魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Step3-3.「英雄平民の凱旋」

 魔法には割とちゃんとした法則がある。

 血液内のナノマシンによって定められた「変化制限」のもとほとんどの魔法使いたちが「まるでなんでもできる」かのように見せているだけで、その法則を外そうものなら簡単に失敗するのが魔法だ。難度の観点で言えば、頂点こそ全家同じくらいであるものの、下を見れば四大元素(エレメントリー)死霊病毒(ネクロクラウン)肉体強化(フィジクマギア)聖護星見(クライムドール)次元空間(デルメルサリス)の順に難しくなっていくものだ。

 それは単純に考えるべきことが増える、という点でもあり、「変化制限の厳しさ」によるものでもある。

 

 さて、此度の事件。

 人間を魔物に変える薬、それによって発生したジェヴォーダンの魔物。この二つは上記の「変化制限」を受けない。なぜならどちらもナノマシン汚染、ナノマシン中毒による副作用……というかただの健康被害なので、己が手を加えたナノマシン派生魔法には関係ないのである。

 ただし、ジェヴォーダンの魔物の融合、及び肉腫、そして巨大化に関しては魔法だ。法則に則った魔法。

 

「学園の地下施設……隠れるには確かにもってこいだけど、定期的な掃除とか点検が為されているんじゃなかった?」

「つまりそういうことでしょう? 学園内から発生した時点で、ではありますが……内部犯ですよ。教師が別のことをしている、というのは、結界を敷くこともそうですが、犯人捜しを兼ねていたのでしょうね」

「……聖護魔導学園も堕ちたものね。ああ、でも……今回私は強い言葉を使えないか。身内の……」

「エレメントリーのお家騒動に関して首を突っ込む気はありませんから、それ以上は控えてください。聞いてしまうだけで巻き込まれる可能性がありますので」

「確かにね。……ごめん、軽率だった」

「いえ」

 

 魔物と魔物とを融合させる。

 一見して、人体に精通した死霊病毒(ネクロクラウン)の魔法に思える。実際薬にそういう構造式を施したのは死霊病毒(ネクロクラウン)の調薬師なのだろうけれど、彼らの魔法には「故意に、あるいは任意のタイミングで魔物を融合させる」というような魔法は存在しない。合成魔物(キメラ)に関しても同じだ。あくまでそういう薬や毒を作り得るというだけで、他生物のナノマシンへ直接作用するような暴挙は……まぁ現代なら己以外には無理だろう。

 では、どの魔法なら可能なのか。

 四大元素(エレメントリー)は無理だ。そういうベクトルの魔法ではないし、そもそも自分たちだけでできるのならこの計画の露見はなかった。

 次元空間(デルメルサリス)も無理だ。次元複製(デルメルコピー)が一見できそうに見えるけれど、あれに融合させる式はない。重ね合わせるだけの荒業に細かなことはできない。

 聖護星見(クライムドール)は論外だ。あれは自分、あるいは自分たちを守るもの。そして先を見通すもの。他者をどうこうする魔法は含まれていない。

 

 つまるところ。

 

「……お久しぶりです、ベルク・フィジクマギア先生」

「なぜこのようなことを、と問いましょうか。教師と生徒の関係として、最後の授業をお願いいたします」

 

 肉体強化(フィジクマギア)。此度の事件に一切関わっていないはずの家。むしろ解決へと導き、尽力したはずの家……その内の一人。

 同時に教師Bには明確な理由がある。

 

「当主落ち、と聞いて……それ以外の理由を欲するかね、エンジェくん、シャニアくん」

 

 そう、規律会、且つ最上級生とはいえ、未だ学生の身である生徒B、ボガド・フィジクマギアが次期当主である理由。

 本家であるにもかかわらず、教職であるにもかかわらず──教師B、ベルク・フィジクマギアは当主に選ばれなかった。次期当主の任命権を持つのは基本的に当代当主であり、その決定は肉体強化(フィジクマギア)の本家の総意であると言って過言ではない。

 愚かしさは此処に極まれり。彼の目的は初めから四大元素(エレメントリー)の結晶たる少女A'や少女Aではなかったのだ。ただただ、普通の、特筆すべき点の一切ない理由……次期当主である生徒Bに死んでほしかった。本当にそれだけのために用意した窮地。規律会であり、善性である彼は、必ず生徒を守る。その身を挺してでも。わかりやすくエレメントリーの系譜ばかりを狙う魔物を用意しておけば、「自分が狙われることはない」という油断を生徒Bにさせることができる。

 なお、己に次元空間(デルメルサリス)の嫌疑を被せたのは、己に戦われることを防ぐため。教師Bは己の戦闘能力を理解していたが故に学園から引き剥がそうとした、と。

 

 彼の誤算は三つ。

 一つは始祖B、ビアンカ・フィジクマギアの登場。生徒Bがあんなにも簡単に始祖を頼ると思っていなかった。ただしこれは己の護衛という形で外へ追いやることに成功する。

 二つ目は始祖CCと己の関係性。まさか始祖CCが己をこんなにも簡単に帰すとは思っていなかっただろうし、己が始祖に対して取引を持ち掛けられるような存在であるとも理解していなかったはずだ。

 

 そして三つめは──彼のバックにいる者、始祖Dのあっさりとした撤退。

 彼としてはもっと協力してもらいたかったのだろうけれど、始祖Dはいとも簡単にこの件から手を引いた。勿論置き土産は残していったけれど、本来であればジェヴォーダンの巨人も始祖Dが作り上げる予定だったのではないかな。

 

「これほどの規模にした理由がわかりません。言い方は悪いですが、会長以外が亡くなって、会長だけが生き残る、ということもあり得たでしょう」

「だが、規律会は学園に規律を敷くと同時、生徒を守る組織だ。──聖護星見(クライムドール)のやつらを含め、高位にいる教師も、そして規律会も……少なくない責任を問われるだろう」

「狙いは共倒れってワケね。そんでもってベルク先生はそこまで地位の高くない教師だから、上手くいけば肉体強化(フィジクマギア)の当主の座も、学園内での地位向上も狙える、と。……馬鹿馬鹿しい」

 

 確かに愚かしい。

 けれど己はそれを愛そう。此度は小規模であったけれど、それこそが己の求めているものだ。

 教師Bの狙いは小物染みていた。それに便乗したエレメントリーの分家の狙いは絞り切られていなかったせいで破綻した。全てを操ろうとした始祖Dは優先順位の変化によって違う結果を良しとした。

 

「馬鹿馬鹿しいとは、言ってくれるね。……私の手がもう尽きたとでも思っているのかな」

「アンタはもう終わった、って言ってるのよ。今から私達はアンタを倒すけれど、仮にそれが叶わなくてもアンタは終わり。──私は四大元素(エレメントリー)の次期当主。今ここで為された全ての会話は結界内の全存在の耳に届いている」

「……!」

 

 消音したり、音を拡散したり、届けたり。

 エレメントリーの風属性魔法は利便性においてかなりの上位に入る。というか四大元素の魔法が生活に密着し過ぎているというべきかもしれない。

 

「もう一つ加えましょうか、ベルク先生。手の開いている教師はまだいたはずなのに、なぜ私達だけが来たのか。魔力が有り余っているとはいえ生徒、それも初学生です。矢面に立たせるには些か危ない人選でしょう」

「……まさか!?」

「結局アンタは器じゃなかった、って。それだけよね」

 

 地下施設が揺れる。

 教師Bが最後の最後にとっておいた奥の手。それが励起した振動……ではない。肉体強化(フィジクマギア)の魔法は生物への融合、急激な細胞分裂と結合を促すことができるけれど、遠隔で何かを起こす、ということには向いていない。

 だからこれは、全く別の揺れである。

 

 負けを悟ったのだろう、教師Bの肉体に魔法が宿る。それは当然肉体強化の魔法であり、この舐め腐った、人を小馬鹿にした態度の生徒二人を──せめて道連れにしてやろう、と、そういう魂胆の発動。

 踏み込みと抉り穿つような拳。二つがタイムラグをコンマ零零二秒を挟んで繰り出され──ふわり、と。

 

 少女Aの手前で、止まる。

 

「……!」

「ダメだよぉベルク先生。教師が生徒に手を出すとか、一番ダァメ。そもそも肉体強化(フィジクマギア)は健全なパブリックイメージがあるんだから、それを大人が真っ先に崩しにいくってのはねぇ」

 

 巻き付いていく。教師Bの肉体に、煤でできた煙のようなものが。

 少女Aと少女Cの前で止まった拳の前にも煤があった。二人は二人で空気を読んだか、少し後ろに下がっている。

 

「うふふ、どうかなぁ僕の新薬の味は。身体には何の痛みもないのに動けないでしょ? そして時間が経つにつれて体の感覚もなくなっていく……。あ、安心してねぇ? 機能がなくなる、ってわけじゃないから。ただ、なぁんにも感じなくなるし、自分の意思じゃ動かせなくなるだぁけ」

「教師ドクラバ、先行し過ぎではないか? 我々で脅威は排除し終えた以上、危険はないと言えるが……。無論、生徒を守った、という事実は褒め称えられるべきだ。そこは評価する」

「硬いねぇシェルミー君は。まぁ……どうにも今回ウチの始祖が一枚噛んでるっぽいからさぁ、ここらで汚名返上しておきたかったんだよねぇ。ほら、それこそ死霊病毒(ウチ)のパブリックイメージって、悪い事やってる、何か企んでる、何考えてるかわからない、でしょぉ? 困るんだよねぇ、こっちはちゃんと清く正しいお仕事してるってだけなのにさぁ」

 

 現れたるは二人。紫髪のなよっとした男性教師と、長い金髪を後ろで纏めたかっちりした恰好の男性教師。

 死霊病毒(ネクロクラウン)の分家筋、当主候補ではないもののしっかりとした実力を持つドクラバ・アッシュクラウンと、次元空間(デルメルサリス)の分家筋にして現当主の弟、シェルミー・デルメルクラン。名前の通り、生徒C……ケニス・デルメルクランの叔父にあたる。

 ただ二人とも本家に興味が無いというか……教師D'は「己のやりたいことができたらいい、ただ変なイメージを持たれるのは困る」というスタンスで、教師Cは「己がすべきことをする。他者の意思には惑わされない」という、なんとも血筋争いには向いていない性格をしているので、あまり興味をもっていなかった。

 

「シェルミー先生、脅威の排除というと、やはり?」

「ああ、お嬢様。その通りです。ジェヴォーダンの魔物でしたか。あれが五十体ほどと、通常の合成魔物(キメラ)が二十体ほど地下施設に隠されていました。……今期において、ベルク・フィジクマギアに地下施設の管理を任せていた我々教師に全責任があります」

「どっかの『馬鹿』のおかげで怪我人がほとんど出なかったんだし、いいんじゃないの?」

「ひゃあ、怖いもの知らずだねぇエンジェ君は。シェルミー君とシャニア君の会話なんだから、これは家絡みだ、って考えないのぉ~?」

「たとえ家絡みだとしても、今回の件で悪い事してた人以外が罰を受けるのは納得いかないってだけよ。……それに、こんな……学園全体が巻き込まれる事件だったっていうのに、教師以外は真相を知る権利もない、って言いたいワケ?」

 

 教師B、ベルク・フィジクマギアは完全に沈黙している。

 毒が回り切ったのだろう。最低限の生命活動は可能なようだけど、指一本すらまともに動かせないその毒によって完全に臥せってしまっている。

 ……しかし、薬品の構造式のクセからして、「誰でも簡単に魔力を得ることができる薬」の開発者は教師D'ではないだろうね。

 

「ああ……一応、心配になって来てみましたが、全て終わっていましたか」

「おやぁ?」

「む……昨今話題のスヴェナ・デルメルグロウと……お前か、ケニス」

「い、いや、俺は止めたんだよシェルミー! けどこのチビ一切聞かなく──あいたっ!?」

「まず年上には敬語を使え。そして学園内では敬称をつけろ。……と、失礼いたしました、お嬢様。ケニスは強く言って聞かせますので……」

「別に構いませんよ。ケニスさんとはお友達ですし、学園内だからこそ、血筋のあれそれを強く縛るつもりはありません。……そんなことより、そろそろ出ませんか? 元凶はドクラバ先生によって排除され、地下施設にいた魔物も消えた。とあらば、こんな薄暗い場所に長時間いる必要性が見受けられません」

 

 ふむ。少女Aの言い分は正しい。

 この事件はもう終わった。だから帰ろう。

 

 ──それだけでは、少し寂しい。そう思わないかな。

 

「!」

「スヴェナ?」

 

 反応するか。流石理論型。

 まぁね。今回は少し己が活躍し過ぎたから──魔法使い諸君にも、見せ場があった方が良いかな、と。そう思ったんだ。

 

「離れてください、一応! あの方の体内で、今、何かが変わりました!」

 

 申し訳ないね、始祖E。己は始祖CCと「約束の上書き」をした。無論積極的に生徒へと手を出す真似はしないけれど……どうせ殺される、使い道のなくなった教師であれば……良いだろう?

 

 ごあ、という音は……ああ、声だ。

 教師D'が驚いた顔をする。そうだろう。声を発するという行為すらできなくなっているはずなのだから。

 けれど実際にベルク・フィジクマギアは声を、呻き声を出した。

 

 そして……ぼこ、ぼこ、と。

 倒れ伏した肉体を変形させていく。

 

「聞くべきことは、たくさんあると思います、が! 消し飛ばします! 一応、断っておきます!」

 

 全員の前に出てその手を翳すはスヴェナ。

 魔力が尽きてからそう時間は経っていない。回復量は微々たるものであるから……その状態で強力な魔法を使えば、見える未来は一つだけ。

 

「教師ドクラバ!」

「わかってるよぉ……動かれたんじゃ、僕の面目丸つぶれだしねぇ」

 

 魔法発動失敗、あるいは暴走。

 そうなると思ったから、そうなることを予測したから、教師CとD'はスヴェナに薬を打ち込んだ。単なる筋弛緩剤だろうそれは、いとも容易くスヴェナから肉体の自由を奪う。

 

「ぅ……な、ぜ……!」

「ケニス、その子を連れて外へ!」

「ばか、を……い……」

「待ちなさい」

 

 二つの事が同時に起こる。

 一つはベルク・フィジクマギアが氷結したことだ。これにより、変化が多少遅くなった。

 もう一つは教師Cから生徒Cに渡ったはずのスヴェナが奪われ、少女Aに抱かれた、ということ。

 

「口は動かさなくていいから、考えて。それだけでいいから」

 

 視る。

 現在の己は……そうだな、例えるのならば霊体に近しい状態だ。

 だから肉体を持っている時よりも鋭敏に周囲の変化を感じ取ることができる。

 

 少女A。君が見せた「異常」。それを解明するにまたとないチャンスが訪れたと言える。

 

「……ん、わかった」

 

 ──……なに?

 今……今、何も……。

 もしや、少女Aの言う家族愛は……本当にただの勘だとでも? 

 何も動いていなかった。エネルギーもナノマシンも、それ以外のものも。

 

 情報を抜き取る手段が何も……。

 

()()がなろうとしているのはジェヴォーダンの魔物じゃない、もっと危険な奴だ、って。人の命を奪うことに長けたものになり果てるから、様子見無しで全力で殺して欲しい、って」

「ふぅむ。今君が何をしたのかよくわからないしぃ、なぜスヴェナ君がそんなことを知っているのかもわからないけれどぉ……僕、忠告はちゃんと聞くよぉ?」

「現状、デルメルグロウの家は謎が多い。つい先ほど始祖からもデルメルグロウには手を出すなとの達しが来た。──信用するに値すると、判断する」

 

 この魔力の高まりは……本当に消し飛ばす気だね。

 変化は……間に合わないかな?

 

「オ──!」

「どんなに変化したって、吸った煤は消えないよぉ? さぁ……蝕むんだ、死灰病毒(アッシュクラウン)

次元兵装(デルメルクラン)!」

 

 教師二人による、互いに互いの家名の名付けられた魔法。

 ナノマシン変換率は……八パーセント。驚いた、ベルク・フィジクマギア……君、ナノマシン適合率が驚くほど低いね。当主の座を狙えないのは当然だよ。

 折角変化制限を取っ払ってあげたのに──無理だね。

 

 煤が浸食する。ベルク・フィジクマギアの体内から、「細胞を煤に変換する」という毒でも病でもない呪いに近しいものがあふれ出る。

 凍ったその身に次元を隔てる武器類が刺さる。正直言って効率の悪い見た目だけの魔法だけど、それを極めに極めたのがデルメルクランという家なのだからまぁ……特に言うことはないかな。魔法らしいといえば魔法らしいし。

 

 果たして、ボコボコと異形へなりかけたベルク・フィジクマギアは、その変化途中で灰燼に帰すこととなる。燃えたが故ではなく、細かく裁断されて灰に変換されて、という経路で、だけど。

 ……うーん、これ以上使える素体もないね、この辺り。魔物も合成魔物も全て殺し尽くされている。あとは植物の種くらいだけど、これに手を出すと己が己に課したルールに反するからなぁ、とりあえず論外として。

 

 目立った活躍の場を与えられなくてすまないね。どうやら己はここで撤退のようだ。

 そして健闘を讃えよう。地味ながらも必要な行為だった。これにてジェヴォーダンの魔物の怪は終わり。

 

 君達の勝ちだよ、魔法使い。

 そして始祖D。君のお気に召す結果ではなかったかもしれないけれど……これはこれで面白かったと、そう言えるだろう?

 

 

 目を覚ます。

 

「お、起きたか『英雄平民』」

「良かったぁ……傷はほとんど治したのに意識を取り戻さないからどうしようかと……」

「先生呼んでくる! 誰か状態診断やっておいて!」

 

 騒がしいね。……ここは、医務室かな。

 

 魔法を巻き込んだ右腕は……へぇ、傷一つない。上手く治療されている。

 平民にしては少し強いかな、程度の肉体強度にしておいたのだけど、上手く人体を診断できる死霊病毒(ネクロクラウン)がいるみたいだ。

 

「『英雄平民』さん、気分はどうですか?」

「問題はないよ。しかし、そちらの方が上級生だろう? 己に敬意は要らないよ」

「いえいえ~、あなたがいなければこの学園は崩壊していましたから~。これは下級生に対するものではなく、『英雄平民』さんに対する敬意ですよ~」

 

 ……少しばかり動きづらいね、それは。

 本当に煩わしくなったら出て行こう。今回は天秤も傾かない。

 

「状態診断を行いましたが……大丈夫そうですねぇ。血液量が少しだけ心配なので~、しばらくは安静に、ですよ~」

「ああ、承知したよ」

 

 ベッドから降りる。服を探せば、すぐ隣のラックに掛けてあった。

 魔法の痕跡……は、これは調査系のものだね。なるほど、服に何か仕込んであるのではないか、と睨んだ誰かがいたようだ。

 

 気にせずに袖を通す。

 

「あ、ちょっと、先生が来るのを待ってから~」

「少し確認したいことがあるのでね。教師にはよろしく言っておいてくれたまえ」

 

 窓をがらりと開けて、高くへ跳躍する。

 ……ひっくり返ったはずの学舎が半分以上修復されているあたり、エレメントリーの系譜たる教師が土木工事を頑張ったらしい。中に人が沢山いる状態での次元複製(デルメルコピー)はリスクが大きすぎるからね。

 

 ひょーいひょーいと屋根を伝って移動する。

 目的地は──勿論。

 

「やぁ、扉を開けた瞬間生徒の喉に剣を突きつけるのは如何なものかと思うよ、教頭フィニアン」

「フィニアン、剣を降ろしなさい。『英雄平民』の凱旋ですよ」

「……」

 

 鞘へと納められる剣。

 教頭F。ただしその名に姓はない。聖護星見(クライムドール)を守るためだけにいる男系貴族であり、その血筋には男しか生まれない。最初のフィリップ君を起点に、そうなるよう己が調整したから。

 

 そしてそれに守られているのだから、ここ……学園長室にいるのは、学園長だ。

 始祖Eとは違えど、当代最高の聖護星見(クライムドール)。此度の事件において死者が出なかったのは彼女の手腕と言っても差支えはないだろう。

 

「初めまして。あるいは久しぶりになるのかな、教師イレイア・クライムドール。──君が初学生だった頃以来の、感動の再会だね」

 

 教師Eは、ゆっくりと立ち上がって、優雅なカーテシーにて挨拶を返してくれた。

 さぁ、お話合いの時間だ。

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