魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい 作:reverofllaF / 永遠下降
血筋とかいう本人ではどうしようもないもので己が運命を左右され、それに翻弄されて愚かしい道を辿る者、抗いて噛みついて青春を、あるいは泥臭い道を縋る者。
イイよねェ!!
ということで、作ることにした。
幸運なことに今は原始時代……まぁ正確にはポストアポカリプスというか、いわゆる『前文明が滅んだあと』って感じ。これまた幸いなことにその『前文明』のリーダー的存在、知識の源泉らが人類の滅亡を導いてくれたおかげで資料らしい資料は全て消失。知識人という知識人も集めに集められた挙句使い潰されたので、残っている人間は無知な一般人しかいない。それも自らで生き残る術を持たないような──身を寄せ合わないと明日も危ぶまれるような……戦力にも労働力にもならなかった子供達ばかり。
こんな素晴らしい据え膳はそうそうない。確認した限り、全世界に存在するそういったコロニーは五つだけ。よってこれより作る『魔法使いの血脈』は五系統に特化させることとする。
五系統。四大元素や五大元素に割り振る……というのは些か勿体ない。隣の花は赤いものだ。魔法使いの系統も、己が己らの血筋を誇りつつ、他四家の魔法も垂涎ものである必要がある。
とはいえそういう元素系……魔法らしい魔法も無いと物悲しいので、一つ目の血筋はこれに割り振ることとする。
地水火風……というのがファンタジーのお決まりだけど、ぶっちゃけ突き詰めたのなら全てが風だろう。いや熱かな。……なんてことになってしまいかねないので、既存法則では考えられない現象を起こし得るようにしなければならない。
火種の無い業火。水分無しでの巨氷。当然の如く行われる天候操作に、見映えの良い錬金術。これらを四大元素と呼ぶことにする。
「不満たらたら、殺意バリバリ、聞く耳持たず、という感じだけど……話は伝わったとみてもいいのかな、少女A」
「……」
四大元素の血筋と決めたコロニーから攫ってきた少女A。わかりやすいようにアンジェリカという名の少女を攫った。少女Aだ。
歳の頃は十に満たぬ程度。生誕からの時間で言えば283,824,565.442s……大体九年くらいだけど、コロニーによって歳の数えが違うのでその辺は適当。
既に彼女は新たな力を……魔法を手に入れている。もしここに『前文明の智者』がいたのなら、「機能制限をつけただけの単なるナノマシンじゃないか」と言うのだろう。ロマンの無いやつらだったからねェ、あれらは。そう、今日からナノマシンなんていうファンタジーらしくないワードは封印である。これは魔力。そして魔法なのだー。
しかし、おかしい。一般人には手に余る……これからコロニーを好き放題できるレベルの力が手に入ったというのに、ちっとも嬉しそうではない。
少女Aはひたすらにこちらを睨みつけるばかり。新しく手に入れた力の使い方も脳が理解するようにしてあるので、それで攻撃でもしてくればいいものを。平和主義者なのかな? 増えやすいように母体とすべく少女を選んだけれど、好戦的な少年の方が良かったかもしれない。
ふむ……そうだな、増えやすいように、とするのならば、繁殖のことと……寿命関係にも手を加えておくか。肉体の耐久性能も上げておく必要がある。いいねェ、魔導五家の始祖だけ不死でそれぞれ最強、みたいな展開も素晴らしい。そういうのがいた方が後世の少年少女のモチベーションも上がろうというもの。あるいは権謀術数を企てる大人たちのものも。
「安心するといい、少女A。ここは君達のコロニーからそう離れた場所ではない……ということくらい、風魔法でわかるかな」
「……アンタは」
お。ようやくコミュニケーションを取る気になったか。
会話は大事だよ。それによってすれ違いが起こって骨肉相食む血みどろ大戦争になるのだから。加えて言うのなら、長く生きるにつれて保守的な考えになっていってほしい。革新的な考えを持つ一派と衝突してほしい。四大元素を扱う家の中でも内紛が起これば最高だ。
……なら、遺伝によるナノマシンの偏りやすさ……もとい発現属性の偏りやすさにもテコ入れが必要だろう。
「『賢者』の、一人……か?」
「世界を滅ぼした狂人集団と同じに見られているのは、果たして光栄か、あるいは愚弄されているのか。己にはわかりかねることだね」
「……」
「そうだね。あれら集団の反対を行くのなら、己のことは『愚者』とでも呼べばいい。今丁度、そういう気分だろう?」
「目的がわからない。……私みたいなやつを攫って……何がしたい」
九歳にしては聡いな、と思いつつ、親がいなくなって世界が荒廃したのだから、十前後の年頃はこうならざるを得ないか、とも納得する。
そして何がしたいか、と問われた。面白いことをいう。既にした後だから、そうだな、答えは。
「奇跡を与えたかった──とでも謳っておこう。己の見立てでは、君達の住むコロニーはあと二十日で崩壊を迎えていた。食料は狩りでなんとか賄えている、とそう思っているのが判断ミスだ。君達が食べているのは汚染された生物。つまり……そう、つまり魔物だからね。魔力の無い人間には消化しきれない成分があって、それらは約二年ほど体内に蓄積したあと、突然中毒症状を起こす。魔力中毒と言って、そうなってしまったが最後、殺すか、あるいは魔力の貯蔵器官を摘出するしかなくなるんだ」
「……」
「けれど君が今力を手に入れた。君が覚えた魔法はそれらを癒し得るし、そもそもの魔物を除染することだってできる。加えて、これは君に限った話だけど、他者へ魔力を譲渡することも、回収することも……自由自在だ。無論適合するかどうかは別の話だがね」
さて。
この先のことに手を加えるつもりはない。人間の性として、チェンジリング……妖精の勾引かしに遭った人間が持ち帰る超常の力など、一歩間違えずとも迫害の対象だ。
とはいえ迫害されようとも生きていける肉体強度にしたし、この少女は他者を簡単に見捨てられるほど冷徹な性格をしていないだろう。ある程度そうである子供を選んだからね。
ゆえに、あとは。
「『愚者』。アンタは……、っ!?」
「おや。何か感じ取ったのかな?」
「あいつら、ワームの巣には近付くなって言ったのに……!」
そう、危機が訪れたのなら、それでいい。
では旅立つといい、少女Aよ。当然年少の者たちが「近付くな」と言われていた場所に赴いたのは己の誘導であるけれど、それに気付くも気付かぬもよし。
存分に暴れ、存分に光となれ。
「何やら忙しそうだからね。己はこれにて失礼するよ、少女A」
「さっきから! 私にはアンジェリカって名前が──」
その場から消える。声は届かなくなる。
無論、名前も家名も識別番号も構造情報も、あらゆるものを知っているとも。
あー……でも、今のは良いインスピレーションだ。
……窮地における覚醒とかも、一応付け加えておこうかな。あるいは怒りによる暴走とか。
四大元素の次。遠く遠く離れたコロニーからまたもや攫ってきた少女に施すは、恐らくは他の四家から馬鹿にされるような立ち位置になるのだろう、肉体強化の魔法だ。
とはいえ隣の花は赤くなければならないので、その強化率は人智を超えたものにしなければならない。「また……単なる強化人間の劣化版じゃないか」、という声は無視しよう。銃弾……は出てくるかどうかはわからないけれど、そんなものは当然に、光線の類であっても避けられるほどの動体視力。魔法を重ね掛けした肉体の耐久度は始祖らにも匹敵するものとなり、魔法であろうとなんだろうと拳で撃ち砕けるような……そんな一族。
「おはよう、少女B。起き抜けに殴りかかってくるとは、その奇跡の使い方を素早く理解してくれたようで何よりだ。ただ、己の首を外してしまう、というのはよくなかった。まだしっかりとした説明をしていないから……って。……どうしたんだい、先程までの威勢は。"あたしに何をした!"と殴りかかってきてくれた君はどこへいってしまったんだ」
「く、来るな! 来ないで!! ゾンビだなんて聞いてない……そんなのどうしようもないじゃない!」
「ああいや、死んでいないだけだよ。それに、己はどちらかと言えば
「余計怖い!!」
……うむ。
そういう性格も、アリだ。肉体強化の一族。その始祖たる魔法使いが、実は幽霊嫌い。良いキャラ付けじゃないか。
であれば……そうだな。
適当に虚空からこう……なんかドロドロしたエフェクトを出して、真っ白な手とか生やして……。
「いやぁぁあああ!!」
悲鳴と共に飛んでくるは、とんでもない威力の拳。強化を最大限に重ね、さらに多種多様なエンチャントと耐性を盛りに盛り込んだソレは、己の出したエフェクト類、いいや己を巻き込んだ全て、というかこの急造施設自体を吹き飛ばし──。
「一応、不公平とならないよう名乗っておこう。己は『愚者』と名乗るものだよ、少女B」
さようならビアンカ。
次の子は、とても冷静だった。年齢で言えば今までの二人よりも遥かに低いはずなのに、己の置かれた状況と……魔法、というものを理解しているらしかった。
「つまり、『愚者』さんは私達の現状を憂いて、手助けにきた、と。けれど……このような力を授けてくださる『愚者』さんよりも上位の存在からの戒めにより、これ以上の干渉は不可能である、と」
「そう取ってくれて構わない。つい先ほど過干渉により肉体が砂粒よりも細かく消し飛んだ後だからね」
「あなたの言葉に信実は一つも無い、ということはわかりました。──けれど」
少女C。彼女は幼く、冷静で……そして。
「素直にお礼を言いましょう。『次元空間の魔法』……教えていただいたものも、隠されているものも……どれも役立ちそうです」
「ああ、素直なのは良いことだよ、少女C。ただ喧嘩を売る相手は慎重に見極めた方が良いだろう。君は幼いからね、経験を積むべきだよ」
己の中に発生した虚空。引き摺り込まれる肉体は、千切れたそばから再生している。
前後左右上下に発生した次元の壁。圧縮される肉体は空間をすり抜け、虚空によって凝縮された血肉を再圧縮するに留まった。
「その酷烈さと苛烈さは、武器となる。少女C。君は」
「シエル・クローヴィー。『愚者』さんのお名前は?」
「己は『愚者』で構わないとも。それではね、少女C。君に幸多からんことを」
剥離していく次元空間の中で幸を祈り、くるりと踵を返して消える。
……なんだ、今の今まで出張帰りのままだったから白スーツにキャリーバッグという何とも言えない恰好だったけれど、これは中々サマになっているのでは?
愚者は訝しんだ。
四家目。四大元素、肉体強化、次元空間と来て……次はやっぱり、これだろう、と。
「思ったんだけどねェ……」
瞬く間に広がっていくパンデミック。コロニーにいた子供達の全てが少女Dの傀儡となった様を遠くから眺めて、溜息を一つ。
これは流石に失敗かなぁ。これじゃあ繁殖も何も……。
「死霊病毒。ディアナ、という名前にはぴったりだと思ったのだけど、いやはや思い切りが良すぎるというのも考えものだ」
「──いた。いた。いた。……白スーツさん。白スーツさん。ありがとうございます、素敵な、素敵な力です、これ、これ」
教えた通りに……命の無いコウモリを飛ばしてきて、そんなことを伝えてくれる律儀な子。
十二歳という割には少女Cより成熟していないように感じてしまうのは、彼女より年上の子供が多かったが故かな、このコロニーに。
そんな年上たちも、今ではすべてが彼女の掌の上。
「お礼を、お礼をしたくて……だから、だから──お名前、教えてください」
「『愚者』と呼ぶといいよ。ああ、仮に己の本名を知ったとしても、己を操ることはできないから、君のお礼……あるいは『アイジョウ』は受け取れないかな」
「そんな、そんなそんなそんな! 世界を、わたしを、世界を、白スーツさんが、あなたが変えてくれた、くれたのに! あなたがわたしの世界なのに!!」
「世界は広いのだよ、少女D。授けた『奇跡』を用いてでも良い。世界とは何なのかを見て回るといい」
集結しつつある。眼下に広がる……子供達であったものが。魔物と呼ばせ始めたものが。そして、死した彼女らの親が。
少女Dの意思に従って──己を我が物にせんと。
「あなたが、欲しい」
「あなたが、欲しい」
「あなたが、あなたが、あなたが」
「欲しい、欲しい、欲しい!」
「熱烈な求愛には応えてあげたいところだけれど、己にはまだやることがあってね。正確にいうと、まだまだ、あってね。この辺りで失礼させてもらうよ」
縋りついてくる手も、噛みついてくる顎も、己の霊魂を縛り付けんとしてくる鎖も。
残念ながら、枷にはなり得ない。
さらばだ少女D。傀儡にも生殖機能が残っていることを期待しよう。なんなら別の家の子孫を攫って、というのもいいかもしれないな!
そして最後のコロニーへとやってきた。
ここでは既に宗教が発生している。というのも、その聖女とされている少女の肉体内部にナノマシンがあって……調べるに、護身用にと彼女の両親が違法に埋め込んだものであるらしかったのだ。内容は単純な自動防御だけど、どんな事故にあっても偶然助かったようにナノマシンが周囲を動かすせいで、彼女は神に護られている、となったらしい。
これを利用しない手はない。
少女E。
「……イーリシャに、何をしたのですか。……『愚者』、さん?」
「未来視が上手く機能しているようで何よりだけど、己に関することは見ない方が良いよ。頭痛がするだろう?」
「ノイズが……酷い、です。けど……お父さんと、お母さんを……より強く感じられるようにも、なりました」
「ああ、強化したからね。聖護星見……少女E。君のことは君の父母が守り続けるし、君が守りたいと思った相手にもその加護は及ぶ。そして、時折未来を視るといい。ただそれは同時に世界をつまらなくさせる。誰に何を貸し与えるかは、じっくりゆっくり考えることだ」
警戒心はMAX。だけど攻撃的ではない。
自分には両親がついている、という強い自信があるが故に──であるのならば。
少しばかり、彼女の周囲では不幸と幸が極端に現れるようにしよう。それは血が薄まって尚続くものとして。
「っ……!」
「おやおや、言ったそばから、話を聞かない子だね。己は君の父母よりも年上なんだ、年長者の言葉は重く受け止めるものだよ?」
「『愚者』……あなたは、……
「──素晴らしい。けれどそれ以上は君の脳の負荷が大変なことになる。そうだね、己のことに関しては、こちらから制限をかけさせてもらおう。大丈夫、君がそれを制御できるようになったのなら──また会いにきて、外してあげるから」
蒼白顔で冷や汗を流す少女E。その目を閉じさせて。
制限をかける代わりにサービスを一つ。
「安心しなよ、ナイトくん。己は彼女に何もしていないから──だから、そんな
問答は無かった。反動の無い銃だから当然だけど、狙いは正確無比。光線は己の頭を撃ち抜いて……倒れ伏す体から落ちる少女を少年が掻き抱くようにして掬い取る。
君にとっては呪いかな、少年。君は、そして君の子孫は──未来永劫、彼女と、彼女の血筋を守り続ける盾となるんだ。そのための力をあげるから、銃なんていう矛は己が貰っていくよ。
「イーリシャ! イーリシャ、おい、返事をしろ!」
「う……うるさい、耳元で叫ばないでよ、フェルナンド」
お。いいねェ、偶然にも少年はFだったらしい。
ただ、悲しいかな。『
とはいえここでも、さようなら。
特に意味も無く高塔の上に立つ。
崩壊して久しい高塔。かつて栄華を誇った『前文明』の象徴。
五つのコロニーの、その丁度真ん中にあるこの一帯は……魔法世界にあまりに相応しくない。
だけど、『前文明』が超技術を持っていた、というロマンも忘れてはいない。
「だから、天上へあげてしまおうか」
削り取る。
ただただ物理的な距離であれば始祖らが簡単に届いてしまうから……正規の手段以外では入れないよう細工を施して、そして、そして、そして。
「無論」
死屍累々──この閉じた星に限界を覚え、人類を昇華させんとした科学者、技術者たち。
自らを『賢者』と名乗り、灯台を自称することで人類種そのものを座礁させた本当の愚か者たちよ。
君達も、決して無駄にはしない。
再利用こそが技術の華だよ、『賢者』諸君。
そして、今しがた力を得た少女たちよ。
己に魅せてくれ──魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いを! これは、ただそのためだけのお話なのだから!
というわけでね、なんて切り口で……少女は語る。
「
「いや全く。平民な己には一切、なんら関わりのないことだろう、それ」
「……はぁ。アンタ見てると難しく考えるの馬鹿らしくなってきた」
「そうか。それは良いことだ。君は難しいことを考える前に行動した方が良い結果を……ステイ。ステイだ、エンジェ。その巨大な火球を己に放とうものなら、厳罰は免れないぞ」
「別に、平民の一人や二人殺したって誰も咎めないわよ」
ま、やんないけど。
そういって、マッチの火を消すかのように火球を焼失させる少女。
あれから結構経った。そう、結構、である。
死霊病毒のこともあって全滅するかと思うような危機を何度か乗り越えた末……人類は魔法世界という栄耀を手に入れた。
そしてここは学園。聖護大魔導学園──その名の通り、聖護星見が啓いた学問を学ぶための学び舎である。
「流石に咎められるのではないか? 己は聖護の始祖が入学を許可した平民だぞ」
「自分の力じゃないもので威張り散らかすのはやめなさい。小物に見えるわ」
「実際、小物だろう」
「態度が大物だって言ってんのよ」
今、己と親し気に談笑しているのは、彼女の述べた通りの出自の少女A。
エンジェ・エレメントリー。四大元素の血筋は家名をエレメントリーなるものに改め、広く多くと繁殖した。始祖らはその盤石たる力から己らを貴族と呼び始め、はじめの頃に彼女らを迫害し、その血を拒んだ人間を平民と見下すようになった。迫害の仕返しだ、いいぞやれやれ。
「……アンタ、大丈夫なワケ?」
「どうした唐突に」
「だから……。……そういう、まぁ、周りが貴族だらけで? 聖護星見の始祖の発言だけでここにいるわけでしょ。……いじめとか、遭ってないでしょうね」
「なんだ心配してくれているのか。とはいえ問題はない。これでも平民の中では強い部類でな、そこそこ、なんとかなっている」
「それ……もう遭ってる、ってこと?」
「いじめというともっとこう精神にクるようなものを考えるのだがね。登下校時の襲撃は、果たしていじめだろうか」
言えば血相を変える少女A。全く、面倒見の良いことだ。よほど……始祖の血を色濃く継いだと見える。まぁ、そう見えたから、今年の入学を決めたわけだが。
他の血筋も今年は濃い。これは絶対に波乱万丈があるし、絶対に権謀術数が渦巻いている。先程話に出たように、この少女は四大元素の家の次女。政治の道具にされる未来しか見えないし、あわよくばとその血を狙う何者かがいてもおかしくはない。
既に何度か骨肉相食む血筋争いは起きているけれど、求めていた『学園モノ』はこれが初だ。加えて己も巻き込まれる立場にあるとあらば、災禍の顕現には惜しみのない助力をすると宣言しよう。
「ウチの使用人、何人かつけたげる。……アンタ、自分の身体をもっと大事にしなさい。いいわね」
「エレメントリーの次女が懇意にしている平民、というだけでも様々な噂が飛び交っているというのに、更に使用人をつけてまで守らせる、という箔までつくのか。素晴らしいな、周囲の想像は己と君が恋仲であるどころか、番うところまで行ったと見るに違いな──」
暗雲もないのに天より降り注ぐ雷をひらりと避ける。
いや……威力の加減はされていたが、平民なら心臓麻痺で死んでいる可能性は大きいし、何より大火傷は免れんぞ。あと服も全焼する。
「相変わらず初心だな、エンジェ。君には許婚がいるのだろう? 今からでもそういうことに慣れておかないと……おっと、複合魔法はやめておくといい。回避は可能だが、したらしたで中庭が悲惨なことになる」
「可能な時点でおかしいんだけど……。……今のも、それなりの速さで落としたのに」
「なぁに、聖護星見の始祖の言だけでなく、この回避力こそが入学の決め手だからな。早々に失望はさせんさ」
ということにしてある。
魔法の使えない平民が如何にして生き残るかは──効かない、ではなく当たらない、が一番だ。
ゴォン、と。
学園上部にある鐘が鳴る。中休みの終了を告げる音だ。
「エンジェ」
「ええ、戻らないと」
「他人の面倒を見るのは生来だろうが、何にでも首を突っ込むものではないぞ」
「……なによ、私の心配なんか要らないって言いたいワケ?」
「己の話ではないさ。さて、戻ろうか」
「あ、ちょっと!」
知っている。
言っても聞かぬから、君の先祖は……今をも生きる始祖は、これほどまでに多くの分家を持つ結果となったのだ。
──君の活躍には、大いに期待させてもらうとしよう。