ギャング・バニーは更生したい!   作:イモコン

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ギャングのボスになったが平和に暮らしたいだけなんです! 第1章⑥

第1章⑥

 

「……お前たち、静粛に」

 

ドゥードゥル・ジュニアがそう言った瞬間、会場内の空気が途端にガラリと変わったような感覚があった。既にドゥードゥルは瞬きの間にヴァニーに向けていた嘲りを瞳の奥に隠しており、表情から油断は一切見えなくなっている。加えてその一言は後ろに待機していたDR構成員達がこちらを嘲り笑っていた声を全て黙らせ、一転して薄気味悪さすら感じる静けさに会場は包まれた。

 

『(これは、まずいな)』

 

代理ボスによってDRを見事に油断させた、という手ごたえは疾うに消えている。彼らはこちらの一挙手一投足を見逃さないと言わんばかりに睨みつけており、明らかに警戒を強めている。なんてことない、たったの一言でその場の空気を掌握された上に、部下たちの士気_いや、BFへの憎しみともいえるそれを高めてしまった。

 

なるほど、先代のDRボスを失ってなお地獄の一大勢力を率いて、その立場を守ってきただけのことはある。にこやかな表情でありながら、目の前に座る男からは何か『凄み』というものを感じる。

 

……まずは先制攻撃を避けるという第1関門は突破したが、どうやらここからが本番のようだ。

 

『(いや、怯む必要はない。現時点で「案」は順調に進んでいる。今の私にできることは少しでも会話を引き伸ばして、案のための時間稼ぎをすることだ)』

 

「失礼、ウチは男所帯でムサ苦しいチームだからね。思わず可愛らしい女性を目の当たりにしてたじろいでしまったようだ」

 

『貴方のような色男に褒められるとは光栄だ……と言いたいところですが、私はあからさまなお世辞に喜べるほど素直なお嬢様ではないんですよ。正直に思ったことを話されたらどうです?』

 

「おや、見た目に似合わず手厳しい言葉だ。ただ、あのBFを新たに率いることになったボスとはいったいどんな大男なのかと想像していたものだからね。その姿をいざ目の当たりにして驚いてしまったのさ。まさかこんな華奢なお嬢さんが地獄の荒くれ者どもを率いるなんて、と。不快に思わせてしまったのならば申し訳ない」

 

ペラペラと語っているが微塵もそんなこと思っていないことぐらい馬鹿な私でもわかる。瞳の奥に敵意と軽蔑の両方をチラつかせながらも人を食ったような態度でご機嫌とりをしてくるドゥードゥルを何となく「気に入らない」と思ってしまう。ヴァニーは口角を引きつらせながらも余裕のある笑みを崩さず会話を続ける。

 

『……私がどうしてBFのボスになったのかなんて、下らない過去を語るためにこの場に来たわけではないのですが?』

 

「……ああ、それもそうだ。では本題に移ろうか」

 

そしてその場の空気は更に重苦しいものとなる。対面に座るジュニアは軽薄な笑みを消し、真剣な面持ちとなる。

 

「一度確認させていただこう。停戦協定を持ち出したのは君達で、それをこちらが受理する代わりにBFが元締めとなっているシノギ……その中でも収入源の多くを占めているカジノや金融、売春斡旋等の経営権をこちらに譲渡する、ということで合っているかな?」

 

『ええ。BFの幹部や構成員一人ひとりの声を聴き、全員が納得した上での提案です。それらに加えて所有権が明確に決まっていなかった土地や利権なども今後一切手出ししないこともお約束しましょう。そちらにとって悪い話ではないはずですが?』

 

「理由がわからない。これまでそれを巡っていたからこそ、しまいにはあんな事件を引き起こしたんだろう?」

 

ドゥードゥルは父親の死に際を思い出したのか語気を少し強めて、こちらを責める気持ちが入った返答をする。ヴァニーは怯まず、即座に応酬する。

 

『……それは否定しません。ですが、その事件を始めとするこれまでの抗争は先代BFボスの意向によって起きたもの。彼の命令に従うという契約を交わしていた部下たちの意思は一切含まれておりません』

 

『そして先代ボスは既にご逝去されている。契約は無効となり、部下たちは抗争に赴く理由はなくなった。もともと利権に興味はなかった上に、終わりの見えない権力争いに皆疲れているんですよ。これが停戦協定を持ち出した理由です』

 

さて、噓偽りのない理由語りは終わった。後はジュニアがどう出るかだ。これで納得してくれるのであれば御の字。逆に納得しないのであれば__

 

「……なるほど、『彼』が言っていた話の通りだ」

 

『……彼?』

 

「…いや、こちらの話だ。話を戻そう……なるほど、なるほどな」

 

ドゥードゥルは机の上に肘を立てて組み合わせた両手に顎を乗せ、何やら思案しているようだ。……これはワンチャンあるのでは?

 

最悪、「んなの知るかボケェ!」と問答無用で銃をぶっ放される事態も想定していたが、彼は予想よりも思慮深いようである。頼む、本当に頼むから早く受理してくれ。テーブルクロスで隠れてはいるが、さっきから机の下で足がガクガクと馬鹿みたいに震えてるんだぞ。理由は言わずもがなドゥードゥルとDR構成員達への恐怖である。

 

うん?お前さっきまで生意気なこと言ってなかったかだって?そんなもん雀の涙ほどの根性と演技力の賜物に決まってるだろうが。逆に聞かせてもらうが、こんなかに悪名轟くギャングしかもその頭目を目の前にしてビビらない奴いる?いねえよなぁ!!?

 

ちなみにヴァニーは東卍所属でもマイキーでもないので普通に日和りまくっている。たぶんフォクシーやBF構成員達と関わってギャング慣れしていなかったら、ひっくり返って泣きわめいて漏らしながら命乞いするくらいには内心ビビっている。ドゥードゥルおま、お前ェ!ここまで言って納得しなかったら承知しないからな!?

 

そんな感じで神頼み、いやサタン頼みをしている間に、考えがまとまったのかドゥードゥルは口を開いた。

 

「…………うん、君たちの事情はよくわかった。先代ボスの邪知暴虐な振る舞いも、そしてBF構成員達の総意も」

 

そう話しながら二コリと笑う様子を見て、ヴァニーは希望をもった。お、お前~~~ッ!なんッッだよ、ビビらせやがって!意外と話の分かる奴じゃないか。そうだ、争いは良くないぞ!LOVE&PEACEこそが世界を救うんだ!

 

『でしたら、停戦協定を受理するという話で……』

 

「でもな」

 

ガチャッ

 

気づけば彼は片手を顔の横まで上げており、その後ろでDR構成員達は大量の銃をこちらに向けて構えていた。たらり、と米神に汗がしたたり落ちるのを感じる。

 

『…………どういうおつもりで?』

 

「うん、正直に話すとな。もう、利益とかメンツとか、どうでもいいんだ」

 

ニコ二コ、ニコニコと花でも飛ぶかのような笑顔を絶やさず、言葉を連ねていく。

 

「……そして君達の事情も、本当に、心の底からどうでもいい!」

 

__メキ、ゴキ。その姿は、1秒時を重ねるごとに歪んでいく。

 

「先代ボスの意向?契約?そんなものも知ったことではないんだ。やられたらやり返す、子供でも知っている常識だろう?そして、我らが偉大なるDR先代ボスのお言葉にこんなものもある」

 

__身体は一回り以上も大きくなった。瞳はかっぴらき、その虹彩は赤く輝いている。口角は裂かれたかのように米神近くまで引き上げられ、おぞましい笑顔を作っている。

 

「__『身内に手を出した敵は、徹底的に潰せ』、うん、俺の実父ながら、実にいい言葉だ。だから」

 

__徐々に声は低くなり、マイクを通しているわけでもないのに不気味に響く。

 

「そんな下らない理由で、俺らの復讐は止まらない。身内を騙し、屈辱的な死を与えたのであれば、その手段が間接的でも直接的でも関係ない。契約に基づく命令であっても関係ない」

 

「お前たちは、必ず、皆殺しにする」

 

__そこには、まさしく悪魔が、いや化け物がいた。先ほどまでの色男というような姿かたちは見る影もない。そして本性を晒した今ではヴァニー達に対して、有り余る敵意、殺意、憎悪、ありとあらゆる負の感情をぶつけてくる。

 

ああ、ちくしょうめ。本当に人生はクソだ。せっかくサタンに祈ったというのに、ご丁寧に希望は打ち砕かれ、絶望がやってきた。こうなってしまったら、もう___

 

 

『(__計画通りに進めていくしかない!)』

 

 

既にドゥードゥルが長考している間に耳のインカムから合図は来ていた。後ろの幹部、構成員達も覚悟を決めた顔をしていた。ならば後はヴァニーのこころひとつ。

 

ああ、もう、本当に最悪だ。わかった、わかったよ。やればいいんだろ!

 

一度目を閉じ、大きく息を吐く。そして、勢いよくギンッと目をかっぴらき構成員達に向けて怒鳴るように声をかける。

 

『__予定通りだ!皆さん、準備はできていますね⁉』

 

「!ああ、頼んだヴァニー!」 「おうよ!」 「ブチかましてやれ!」

 

ヴァニーは肩にかけていたコートをひっつかみ、目にもとまらぬ速さで遥か上空に向かって投げつける。

 

「⁉何を」

 

ジュニアを始めとしたDR構成員達はヴァニーの突然の奇行に驚き、思わずコートに向かって視線をやった。

 

__ミスディレクション。主にマジックで使われる、対象の注意を意図しない別のところに向かせるテクニック。今回の場合はコートを上に投げつけることで、彼らの視線をそこに向けさせて一瞬の油断をつくる。

 

その一瞬でBF構成員達は懐から『あるもの』を取り出し、『次』に備えた。そして、それぞれ一斉にDRとは真逆の方向を向き、走り出す。それに気づいたとあるDR構成員は怒鳴りながら銃を構えなおす。

 

「おい、アイツら逃げるのか⁉待ちやが_『おっと、備えなくていいんですか?』え?」

 

ヴァニーは不敵に笑いつつ、最高点に達した後に落ちてきているコートに向かって指をさす。DR構成員が思わず目を凝らしてみると、布の隙間から何か見えるような_

 

「!!!!!お前ら、伏せ___」

 

 

【キンッッ!!!】

 

 

 

_気づいた時にはもう遅い。彼が仲間に知らせる間もなく、次の瞬間には目が潰れそうなほどの真っ白な閃光と、脳が揺れるほどの爆音が会場内に響いた。そう、皆さんご存じ、閃光手榴弾。

 

閃光手榴弾は大音量と閃光を発する兵器で、屋内での近接戦闘や暴動鎮圧に使われるのが一般だ。その特徴は音と光のみで相手を混乱に陥る、つまり非致死性兵器であること。

 

今回の「案」においてBFの最終的な目的は【DRとBFの平和的な和解】である。であれば、これ以上お互いに恨みを深めるような、それこそDRから死者が出たり遺恨の残るような苦痛を与えたりする手段をBFはとれない。例えDRから攻撃を受けたとしてもだ。

 

だからまずは閃光手榴弾を用いて初動を鈍らせる。現に_

 

「ぎゃあああ、く、クソッタレ!目がああああ」 「f●ck!!!!!」 「ぐ、何が起こったんだ⁉何も見えねえし聞こえねえ!」 「おい、何がどうなってやがる⁉⁉」

 

_見事にDRは混乱の渦に陥っていた。彼らは視線誘導によってコートもとい閃光手榴弾の光をまともに直視してしまったことに加えて、銃を構えていたために手をつかって目や耳を塞ぐことができなかったからだ。一方でBF構成員達やヴァニーは離脱前に懐から耳栓を取り出して装着し、光から視線を逸らしたため無事ピンピンとしている。

 

そして被害を受けたのはドゥードゥルも例外ではない。

 

「うっ、ぐう……やってくれたな」

 

その姿は閃光手榴弾の影響からか完全な悪魔形態から少し戻りかけている。しかしそこで倒れこむのはプライドが許さないのか、身体を少しよろめかせつつも根性で足を踏ん張る。閃光の残像がチラつくおかげでまともに機能しない目を無理やり動かし、ヴァニー達の姿を探す。

 

「………はあ?」

 

が、その姿をとらえた瞬間、彼は間抜けな声を出してしまった。なぜならそこには

 

「フフフ、さて、時は来たぞお前ら!」 「いやっふううううう!ボクが全員ヤッてやるよ!!!!!」 「まさか、クラブで働いていた経験が、役立つ日がくるとはな」 「オラ!『目覚め』させてやるよォ……」

 

と、怪しげなセリフを口にしつつ、手にもった『あるもの』_もとい大量の麻縄をもったBFがゆっくりと迫ってきていた。そしてその軍勢を率いるヴァニーは手に持った縄をビシッと両手で構えなおした後、声高らかに宣言した。

 

『さあ、DRの皆さん……』

 

『楽しいSM、もとい緊縛の時間ですよ!!!!!』

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