第1章④
みなさ~ん!こんにちは~!さて、私はいったい、どこにいるでしょうか?ここで~す!ここっ、ここで~す!正解は~~~?
ドンッ!………ギャングの集会所です(真顔)
ヴァニーは脳内で某番組風のあいさつをして現実逃避をしていた。なぜかって?さっき言っただろ。なぜかBFの集会所に連れてこられた上に本来であればボスが座るであろうお誕生日席に座らされているからだよ(キレ気味)
ねえ、どうして?だって私の仕事は終わったじゃん。USBのおつかいは無事に済んだんだから早く帰らせてくれ。え?ここに来れないフォクシーの代理?信書(USBと一緒に渡した)に書いてあった?聞いてないんですけど(怒)
右を見ても左を見てもムサイ・ゴツイ・怖いの最悪な三拍子が揃った悪魔達がズララッと並び、ギロリと鋭い目つきでこちらを見てくる。これが悪夢か。意識が遠のくような感じがしつつも根性で耐え、ヴァニーは無理やり不敵な笑みをつくりゲンドウポーズをとって会議に参加した。
_Side とあるBF構成員
「(…あれがボスの代理人っていう女か)」
男はBFのメンバーの一人で立場的には幹部に位置する者である。集会に参加するよう声がかかり、大まかな概要を聞いてからここに来ていた。ちらりと視線だけをヴァニーの方に向けその姿を観察する。
「(一見、普通の女悪魔にしか見えねえんだがなァ…)」
数週間前、BFのボス、フォクシーは突如として行方を眩ませた。BF幹部達をはじめ構成員は誰もフォクシーの消息をつかめず、組織はこれまでにないほどの混乱状態だった。誰が言ったのか、ボスはポルノ映画の製作所に俳優として誘拐された。ボスは突然の代替わりが重荷で逃げた。果てには惚れた女ができて尻を追いかけた……など根も葉もない噂が飛び交った。
しかし真実はまったくの別物で、なんとDRに潜入してやつらが停戦協定で出した条件の真相について探っていたとのことだ。これには幹部達も、「「「いや前もって言えよ!!!!!」」」とごもっともなツッコミを信書に向かってした。当たり前である。
しかも潜入中にしくじったそうで、自分がBFのボスとはバレなかったものの情報を盗んだ裏切り者として追われる身となり、万事休すとなった…と思いきやあの女悪魔に命を救われたそうだ。そして入手した情報を確実にBFに届けられるよう、しばらく隠れ家で身を潜めていた、というのが事の顛末だ。
ちなみにボスと女悪魔との出会いから共に過ごした2週間の蜜月(※誤解です)はなぜか異様にドラマティックかつ長文で書かれており、「あながち惚れた女のケツ追いかけてたのは間違いじゃないかもな」と一人の幹部が呟いて、皆が頷いたのはここだけの話である。
さて、話を戻そう。問題は2週間後に迫ったDRとの抗争についてである。正直な話、勘弁してくれよというのがBFの総意だった。これ以上の抗争を望まないから有益なシノギを犠牲にしてでも停戦協定を出したのにこの始末。いや、人のことを言えないが所詮地獄に堕ちた罪人相手に下手に出れば毟られるのみ、という常識を忘れていたのが悪かったのだろうか。
USBから出るわ出るわ、悪夢のような情報の羅列。カーマイン社で購入したという兵器のリストを見たとき、あまりの殺意の高さが窺えてBF構成員達は頭を抱える猫ミームのようになった。話し合いであるはずの場に戦車なんてもってくるんじゃない。
集会所はそんなDR相手にどう立ち回りするべきかという議論でざわめいており、BF構成員の混乱がよくわかる。そんな喧騒の中、ヴァニーはただ静かに思案しているようだった。時折出されたコーヒーを口に含み、不気味な笑みを浮かべつつ議論を聞いている。それを認識した男はいいようのない気味の悪さを感じた。
しかしこの男もまた幾つもの死線をくぐり抜けてきたギャングの一人。それに怖気づくのではなく、議論が一旦静まった時を狙いまわりに響く声でヴァニーに話しかける。
「なあ、ヴァニーといったか。アンタ一応ボスの代理人としてここに呼ばれたんだ。黙ってねえで、何か意見の一つでも言ったらどうなんだい?」
ギロリ、と鋭い目線をヴァニーにやりながら男は返答を待つ。あれだけ信書から伝わるほど、ボスからの厚い信頼をたった2週間という短期間で勝ち取った得体の知れない女。底なしの血の池のような瞳を覗き込み、底に何があるのか見定めようとした。たとえ見た目が普通の悪魔でも、実際のところは只者じゃないということはとっくに察している。
「(…さあ、さっさと本性を晒せよ。化け物が)」
ヴァニーは手に持っていたコーヒーカップを置き、微笑みながらゆっくり口を開いた。
_Side Vanny
『(や、ヤッッッベ…)』
ヴァニーは背中に滝のような汗が流れるのを感じた。代理人といってもぽっと出の女しかも素人が意見を言ったところで何にもならないでしょと考え、良かれと思って黙っていたのだ。というかUSBさえ届ければ後はBFが勝手になんとかするだろ!という楽観的思考で来ていたため、意見なんてハナから無かったのである。
だからといってアホ面でぼーっと座っているだけなのも薄外聞が悪いので、『私ちゃんと意見を必死に考えてますし、皆さんの意見も聞いてますけど?』と言わんばかりの態度でしのごうとしたのだ。ただの馬鹿である。
と、とりあえず何か言わなければ。わざと勿体ぶるかのように亀の歩みの如き速さでコーヒーカップを置き、引きつる口角を無理矢理上げて話し始める。
『…まず、状況整理からいきましょうか。みなさんとても混乱されているようですしね』
パンッと手を叩き、乙女のようなポーズをとってニッコリと笑う。唸れ!私の脳みそ!
『ひとつ確認させていただきますが、BFが管理しているほとんどの利権をDRに譲渡する…というのは皆さんの総意で間違いありませんか?』
「……ああ。そして奴さんにもそれをしっかりと伝えてあるな」
『では、利権を譲渡するという実質的な降伏を聞き入れたにもかかわらず、DRが戦意を消さない理由についてお心当たりのある方はいらっしゃいますか?』
そう尋ねた瞬間、集会所にいる悪魔達は苦虫を噛み潰したような顔になる。うん?なんだ理由はわかってるのか?
これはフォクシーからあらかじめ話を聞いた際にヴァニーが気になっていたものだ。しかしフォクシーに聞きそびれてしまったので、せっかくならここで聞いてみるかと尋ねたが当たりのようである。十数秒ほど経った後、私に話しかけてきた幹部の男が重い口を開いた。
「…確定しているワケじゃねえ。だが、可能性として考えられるのは一つだけある」
『それはいったい?』
「…これは、先代のボスがまだ存命だったときの話だ」
「昔、均衡を保っていた3つのギャングのうち一角が崩されたことで、残された2チームが利権を巡って争いだしたってことは知ってるな?だがな、当時の抗争なんて今と比べれば本当にかわいいもんだったんだ。」
「だがある日、抗争が激化する原因となった…DRとBFが完全に決裂する、決定的な事件があったんだ。俺たちはそれを、『Slaughter’s Halloween(屠殺のハロウィン)』と呼んでいる。……わざわざ名付けるほどの、忌々しい事件さ」
「ある日、先代ボスがDRのボスにこう持ち掛けたんだ。『これ以上の争いは互いに組織を疲弊させるだけだ。一回だけでいいから停戦して、ボス同士で直接話し合ってみないか?』とな。相手さんもそれを否定しなかった。敵はなにもギャングだけじゃない。当時の情勢を考えたら、他の悪魔どもに対抗するためにも敵は減った方がいいと考えたのさ」
「ちょうどハロウィンにあたる日にペンタグラムシティ中央部にあったホテルで対談することが決まった。当日、DRのボスは約束通りの時間にホテルに訪問した。が、いつまで待っても先代ボスは来やしねえ。そして、そいつが異変を感じたときには既に遅かった」
男はそこで一息つき、顔をさらに歪めながら話し出す。
「…bomb! …ってな。激しい閃光を放ちながらホテルは丸ごと吹き飛んだ。DRのボスはもちろん、当時宿泊していた客は全員ミンチさ。幸いなことに爆発は天使の武器と違うからな。かなりの時間がかかるが、ほとんどの客は無事に復活していたよ。……ただDRのボスは違った。ズタボロの雑巾みてぇな肉塊になった状態で、天使の槍でめった刺しにされて死んでいた」
「言われなくてもわかるだろう?先代ボスは狙ってやったのさ。たった一人を天使の槍で殺す、その僅かな隙をつくるためだけにわざわざ数百人の悪魔を巻き添えにしてこんなことをしやがったのさ」
「忘れられない。嫌でも忘れられねえよ。…なんていったってその爆発は、先代ボスからの命令で構成員が仕掛けた大量の爆弾によって引き起こされたものなんだからな。…復活すればいいってもんじゃねえ。爆発跡地から聞こえる何百人の老若男女の苦しむ声、だれのものかもわからねえほどに混ざり合った血肉。地獄に相応しい光景だった」
『バンッ』と男は握りこぶしを机に強く叩きつける。
「当然、せっかく歩み寄ろうとしたのに騙し討ちされたDRは大激怒。そして死んだDRボスの息子 、Doodle Jr.(ドゥードゥル・ジュニア)が後を継ぎ、より過激な抗争となっていった……ってことだ。そんな過去があったんだ。停戦協定なんてその事件と同じことをしようとしているに違いないと思っているんだろうよ」
「今までの俺たちは先代ボスによって支配され、その意向に無理矢理従わされていた。事件の時だってそうだ。だがDRからすればそんなもん知ったことじゃねえ。先代ボスと同罪なんだ。たとえ先代ボスが死んだから自由になりました、だから争いません、なんて言ったところで命乞いにしか聞こえないだろう」
『………………』
ヴァニーは完全に絶句していた。それは、ことの真相が想像をはるかに上回る悲惨なものだったからだ。フォクシーがヴァニーに語らなかったワケもなんとなくわかった。ただの一構成員でこれほどの嫌悪感を抱いているのだ。先代ボスを実父としてもつフォクシーの負の感情は計り知れないものだろう。真相を人に話す、という行為が彼を自己嫌悪で苦しめるのだ。
そしてDRとの因縁。彼らは利益を独り占めしたいとか、そういった簡単な理由で決着をつけようとしているのではない。
__復讐。殺されたDoodle Sr. の無念を先代ボスを殺すだけではなく、BFを完全に殲滅させることで晴らそうとしているのだ。
当初は単純に利益が欲しくて始まった戦争。でも、それは時代を重ねていってひたすら憎しみをぶつけ合うものになった。こんなもの、どうしようもないじゃないか。
_「…これを地獄と言わずして何と言えるんだ?」
_「なあヴァニー、お前、あの路地裏で言ってくれたよな?俺を救いたいと思ったって」
_「なら…俺を救ってくれよ」
あの時、フォクシーが私に縋り付きながら呟いた言葉を思い出す。今になって『救い』の言葉が重くのしかかってくる。ああ、あんな言葉。気軽に言うんじゃなかった。こんな憎しみの連鎖を、たかが小娘が一体どうやって断ち切ればいいというんだ。
__ところ変わって、ペンタグラムシティ西部にあるVタワー、監視室にて。
奇妙な形の頭をもった悪魔が無数のモニターがある中央部に向かって足早に歩いていき、乱暴にドスンッと椅子に座った。悪魔は軽く俯きながら肩を震わせ、次の瞬間には弾けるように大きく笑い出した。
「フ、フフフ……。フッハハハハハハハハッ!!!!」
その悪魔の名はヴォックス。テレビデーモンと呼ばれる上級悪魔の一人だ。見て分かる通り随分と機嫌が良い。バチバチと体中に電気が走り、ひどく興奮しながら話す。
「……あの忌々しい老害が姿を消して1年!あれから大きく状況は変わった!」
忌々しい老害_ラジオデーモン・アラスターが姿を消して1年。それによってV軍団への邪魔がなくなり、彼らの事業は更に拡大していっている。特にヴォックステックの商品は次々と飛ぶように売れていき、今では地獄中にヴォックスの名前が轟いている。
「もうお前の入る余地なんて無い!実質的に、このテレビデーモンが町を牛耳っている!」
_だが、まだ足りない。求めるのはあくまでも完璧さだ。例えアラスターが戻ってきたとしても地獄の住民が思い出せない程度にまで、このヴォックスの名前を電子媒体を通して脳みその奥まで染み渡らせる必要がある。そしてその足掛かりとなるであろうチャンスがヴォックスに舞い込んできたのだ。
「ハッハハハ…。あんな下らない上級悪魔の会議でも時には参加してみるものだ」
__それはDRとBFの抗争。それが近くにまで迫ってきているのだ。ヴォックスはその抗争に目をつけ、自分の名を広めるために利用する策を思いついたのだ。
「ああ、何と言ったか?『Slaughter’s Halloween(屠殺のハロウィン)』とかいう事件!あれは非常に良かった!惜しむらくは今ほどテクノロジーが発展しておらず、あの鮮やかな閃光をそのまま視聴者にお届けできなかったのは残念だったなあ?」
「だが、今は違う!ヴォックステックは常に進化し続け、今では地獄のエンタメ業界において大きな影響力を有する会社となり、最高のエンターテインメントを見せつけることができる!そして、例の抗争とやらを誰よりも早く、鮮明に地獄の住民にお届けし、ヴォックステックの名前をより轟かせるのだ!」
地獄におけるエンターテインメント。それは例外を除いて基本的に悪魔が不死であるということや気性の激しい罪人が多いということもあり、より過激で鮮烈なものが好まれる傾向がある。そしてDRとBFの抗争はまさしく地獄の住人にとってエンターテインメントと言えるだろう。
「DRとBFが殺し合い、どちらが勝っても、もしくは両方死んでも良し!しかも、ゼスティアルまでお出ましとのことだ!あの老いぼれが奴らを皆殺しにするも良し!」
_つまり、どう転んでもチンピラ共の殺し合いは今の地獄における最高に熱いエンターテインメントとなる!
その興奮は最高潮に達し、頭のテレビ画面だけではなく周囲のモニターにまで電流がほとばしる。ヴォックスはそれを見てどこまでも邪悪な、まさに『テレビデーモン』に相応しい笑みを深めた。
「さあ、この私のために、どこまでも残虐に、残酷に、殺しあってくれよ?」
____DRとBFの抗争が始まるまで、残り2週間