ギャング・バニーは更生したい!   作:イモコン

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ギャングのボスになったが平和に暮らしたいだけなんです! 第1章①

さて、今後の地獄での生活の方針は決まった。私は『平穏で幸福な生活をおくり、生きのびてみせる』ぞ!

 

……うん、実にシンプルである。あとお前は吉良吉影かというツッコミは受け付けないものとする。いやだってさ、この地獄は倫理の対義語みたいな世界で、売春やポルノにドラッグ、犯罪などの社会的に一発NGな概念が蔓延ったゴッサムシティ以上に治安が終わっているところなんだぞ?私のような平和ボケした元日本人が容易に生き残れる場所じゃないからこそ、この方針に決めたのだ。

 

それに、ここは恐ろしい悪魔や権力者が力を揮っているだけで終わらない。年に一度、天国から天使軍が降臨し、罪人の悪魔たちを粛清する『エクスターミネーション』が執行されるのだ。エクスターミネーションの恐ろしいところは天使たちの持つ武器で、これによって殺害されればその悪魔は二度と復活することはできない。

 

『(……いや、どう考えても生き残れる気がしないなぁ……)』

 

原作知識を持っていることに感謝するべきなのか、それとも雑魚悪魔な自分では生き残れる可能性が低いという現実を正しく認識し、絶望すればいいのだろうか。

 

死んだ魚の目で虚無を見ていると、お腹からクゥという間抜けな音が鳴った。あ、死んでいてもお腹は空くのね。今の自分は文字通り無一文だというのに、ちくしょうめ。

 

悪魔って餓死するのだろうか。空腹で死んで、復活しても空腹が消えずにまた死ぬ。何それ怖…としょうもないことを考えていると、遠くから銃声やら怒鳴り声が聞こえ、しかもこちらに近づいていることに気づいた。は?銃声?

 

あまりにも嫌な予感にゆっくりと振り向くと、路地裏の曲がり角から何者かがこちらに向かって飛び出してきた。それは咄嗟の出来事で、相手も私の存在に気づかなかったのだろう。勢いそのままに相手と私は思いっきり衝突した。

 

「⁉グハッ」 『んぼっ⁉』

 

ズシャァと音を立てて両者は地面に倒れこむ。い、痛すぎる…何事⁉すぐさま起き上がり、悪魔の姿を確認する。パッと見た感じ、恐らく狐の悪魔。あと男。いかにもカタギじゃありません!と言わんばかりの黒いサングラスと黒スーツを身にまとい、銃で撃たれたのか流血している右肩を抑えている…って血ィ⁉⁉

 

嫌な予感は見事に的中した。確実に面倒ごとである。遠くから聞こえる銃声やら怒号は複数のものであったことから、この男は犯罪組織かなんかに追われていて、制裁を受けようとしているところなのだろう。…ということはだ。私がここにいれば巻き込まれる可能性が高い。

 

それはマズイ!と慌てて逃げの姿勢をとる。一方狐男はぶつかった衝撃が傷に響いたのか、苦悶の表情で倒れ込んだままだ。多少罪悪感があるが、少なくとも地獄にいる時点でろくでもない奴なのは確かだ。自分の命が第一。悪いがさっさと逃げさせてもらって……

 

「わ、悪いな…嬢ちゃん。急いでいてよぅ…ケガしてねぇかい?」

 

その言葉を聞いた瞬間、走りだそうとした足が動かなくなった。

 

「本当なら、詫びの品でも渡さなきゃならんのだが…それも難しそうだ。……悪いが、早くここから立ち去ってくれねぇか」

 

狐男は息も絶え絶えになりながらもそう言い放った。ゆっくりと振り返りその瞳を見れば、恐怖と諦観が色濃くにじんでいるのがよくわかる。それにも関わらず、コイツは自身に迫る危険を顧みず私を巻き込まないよう気遣っているのだ。

 

…本当にこれでいいのか?私は、コイツを見捨てて逃げて、心の底から後悔せずに、のうのうと生きることができるのか。

 

そう思案すること、コンマ1秒。

__よし、覚悟を決めた。なら、急がなくてはならない。

 

近くにあったゴミ山から大きいゴミ袋を選び、むんずと両手に掴んで狐男に近づく。唐突に意味不明な行動をとり始めた女に男はギョッと目をむいた。

 

『お兄さん!ちょっと静かにしててくださいね!』

「うぐ、ちょ、ちょっと待ってくれお嬢ちゃん、モガッ…」

 

何やら言っているが時間が無いので無視してゴミ袋を次々と乗せていく。完全に姿が見えなくなるまで乗せていけば立派なゴミ山の完成だ。そして完成した直後、男が飛び出してきた曲がり角から次々とガラの悪い悪魔たちが現れた。

 

「おい、こっちに逃げたはずだぞ!」 

「どこ行きやがった、あのド腐れ狐野郎!」

「…あ?おい、そこのビッチ。ここを悪魔が通ったはずだが、どこにいったか知らねぇか」

 

『…はい?私のことですか』

 

銃やら鉄パイプやらを持った強面の筋肉だるま共に囲まれ心の中で絶叫する。あばばばっばっば、や、ヤバい、本当に怖すぎる。震える手を後ろ手で抑えつつも、あたかも今気づきましたとしらばっくれる。が、当然男どもは納得しない。

 

「しらばっくれてんじゃねぇぞ‼隠し事なんかしてみろ…ここでお前をマワして、そのまま素っ裸で通りに投げ込んでやるからな⁉」

『(無理無理無理怖い怖い怖い怖い)そういえば、狐の悪魔が急いでいる様子で大通りへ走っていきましたね(早口)』

「…そうか。行くぞ」

 

大通りの方へ指を向け、そう言えば悪魔どもは存外あっさりと信じ、バタバタと駆けていった。

 

…よし、行ったな?行ったよな?耳に意識を向け、周囲の音を探る。どうやらウサギの聴力は人間のものよりもかなり優れているようで、男どもが遠くまで走っていったことがわかった。

 

「じょ、嬢ちゃん、無事か…!?」

 

ドサリ、ドサリとゴミ袋が崩れていき、狐男は焦った様子で這いずってきた。いや、それこっちのセリフだから!怪我人は動かないでくれほんと。慌てて男に近づき、すぐさまハンカチで傷口を圧迫止血する。男はまたまた目を見開き、私の顔をまじまじと見つめた。

 

「…お前さん、本当に地獄の住人なのか?巻き込んじまったのは俺のせいだが、わざわざ庇うようなマネして、しかも傷の手当までしてくれるなんてよう…」

『ははは、実は私、ついさっき地獄に堕ちてきたばかりなんですよ。あなたの常識については知りませんが、これくらいなんてことありません』

 

嘘である。正直に言えば本気で怖い思いをしたし死ぬかもと思ったしで、面倒ごとに巻き込みやがってこの野郎ぐらいは思っている。しかしこの男、悪魔にしてはまともな感性をもっているようだし、見捨てたら見捨てたらで罪悪感に苛まれていた事だろう。そういう意味では心穏やかな悪魔生を望んでいる私にとって感謝するべき相手なのかもしれない。

 

ならば無駄な罪悪感を持たないようそれっぽい良い感じのセリフを適当に言っておけば良いだろう。狐男の目をまっすぐに見つめ、キリッとした表情を意識してこう言い放った。

 

『あそこであなたを見捨てることは…私の矜持に反する』

「っ!…あんたの矜持ってのは何だ?」

『…簡単なことですよ』

 

『自分が救いたいと思った人間は必ず救うことです』

「!!!!!」

 

『あの時、あなたは救いを求める目をしていた。目の前に迫る死に絶望し、怯えていた。それでも…見ず知らずの小娘を庇うために、その恐怖に立ち向かった!』

 

『……ならば、それから目を背けることは、尊い勇気への愚弄以外の何ものでもないっ…!』

 

__男は茫然とした表情をしていた。まるで終ぞ見つけられなかった探し物を、突然目の前に差し出されたように。そして、

 

「はっ、ははははははははは!!!!」

 

と掌で顔を覆い、大きく笑い出した。

__その隙間からは、絶え間なく流れる涙が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、あんたの名前を教えてくれないか。俺の名前はFoxey(フォクシー)だ」

『名前……』

 

生前の本名……『兎崎紬』という名は今でもしっかりと思い出せる。しかし、この異郷の地獄では違和感のある名前だろう。自分は一度死んだ身。そして、この土地で新しく生まれた悪魔なのだ。ならば、郷に入っては郷に従えというだろう。フォクシーのサングラスに反射する悪魔の姿を見て、決意を固めた。…そうだな、そのままの名前だと安直だし、少し変えよう。

 

『私は……私の名前はVanny(ヴァニー)だ』

 

地獄のとある路地裏にて、2匹の悪魔は運命の邂逅を果たした。方や一匹は、後にギャングの頂点に立つ悪魔。方やもう一匹は、その右腕となる悪魔。

 

「ヴァニー、頼みがある。……俺と一緒に、地獄を変えてくれねえか」

 

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