琴野アズサがアニメのイベントで外出中なので、仕方なく彼女の寮に手紙で伝言を残した吉祥院征人が酷い仕打ちを受けるお話。
時系列は1巻終了後なので、まだ全部読んでないよって人はネタバレにご注意を。

※他所に投稿したものと内容としては同一となります。


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学年の壁をぶち壊す、熱烈な果たし状?

 少女は激怒した。

 いかな命の恩人とはいえ、踏み越えてはならない一線というものを弁えるべきと強く憤った。

 かならずや、あの傲岸不遜なる男をわからせてやらねばならぬと――

 つまり、いつものことである。

 

 

 ――ことは、半刻ほど前にさかのぼる。

 先日の一件で帰るべき家が全壊してしまった不死川陽菜は、しかし晴れやかな気分で外出先から一時的に厄介になっている学生寮の自室への帰路を歩いていた。

 

「~~~♪♪」

 

 未来は無限の可能性と希望に満ち溢れている。

 不死川家の悲願は魔族によって歪められ、貶められ、そのためだけに生まれてきた自分の存在意義はきれいさっぱり消えてなくなってしまったけれど。

 だからこそ、愛する人達とこの先も色々な物を見て、共に生きていけることを、彼女は何より喜んでいるのだ。

 

 ――ああ。

 わたくしは、本当にしあわせものですわ。

 と。

 

 

 そうしてルンルン気分で寮への道を歩いていると、前方からこちらへ歩いてくる背の高い人影の姿と、ついうっかり物陰へと身を隠してしまう陽菜。

 こちらに気付かず通り過ぎていったのは、かつてそれなりの因縁があり、先日の一件での命の恩人でもあり、不本意にもすっかりとその姿を見慣れてしまった不倶戴天の敵でもある男――

 

(わたくしのアズサさんに言い寄る泥棒狼……!)

 

 東京魔導訓練校高等部一年・光龍Iクラス筆頭、吉祥院征人であった。

 それと、別に琴野アズサは不死川陽菜の物ではない。

 

 征人が去った後、とてとてとてと物陰から通りへと戻ってきた陽菜は彼が歩いてきた方向を見て訝しむ。

 

「あちらは女子寮のはず。いくら吉祥院さんがところ構わずアズサさんに求、婚、する、様な!

非常識な殿方だとしても、外出中と分かっている女子寮に何かするほど非常識なはず――」

 

 

「ああ、吉祥院くんねえ。お手紙を琴野さんの部屋のポストへ届けてほしいって言って帰っていったわ。ふふ、良いわね~青春ねえ」

 

 

 非常識な男だった!!!!!!!

 陽菜は寮母さんにぺこりと頭を下げると、すたすたすたと早足で廊下を歩いてアズサの部屋へ向かうと、躊躇いなく合鍵を差し込む。がちゃり。開いた。ポストを確認。手紙。あった。

 

「吉祥院征人……!正面きって想いを伝えるその愚直さだけは、不本意ですが敵ながら天晴と思っておりましたのに……!!!」

 

 一切の躊躇なく親友の部屋に無断侵入した女は自分の行いを全力で棚に上げると、手紙の差出人への理不尽な怒りを叫ぶ。

 今日、アズサはかねてから行きたがっていたアニメのイベントに参加するとかで一人、外出していた。

 だからわたくしも仕方なくひとりぼっちでお出かけしていたというのに、この男は!

 

「……………………」

 

 テーブルの上に載せられた飾り気のない白い便箋には同じく飾り気のない武骨な文字で、"琴野アズサへ"と宛名が綴られている。そして、それを見下ろす、陽菜。

 やがて、彼女は意を決したようにうなずくと。

 

「ええ。やはり、ここはアズサさんが傷付くようなことが書かれていないか、わたくしが確かめてさしあげなくては……!!!」

 

 いともたやすく、一足飛びにライン二、三本飛び越えた暴挙に出たのであった。

 部屋主のアズサが留守の今、ここに彼女を止められる者は、誰もいない……

 

 

 話を冒頭へ戻そう。

 他人の部屋で、他人に宛てられた手紙を勝手に読んでぷんすかしている女が一人。

 陽菜はその腹立たしい内容の書かれた手紙を前に拳をふるふる震わせていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 琴野アズサへ。

 

 突然で悪い。吉祥院征人だ。

 本当は直接会って伝えたかったが、今日は外出すると言っていたから手紙にさせてもらった。

 本題から入ろう。明日の放課後、訓練場の第三アリーナに来れるか。

 礼儀に従えば挨拶から入るべきだろうが、どうせ普段から会っているのだから省かせてもらった。

 お前の強さと美しさ、気高さと優しさを俺がどれほど魅力に思っているかについて書き連ねても良かったが、これも明日、俺自身の言葉で直接伝えた方が良いだろうと思うから省く。

 大切なのは、強くあることだ。

 俺達が強くあることで、市民は魔族の非道を知らないままに幸福な日常を生きていられる。

 この点において、俺とお前は同じ世界を見ていると信じているから。

 俺がお前の隣に立ち続けるために、お前の力を貸してほしい。

 

 吉祥院征人より。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「まったく……!まったく!!なんですの、あの男は!こんな手紙でまで親密さアピールを!」

 

 何度も言うが、可哀想なのは読ませたい相手以外に勝手に手紙を読まれている征人である。

 そうしてしばらく、がるるるる、とこの場にいない征人に対しひとしきり怒りの念を飛ばした陽菜が落ち着いた時、彼女の心に囁きかける天使と悪魔の声がふたつ。

 

(今なら……このお手紙の存在を知っているのはわたくしだけ。握りつぶせるのでは?)

 

(そんなこと……!素晴らしいですわ、悪魔のわたくし!これでアズサさんを守れますわー!)

 

「!!!!!!!!」

 

 賛成3、反対0の圧倒的大多数で可決されてしまった悪魔のささやきだった。

 そうして、手紙を持ったままの陽菜がアズサの部屋を出てしっかり合鍵で鍵を閉め、自分の部屋へと帰っていく途中。

 

「やだー、また二年の玄武IIの不良の人ケンカしてたらしいよー」

 

「こわっ。いやー、絶対近寄りたくないわー」

 

 通りすがる他クラスの生徒達の会話を聞いて、自室へと帰った陽菜の眼は。

 琴野アズサがその場にいれば追い出し切れていなかったのかと泣いて取り乱しかねない程に、神を降ろしていた時そっくりに妖しく歪んでいた。

 

 

 翌日の放課後。

 昨日、アニメのイベントを最大限満喫して寮に帰ってきた琴野アズサは、"何事もなく"その後を過ごし、不死川陽菜と一緒にホームルームを終えた黄龍IIクラスから出て廊下を歩き出す。

 すると、廊下の向こう側からなにやらざわざわ、ガヤガヤと人の騒ぐ声。 

 ちらと一瞥すると、聞き覚えのある声と見覚えのある姿がちらほらと。

 

 

「なんか騒がしいわねー。いつものことかもだけど」

 

「そ、そうですわねー。いつものことですから、気にすることはありませんわー」

 

 

 視線の先では、人垣に囲まれた中心で、緑のネクタイをした見覚えのない強面の男子生徒と吉祥院征人が何やら言い争っており、人垣の外ではおめめをぐるぐるさせた否忌島夕妃が顔を真っ青にさせたり真っ赤に染めたりしながら、征人と自分自身の手元の間とで視線を行ったり来たりさせていた。

 

「ああわわわまままさとくんがにねんせいのふりょうのひとととと」

 

 流石にこれは様子がヘンだぞと近づくアズサが夕妃の手元を見てみると、そこには可愛らしいピンクの便箋と、折り目の付いた手紙のようなものが。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 (宛名が書いてあったはずの場所はまるで魔法でも使ったかのように不自然に消されている)

 

 突然で悪い。吉祥院征人だ。

 本当は直接会って伝えたかったが、緊張のあまり声をかけるのが恥ずかしかったから手紙にさせてもらった。

 本題から入ろう。明日の放課後、訓練場の第三アリーナに来れるか。

 礼儀に従えば挨拶から入るべきだろうが、やはり緊張してしまい言葉が出てこなかった。

 お前の強さと美しさ、気高さと優しさを俺がどれほど魅力に思っているかについて書き連ねて思いのたけを伝えたかったが、残念だ。明日までに考えて、俺自身の言葉で直接伝えたい。

 大切なのは、強くあることだ。

 俺達が強くあることで、市民は魔族の非道を知らないままに幸福な日常を生きていられる。

 この点において、俺とお前は同じ世界を見ていると信じているから。

 俺がお前の隣に立ち続けるために、お前の力を貸してほしい。

 

 吉祥院征人より。

 

 (一部の文章だけ、不自然に丸っこく可愛らしい文字で書かれている)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「うわ……」

 

 なんかヘンな声出た。

 

「え゛……あいつ、そうなの?強ければ男でもいいってタイプ?へ、へー。へぇー…………」

 

 なにやら胸の奥から湧き上がる未知の感情に薄ら頬を赤く染めながら征人の方を一瞥すると、

 

「ちょ、待、なんだこいつ、力つよっ!?」

 

「あっあっ、征人くんがっ……!!!」

 

 話がついたのか、二年の先輩に首根っこを掴まれて第三アリーナの方へと引きずられていく吉祥院征人。こちらに気付いた彼が何かを言おうと手をのばし口を開きかけた、その時。

 

「さあ、お話は終わったみたいですわね!吉祥院さん、お幸せにー!!!それはそうとアズサさん、わたくし昨日お出かけに行った先でとっても美味しいクレープのお店を見つけたのですけれど、一緒にどうですか?お代なら気にしなくても大丈夫ですわ!」

 

「え、マジ、行く!!!!!」

 

「あ、それわたしも行く……自分の分は自分で払うから、ちょっと甘いもの食べたい気分……」

 

 

 その様子を見て絶望した様な表情で引きずられていく吉祥院征人。

 彼にだけ見える様なタイミングで勝ち誇ったような笑みを浮かべ、鼻を鳴らす不死川陽菜。

 

 一瞬、なにかに耐えるように強く目を閉じて拳を震わせたあと、カッとその目を見開く征人。

 

「不死川陽菜ァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

「――ァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

 

 静かな校長室に、どこからともなく響き渡る若きホープの絶叫に。

 

 

「今日は、平和で素晴らしい限りだね……」

 

 

高く調節された椅子の上で、デスクに置いてあったお気に入りの湯飲みを両羽で器用に持って、ペンギンは美味しい緑茶で一息ついて、遠い目をしながら全力で現実逃避したとかなんとか。

 

東京魔導訓練校は、今日も平和です。

 

おしまい。




以上、文体模倣に腐心するあまり内容の練りが甘くなった反省点はありますが、ぶちまほ二次SSでした。

本SSのネタの根幹は先生の過去作品にて行われた、とあるえげつない行為から着想を得ており、もしもネタを面白いと思っていただけたなら、それはつまり先生の過去作が面白かったということに他なりません。
つまり、何が言いたいかというと、もしも藍藤先生を知ったのがつい最近だという方がこれを読んでくださり、そして面白いと思っていただけたのであれば、是非とも先生の過去作に手を出していただきたいという事です。
藍藤先生は元々Web小説家なので、みんながその気にさえなれば全部無料で読みに行けるんだ!すてき!!
藍藤先生の過去作異世界ファンタジー、「グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~」もよろしく!

以上、
「知ってもらえさえすれば、もっと多くの人に知ってもらえさえすれば私たちの藍藤先生は最強なんだ……!」
という思いを抱えながら推し活に勤しむただのファンからの宣伝でした。


あの日、地に伏して見上げた空を駆けていった冥月の輝きはこの瞼の裏に焼き付いていて――
今もまだ、その影を追い続けています。

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