ギャング・バニーは更生したい!   作:イモコン

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ギャングのボスになったが平和に暮らしたいだけなんです! 第1章⑤

第1章⑤

 

___某日。その日は傲慢の階層の住民にとって特別な日だった。DRとBFの対談_という名目の抗争が行われる日。すでに決戦の場にはかなり遠巻きながらも人だかりや、ヴォックステックのロゴマークがついた中継車とリポーターを初めとする、メディア業界に携わる者達も集っている。皆、どこか興奮した表情をしており、まるで楽しみにしていた映画上映会にでも来たかのような雰囲気があった。

 

「あ、来たぞ!」 「早く撮れ!!」

 

_そして、お目当ての役者達_否、ギャング達はその場にやってきた。

 

それはまさしくギャングという名称の由来となった語源_「行進」に相応しい光景だった。彼らは誰一人として声を発することなく一糸乱れぬ隊列で歩みを続けていく。そんな異様な光景に慄いた住人たちはヤジを飛ばすのでも、行進の邪魔をするのでもなく、自然とギャング達に道を譲っていく。

 

そしてついに彼らは足を止める。……そこはDRが対談に指定した場所、ペンタグラムシティ中央部にある『The ritzy hell's hotel』_最大収容人数3000人以上を超える地獄有数のホテルだ。しかしそこは、奇しくも元DRボスであるSr. Doodleが没した旧ホテルの跡地に建てられたものだった。このホテルはDRがもつシノギの一つとして経営されているものであり、本日は完全な貸し切り状態。ここにいるのはDRとBFのメンバーだけとなる。

 

「……行くぞ」

 

幹部の一人が合図を出し、隊列の中からBFの全幹部と正規構成員達_幹部の下に位置する、準構成員をまとめ上げる役職_がホテルに次々と入っていく。その中に一人、幹部達に取り囲まれるように歩く悪魔がいた。見るからに上等だとわかるブランドのスーツを身にまとい肩にはトレンチコートをかけている。加えて頭には中折れのフェルトハットをかぶっており、つばが絶妙に顔を隠していた。

 

__おそらくBFのボス。案内役としてフロントに立っていたDR構成員達は無言で頷き合った後、彼らを会場に案内する。

 

そして男たちが中に消えた後、見張りとしてフロントに残されたDRの下っ端構成員達は安堵のため息を吐いた。

 

「……まさかやつら、本当に来るとは思いませんでした」

 

「ああ、だが来ても来なくても関係ねえ。奴らを徹底的に潰す。それだけだ」

 

そう憎々しげに答え、悪魔達は決戦に備える。

 

「それにしてもBFの新しいボスとやら、生で見たのは初めてだよ。なんというか、前のボスとはいろいろと違う感じだったな」

 

「それな。雰囲気?オーラ?ってやつもそうだが、予想よりも…

…だいぶチビだったな」

 

 

 

___拝啓、マラソン大会で肩パンを食らわせてきた友人へ。

 

ごめん、同窓会には、行けません。今、地獄の中の地獄にいます。The ritzy hell's hotel。この国の中央付近に位置するホテルに、私は損害賠償請求額を最小限に抑えるため、ここにいます。本当はみんなに会いたい。あのマラソン大会の寒さも、苦しみも、置いていった君の絶望顔に感じた愉悦も、忘れたふりをします。私の命をかけた努力が、きっといつか、平穏な生活につながるから_

 

 

ヴァニーはまたしても現実逃避をしながらドブ川のような瞳で前方を見る。BFに相対するのは大勢のDR構成員達。そして、それを率いる悪魔_ドゥードゥル・ジュニアが先頭に立つ。二つのギャングチームの間にはポツンと純白のテーブルクロスがかけられた机があり、対面するように2脚ずつの椅子が置かれていた。

 

「……では、DRとBFの停戦協定について、対談を始めさせていただきます。どうぞお席へ」

 

ジュニアの斜め後ろに立つ、恐らくDRのNo.2であろう悪魔が口上を述べ、ジュニアが席に着く。BFからは__

 

 

_ヴァニーが席に着いた。

 

 

ジュニアは対面に座ったヴァニーを見て目を細める。そして、

 

「……お会いできるのを楽しみにしていたよ。まさかBFの新しいボスが、こんな、かわいらしい、『お嬢さん』とは思わなかったけどね?」

 

『……どうも』

 

 

ど、どうして、こうなったああああああああ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

____2週間前。

 

重苦しい空気で満ちる集会所にて。DRとBFの過去について知ったヴァニーはしばらく長考した後に口を開いた。

 

『……たとえ今度の対談。罠だと知っていても行かないという選択は無いでしょう』

 

「「「ッ!?!?」」」

 

『一つは、行かなかった場合。停戦協定を持ち出したBFが約束を反故にしたという事実が残ることになります。そうなればDRはBFへの不信感を高め、それを理由にして停戦協定を受理することは二度となくなる。もしくはDRの真意に気づいたこともバレて、今度は対談という体裁を取り繕うこともなく、なりふり構わず襲撃してくる可能性があります』

 

『そして二つ目は、BFが持つ優位性を活かすチャンスは今度の抗争しか無いということです』

 

「優位性?そりゃいったい……」

 

『フォクシーが命がけで入手した情報ですよ。情報には鮮度があります。兵器も構成員も、この何かと物騒な地獄では所詮消耗品に過ぎません。数か月後にはチリ紙よりも無用の長物となるでしょうね』

 

『でも今度の抗争では間違いなくDRの隙をつく武器になる。あらかじめ構成員や兵器の数、種類がわかっている上に場所まで指定されているんです。それらがどこで配置され得るのか、どういった戦法が考えられるか、ある程度の予想ができる。テストのカンニングペーパーのようなもの……!』

 

それを聞いたBF構成員はハッとした表情をする。

 

『でも、それができるのは再三言いますが今度の抗争のみ。DRがUSBの情報をBFが掴めていないと思い込み、油断している今しかありません。これを逃したらそれこそDRの動向を予想するのは困難になる』

 

「……言われてみりゃそうだ。何でそんな単純な、当たり前なことに気付かなかったのやら」

 

「しかし、当日約束通り赴くとしてもですよ。DRの動きを予測できても蜂の巣にされる未来しか見えません。当日まで俺たちの動向は探られているんだから、人員の確保やら対抗できる武器の仕入れなんて派手な動きはできない。DRに悟られないことが前提なのだから……」

 

『それは』

 

【「だったらこういうのはどうだい?」】

 

『っ!この声は⁉』

 

それは、ここにいるはずのない者の声。ヴァニーの背から聞こえた「それ」に振り返ると、一人の悪魔_

 

 

 

___が、持っているタブレット端末に写る、フォクシーの顔があった。周りの悪魔達が笑顔で「「ボス!」」と喜びの声を上げる中、ヴァニーは内心でズッコケた。

 

【「よう、ヴァニー。無事に依頼を終わらせたってな?お前なら確実に大丈夫だとは思っていたが、それでも心配していたんだよう」】

 

『……それは置いておいて何故フォクシーが端末越しとはいえ会議に?というかスマホは壊れたとか言っていませんでした?』

 

【「おう、おつかいにUSBと信書渡しただろ?信書のほうにDRに顔の割れてない構成員つかって、連絡用の端末をこっちに届けてほしいって書いておいたのさ。今はそれで連絡をとっているのよ」】

 

『……だったら私が会議に来る必要ありました?貴方の代理として参加しろと書いてあったから連れてこられたんですが?』

 

【「ん?今後のために構成員の奴らとしっかり顔合わせしてほしいとは書いたが……」】

 

【「あれ、言っていなかったのかい?」】とフォクシーが幹部達に聞き、彼らは「信書にそう書いてあったよな?」「え?お前彼女が代理とか言っていなかった?」「あ?」というように顔を見合わせて首を傾げる。……どうやら伝言ゲームあるあるが実際に起きていたらしい。じょ、情報共有はしっかりしろ~~~⁉⁉(怒)

 

おい。フォクシーの言ってること全然違うじゃん。別に私が率先して意見言う必要なかっただろ。おかげで現在進行形で恥かいているんですけど???何が『情報には鮮度があります(キリッ)』だよ!!!!とりあえず何か言わんとアカンだろうと焦った状態で話し始めて、意味不明なことツラツラ言ってた私も悪いけど!!!!幹部さんも「当たり前なこと言ってんな(意訳)」とか言ってたし!!!

 

心の中でいくらキレ散らかしていても会議は進んでいく。

 

【「話を戻すぞ。さっきヴァニーが言っていたことは俺も完全に同意だ。次の抗争でDRとは確実に決着をつける」】

 

「で、ですがボス。それは……」

 

【「まあ、とりあえず聞けや。新しい人員の確保や武器の仕入れなんぞは必要ねえ。全部なんとかなる秘密兵器ってのはDRの情報に加えて、すでに俺たちは持っているよう」】

 

フォクシーはにやりと笑い、端末越しにビシッと指をさす。その先を示した方角は_私だった。ん???後ろに何かあるのか?ちらりと後ろを振り返っても、唖然としたBF構成員がこちらを見ている光景しか見えない。……な、なんか嫌な予感が。

 

一度席を立ち、フォクシーが指をさす方向とは真逆のところへ移動するも指は私に合わせて向きを変える。更に反対側に移動するも指はついてくる。う、嘘であれ。

 

【「なに変な動きしてるんだ?秘密兵器ってのはお前さんだよ、ヴァニー」】

 

『(嘘じゃなかったああああああ)』

 

は、は?何言ってんのこいつ?意味わかってるのか?お前と過ごした2週間はなんだったんだよ⁈⁈他でもないお前が私に特訓つけてたじゃん???たかがおつかいでも心配になるほど私が雑魚だったから特訓つけてたんだろ?そんな雑魚が複数の人員と兵器の代わりになるわけないだろ???

 

確かにヴァニーの総合的な実力は地獄において弱い方に部類されるだろう。しかしフォクシーは伊達や酔狂でモノを言っているわけではなかった。今回の抗争においてDRにBFが優位をとれるもの。それはUSBの情報だけではなくヴァニーのもつ「力」でもあった。彼はヴァニーと2週間も共に過ごしたからこそ必ずできるという確信があった。

 

そしてフォクシーは不敵な笑みを浮かべつつ、「案」を語っていく。

 

 

 

 

__時を戻して現在。DRのボス、ドゥードゥル・ジュニアと対面するのはBFのボス、フォクシー…ではなく、ヴァニーだった。もちろん、実はBFのボスはヴァニーだった、というワケではない。これは「案」のうちの一つだった。

 

フォクシーは既にDRに潜入していた裏切り者のネズミとして面がバレている。そんな彼が馬鹿正直にボスとして対談に来るとどうなるか?DRはBFへの情報漏洩を悟り、真っ先に先制攻撃を仕掛けてくるだろう。BFの「案」を成功させる第一関門はDRの問答無用の先制攻撃を避けること。そのために、まず代理のボスを用意することが決まった。

 

理想的な偽ボスの条件、それはDRに容貌が割れていないこと。なおかつ、お可愛いくて見るからに弱そうだと、誰もかれもがすぐに油断してしまうような者だともっといい。BFにはそんな人材はいなかった。たった一人を除いて_

 

 

「……お会いできるのを楽しみにしていたよ。まさか、BFの新しいボスが、こんな、かわいらしい、『お嬢さん』とは思わなかったけどね?」

 

『……どうも』

 

 

__BFは見事に賭けに勝った。ドゥードゥルは当然、No.2の悪魔、後ろに立つ大勢のDR構成員達。全員が瞳の奥でヴァニーを嘲笑っている。こんなブランドの服に着られているような、みるからに弱そうな小娘。そしてこんな小娘をボスとして認めるようなBFを間抜けだと侮っている。先制攻撃?そんなものするまでもない、と言わんばかりの態度。ヴァニーとBF構成員は心の中でほくそ笑む。

 

__第一関門、突破。

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