったのは幼子のようにうずくまる姿

 

 

「あ、アリス、悪いことをしたんですか...?な、なら謝ります!だから...いつものアルトに戻って......げ、ゲームをしましょう!一緒にキヴォトスクエスト2でも...!」

 

 

 

「.............頼むから」

 

 

「ご、ごめんなさい!アルトが元気じゃないのは...なんだか嫌で_______「頼むから黙っててくれよッ!!!」

 

 

アリスは

 

初めてアルトの激情を感じた

いや、今までも感じていなかったわけではない。目の前で、椅子の上でうずくまるアルトから漏れ出る苦痛、悲しみ、憎しみ

 

それに、目を背けていただけ

 

 

「.........ごめん......」

 

「あ、アルト......?」

 

 

アルトはアリスに謝罪し、ぎゅっと自分を抱えるように息を潜めた。

だが、隠しきれない嗚咽。アリスは初めて、自分が何か、とんでもないことをしたのだと悟った

 

 

『......ああ、またこうなるのですか』

 

 

『...え......?』

 

 

時間が、止まったように感じた

 

 

頭の中に、誰かがいる

自分に近しい何か。

自分と違う何か

 

 

『......まぁ、今はいいとしましょう。王女よ』

 

 

『王女......?あ、アリスはアリスです!あなたは...誰ですか.....?』

 

 

アリスは、()()()()()()()にその問いを向けた

 

 

 

『......私は......鍵................いえ、もう、鍵としての役は捨てたのでした』

 

 

鍵、と自分を呼称したそれは、その名を捨て、もう一度産声をあげる

 

 

『私の名前はケイ名前の意味も、なぜこの名を受け入れ...そして誇らしく思うのかも分かりませんが......あなたが世界を滅ぼす手助けをする存在『だったもの』です』

 

 

『......え、ええと...っ頭がこんがらがってしまいます...!アリスは勇者です...!世界を滅ぼすなんて『今は』

 

 

ケイと名乗った人格は、アリスの言葉を切って話を進めた

 

 

『説明しているいとまなど、ありません』

 

 

『っ“あ......っ!??!』

 

 

突如として、アリスの脳内に流し込まされるアリスが知らなかった『セーブデータ』

アルトを傷つけたこと、自分が犯した罪。一歩間違えれば、全てが終わっていたかもしれないメモリー

 

 

『......これでわかったでしょう。王女よ』

 

『はぁ...っ!はっ...?アリス、が......なん、で......!』

 

 

ケイは肩で息をするアリスに、こう言葉を投げかけた

 

 

『あなたに、覚悟はありますか?』

 

 

『......え......?』

 

『傷つけたアルトに嫌われても、貶されても、忘れられても。彼の未来を変える覚悟はありますか?』

 

 

何を言っているのか、わからなかった

 

アルトの未来?覚悟?そもそもケイとは一体?

 

 

『......わかり、ません......』

 

 

何もわからなくて、そう返すしかできなかったアリスを、ケイは落胆したように見下ろした

 

 

『......わかっています、急くことはないと......ですが___________』

 

 

 

『これは、あなたと私の罪。アルトに、報いるしかないのです』

 

 

 

『王女よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........は......え......今、のは」

 

 

 

 

 

気づけば、再び部屋の中でベッドに座っていた。

 

会話の内容、起こったこと。その全てを覚えている

 

 

「......アル、ト......」

 

 

最初に認識したのは、やはり

 

 

「.........覚悟」

 

 

自らが、心を、体傷つけた、秤アルト

 

 

「アリス......は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルトを、元気に、したいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Protocol;ATRAHASIS』

 

 

『王女の権限による改竄が確定』

 

 

『権限を『ケイ』に移行します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「“あ......アルト“」

 

「......先生」

 

 

 

アリスの暴走の予兆が治ったことを確認したアルトは、廊下の向こうから歩いてくる先生と鉢合わせた

 

 

「“えっと...その...大丈夫...?“」

 

「......別に」

 

「“顔色が悪いよ...もしかして、寝てないの?“」

 

「......やることが溜まっててな。ちょっと、眠れてないだけ」

 

 

アルトの下瞼には、隈が刻まれていた。

 

否が応にも、『エデン条約』の時を思い出してしまう

 

 

「“心配だよ...ちゃんと寝ないと“」

 

 

「......んだよ」

 

 

「“...え...?“」

 

 

「アンタに何がわかるんだよ」

 

 

先生は、アルトから放たれる圧を初めて目の当たりにした

 

そのまま、息を吸うことすらできなくて、アルトが去っていく姿をただ眺めていた

 

 

 

「“......ダメだなぁ“」

 

 

自分の行動を、先生は悔いる

 

悔いて、行動することしかできない

 

何かを予測して、アルトのように先を読んで予防線を張って

 

 

「“すごいなぁ...アルトは“」

 

 

自分も、そのようになれれば

 

 

 

 

「おかしなことを考えるのはやめておいた方がいいわ」

 

 

 

「“っ...あ...君は......“」

 

 

「...彼には経験がある」

 

 

「喪う経験が」

 

「手に負えない確定した過去が」

 

 

整えられたロングヘア

きちっと整えられたスーツ

 

 

そして、底冷えするほど冷静な声色

 

 

「“.......リオ、だよね?“」

 

 

「ええ。シャーレの先生との邂逅がこんな形になってしまったのは少々予想外ね」

 

 

 

彼女はミレニアムの生徒会長であり、ミレニアム総合学園の頂点とも言える実力の持ち主

 

 

アルトの前で見せるような隙は、生憎持ち合わせがないようだ




次回 第八話『嵐の邂逅』
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