ギャング・バニーは更生したい!   作:イモコン

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ギャングのボスになったが平和に暮らしたいだけなんです! 第1章②

 

第1章②

 

突然何を言い出すんだコイツ???

 

唐突にわけのわからないことを言い出したフォクシーにヴァニーは???となる。えーと、地獄を変える…?漠然としていていまいち想像できないが、もしかしてルシファーやVタワーへのテロ活動とかに誘われているのだろうか。俺と一緒に下剋上しようぜWhoo↑↑↑(脳死)みたいな。仮にそうだとしても雑魚な私にできることなんて何もないぞ?爆弾を体に括り付けて突撃でもしろってか?それなら本気でお断りさせていただきますね。

 

「おっと、詳しい話はここでできるようなもんじゃねえ。場所を変えよう」

 

そう言ったフォクシーは器用に口と手を使い、ハンカチで銃創を縛り付けるとゆっくり立ち上がった。

 

「とりあえず、話だけでも聞いてくれたらいい。協力するかしないかはお前次第だ」

 

『それは…』

 

いや、危険なことには関わりたくないのですが、と言おうとした瞬間、路地裏に『ぐぅ~~~』とバカみたいに大きな腹の音が響いた。……そういえば、地獄に堕ちてから何も口にしていないし、お腹めっちゃ空いていたんだったぁ。

 

さすがに異性に腹の音を聞かれれば恥ずかしいと思う感性は持ち合わせている。顔がどんどん熱くなっていくのがわかった。対するフォクシーはきょとんとした顔から一転、少し笑いをこらえるような表情をしてこう言った。

 

「ふ、大したもんは用意できねえが命の恩人なんだ。できる限りのもてなしはさせてもらうぜ?」

 

『…では、お相伴にあずからせていただきます』

 

…べっ、別に命の危険よりもご飯に釣られたわけじゃないんだからねっ!

 

 

 

案内されたのはペンタグラムシティの中央からかなり離れた僻地にある隠れ家だった。一見かなりのボロ屋だったが中はそれなりに整理されており、埃なども目立たなかった。もしかしたらフォクシーは綺麗好きで真面目な性格なのだろうか。フォクシーが現代では物珍しい古びた暖炉に火をつけた後、台所で何やら用意するのを椅子に座ったままぼーっと見ていた。

 

……あの、一応言っておくけど、怪我人に全て任せるのはアレだろうと思い手伝いを申し出たからな?だが彼は大丈夫だからの一点張りで相手にしてくれなかった。しかしテキパキと料理する様子を見るに、その言葉は嘘ではないのだろう。料理は滞りなく終わったようで、だいたい15分ほど経って机に戻ってきた。

 

フォクシーが手に持ったトレーには二人分のコーヒーと謎肉が乗ったパスタが乗せられていた。えっ?コーヒーはともかく、これ食べて大丈夫な肉なんですか?なんか紫色だし、心なしか動いているような、と思ったが対面に座るフォクシーは気にせずガシガシと食べている。さすがに出されたものにケチつけるのも悪いし、覚悟を決めて一口パクリと食べた。

 

『…美味しいですね』

 

「な?意外といけるもんだろう?」

 

そう得意気に笑い、狐特有の膨らんだ尻尾をゆっくり揺らす男をジト目で見つつ、パスタをガシガシと勢いよく食べ始めた。

 

 

 

…存外クセになる謎肉パスタを完食し、腹も満たされた後。コーヒーを飲みつつ、例の話を始めた。

 

「確かお前は今日地獄に来たばっかりだと言ってたな?なら頼み事をする前に、ある程度ここのことを説明した方がいいだろうな」

 

そういってフォクシーは、地獄のおおまかな概要や悪魔の基本的な能力、社会階級、勢力図、更には天使の存在とエクスターミネーションについて説明していった。一通り聞いたところ内容は原作から乖離しているものはほとんどなかったので、だいたいの情報はすんなりと頭に入れることができた。

 

しかし話が現在の社会情勢に移った際、フォクシーが何気なく呟いた情報にヴァニーは思わず目を見開いた。

 

「ここの治安は随分悪いだろう?でもなあ、これでも少し前と比べれば落ち着いてきた方なんだ。…やっぱり、ラジオデーモンが姿を消したからかねえ」

 

ラジオデーモン。それはよく知っている名前だ。原作では準主役として登場し、何かと謎が多いが魅力ある危険人物として人気のあったキャラクター。

 

『ラジオデーモン?』

 

聞き慣れた名前に思わず復唱する形で反応を示したので、彼はそれを質問として受け取ったのだろう。手に持ったコーヒーカップを机に置き、顔を顰めながら語り始めた。

 

「ああ。1930年代くらいだったか?昔、地獄に堕ちてきた罪人の一人なんだが、こいつがまたとんでもない野郎でよう。地獄にきたばかりだっていうのに凄まじい力を持っていて、次々と地獄の支配者どもを殺戮していった。しかもそれだけじゃねぇ。その虐殺の様子をラジオで地獄中に放送しやがったんだ!」

 

「…それからラジオデーモンと呼ばれ、恐れられるようになった。正真正銘のイカレ野郎。生粋のシリアルキラーってやつさ。ただ、そいつが1年くらい前からぱったりと姿を消したんだ。噂じゃエクスターミネーションで天使にヤられただの、原罪の悪魔にヤられただのと言われているが、本当のところは誰も知らないんだ」

 

「……話を戻すぞ。地獄の情勢が一気に変わり始めたのはラジオデーモンが現れてからだ。ソイツが地獄の支配者を殺戮していったことがきっかけとなり、悪魔同士の権力争いも増えて急激に支配者の世代交代が進んでいったのさ。そして上級悪魔の顔ぶれが総がわりしたことに加えて、脱落していった悪魔がかつて所有していた領土、莫大な利益を生むシノギの利権争いも激化した」

 

「…そして、その影響は地獄のギャング共にも及んだ」

 

ギャング、というとフォクシーがいくつかチーム名を挙げていた地獄の有名なギャング達を思い出した。先ほど地獄の勢力図について聞いた時、原作には無い情報だったため印象に残っている存在だ。

 

えーと確か、昔は傲慢の階層にはいくつものギャングチームがいたけど、抗争を重ねてチームの吸収が進んでいって、ある3チームが有力になったんだっけ?最終的に1つのチームが他2チームをボコボコにして共同戦線を組ませてシノギを分配していた、とのことらしい。なぜかギャングのことは詳しく話していたのでよく覚えている。

 

「そうそう。で、その続きだ。数十年前、その最も有力だったチームがギャング以外の勢力との争いの末に完全崩壊しちまったのさ。まあ、共同戦線なんてのはそいつらがいたからこそ成り立ってたんだ。案の定、残った2チームは残された利権を独占しようと敵対するようになった」

 

「莫大な利益がかかってるからこそ双方引くに引けず、次第に目的を果たすために手段を選ばなくなった。無関係な構成員の家族、親戚を人質にするなんて序の口。なかには一人の幹部を殺すために不慮の事故を装って何十人何百人もの民間の悪魔を巻き込んで爆死させるなんて方法をとる奴もいたのさ」

 

 

「…そんな極悪非道なギャングの片翼が俺の所属しているチーム、Bloody Foxesだ」

 

__一瞬、息を飲んだ音が部屋に響く。気づけばパチパチと音を立てていたはずの暖炉の火は消えており部屋は静寂に満ちていた。カップに向けていた視線をゆっくり前に向けると、何の感情もなく、恐ろしさすら感じる真顔でこちらを見つめてくるならず者がいた。

 

…たぶん自分は試されているのだろう。この程度で逃げ出すような臆病者ではないかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの運命の日、俺が見た女は救いを与える天使に見えた。ずっとずっと待ち望んでいた_

 

 

 

__どこまでも罪深く薄汚い罪人に、裁きを与えてくれるような_

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男と対面する女は殺気を向けられながらも平然と座っており、指の先まで震えは一切なかった。しまいにはコーヒーを一口飲む始末。そして緩慢な動きでカップを机に置き、一息ついた後に不敵な笑みで返答した。

 

『…血塗られた狐なんて随分と物騒な名前だ。単純な推測ですが、狐の悪魔である貴方がボスだったりします?』

 

「…ハッ、正式に言えば代替わりで任命されたボスさ」

 

ヴァニーが男に問いかけたあと、一瞬の間が空いて部屋の空気は緩んだ。フォクシーは何ごともなかったかのように振る舞い、話を続ける。

 

『代替わり?』

 

「もともとBFは俺の実父が仕切っていたチームだ。だが1カ月前に一人で出歩いていたところを敵チーム、Daredevil Roostersに囲まれてズドン、さ。一応死体は回収したが復活もせず腐っていく一方だ。恐らく裏で出回っている天使の武器とやらで殺されたんだろうよ。と、なりゃあ誰かが後を継がなきゃならねえだろう?まだマシなのが俺だったってだけの話さ。……だが、はっきり言って俺は利権なんぞに興味はないんだ。そして、他の構成員も大多数はそれに賛同している」

 

『……どんな被害を出してでも上回るメリットがあったからこそ利権を巡って抗争していたのでは?』

 

「ああ、それは間違っていない。ただ、もっと詳しく言えば利権に固執してたのは強欲なクソ親父だけだったのさ」

 

クソ親父、とフォクシーが呟いた瞬間、ヴァニーはその瞳に強い嫌悪がにじみ出たように見えた。しかしそれは一瞬のことで、瞬きをした後には既に霧散していた。

 

「BFはな、恐怖で支配されていたギャングチームだった。構成員のほとんどは地獄に堕ちたばっかりで右も左もわからないような新参者だったやつでよう。地獄の常識、悪魔のルールも知らないのをいいことに甘言で騙し、一方的な契約を結ぶ。中には察しのいいやつもいたが、そういうのには痛みと恐怖でわからせて支配する。そういう汚えやり口が親父は大得意だったんだ」

 

「悪魔にとって契約は金や魂なんかよりも重い絶対的なルール。ここまで言えばわかるだろう?」

 

「……だが、親父はもう死んだ。構成員のほとんどの契約は無効になり、晴れて自由の身。全会一致で利益よりも抗争を終わらせたいという総意になった。そこで、DRに停戦協定を持ち出したんだ。だが…」

 

そこでフォクシーは初めて言葉を言い淀んだ。

 

『…それで?』

 

「……ある条件を提示してきた。DRが指定した日時、場所にBFの構成員全員が赴くこと。理由は、利権の分配やらで一人ひとりが遺恨を残さぬよう、双方確実に納得してケジメをつけるため、とのことだが…」

 

『…明らかに何か狙っていますね。いかにもな名目だ』

 

「っはは、さすがにわかりやすいよな。そこで俺はこっそり本当の狙いとやらを構成員に黙って一人で探りに行ったんだ。まぁ、予想通りだ。あいつら直近でのデカい買い物なんだったと思う?地獄一の武器製造会社、カーマイン社特製の対悪魔用機関銃にグレネードランチャー、エトセトラエトセトラ、しまいにゃ軍用車両まできたもんだ。エクスターミネーションが近いとはいえ、このタイミングでこれだけの悪魔をぶっ殺せる兵器をわざわざ買うか?……しかしまぁ…、あー…、その、なんというか…」

 

『…ここまで丁寧に説明してくれたのでだいたいの事情は分かりましたよ。証拠を掴んだはいいが、ポカやらかしてDRにそれを気取られてしまった。結果身を追われることになるも、BFの構成員には黙って出て行っちゃったから助けは求められない、と…。完全な自業自得じゃないですか。何やってるんですか、貴方』

 

「うぐっ…」

 

ジト目のヴァニーに淡々と現実を突きつけられ、フォクシーはゴンっと机に額を打ち付け項垂れた。完全にシリアスな雰囲気は消え去っており、間の抜けた空気を表すかの如く、窓近くにいた地獄カラスが呑気に「カァ~」と鳴いて飛んで行った。

 

 

 

 

 

「さて、前置きが随分長くなっちまったな。俺の目的は長年続いたBFとDRの血みどろの抗争を完全に終わらせることだ。ヴァニー、あんたにはそれを手伝ってもらいたいのさ」

 

『…地獄を変えるっていうのは?』

 

「……クソ親父のせいでやりたくもねえ殺しをさせられたうえに、置き土産は悪行のツケときたもんだ。構成員たちは流したくもねえ血を流すはめになる。BFだけじゃない。終わらない激化していく抗争は民間人の被害を大きくしていき、近いうちにBFやDRはおろか全てのギャングは恨みつらみの果てに滅ぼされる羽目になるだろうよ」

 

言葉を重ねながらフォクシーは椅子から立ち上がってゆっくりとヴァニーに近づいてくる。声色は剽軽なものなのに反してその瞳は薄暗いものとなっており、ヴァニーはいいようのない気味の悪さに初めて身を縮こませる。

 

そして、フォクシーは両の掌でヴァニーの頬を包み、目と鼻の先まで顔を近づけて唸るように囁いた。

 

「……これを地獄と言わずして何と言えるんだ?」

 

「なあヴァニー、お前、あの路地裏で言ってくれたよな?俺を救いたいと思ったって」

 

「なら……俺を救ってくれよ」

 

 

ああ、本当に今日は、人生で最も最悪な日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、この資料から見てわかる通り。少なくともDaredevil RoostersとBloody Foxes…、この2つのギャングチームによって出た民間の被害は看過しきれないものになってきたわ」

 

カツン、カツンと音を立てながら、妖艶で鋭利な雰囲気をもった美しき女悪魔_カミラ・カーマインは上級悪魔達に語りかける。

 

「エクスターミネーションが近づいているにも拘わらず、悪魔同士で無駄に争い、被害を大きくするなどあってはならないこと…。だからこそ、皆さんが支配する魂の被害を最小限に抑えるべく、こうして話し合いの場を設けました」

 

カミラは一通りの口上を述べると、パチンッと指を鳴らして娘から資料を受け取る。

 

「数週間前、DRはカーマイン社から大量の対悪魔兵器を買収しているわ。確認したところ、近いうちにBFとの利権争いに決着をつけようとしているようね。しかし、」

 

突如、カミラは片手を机に叩きつけ、『バンッ』と激しい音が会議室に響く。

 

「この抗争は確実に周囲の魂を巻き添えにし、最悪の被害を出すに違いない!…それを防ぐためにも、皆さんから是非、具体的対策についてお話を聞きたいのです」

 

そして、上級悪魔達が黙る中、一人の悪魔_ゼスティアルが静かに手を挙げる。

 

「!ゼスティアル…。何か?」

 

「うむ…カミラ、其方の憂いは理解できる。事実、奴らの愚かな暴挙は目に余るものだ…。しかし、その抗争とやら。うまくいけば丸く収まるかもしれぬ」

 

どこからともなく緑の煙とともにティーカップを出したゼスティアルは、紅茶を啜りつつ静かに話していく。そして、カップをソーサーに置き、目を妖しく光らせながら細め、こう言った。

 

「私が勝負の行方を見届けようではないか」

 

上級悪魔達は目を見開き、ざわめきだした。それもそうだろう。なぜなら普段のゼスティアルは慎重で思慮深く、めったにことを起こさない穏健派な上級悪魔。上級悪魔にも及ばぬチンピラの諍いにわざわざ赴き、調停するなど信じられない行動だ。

 

「仮に、そのギャングとやらが勝負をつけるとしてだ…。勝手に共倒れするのであれば結構。被害を出さないのであれば良い厄介払いとなる。片方が生き残ったとしてもだ…。」

 

「エクスターミネーションも迫っている。そのような奴らでも役に立つことがあろう。見込みがあればよし…。しかし、奴らをただの危険分子に過ぎないと判断したとき…」

 

 

「…私が奴らを、一人残らず滅ぼしてみせようではないか」

 

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