ギャング・バニーは更生したい!   作:イモコン

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ギャングのボスになったが平和に暮らしたいだけなんです! 第1章③

第1章③

 

 

ど う し て こ う な っ た

 

 

ヴァニーはベッドの上で三角座りとなり、見事なまでの死んだ魚の目で遠くを見つめていた。ちなみにここは普段フォクシーが使っている隠れ家の寝室である。

 

ヴァニーは地獄に堕ちたばかりで住居はもちろん金になるようなものも持っていなかったので一時的に借りることとなったのである。「さすがにレディを床に寝させられねえよう」と毛布を片手に部屋を出ていったフォクシーは間違いなく地獄一の紳士なのだろう。でもそんな気遣いできるならレディをギャングの荒事に巻き込んでんじゃねえと声を大にして言いたかった。

 

というかあの狐野郎、とりあえず話を聞いてから決めればいいとかほざいていたくせに問答無用で巻き込んでくるじゃん。しかも話の途中でうら若きレディにガン飛ばしてきたり、急所の首近くまでお触り()という唐突なメンヘラムーブをかましてきたりと、お前は情緒不安定の擬人化か?と何度叫びそうになったことやら。

 

え、それでも断ればよかっただろって?バッッッカ、言えるわけないじゃん!だったらお前があいつに物申してみろよ!ギャングに睨まれたら絶対何も言い返せなくなるぞ!ちなみに私は恐怖のあまり逆に身震いもできず脳死質問botになってたけどな(泣)!!!!

 

『(…しかし、本当に厄介なことに巻き込まれてしまったな…)』

 

手持ち無沙汰から手に持っていたUSBを軽く放り投げてはキャッチし、また放り投げてはキャッチするという動作を繰り返す。このUSBはあの後フォクシーから渡されたものである。中身は彼が潜入したことで入手した、カーマイン社から買い取ったものをはじめとするDRが所有している武器のリストやDR構成員の悪魔の能力などの情報というとんでもない代物だ。

 

 

_「DRは俺がBFのボスだということに気づいちゃいねえ。だが、始末するべき盗っ人として面が割れちまった。盗まれた情報がBFに渡らないようあいつらはBFの管轄地域を念入りに巡回していやがる。俺が直接これを届けに行くのは難しい」

 

_「だから、お前が代わりとなって情報を届けてくれねえか」

 

 

ちなみに一縷の望みをかけてスマホかPCを使って連絡をとれないのか聞いたところ、スマホは持っていたが銃で撃たれた際にお釈迦となり新しいものも買いに行けないから、という至極まっとうな回答を頂いた。ちくしょうめ。

 

……しかし、この仕事はヴァニーにとって大きなメリットがある。それはBFという後ろ盾が得られるというメリットだ。BFは1カ月後の抗争を機に、有益なシノギの利権はDRに譲渡するつもりである。しかしギャングチーム自体は解散せず、残されたシノギで細々とやっていくそうだ。

 

では、なぜそこまでしてギャングチームを残そうとするのか?それは地獄において徒党を組むというのは立派な生存戦略だからである。例え構成員の大半が元BFのボスに支配されていた悪魔達とは言え、地獄における激しい権力争いを確かに生き残ってきた者達だ。莫大な利益のあるシノギを失ってもチームとしての純粋な実力は失われない。今後も他の悪魔達を牽制して生き残っていくだろう。そんな力のある勢力に貸しをつくる、というのは現時点で何の後ろ盾もないヴァニーにとって強力なカードとなる。

 

……それに、地獄に堕ちた時点で立てていたプランが根本から崩れてしまった、という事情もあった。そもそもHazbin Hotelは、悪魔に転生した罪人達によって地獄が人口過剰となり、それを改善するために地獄のプリンセス・チャーリーが厚生施設であるホテルを経営していくというもの。そして、このホテルは善性のある入居者であれば無料で宿泊できるという設定があった。ヴァニーは地獄に堕ちたがここの住民と比べれば圧倒的に優等生と言える類だ。それを利用して衣食住を整え、うまくいけば天国に…というプランだったが、フォクシーからの情報でそれは不可能だと判明した。

 

_「…やっぱり、ラジオデーモンが姿を消したからかねえ」

_「そいつが1年くらい前からぱったりと姿を消してよう。噂じゃエクスターミネーションで天使にヤられただの、原罪の悪魔にヤられただのと言われているが、本当のところは誰も知らないんだ」

 

__ラジオデーモン、空白の7年間。それは原作でもヴォックスの発言から仄めかされていたアラスターの謎のひとつ。要するに、今は原作が開始する6年前の時系列でありチャーリーが経営するホテルは存在しないのだ。

 

…であれば、私に残された選択は一つしかない。この情報を足掛かりとしてBFを1か月後の抗争から無事に生還させること。そして原作が開始するまでBFに身を守ってもらう、というのが新たなプランだ。うまくいけば、たった一回のおつかいで6年間もの安寧を得ることができるのだ。これ以上のチャンスはめったにない。すべては平穏で幸福な人生を過ごし、生き残るため。ほんっっ…とうに嫌だが、やるしかないのである。

 

ふと窓の外を見る。今は草木も眠る丑三つ時という時間帯だが、地の底に時間は関係ない。数時間前と変わらず空は薄気味悪い赤色で、ペンタグラムが鈍く光っている。

 

そのまま空を眺めつつ、ヴァ二―は思案する。それはフォクシーからの頼み事を受け付ける覚悟を決めてなお、ぬぐい切れない違和感についてだ。確かに彼は今のギャング達の状況について出し惜しみなく事細かに説明してくれた。そして心の底から抗争を終わらせたいと思っていることも見て分かった。

 

…しかし、ヴァニーは彼がまだ、決定的な何かを隠しているように思えて仕方がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

…パチッ、…パチン…、パチ…。

 

…静かに暖炉の炎は揺れ、時折弾けるような音を立てる。体に毛布を巻き付けた男は、それを静かに眺めていた。

 

「……ジャック」

 

ボソリ、とそのまま空気に溶けてしまいそうなほど小さく、擦れた声で男は呟き続ける。

 

「……エマ……オリバー…ルーカス…オリヴィエ、ライアン…」

 

 

「…大丈夫だ。俺は…絶対に、お前たちを忘れない……。大丈夫、大丈夫だから…」

 

 

「…まだ、間に合う。それこそ、…『天使』を利用したって_」

 

 

「__むくいをうけるのは、おれだけで、いい…」

 

 

その言葉を最後に、男は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

__2週間後、ペンタグラムシティ某所にて。大通りを歩く一人の悪魔がいた。悪魔は周囲の歩行者と比べるとかなり小柄な体格をしており、ダボ付いたメンズもののパーカーを纏っていた。隠れるようにぐいっとフードをかぶりなおすと、少し速足で歩道を進んでいく。

 

悪魔_ヴァニーは歩みを止めないまま、不自然にならない程度に周囲の状況を探る。大通りは多くの人で溢れており、子連れの悪魔やゲイカップル、客引きをしているガールズバーの女悪魔、はたまた激しく殴り合うインプ達など、バリエーションが豊かだ。しかし、よくよく見れば不審な動きをしている悪魔が何十人も辺りをうろついていることに気づく。

 

『(なるほど。実際にこうして見てみると、フォクシーがわざわざ頼んできた理由がよくわかるな…)』

 

その悪魔達はまるで探し物をしているかのようにキョロキョロと周囲を見渡しており、どこか店に入るわけでもなく同じルートを何度も歩いているようだ。恐らく、DRの構成員でフォクシーを探しているのだろう。人探しなんて下っ端のやりそうな仕事をこれだけの悪魔達がやっているのだ。思った以上にDRは巨大な組織なのかもしれない。

 

 

ヴァニーがUSBのおつかいに2週間もの時間を空けた理由。それは他でもないフォクシーからの提案だった。フォクシーが逃走した直後はなんとしででも情報漏洩を防ぐため、大勢の構成員が捜索に駆り出されることは容易に想像できた。しかし何の手掛かりもないまま2週間もの時間を浪費すれば、ある程度の油断と疲労が生まれるはず。加えてBFとの決着がどんどん迫っているのだ。恐らくDRは構成員全員で勝負を挑む。そしてそれだけの人員と大量に購入した兵器を動かすのだ。必ずそれを準備するために人員は割かれ、捜索の手が緩まると踏んだのだ。

 

そして見事に予想は的中した。DR構成員達は巡回の人員は多いもののどこかやる気のなさげな、疲弊したような顔をしており、明らかにフォクシー捜索に集中しきれていないのがわかる。DR構成員達がヴァニーの方を見るたび生きた心地はしなかったが、捜索対象の特徴に何一つ当てはまっていないのは明らかなためすぐさま視線を外していく。

 

ヴァニーはおすまし顔をしているが、心の中ではニヤリとほくそ笑んでいた。フハハハ、馬鹿どもめ。そしてズボンのポケットから一枚のメモ用紙を取り出してルート確認をする。今向かっているのはBFの幹部達が使っているセーフティハウスでDRに割れていない場所の一つだ。それなりに重要な拠点らしく、必ず構成員の一人は駐在している。そいつにこのUSBを渡せばおつかいは完了だ。

 

ちらり、と周囲の建物や道の特徴を確認し、目的地のある路地裏に入る道を探す。すると今いる場所から約数十m先にそれらしきものがあり、足を速めて進もうとした_

 

 

 

 

_が、突然、真横から大きな手が飛び出し、腕をつかまれ強く引っ張られる。不意打ちを食らったため身体は勢いよく路地裏に突っ込み、たたらを踏んだ。乱暴にフードを脱がされ、黒髪と大きなウサギ耳が外に飛び出す。ヴァニーはギ、ギ、ギ、とぎこちなく上を向くと、見覚えのある男たちがそこにいた。忘れもしない、あの日。フォクシーに手傷を負わせたが、ヴァニーの機転によってそれを逃した者達だ。それを認識した瞬間、ブワッと全身の毛が逆立つような恐怖を感じた。こ、これは本当にまずい。

 

すぐさま腕を振り払おうとしたが、大の男に一般女性の腕力がかなうはずもなく更に力を籠めて手首を握り返される。ギシッと骨が軋む音がするが、そんなものに気をとられている場合じゃない。咄嗟に掴まれていない方の手に持っていたメモ用紙を男たちに見えないよう尻ポケットにしまう。そしていかにも驚きました、という表情をつくったあと、ニッコリと天使のような微笑みを向けて声をかけた。

 

『…びっくりしました。どこのどなたかは存じ上げませんが、何か御用ですか?』

 

「…お前、どこかで見覚えがあると思ったら、あの時のクソビッチじゃねえか」

 

ヴァニーの質問をガン無視し、ぐ、ぐ、とゆっくり顔を近づけ、鋭い目で睨みつけられる。い、イ”ヤ”ーーーー!!!完全に覚えられてたあ”ーー!!!!ニッコリ笑顔と裏腹に汚い悲鳴を内心で上げ、自身の生命の終わりを悟った。

 

あ、あばばばば、か、完全に油断してしまった。なんで?馬鹿め(笑)って調子に乗ったのがマズかったのか?勘弁してくれ神よ。いや、今の私は悪魔だからサタンに祈ればいいのか?

 

「よくもあの時は騙してくれたな?おかげで狐野郎を取り逃がしちまって、上からヤキ入れられてよう。責任とってくれよ」

 

『ま、待ってください。何か誤解がっ』

 

「待て、アイツの女かもしれない。先に情報を…」

 

「はっ、どうせ使い捨てのオナホみてーなもんだろ。大した情報なんざ吐かねーよ」

 

『ある、かも…』

 

「ちょうどいい。くだらねぇ隠れん坊には飽きてたんだ。どうせ玉無し犬なんざ出てきやしねぇし、暇つぶしに付き合え。ウサギは年中発情期なんだろ?」

 

「そりゃいい!全員でかわいがってやろうぜ」

 

『……………』

 

悪魔どもはにやけ面でこちらを見下し、聞いているだけで耳が腐るような会話を交わしている。先程まで感じていた焦りと恐怖の感情は徐々に波を引いていき、一周回って頭が冴えてくるような感覚があった。同時にこんなカスどもに負けてたまるかと静かな怒りがわいてくる。下を向いて表情の見えない女の持つ雰囲気が一気に変わったことに気づいたのだろう。悪魔達は会話を中断し胡乱げに女を見た。

 

手首を掴む力が緩んだその一瞬の隙をヴァニーは見逃さなかった。下がりかけていた口角をもう一度ギンッと引き上げ、勢いよく顔を上げる。イメージするのは強い自分!

 

まず、男に掴まれた手首の方の掌を大きく開く。次に軽く手首を回し、掌が真横を向くようにまっすぐ立て、親指の付け根が男の母指球筋を圧迫するようにする。するとあら不思議!拘束が緩みます!男は一瞬の出来事に慌てるが、ヴァニーは止まらない。

 

次に手首を掴まれた方の足で、男に向かって大きく強く大胆な一歩を踏み込む!素早く前に体重をかけ、身体が上に伸びあがるようにして肘を高く上げる!そして勢いよく振り上げた手首は男の手を振りほどき、自由になる。ヨシ!

 

茫然とする悪魔達に背を向け、素早くクラウチングスタートの体勢をとる。

 

_唐突だが、ウサギと聞いて一般的にイメージするのはふわふわもこもこな毛皮か可愛らしくピョンピョンと跳ね回る姿だろう。しかしこのピョンピョンと跳ね回る力、意外に侮れないのだ。

 

_ウサギは筋肉量が体重の50%を超えると言われており、特に後肢の筋肉が非常に発達している。自身のキック力で骨折することもあるほどでこの強力な肢で地面を強く蹴りつけたり、山の斜面を駆け上がったりとパワフルに動き回ることができる。

 

 

_そして個体によっては時速60~70km_法定速度最大で走る自動車並みのスピードと例えればわかりやすいか_で走るとも言われている。

 

 

ググッと足に力を入れた次の瞬間、ヴァニーは前に向かって飛び出した!

 

『バンッッ!!!』

 

まるで弾丸の発射音のような轟音が路地裏に鳴り響いた後、瞬く間に女の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………な…なんとか、ピンチを乗り切った』

 

ずるずると壁にもたれかかりながら床に座り込む。ここは目的地であったセーフティハウスの一室だ。DR構成員達から無事に逃げ切った後、勢いそのままに目的地まで走っていったのだ。余談だがこの時大通りの一部の歩行人は突然謎の突風に襲われたと同時に正体不明の超高速移動物体を目撃したと大騒ぎになっていた。後日、地獄で未確認動物スカイフィッシュが現れたと一躍有名になる。正しく言えばUMAではなくUSAだったのだが。

 

目的地に着くなりセーフティハウスの扉を太鼓の達人のごとく叩きまくり、慌てて飛び出したBF構成員に事情を伝えて匿ってもらったのだ。またまた余談だが、このときのヴァニーは逃げた後から出てきた恐怖やら怒りやらによるアドレナリンの過剰分泌による興奮で両目が血走り鬼気迫った顔をしていたことに加え、両足が小鹿のごとくガクガク震えていたので、「あの時のボスは意味不明すぎてかなり恐怖を感じた」と対応したBF構成員は後に語った。

 

…さて、ここまで読んでくれた読者の皆様は不思議に思ったことだろう。ヴァニーがどうしてDR構成員から無事に逃げ切れたのか?

 

_単純な話だ。特訓の成果、これに尽きる。

 

DRを油断させるための2週間はただ謎肉パスタを啜って終わらせるには余りにももったいない。フォクシーはヴァニーのカリスマ性や精神力については高く評価したが(※勘違いです)、悪魔としての新たな肉体と能力には完全に慣れていないことに気づいていた。

 

そこでこの2週間をフル活用して身体の動かし方や護身術、加えて喧嘩殺法などをできる限り伝授していったのだ。結果として、ヴァニーは見事にギャング相手に一人で逃げ切ったというワケだ。……その実力に実際の精神力が追い付いているかは別の話だが。

 

こうして、ヴァニーの地獄でのはじめてのおつかいは紆余曲折を経て無事に終わったのである。

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