魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Step3-4.「英雄平民の凱旋」

 結界ならば次元空間(デルメルサリス)。治療ならば死霊病毒(ネクロクラウン)。強化とあらば肉体強化(フィジクマギア)

 であれば、聖護星見(クライムドール)の魔法とはなんなのか。

 

 一つは勿論未来視だ。ただしこれは始祖Eだけが遠くの未来を視通すことのできるもので、他の聖護星見(クライムドール)に現れる未来視は数秒、長くて一日から三日後程度のもの。自身の力量……正確にいえば適合率に見合わぬ未来視を行おうとすれば、脳の処理限界によりこれまた廃人コースが確定する。

 して、聖護とは何か。由来を言えば、単なる自動防御だ。ナノマシン謹製の護身具であり、持っているだけであらゆる危害から身を守ってくれる便利アイテム。まぁ始祖Eが持っていた自動防御は質で言えば中くらいだったから、あの頃に光線だのなんだのを受けていたら普通に死んでいただろうけど。

 それを己は魔法へと昇華させた。単なる自動防御の機能を捨てることなく、血脈によって受け継がれる聖護に。

 

「余裕そうだね、学園長イレイア・クライムドール」

「余裕、とは? その言いぶりは、まるで……あなたが私へ危害を加えようとしている、という風に聞こえますよ、『平民初学生』さん」

「いやいや。その幼い見た目からは考えつかない程高齢である君が、本当の意味で幼い頃に出会った『平民』。それがこの学園を守り、そして己が陣地に侵入してきたとあらば……警戒する方が当然かな、と思ってね」

 

 騎士フィニアンの手がピク、と動く。

 反応したのは、陣地というワードだろう。そう、聖護の魔法とは──。

 

「いえ……確かめていただけですよ。三百年前に見た『最上級生さん』が『平民初学生』さんと同一人物かどうか」

「へえ。それで、審議の方は?」

「……あなたが私の陣地の中に入ってはじめて、あなたと『最上級生さん』は同一人物だと判断できました。ただし血中魔力濃度に大きな差がある──私が入学してから数ヶ月と経たずに退学した『最上級生さん』は、はじまりの五家の本家に匹敵する魔力量を有していました。しかしあなたにはそれがない」

 

 そう、己は三百年前にも学園生活を送ったことがある。ほんの一瞬だったし、今のように特定の生徒と仲良くする、ということはしていないけれどね。

 あの時は「追いかけている対象」が学園内にいたから潜入した、というだけの話。

 

「……始祖より通達を受け取った時はまさか、と思いましたし、実際にあなたを見て驚きもしましたが、こうしてあなたが訪ねてくるまで確信を持てずにいました。聖護星見(クライムドール)は自身の陣地内でなければ全力を揮えませんから」

 

 ああそう、それで、聖護とはつまり己の陣地を作ることにある。始祖Eであれば彼女の周囲半径二百メートルほどが彼女の陣地であり、その内部にいるナノマシンに対しては最上級の決定権を有する。最上位ではないのがミソだけど。

 ただしこれも、自身を中心点に定める陣地なんてものは始祖Eにしか使えない。基本はこうしてどこかに居を構える形となる。とはいえそれはデメリットというほどでもない。つまるところ、聖護星見(クライムドール)は自身の巣穴にさえ敵を引き込んでしまえばほとんど無敵になれる、ということだから。そこに加えて未来視があれば、一日前に視てから陣地の用意をしておく、ということも可能になるのだ。

 

 ……一応補足を入れておくなら、命令できるのはナノマシンにだけ。

 つまり生体に対してはなんの命令権も持たない。平民が入る分にはなんでもない場所だ。大気中のナノマシンからの妨害を無視できる平民がいるのなら、それらには為すすべも無く敗衄することだろう。

 

「ではこちらからもお久しぶりです、を返しておきましょう、『最上級生さん』。……そして問います。どういうつもりですか。何が目的ですか。始祖と共謀して、この学園で何をしようとしているのですか」

「それは酷い誤解だ、学園長イレイア・クライムドール。己と始祖イーリシャ・クライムドールは共謀も結託もしていない。ただ己がこの学園に非正規な手段で入学しようとしたところ、それを視たのだろうね、始祖イーリシャ・クライムドールが己に席を用意してくれた……ただそれだけだよ」

 

 これは本当。

 周囲の記憶操作やら認識錯誤やら、ありとあらゆる非正規手段を用いて入学しようとしていたら、突然『入学の案内』が始祖Eから届いたのだ。

 己に関する未来視はしないように、と強く言っているから、己に関する何かを視たというより聖護魔導学園に関するものを視ていた時にノイズが入ってきたとかそういう話だろう。

 

「始祖はなぜそのようなことを? ……あなたは何者なのですか?」

「五人の始祖らには『愚者』と呼ばれているよ。無論、己が名乗ったから、だけどね」

「『愚者』……本家の書物庫でも見たことのない名前ですね」

「ああ、意図的に隠しているらしい。君達が興味本位で己に近づくことのないように」

 

 学園長Eの口が「とすると」と動く。それとほぼ同時、騎士Fが己に斬りかかってきた。

 

「あなたは始祖たちからしても危険人物である、ということになります。……ですからフィニアン、無駄ですよ。斬撃に意味はないということです」

「っ……肉体強度、が……!」

 

 剣は肩口で止まっている。強化装甲でも斬りつけたかのような硬さだろう? けれど実は何もしていないんだ。

 止まっているのは、君の方。

 

「飼い犬の躾はしっかりしたまえよ、学園長イレイア・クライムドール」

「躾けられているから、私が危険人物という言葉を吐くと理解してあなたの排除にあたった。今回は相手が悪かっただけです」

「成程、主人の命令無しに動く番犬か。教頭フィニアン、君の方がよっぽど危険人物なんじゃないかな」

 

 剣身を抓む。そしてそのまま、軽い感じで投げ捨てる。

 凄まじい衝撃に、けれど柄から手を離さなかった彼は壁にある図書棚へと激突し……たかに思われた。いや、したけれど、激突と表現するような衝撃は起きなかった、というべきか。

 まるで水面を行く波紋のように彼と棚の間に何かが広がって、その衝撃を殺したのである。

 大気中の魔力。それを完璧にコントロールしているから、この部屋の中で何が起きても学園長Eの掌の上。

 

「『最上級生さん』。あるいは『平民初学生』。もう一度問います。あなたの目的はなんですか?」

「穏やかな学園生活を送ることだ、と言って……君は信じるかな」

「……そんなわけがない、という常識を語る自分。対して、本当にそうなのではないか、と思う自分もいます」

「それはどうして?」

死霊病毒(ネクロクラウン)の始祖と肉体強化(フィジクマギア)の当主落ちが画策して起こされた此度の事件。己が意思で動いていると勘違いして踊り狂った四大元素(エレメントリー)の分家。この機に乗じてでしょうが、己が目的を達するためにあなたと編入生の子を手に入れようとした次元空間(デルメルサリス)の始祖。……今回の事件はこれだけです」

「そうだね。たったそれだけだ」

「あなたの関与する余地がありません。あなたが介入した痕跡がありません。……あなたという異常存在を前にして言うべき言葉ではありませんが、今回、あなたは"巻き込まれただけ"であると言えるでしょう」

 

 そうだね。その通りだ。

 少女A''がスヴェナ・デルメルグロウになったことや、教師Bが異形へと化そうとしたことは「痕跡」として残らないから、己がこの世に刻んだことはただただ巻き込み事故をくらった、という事実だけ。

 良い要約だよ、学園長E。

 

「これからもそうであると確約してくださいますか?」

「穏当な学園生活だけを望み、この学園を卒業する……そう確約しろ、と」

「はい。そうしてくださるのであれば、こちらからあなたへ何かを言うことはありません。これまで通り『平民』として扱いますし、それゆえの免除も続行します。過去の『最上級生さん』を思えば、魔力関係のテストなどは余裕でクリアできるのでしょうし」

「二つ、飲んでほしい条件がある」

「どうぞ」

 

 学園長Eは始祖Eほどの石頭ではないらしい。

 いやはや、本当にね。始祖Eは己を劇作家だと称したけれど、此度の学園襲撃、あるいは学園転覆事件のような劇を己が描くわけがないだろうに。そこのところ、理解が甘いと言わざるを得ないよ。

 

「一つ。今回のように巻き込まれた場合、不可抗力である場合は己も行動をする。あるいはその際において、『平民』と言えない行動を取る可能性もある。それの許可が欲しいかな」

「聖護魔導学園、及び教師、生徒へ危害を加える行動でなければ許可しましょう。……ああ、とはいえ、此度のように下手人が教師や生徒であった場合は……都度、確認をしに来てください。それくらいはできるでしょう?」

「面倒だけれど、承知したよ」

「はい。では許可します。それで、二つ目は?」

「武器の携行だ。いや、確かにその猜疑の目……"あなたは素手でも平気でしょう"という目に理解は及ぶのだけれど、素手では怪我をする必要が出てくる。なんせこの身は魔力の使えぬ平民。歪曲収斂現象によって魔法を巻き込もうものなら、必ず怪我をする。……毎回毎回それでは面倒だ。だから、これ」

 

 虚空より取り出すはステッキ。

 

「これの携行を許してもらいたい」

「武器……ですか、それ」

「己にとってはね。剣でも構わないのだけど、こちらの方が使い慣れている。どうかな」

「……。……今視ましたが、特別な素材が使われているわけでも、仕込みがあるわけでもないただの杖……ですね。多少頑丈ではあるようですが」

「ああ、その通りだ。なんなら一週間ほど研究機関なんかで調べてくれたって構わないよ」

「結構です。ですが今、虚空からそれを取り出しましたね。結局あなたは次元空間(デルメルサリス)の系譜なのですか?」

 

 ん……ああ、始祖CCから違う、という達しが来ても、始祖なんかどうせ嘘を吐いているに決まっているのだから、と信じていない感じかな。

 

 しかし、そうだな。そうなると。

 

 ──地面をステッキで小突き、同じ形状のステッキを錬成する。指の一本を噛み千切り、それをステッキへと変成する。掌の上に陣地を作り、大気中魔力でステッキを創造する。

 それらにエンチャントをかけて、適当にジャグリング。

 

「パフォーマンスはこの程度で充分かな」

「全家の魔法を、ですか。……はぁ、魔法史が壊れますね。平然と私の陣地で錬成を行っていましたし」

「そこは安心してほしい。己は平民だからね。己が己を平民と定めている以上、こういうパフォーマンス以外では魔法を使うことはないよ」

 

 意味はないけれど、指を鳴らして各ステッキを元に戻す。指も勿論ね。

 虚空から取り出したものだけを残して、と。

 

「どうかな。武器の携行の許可は」

「はいはい出しますよ。今回のことであなたは『英雄平民』なんて風に担がれていますし、その程度の許可も出さないと私へのクレームが殺到しそうですし」

「ありがとう、学園長イレイア・クライムドール。そしてこの二つを呑んでくれるのであれば、己もこの『穏当な学園生活を送りたいだけ』という目的を撤回しないことを約束しよう」

 

 いやぁ参ったね、約束事が増えていくよ。

 大丈夫、己がヒトとして振る舞う間は約束事だってきっちり守るからね。それがヒトをヒトたらしめる唯一のことだと思うよ。

 

「はぁ……どっと疲れました。あなたに関してを視ようとすると、激しい頭痛に襲われますし……」

「それに関しては始祖イーリシャ・クライムドールでさえ同じだ。やめておいた方がいい」

「うへぇ……あなた本当になんなんですか……」

「好きに呼ぶといいよ、学園長イレイア・クライムドール」

 

 ああでも、一応一般論は言っておかないと。

 

「己に対してなんなのか、と問うなら……始祖でもないのに三百年を幼い姿のままに生きる君も、十二分になんなのか、と問われる立場にあると思うけれどね」

「私は……どうせ知っているんでしょう。というかあの時のあなたのターゲットがそうだったのだと勝手に判断していますが」

「おや、わかっていたのか。そして正解だよ、吸血令嬢(ジュノ・ヴァンピール)

「……言っておきますけど私は若い子の血とか吸いませんから。ああいう変態的な趣味を持っていたのは……あの人だけですし」

「わかっているわかっているとも。それではね、学園長イレイア・クライムドール。お互いに善き学園ライフを送ることとしよう」

 

 吸血鬼。ナノマシンが血中にある以上、それを取り込み過ぎる、適合率が低すぎることで起こる暴走や魔物化……の、反対。

 適合率が高すぎるが故にナノマシンが欲しくて欲しくて仕方がなくなった魔法使いの末路。血液を求めに求め、人型の魔物として扱われることも多い彼ら。ナノマシンが供給される限りは肉体鮮度が落ちないため、長命種と仲良くできる。まぁナノマシンの定期補給ができなければ普通に老いていくから不老不死ではないのだけどね。

 

 以前己がこの学園に潜入した時はその吸血鬼を追っていたんだ。なんせその時の己の身分は『戒律機関』……学園における規律会の世界版、みたいな組織のメンバーだったから。

 良い所で抜けたけれど。

 

 最後までこちらを警戒していた教頭Fに手を振って学園長室を出る。

 

「一応、言っておきます。……エンジェを守ってくれて、ありがとうございました。そしてエンジェを危険に晒したこと、やはり許せません。一応、あなたも復讐対象に入れておきます」

「魔力切れに次ぐ魔力切れ。立ち直りが早いねェ、スヴェナ。しかし後半は理解できないな。エンジェが危険な目に遭ったのかい?」

「学園長と話していたでしょう、一応。フィジクマギアの当主落ちが真犯人であったことを。平民であるとされているあなたの耳に、エンジェからの風が届けられることはありません。それはつまり、あの場にあなたがいたことを示しています、一応」

聖護星見(クライムドール)の陣地をすり抜けて盗聴していたのかい? ……理論型であることは知っていたけれど、上達の具合がとんでもないね。次元空間(デルメルサリス)の本家などもう超えているのではないかな」

 

 しかししかし、美しきかな姉妹愛。

 そして……少女Aが見せた「異常」。もうしばらくは少女Aもスヴェナも観察対象だ。もしかしたら、四大元素(エレメントリー)の血筋にだけ現れるナノマシンを介さない特別な現象の可能性もあるからね。

 もしそうだとしたら、己は全てをかなぐり捨てて彼女たちを調べよう。解剖もするだろうし、数多の実験も行うだろう。

 

 結局ナノマシンでは限界がある。この閉ざされた世界を抜け出すことができない、という限界が。

 

 彼女たちがこの世を開く鍵となるのなら……それは全てを賭けるに値する価値だよ。血筋争いなんかどうでもよくなるくらいのね。

 

「……おや、まだ何か用かな」

「私は一応、あなたの縁者として、あなたを呼んでくるよう頼まれました、皆から。なので一応、あなたを連れていく義務があります」

「己を?」

 

 呼ばれる謂れがないのだけど。

 なんならあの時のシーンを……少女Aとスヴェナのクローンを、必要ならその他人間のクローンを作って、どういう現象が起きていたのかを調べ尽くそうとすら思っていたのだけど。ああ勿論天上の地でね。地上だと始祖EとかDが寄ってくるから。

 

 とはいえ「学園生活」を送ると己で言った手前、一応お呼ばれしておこうか。

 

「何を理由に呼ばれているのかは知らないけれど、君の面子もあるだろう。いいよ、ついていこう」

「……そういうところは鈍感なのですね、一応。人間らしさが垣間見えて良いと思います、一応」

「?」

 

 君達は己を何だと思っているのかな。

 

 

 そうして、ついていった先で。

 

「おお、ようやく来たか『最強平民』!」

「『英雄平民』! 早くして~!」

「『噂の平民さん』、人気ですね。まぁこのパーティーの主役ですし」

「アイツが貴族から望まれて祝われる、って……なんだか感慨深いというかなんというか」

「『とんでもなく強い平民さん』、きょとんとしていますね。もしかしてスヴェナさんは説明をしなかったのでしょうか」

「そっちの方がサプライズになるからじゃねえか? まぁあの無愛想チビにそこまでの見通しができるかは知らねえけど」

 

 ……ああ、成程。

 戦勝会、か。確かに『主役』がいなければ始まらないね、これは。

 まだ後片付けに追われている教師には頭の下がる思いだけど……頑張った生徒に与えられる褒美としては充分か。

 

「やぁ、随分と待たせてしまったようだね。──己のおかげは無論五割六割あっただろうけれど、最後の一撃に関しては君達の力添えあってこそだ」

「言うじゃないか、初学生のクセに」

「まー事実だしなー」

「と、長々しい挨拶をする気はないよ。魔力と体力の損耗は空腹を呼ぶと習ったからね。皆、自由に食べるといい。己達は死力を尽くしてこの学園を守り切ったのだから」

 

 胸に手を当てて、礼を。

 同時……爆発的な騒がしさが生まれる。

 こうなれば『主役』の影も薄くなるのもの。己は適当な場所でやり過ごそうかね。飲食など不要な身だし。

 

 ……なんて風に気配を消していたら、隣に少女Aが来た。

 

「よくわかったね。気配を薄めていたのだけど」

「なんとなくでわかるわよ、そんなの」

 

 歴戦の兵士でも己を素通りするくらいには薄めていたのだけどね。

 風の感知も避けていたし。……スヴェナの件から、何か本当に異常な能力に目覚めていないかい?

 

「お疲れ様」

「君もね。最後の一撃に使った魔法、体感四割が君の魔法だっただろう」

「へえ、わかるの?」

「いつもくらいかけているからねェ、君の魔法がどういう構造式なのかは、なんとなくわかるよ」

 

 とんでもない魔力量であると言えよう。

 なればこそ、彼女は吸血鬼にもなりやすいのだけど……もしそうなりかけていたら、己が対処しようか。この血を討滅対象に置くのは勿体ない。

 

「アンタってあんなに強かったのねー。護衛のこととか、余計だった?」

「正直に言うのなら、ね。言わないのならありがたかったとも」

「いいわよ、私にくらいは正直に言ってくれて」

 

 随分と気を許してくれているようで。

 

「……迷惑、かけたわね」

「うん?」

「今回の件。結構な割合がウチのごたごたなのよ。勿論別の家の意思も絡んでいたけれど、内容的には四大元素(エレメントリー)の本家と分家の争いごと。わかってると思うけど、アリスも……アンタについていかせたアゼルも、今回は悪い側だった」

「平民に話すことかい、それ」

「いいじゃない、アンタ悪用しないでしょ」

「する理由がないからねェ」

 

 完全に忘れていたけれど、生徒A……アゼル・ヴィントルはあの後どうなったのだろうね。

 良心の呵責で自害、なんてことをしていなければいいけれど。特筆すべき事項がないとはいえ、純度の高い四大元素(エレメントリー)の分家だ。何の意味も無い自害は勿体ないという気持ちが勝るよ。

 

「アンタがどんだけ強くても、どんだけ……私達のことを気にしていなくても、私はアンタに迷惑をかけたって思ってる。……というか、心のどこかでアンタを守ってあげているとか、救ってあげているとか……そういう気持ちの悪い感情を抱いていたんだと思う。それが……」

「己は言ったはずだよ。"他人の面倒を見るのは生来だろうが、何にでも首を突っ込むものではないぞ"、とね。君は目にしたもの全てを己の解決できる事象だと判断する癖がある。それではいつか潰れてしまう」

 

 魔力量もそうだけど、彼女は感覚型で天才だ。

 できることが多すぎる。だからこそ自身のキャパシティーを理解できていない。

 

「己が守るべきものを見定めることだ。どれほど魔法に長けていたところで、君の腕は二本しかないのだから」

「……そういう風に言われても聞かないって知ってるでしょ」

「ああ、知っている」

 

 理解できていないことを自覚していることも知っている。

 だから己は君を観察対象に選んだんだ。今は違う理由になったけど、始まりは──。

 

「己を守る必要がなくなった分、より広い視点を持つことができる。エンジェ、君の羽搏きがこの程度ではないと……己は期待しているし、知っているからね」

「アンタたまにっていうか結構爺臭いわよね。現時点で私より広い視点を持っているアンタは年上のつもりってワケ?」

「君が子供っぽいだけさ」

 

 少女Aは、「ふぅん」なんて興味の無い相槌を打つ。

 そしてその手に……多分魔法で運んできたのだろうグラスを二つ持って、片方を己へと渡してきた。

 

「……必要ないから持ってこなかったのだけどね」

「いいから受け取りなさい。……はい、乾杯」

乾杯(サンテ)。お互い生き残ることができたことに、ね」

 

 グラスをぶつけあって。

 

 この日より、己は『平民』から『英雄平民』へと昇格したのであった。

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