ぎゃんばに! 【ヴァニーの騒がしい2連休編:1日目】
「アンタいつも黒スーツばかり着てるけどさ。毎日毎日、部下の葬式にでも行ってるワケ?ここ地獄だよ?アンタのセンスが死んでんじゃないの」
『ウッス…』
さすが地獄屈指のファッションデザイナーだ。鋭い慧眼を持っていらっしゃる。そしてその辛口な毒舌は容赦なくヴァニーの心をえぐり殺した。ふふふ、君ねえ…人がなにげに気にしてることを(涙目)
ヴァニーの服をまじまじと睨みつけたあとボロクソに罵倒してきたこの悪魔はヴェルベットという。彼女は天下のV軍団のメンバーの一人でありヴァニーの同僚というやつだ。
そしてどういうわけだかヴァニーはV軍団の一員としてVタワーに身を置いている。…うん、どうしてこうなったの?
数ヶ月前の騒動の後、ヴァニーはギャングのボスとして必死に働いていた。ところがある日突然、ヴォックステックから連絡が届いたのだ。内容は要約するといい話があるから当社へ来てほしいというもので、何度も目を擦ったがメールの文面は変わらなかった。というか何で私のメアド知ってるの?怖…
もちろん真っ先に詐欺メールだと疑い返信することなくゴミ箱行きにしたのだが、ご丁寧にアジトまで迎えの車が来てしまったのだ。金持ちがよく乗ってるあの長くて黒い車である。
さすがにここまでくるとメールの内容が詐欺どころかガチだと気づき、上級悪魔の誘いを断るほどの度胸は無かったため処刑直前の罪人の如き絶望顔で大人しく車に乗り、Vタワーに赴くこととなった。
そのまま初めてV軍団3人組とご対面。いったい何を言われるんだとビクビクしてたら急にV軍団へ加入することのメリットについてのプレゼンが始まり、なんか知らぬままにメンバーの一員となっていたというワケである。はは、今思い出してもマジで意味わからんな(死んだ目)
しかし強制だったとはいえ入社したからにはそれなりの業績を残さなくてはならない。社会人の悲しいところだ。正直なところヴァニーは元OLにビジネスなんてわからねーよカス、というのが本音だったが。
その後ヴァニーはフォクシーや部下たちとの話し合いを重ねて何度も彼らに同意をとった後に、ボディガードや傭兵などの人材派遣のビジネスを始めたのだ。
彼らは学はないがこれまでの荒事や権力争いから得た戦闘力や経験ならある。それを活かせるものといったらまあそれしかないわな、ということで出した結論だった。結果、地獄は治安が死ぬほど悪いので風俗店の嬢やポルノ俳優の護衛から飲食店の食い逃げ防止にかけて幅広く需要があり、人材派遣ビジネスは予想以上に軌道に乗った。V軍団の名に恥じぬ功績を残したとして3人からお褒めの言葉を頂いたものである。
_時を戻して現在。ヴァニーは久しぶりの2連休だったため1日目は部屋に籠もって映画鑑賞をする予定だった。内容は地獄にしては珍しく健全なミステリーであり、もともとテレビっ子であったヴァニーは割と楽しみにしていた予定だったのだ。
……にも関わらず!あのヴァレンティノがご機嫌ナナメ癇癪玉プリンセスとなり、ヴェルベットのショーに出る予定のモデル達を八つ裂きにしたことで急遽代役が必要となり、それにヴァニーがお呼ばれになってしまったのである。クソがよ。
そういう訳で仕事着に着替え、シワシワ電気鼠顔でトボトボと重い足取りで向かったところ突然言われたのが冒頭の言葉だった。
「スーツ自体は悪くない。このディテール、人食いタウンの近くにある高級オーダースーツブランドを取り扱ってるところのでしょ?でも限度がある。毎回毎回、黒黒黒一色!その上デザインもほぼ同じ!着回しすればいいってもんじゃないわよ!?あんた17世紀の魔女!?」
『ウッス、スミマセン…』
終いにはヴァニーのウサギ耳を片方鷲掴みにしながら半分怒鳴るようにディスられる。精神的にも物理的にも耳が痛いしでヴァニーはちょっぴり涙を滲ませながら謝る。私が一体何をしたと言うんだ。
ヴァニーは特にファッションに対するこだわりはない。そのため材料やデザインの違いなどもよくわからず、部下に頼んで馴染みの店で毎度似たようなデザインのスーツを注文してもらい、それを着回しするというファッションスタイルだった。というかハズビンホテルの原作だけに留まらず2次元のキャラは描写の都合で同じ服を着ているなんてザラである。なのでヴァニーはこの世界もそういう感じなのだろうと勝手に納得したことで、黒スーツ着回しスタイルが定着することとなった。
しかしここは紛れもなく現実である。全く同じ服を365日着ている馬鹿はいない。だって臭くなるし、何よりもつまらないしダサい。例えばヴォックスやアラスターだって実際のところはあの特徴的なスーツを毎日着ているワケではないのだ。そしてファッションに対するその無頓着さが遂にヴェルベットを激怒させることになったのだ。モデルとして来てほしいと頼まれたのはこっちなのに…という正論は業火にガソリンをブチ込むだけになると本能で理解していたので素直にお叱りを受け止めるしかない。世知辛い世の中である。
「早くその目障りな喪服を脱ぎな!そこに立って!『パチンッ』ダメ『パチンッ』最悪『パチンッ』嘘でしょ?『パチンッ』信じられない『パチンッ』よし、イイじゃない!」
脱げと言っておきながら魔法で次々と勝手に早着替えをさせられた上に気づいたら服選びは終わってた件について。あの、私のスーツどこにやったんですか?一応部下からの贈り物なので返してほしいんですけど…え?ダメ?代わりに自分がデザインしたスーツをくれる?そっかァ…。
だがまあ、振り回されるのは疲れるが、たまにはこういうのも悪くないと可愛らしく笑うヴェルベットを見て少し微笑む。
_私にとってヴェルベットとは、頭が上がらない、なんだかんだ面倒見のいい同僚兼友人というやつだ。
「(コイツ、悪魔達を統治するセンスはあるクセに、自分のことになると不感症になるのどうにかならないワケ?)」
鏡の前でヴェルベットのデザインした服をくるくると回りながら見るヴァニーを呆れ顔で見守る。しかし表情とは裏腹に、自分がデザインした服を気に入ってる様子を見て「まあ、許してやるか」と怒りが収まってきているのを感じていた。なんだかんだヴェルベットはヴァニーに甘いところがあった。ふと、彼女を初めて認識した日のことを思い出す。
_あの例の事件の日、彼女はVタワーにおり抗争の中継をいつもの二人と共に見ていた。そして、ヴァニーが起こした『偉業』を目の当たりにして心の底から痺れるエクスタシーを感じたのだ。
ヴァニーは紛れもない『本物』だ。彼女こそ、古い価値観に囚われず、常識に挑み、そして『開放』という偉業を成し遂げる逸材。『改革』をその小さな身体で表す女性。ヴェルベットは、かの有名なファッションブランドを立ち上げた、とある女創業者の姿をヴァニーに重ねていた。そして、
【彼女こそがV軍団の新たな仲間として引き入れるに相応しい!】
_そう考えたのはヴェルベットだけではない。同時にヴァレンティノ、そしてヴォックスもまた、彼女を新しき同類として見初めたのだ。故にヴァニーをV軍団へスカウトしたのは、かなりの労力と試行錯誤を重ねて成し遂げた一大プロジェクトだった。
まず、これまでの3人組にはないほどの真剣かつ健全な会議を何度も重ね(あのヴァレンティノでさえも下ネタを振って邪魔することは一回もなく)、次にヴァニーが心を鷲掴みにされるであろう条件をふんだんに取り入れたプレゼンを考案。内容のリテイクは軽く100回は超えていた。
そして本番でプレゼンターとなったヴォックスは、生前からビジネスで振るった話術の高等テクニックを連発、見事にヴァニーをV軍団にお出迎えできたのだ。その日の夜は3人で見事なガッツポーズをとり、肩を組んでシャンパンを開けたのはいい思い出である。
…ちなみに当のヴァニーは原作知識から彼らの恐ろしさを知っていたので、とんでもない好待遇の勧誘にまたしても詐欺を疑い断ろうとした。しかしあまりにもヴォックスが必死に、なんなら最後辺りにはヴァニーの御御足に縋り付いてきてまで説得してきたのだ。過去にアラスターに勧誘を断られたトラウマを発症したためである。加えて視界の端でヴェルベットとヴァレンティノが無表情なのにとんでもない熱量の視線を送ってきたことから、あまりの意味不明さとイカれた光景に耐えきれず、つい勧誘を受け入れてしまったのが真相だった。まあ恐怖から防衛本能が働いたのかその時の記憶をヴァニーはすっかり忘れてしまったが。
話を戻そう。そんな感じでヴァニーをV軍団へスカウトするのに様々な苦労はあったが、その後の3人はヴァニーをあからさまな特別扱いはせず、あくまでも対等に、特にビジネスに関しては厳しい目で見た。対等な関係というのは双方に同程度の利益があってからこそ成り立つもの。そこは彼らにとって必ず譲れないものであり、ヴァニーへの投資が無価値だったと判断すれば容赦なく切り捨てることは念頭に置いていた。
しかし結果的に言えば取り越し苦労というやつで、なんだかんだヴァニーをはじめとしたギャング達は立派に貢献できていた。その上、ヴェルベットのファッションショーや、ヴァレンティノの監修したストリップショーなどがあれば格安で警備員を派遣してくれるに加えて、その警備員達は真面目に仕事に取り組むときた。そんな感じで何かと世話になることもあり、ヴァニーを既にV軍団の立派な仲間だと認めた……という経緯となる。
しかし、しかしである。そんな対等な関係と認めているヴァニー相手でも許せない領域はある。それがヴェルベットにとっての黒スーツ着回しスタイルブチギレ事件であった。
V軍団の売りは完璧さ、そして時代の最先端に立っていることだ。それは普段の立ち振る舞い、そしてファッションだって例外でなく求められる。例えばビジネスの場をはじめとして服もまた相手を格付けするための立派な判断材料となるからだ。だからこそヴェルベットは仲間たちにもそれ相応のファッションを纏うべき、と強く考えている。
ヴェルベットはヴァニーを見下しているワケではない。むしろ自分とは異なる領域でそのカリスマ性を発揮し、地獄の荒くれ者共を付き従わせる手腕には惚れ惚れとしているほどだ。しかし、それとこれとは話が別、というやつである。
自分の隣に立っておきながら彼女がひとつでも他者に嘲笑われる要素を持つことが許せない。V軍団に身を置きながら『停滞』を晒すことを認めない。それがファッションの場合、ヴェルベットにとってはなお放置しておけない。
_という、ヴァニー本人には悟らせないものの、それなりに重い感情を抱いていた故の愛ある毒舌だった、というワケ。彼女は死んでもヴァニーに言わないが。
カツカツとヒールの音を鳴らしながらヴァニーの近くにまで行く。呑気に服を喜ぶ姿を見てたら、いつまでも怒っているのもバカらしくなった。それに、アタシの仕事はやっぱり完璧なのだとヴァニーの姿を見て強く思う。
「最っ高に似合ってる!さすがアタシ!…は?あんな襤褸切れもういらないでしょ。今度からもっといいのデザインしてあげる。アンタに似合うファッションを一番わかってるのはアタシなんだから、楽しみにしてな」
…ヴェルベットはヴァニーに心中を伝えることはないが、存外わかりやすいのかもしれない。スマホを掲げ、ヴァニーの頬に自分の頬をすり合わせて自撮りするヴェルベットは、ショーを台無しにされたのにも関わらず機嫌良く笑っていた。
【ヴァニーの騒がしい2連休編:2日目】
さて、今日こそ録画していた映画を見つつ部屋に引きもこもってやろうとヴァニーは決意する。なんだかんだ昨日は仕事みたいな、というか給料は出るようなのでただ仕事して終わったみたいな休日だった。だから今日は絶対に休むのだ。さてさてリモコンはどこに置いて……
【ピロピロリン♩ピロピロリン♩】
……スゥ――――ッ……(両手で顔を覆う)
……いや、まだ幻聴という可能性がある。私にはスマホの着信音なんて聞こえないんだ。ハハハ、社畜は悲しいものだ。休日なのに呼び出しの着信音の幻聴が聞こえるなんて。
そう無理矢理自分を納得させてリモコン探しを続行する。スマホは後ろで絶えず鳴り響き、現実を直視させようとしてくる。やめろ、やめてくれ。ようやくやってきた久しぶりの休日なんだ。私は映画を見るって決めたんだ。
しかし現実とは非情である。ちらりとスマホの画面を見るとヴォックスの名前が出ており、心なしか「はよ出ろやボケカス」と言わんばかりの”圧”を感じる。……これ出なかったら絶対ご本人がスマホから呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンと出てくる奴ぅ……。
今の自分の姿は完全なダル着で髪の毛は大爆発と成人女性としては終わっている状態である。さすがにこれを同僚しかも異性に見せるのは嫌すぎるので、顔を梅干しみたいにしわくちゃにして電話に出る。
【ピッ】『……もしも【「やあ、ヴァニー、休みを楽しんでいるようで何よりだ!邪魔をして悪いな!」】おおう…ごきげんよう、ヴォックス……』
一見、ヴォックスは機嫌よさげなように見えるが、私は知ってるんだ。だいたいコイツが猫なで声で話しかけてくるときは面倒ごとを押し付けるためにまるめ込もうとしてくる時である。挨拶もそこそこに彼は話を続ける。
【「いや、時間はとらせない。少し君に確認をとりたいことがあるんだ。あー、何と言ったか?君のところの従業員の……フォ、フォス?フォスター君だったかな?」】
『もしかしてフォクシーのことですか?』
【「そう!フォクシー!どうやらヴァルが彼を気に入ったようでね!是非とも撮影を手伝ってほしいとのことだ。だが、彼は君のところの従業員の一人だろう?念のため一報入れておこうと思ってな。なあに、すぐにでもGOを出してくれれば良い!彼と、なんなら君にも特別手当を出そう!さあ、早く!」】
『…質問しても?手伝いの内容は?具体的に教えてください』
【「…あ”ー、……出演者(小声)」】
『……ジャンルは?』
【「……SM。いや、なんてことないレベルのものだ!多少、腕や足が欠け…ゲフン、少々血が出る程度のものだ!心配ご無用!」】
『今すぐそっちに行きますね(早口)』【ピッ】
これまでにないほどのスピードで身支度を整えた後、通路を全速力で走ってヴァレンティノの撮影所に向かう。やばいやばいやばい急がねばフォクシーがダルマになってしまう!というか何でアイツがヴァレンティノのところにいるんだ!
ちなみにこの緊急事態を引き起こしたのは他でもないヴァニーの怠慢の結果だった。ヴァレンティノに渡さねばならない書類があったのだが「ダル絡みされるのめんどいし、機嫌悪かったら発砲されるしで行きたくなさすぎる。あっそうだ!顔見知りじゃなかったらアイツも絡まんだろ!フォクシー頼んだ!」という現場猫もビックリな安易な考えでおつかいを頼んだためであった。そんなことも忘れてヴァニーはヴァレンティノのタワーに向かって更にスピードを増して駆け抜けていった。
「ヴァニー?ヴァニー!……チッ、切りやがったな…」
音が途切れたスマホを内ポケットにしまい、ヴォックスは苛立ちながら後ろを振り返った。そこにはソファーの上で貧乏ゆすりをするヴァレンティノと、その手から出ている煙の鎖によって手首を拘束されたフォクシーがいた。
事の始まりは、ヴァレンティノが新しいポルノ撮影を開始しようとした一昨日のことだった。彼はいつも通り完璧な配役、完璧な台本を書き上げ、それに則って撮影を始めようとした。しかし、いざ始まるとマゾヒスト役の演技に違和感を感じ、思うような撮影が進まなかったのだ。案の定、ヴァレンティノの機嫌は大急降下、マゾヒスト役の役者はもちろん、ヴェルベットのモデル達にあたり散らかしていた。
昨日はなんとかヴォックスがなだめることで気分が落ち着いたのだが、配役が納得できないという現状は変わらない。そのため、本日もヴァレンティノの機嫌は最悪となって新たな犠牲が出ることになった_と、思いきや書類を提出しに来たフォクシーの顔を見て雷を打たれたかのような衝撃を受けた。一目でマゾヒスト役はコイツしかいない!とピーンと来たのである。
最初は問答無用で拘束し早速撮影をはじめようとしたのだがそこにヴォックスが待ったをかけたのだ。なおそれは優しさのためとか甘っちょろい理由ではない。フォクシーの名前は憶えていなかったが、顔を見て「あれ?コイツ、ヴァニーが目をかけてる部下じゃなかったか?」とクリティカル目星をつけたのだ。
ぶっちゃけこの男が撮影に参加してヴァレンティノのご機嫌がとれるなら喜んで後押ししたい。しかし彼を傷物にしたことでヴァニーを敵に回すのは嫌だ、というか嫌われたくない、と思案した結果、詳細を伏せてヴァニーから言質をとればいっか!とクズ過ぎる行動に出たというワケである。まあ失敗したが。
「ヴォックス!あのふわふわちゃんからの許可はまだ降りねーのか!撮影は押してるんだぞ⁉」
「落ち着いてくれヴァル。どうやらヴァニーが撮影に興味があるらしくてな?今こっちに向かっているそうだ」
「あ”?……フーン、まあそれなら待つか」
ヴァニーが自分の仕事に興味を持ったという言葉はヴァレンティノの機嫌を少し回復させたのか口をモゴモゴさせてソファに座りなおす。なおそれを聞いていたフォクシーは散歩かと思ったら動物病院に連れてこられた犬のような顔をして「嘘だろヴァニー」と絶望した。見事なまでの風評被害である。
ちなみにヴォックスはたぶんフォクシーを撮影に参加させるのは無理だろうな、とこの時点で予想はできていた。とりあえずヴァニーが来ればヴァレンティノを猛獣使いの如きあやしで落ち着かせてくれるはずだ。というか俺だって仕事溜まってるんだぞ、早く帰らせてくれとやけっぱちになっていた。
【バンッ】
『フォクシー!大丈夫ですか⁉』
ヴァニーは走ってきた勢いそのままに扉を蹴破り、フォクシーの安否を確認する。中にいたのは既にフォクシーと拘束プレイをしている癇癪玉プリンセスと、疲れ切って濁った眼で遠くを見つめるヴォックス(いくじづかれのすがた)という地獄だった。やっぱ帰ってもいいですか?
後ろ手で扉を開けようとするとバチンッと能力を使ってまで急いで接近してきたヴォックスが腕を掴んでくる。
「ヴァニー!待っていたよ。さあさあ早くこっちにおいで、Honey♡(お前だけ逃がさんぞ)」
『わあお、エスコートありがとうDarling♡(ふざけんなクソ野郎)』
ギチギチと馬鹿みたいに力を籠められてヴァレンティノの元まで引きずられる。そして彼女の存在に気づいたヴァレンティノは笑顔になって話しかけてきた。
「や~っと来やがったか!オレのかわいいふわふわウサチャン♡」
【ヒュンッ】 【パリーンッ】
と、思ったら何かがヴァニーの頬をかすって後ろに飛んでいき、割れる音がした。ちらりと見ると酒が入っていたであろうグラスが割れて飛び散っている。もう一度ヴァレンティノの顔を確認すると一転してブチギレた顔になっていた。
「遅いんだよッ!このビッチが!!!!」
情緒不安定にも程があるだろ。ヴォックスに続いてヴァニーまでもが死んだ魚の目になる。ねえ、これどうにかしろって?無理だろ。手慣れている平面顔のプリンスがどうにもできなかったんだろ?別にヴァレンティノとそこまで仲良くないし無理なんだが?
だが大人しく帰ればフォクシーはダルマになってしまう。嫌すぎるが覚悟を決めるしかない。怒り顔のヴァレンティノに近づき、ヴァニーは猫なで声で話しかける。柄じゃないがヴォックスみたいに話しかければいいのか?
『あー、こんにちは、ヴァル。今日は一段とご機嫌ナナメですね。何が君をそんなに苛立たせているのかな、お姫様?』
そう言いながらヴァレンティノの頬から首元にかけてスルリと優しく撫でつけて喉笛当たりをコショコショとくすぐる。ヴァレンティノは普段のヴァニーなら絶対にしない行為に目を見開くが、次第に目をとろりと溶かしていった。
「………ヴァニ~~~♡♡♡聞いてくれよMy little prince♡」
どうやら正解をたたき出したらしい。爆速でご機嫌になったヴァレンティノはでかい図体を折りたたんで私にすり寄ってくる。重い。
「撮影がクソ役者のせいでうまくいかないんだ。でも、コイツなら代役、いやクソ役者以上にハマって、イイ顔見せてくれるはずなんだ!」
そう言いながら手元の鎖を引っ張ってフォクシーの存在をアピールする。当のフォクシーは全力で首を横に振って助けを求める目を向けてくる。
「なあ頼む、ヴァニー。コイツ、しばらく貸してくれよ…。オレたちの仲だろ?」
さて、どうしたものか。しばらくヴァニーは思案してヴァレンティノに返す言い訳を考える。ふむ、とりあえず撮影にフォクシーが向いていないってわかってもらえればいいのか?しかし、ポルノに向いていない特徴とは何だろうか。
考えを巡らせているとポク、ポク、ポク、チーンッと閃いた。善は急げだ、思いついたことをすぐさまヴァレンティノに伝える。
『ヴァル、申し訳ないのですがフォクシーは、その…あれだ、あー…、インポテンスというやつなんだ。だから勘弁してやってくれませんかね』
「嘘だろヴァニー(絶望)」
無論、ただの事実無根なでっちあげである。流石に彼の下事情など知ったこっちゃない。フォクシーとは健全な上司部下関係です。勝手に彼をインポ認定してしまったがバイオレンスなポルノ映画に出るよりかはマシなハズだろう。必要な犠牲というやつである。すまん。
ちなみにフォクシーのフォクシー()はまだまだ現役である。それなのに敬愛するボスに問答無用で不能扱いされた彼は明らかにショックを受けた表情となり、それを見たヴァレンティノは信憑性が増したのか
「マジ?セックスもオナニーもできないのか?なら仕方ねーか。…………リハビリ代わりに、超セクシーすぎるポルノ何本か見繕ってやるよ。うちのエンジェルとかどう?」
と、憐れんだ様子で話しかける。撮影に無理矢理参加させようとしたが、見たところヴァニーが特に大切にしている部下のようだし、彼女に免じて許してやるか、というヴァレンティノにしてはマトモな気遣いだった。内容は最低だが。
ヴァニーの機転とフォクシーの犠牲により不穏な雰囲気は既に霧散し「お開きにしよっか…」という空気になっていたため、実に平和的な方法でヴァレンティノのご機嫌とりは終わった。その後、無事に納得のいく別の役者が見つかったようで撮影は終了し胸をなでおろすヴォックスがいたとか。
余談だがその後本当にエンジェル・ダストが出演するポルノビデオを渡されたようだ。フォクシーはヴァレンティノに感想を言うため律儀に全部見たそうだが、彼いわく「趣味じゃなかったよう」とのこと。強いて言えば純愛モノが好みとのことらしい。ヴァレンティノは宇宙猫顔になった。
後日、V軍団での会議の最中、ヴァレンティノから
「そういえばあんな発言が出るってことは、アイツとヤろうとしたのか?しかもマトモなロマンスってやつ?」
とデリカシーもクソもないセリフを投げかけられ、ブチギレて蹴り殺そうとするヴァニーとそれを止めようとして液晶画面を蹴り割られるヴォックス、そして爆笑しながらSNSにその写真を上げるヴェルベットがいたそうな。
本日もV軍団4人組はなんとか仲良くやっている、地獄のとある平和な何でもない日常だった。
【ヴァニーの騒がしい2連休編・完】