天童ケイ
秤アルトを愛している
それ以外の記載、記録、記憶は存在しない
「っはぁッ!!!イッテェなオイ!!!」
「痛覚あんのに向かってくるお前が怖えよ!!」
アルトとネルの一騎打ち、それは激しく、周囲の建物を倒壊させながら繰り広げられていた
「痛みがあったほーがだんっぜんいい!!意識とばねェからなぁ!!」
「この脳筋が...!!」
「褒め言葉どうもッ!!」
現在アルトが使用しているのは『フォースライザー』による急造のライダモデル。
いつものように装甲で衝撃を受け止めるようなことをせず、鉄煙を使った回避や、当たるにしても被害を最小にするよう動いている
「テメェが!!」
「ッ!?ごめん聞こえない!!」
「だっからぁ!!!テメェが全部背負い込むことなんてねぇんだよっつってんだよ!!」
「ん“!?定食はしょっぱいもの食いまくることない!?」
「はったおずぞテメェ!!!」
一度銃撃戦が始まれば、今度はアルトが音を聞き取れなくなり、ネルは律儀にももう一度言ってくれる
戦いなのか喧嘩なのかわからんレベルである
「テメェが!先生たちが見るはずだった悪りぃ部分を受け持ったそれはいい!!けど!テメェが!テメェだけが傷ついて先生やあのチビが喜ぶとでも思ってんのか!?!?」
「っ......!」
「図星かバァカ!!!」
銃弾で怯まされ、ネル自慢の肉弾戦でアルトを空中から地面へと叩きつける
「思うわけ...ッねぇよ...!!」
『ライジング ディストピア』
大きく煙を吐き、プログライズキーの出力を上昇させ肉薄。
ネルは『そうこなくちゃ』と言ったような表情でアルトからの肉弾戦に応じた
「ダァッ!!」
「ヅッ!!」
エネルギーと鉄煙を纏った蹴りは、なんとネルの蹴りと相殺
「ウッソだろオイ!?」
「鍛えときゃよかったな運動不足!!」
2人は向き直り、互いに武器を持ち直す
(戦いはこっち優勢......んだけどどーも決め手になんねぇなぁ...)
ネルは攻めあぐね、思慮を巡らせながら頭を掻く。
ネルはその戦闘センスと方法から、あまり頭脳戦を得意としないようなイメージを持たれることが多い
だが、その実ネルのバトルIQはキヴォトスでも上澄、トップと言っても誰も反論はしないだろう
冷静
沈着
それを同居させる暴君
それこそがミレニアムの誇る勝利の剣・美甘ネルその人の有り様である
「......テメェはよ」
「......おん」
「昔っから抱え症で、お人好しで、バカで、考えなしで、強くて、カッケェよ」
「......んだよ、照れるぞ」
「......だからこそだ。テメェは、自分を出さなすぎる」
ネルはそれを危うんでいた。
己が力で生み出し技術の髄を、アルトは決して私欲で行使しようとしない
それはいい。ネルとしても、アルトが変なことに力を使っているところなど見たくもないだろう
「もっとテメェは、これが嫌だ、あれが嫌いだ、これが許せない......もっと出して生きろよ」
「......じゅーぶんわがままは言わせてもらってる立場なんだけどな」
その回答に、またネルははぁ、とため息をついて一拍
「テメェの好きなもんなはんだ?」
「......家族とか、友達」
「それが傷つけられたり、壊されたりしたら?」
「許さない」
「それでいいんだよ」
ネルは少しずつ、少しずつ調子をいつもに戻してきているアルトを見てニカっと笑い、再び言葉を連ねた
「結局最後、自分の言葉を吐き出すのは『ここ』だろ?」
自分の心臓に親指で指差し、トントン、と叩いてみる
「チビは紛れもなくテメェの家族を奪った。その事実は変えられねぇ。先生も同じだ。自分の落とし前は自分でつけなくちゃならねぇ」
だから、とネルは銃を握り直す
「テメェをアタシがボコして、いやっつってもあのチビと先生の前に連れ出してやるよ。そして、あの2人にアイスでも奢らせてやれ」
ネルは、やはり快活な笑みを向けた。
「さて________ここでチェックだ」
その笑みを浮かべたまま
「っ!?貨物エレベータ......ッ!!!」
アルトは背後のエレベーターへと押し込まれ、チン、という音が聞こえた瞬間には体に重力がのしかかっていた
「ご自慢の煙も、機動力も、ゴツさも、この重さの中じゃ意味ねぇだろ?」
いつの間にか、秤アルトは敗北への道筋へと誘われていた
「......っ......はっ......ハハッ...!本当っスッゲェよお前は...!」
だからこそ、その強さはアルトの心の翳りを吹き飛ばしたのだろう
だからこそ、その輝きはアルトを再び笑顔へと誘ったのだろう
「......構えろ、アルト」
「......ああ」
2人は武器を捨て、アルトはドライバーを2回操作。
ネルは銃を再び構え、突きつける
「「ッ!!」」
息
動き
そして
火力
ラ
イ
ジ
ン
グ
ユートピア
秤アルトは、
美甘ネルは
文字通り全てを出し切った
__________________________________________________
「.........んが......どこだ、ここ......」
「んお、目ぇさめたか。ついでに頭も冷めてくれてっと助かる」
アルトは眠たい目を擦り、体を起こす。
「......ネル」
「おう。おはよう......つってもまだ30分ぐらいしかたってねぇがな」
「......そっか......あー、ジャケットまで......すまん」
「気にすんな。アタシがやりたくてやってんだ」
アルトの体の上にはネルのスカジャンがかけられており、少々ネルの匂いがした
「......どうだ、気は」
「......随分良くなった。ありがと」
「そうか」
「マジで迷惑かけた」
「気にすんなって」
「......先生に、ヤな態度取ったな......」
「しゃーねぇって」
「.........アリスに、酷いこと言った」
「また遊んで、ゲームでもすりゃまたあのチビは仲直りしてくれんだろ」
パシパシ、とアルトの背中を叩きながら、ネルはただアルトの言葉に相槌を返していた。
「......ありがとな、ほんと」
「おう。今度なんかジュースでも奢ってくれ」
「ははっ......自販機空になるまで奢るよ」
アルトはゴロンと横になりながら顔をぐしぐしとぬぐい、汚れを多少取った
「......負けたなぁ」
「全然嬉しくもなんともねぇけどな」
ネルが好きなことはもちろん『勝つこと』だが、ベストコンディションもクソもないアルトに勝ったところで、というやつだろう
「あー......もすもす、トキ」
『はい、お呼びですか先輩』
「コールはええな...」
耳元の通信機から一瞬で飛んで来たコールはみなさんご存知の飛鳥馬トキ。
『作戦失敗。攻撃をやめて撤退しろ』
「む...まだまだパーフェクトメイドのトキちゃんはやれます」
『すまんな、先輩負けちまった。リオに回線繋げてくれ』
「......わかりました。負けちゃった先輩のことは後で私が慰めてあげます」
『せんきゅ。お疲れ様、トキ』
「......ということで、先生、先輩方、あなたたちの勝ちです」
「“ずいぶん急だね...“」
「先輩の命令なら仕方ありません」
トキが武装を下ろすと、それに準じて先生たちの陣営も銃を下ろした。
「お、終わったの、かな?」
「ってことは......私たち勝ったんだよ!!勝利ー!!」
「な、なんとかなってよかったぁ......」
ゲーム部の三人はため息をつき、その場に座り込んだ。
「さすがはリーダーだねぇ!まさかアルト先輩に勝っちゃうなんて!」
『ああ、楽勝楽勝』
『こっぴどくやられました』
通信機からの出力をトキはスピーカーにし、先生たちとも話を共有した
「“お疲れ様、ネル。それと...アルトも“」
『......先生も、お疲れ様っす』
「“......あのさ“」
『あの』
通信機越しの通話だというのに、2人の声は重なった
「“......っあはは“」
『......ははっ』
「“ごめんね“」
『すみませんでした』
2人は互いに謝意を述べ、一瞬だけだが険悪だったムードを解消。
先生も、いつも通りのアルトが帰ってきたようで安心したようだ
「はぁ......言いたいことは山ほどあるけど、今お小言はやめてあげるよ」
『ウタハもいんの?』
「これでも親友だからね。君の尻拭いくらい手伝うさ」
『...すんませんほんと...』
「ン、よろしい。今度どこかで埋め合わせをしてもらおうか」
ウタハもまた、先生と同じように安堵の表情を浮かべた
「それに、君に見せたいものもあるからね」
『見せたいもの?』
「説明は私がむごご」
「きっと驚くさ。まぁ、明日までのお楽しみということで」
ウタハは説明を挟もうとしたコトリの口を塞いだ。
どうやらサプライズ系の何かがあるらしい
『......それじゃあ、先生たちはこのまま中央の塔へ向かってくれ。ちと面倒だけど、最上階にアリスがいる。トキ、案内してやってくれ』
「了解です」
『......あと、最後にゲーム開発部のみんな』
名指しで呼ばれた三人は、頭上に?マークを掲げてアルトの声に耳を傾ける
『......なんの説明もなしに、すみませんでした。きっとアリスは、君たちにとって、かけがえのない存在だったのに』
アルトが語ったのは、またもや謝罪だった。
『......できれば、その..........俺も、勘弁してもらえたらな...って「そんなの当たり前じゃん」
それに返したのは、やはりというかモモイだった。
「アリスがあんなに懐いてて、悪い人じゃないってのは最初からわかってたよ。だから私は許してあげる!」
「私も、私からも許させてください。この件は、アリスちゃんを廃墟から持ち帰った私たちにも責任がありますので」
モモイとミドリ。2人の姉妹はアルトを赦した。
「あ!でもアリスのことを説明もなしに攫ったのはちょっとダメだよ!うちの子は貸出してないから!」
「わ、私もダメだと思う...思います...!」
『う“っ......ほんっとごめんなさい......」
真っ当。あまりにも真っ当
アルトはユズとモモイに詰められた。3歳も下の......前世を入れれば一回りも下の子供に真っ当なことを言われたアルトのダメージは計り知れないだろう
まぁでも今回のことは仕方ないのだ。アルトもアルトで悪い
「だから......だから、その......アリスちゃんはきっと、先輩に会いたいと思うので、ちゃんと話してから、きてください」
『......っ......うん......ほんと、そうする』
そして先生一行は、アリスを救うためタワーを登って行った
「......いい子達だな」
「ああ。度胸もあって、自慢の後輩だ」
「ネルがそれ言うのめずらし」
「そんぐらいだ、ってことだよ」
アルトはキラキラと光るネオンと、だんだんと沈んでいく夕焼けを眺めながらエリドゥを見下ろした
「...お、繋がった。もしもしリオ」
『すでに把握しているわ。お疲れ様、先輩』
「......ごめん、負けた」
『仕方ないわ。先輩が自分を責めることはない』
通話に出たリオは、至極冷静に、いつも通りアルトに接した
「...これでよかったのか?」
『こちらの最高戦力が落ちたのだから、これ以上の抵抗は合理的ではないわ』
「......すまんね」
『......私こそ、先輩をいらなく苦しめてしまったこと、ごめんなさい』
「......んにゃ、いんだよ。後輩のために苦しむのも、先輩だ」
『.........だとしても、私は「リオ」
「いいんだ、お前は、お前らしく、心のままに、だ。お前ら後輩がそうであってくれれば、俺は最高なんだよ」
『......わかったわ。後始末は私が。先輩は休んでいて』
「おう。リオもお疲れ様な。それじゃあまた後で」
アルトは通話を切り、タバコを取り出した
「一応副流煙でねぇけど...吸っていいか?」
「別に気にしねーよ。それにそれも薬なんだろ?お前こそ気にしないで吸えっての」
安心し、火をつけ、煙を吸い込む
「...ん、いつも通り死ぬほど苦い」
「そうか?アタシはそんなに嫌いじゃねぇな」
本来入っているはずのニコチンも取り払われているため、ただただ苦い匂いが流れるアルトのネオシーダー
その香りが、なぜだかどうしてアルトの後輩たちには人気だ
「お前のにおいだよ、それ」
「......クセェな...死のう......」
「ははっ、別に不快な匂いじゃねぇよ。確かにちょっと苦い?感じはすっけど、安心する匂いって意味だよ」
「......そか」
タバコの煙を大きく吸い込み、痰を吐き出す
いつものルーティーンを、今ここにはいない、
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「“ついた...!“」
「アリスは......あっ!あそこ!!」
塔の最上階へと上がった先生たちは、念願のメインモニタールームへと辿り着いた
『予測外のハッキング......トラッキング等ありません、あとはウイニングランですよ、先生』
通信から聞こえてくるコタマのエールに背を押され、アリスを連れ戻さんと先生とゲーム開発部はかけだした。
ちなみにこの4人以外はタワーの一階で休憩兼防衛中である
「......本当に、ここまでよく辿り着いた」
「っ?!会長!!?」
「ま、まだやるつもりで...!」
「......まってちょうだい。そんなつもりは無いわ」
勢い余って発砲しそうになるミドリだったが、抵抗の様子が全くないリオの姿を見てその指を止めた
「......あなたたちに聞きたいことがある」
「“......何かな“」
「なぜ......そこまでアリスを助けようとするの?」
それは、当然の問いだった。
「そして、またアリスが暴走したとき、貴方はどうするの?先生」
それもまた、当然の問い
「“......その答えは、きっと、この子達が知ってるんじゃないかな“」
先生は、モモイ、ミドリ、ユズの順で三人を眺め、そっと背中を押した
「そんなの決まってるよ!アリスは私たちゲーム開発部の部員で!私たちの友達!」
「アリスちゃんは、家族、みたいなものなんです。世界を滅ぼす兵器なんかじゃありません、だったら、きっとあんな笑顔なんてできませんから」
「部長として......勝手な退部は、見逃せない......!」
それぞれから吐き出された想い
ただの感情論だ。なんの理論性も、証拠も存在しない
だからこそ、リオは納得した
だって、秤アルトがそうだから
感情論を、奇跡のように叶えてしまう、そんな憧れだったから
「“......アリスがもし、また暴走したら、私はアリスをもう一度......いや、何度だって元に戻すよ。まぁきっと、またみんなの力を借りることでしかそれはできないけどね“」
「......確証なんてないのに?」
「“それが『先生』だから“」
リオは、その言葉とよく似た言葉を知っていた
『それが「先輩」だからな』
なんの確証も、存在しないのにリオはそれをいつの間にか信じていた
「......全く、人のことを言えないわね、私は」
スッ、と先生たちの前から体を退き、アリスへの道をあけ渡した
「......後を任せてもいいかしら」
「“もちろん“」
「任せてよ!」
その言葉で、リオはふっと笑ったように見えた
「アリス!ごめんねお待たせ!」
「迎えにきたよアリスちゃん...!」
先生とゲーム部アリスに向かって声をかける
「.........アリス、ちゃん?」
アリスは、起きていた
あるモノにとっては玉座のように
あるモノにとっては寝具のように見えたそれに、膝を抱えてうずくまるように
「“......アリス?“」
「......帰りません」
「...えっ?」
モモイの素っ頓狂な声が静かな部屋に響くが、それを飲み込むようにアリスが声を上げた
「......だって_________________________
その瞬間
「私の名前は、アリスではありませんので」
アリスの黒髪は、まるで生え変わるかの如く白へと変わった
「私の名前は、ケイと申します」
そして、先生たちは光の本流に飲まれた
_____________________
『秤アルト』
『ん、どうした』
『緊急事態だ』
『お前がそこまで言うの珍しいな……』
タバコを吸っていたアルトは突然脳内で語りかけてきたデカグラマトンに反応
片目を閉じて相棒からの言葉に耳を傾けた
『鍵が強硬手段に出た。このままでは』
『キヴォトスが滅ぶ』
次回『デカグラマトン』